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グラジオラスは曲がらない  作者: Grow
グラジオラスは曲がらない
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273/あの日の誓い


(さて、たぶん上手く行くとは思うんだが……?)


 自分で言ったことでありながら、ニールの胸の中には不安があった。

 確かに先程の言葉はニール・グラジオラスの真の願いだ。嘘偽りなどあるはずもない。

 だが、それでも断られる可能性もゼロではないのだ。


「卑怯な言い回しって、どの辺りが? ニール、あの時にも似たようなこと言ってたじゃない」


 連翹が訝しげな顔で問いかける。

 なるほど、彼女の疑問ももっともだ。確かにニールは王冠クラウンを討伐し、雑音ノイズに心を乱された連翹に対し、こう言った。


『連翹――この戦いが終わったら、規格外チートが無くなる前に俺と戦え』


 と。

 だが、現在の連翹は規格外チートを過剰に引き出しすぎたせいで三年が経過する前に力が不安定になっている。

 ゆえに現状、ニールが求めた一対一での戦いは成立しない。ノーラや他の神官の力を借りればある程度は力が復活するかもしれないが、強引に仕様外で動かしているようなモノであり、能力の劣化は避けられないだろう。

 ニールは戦いたいのであって、なぶりたいワケでは断じてない。ならば、一時的に規格外チートを取り戻させる――『連翹を再び転移者にする』という願いは特別おかしなことではないはずだ。


「ああ、それだけだったらな」


 ニールは頷きながらそう言った。

 

「だけど、俺はお前を殺したいワケじゃねえし、殺されたいワケでもねえ。だが、だからといって手加減もしたくねえし、されたくもねえ」


 仲間だと思っているし、大切に思っている。

 ゆえに、斬り殺してしまっては意味がないのだ。

 ならば、寸止めで戦うか? それとも、二本先取の試合形式で剣を振るえばいいのか?


「――ふざけんな、どちらも嫌に決まってんだろ。全力で、全霊で、相手を叩き切るつもりで戦って白黒ハッキリつけてえんだよ、俺は」


 だが、どれだけそう願っても、殺してしまう可能性を考えれば剣が鈍ってしまう。

 それは嫌だ、悔いが残る。そんな終わりは認めない。

 自分のことながら酷くワガママで面倒臭いことを考えているとは思う。だが、これがニールの本音だ。

 ゆえに――それがニールの願い。


「ニールさん、それってまさか」


 ニールが言いたいことを察したらしいノーラが困惑の声を漏らす。

 当然だ。正直これは抜け道のようなモノで、真っ当な奇跡の願い方ではない。


「――だから、俺と連翹が全身全霊で戦うために、致命傷喰らっても――いや、脳天叩き割られて即死したとしても戦いが終われば元通りにして欲しいワケだ」


 つまりは、連翹を転移者に戻した上で、どちらかが死んだ場合も蘇生出来るようにして欲しいのだと。

 端的に言って舐めた物言いである。

 一人につき一つと言われた願いを、実質二つ願っているようなモノだ。ニールとて、恥知らずな物言いをしている自覚はある。


「――それが、通ると?」

 

 ディミルゴは淡々と問いかける。

 怒りも呆れも憐憫も歓喜も、何も何も読み取れない平坦な鳥の囀り(声音)で。

 感情を露わにされるよりも恐怖感を煽るそれを前に、ニールは「ああ」と怯むことなく頷いてみせた。


「俺が賢しいこと考えて複数の願いを叶えようとしたんなら、お前は絶対突っぱねたと思う。だが、言った通りこれが俺の唯一無二の願いだ」


 勝算はあった。

 まずは連翹の『元の世界に行き両親に会いたい』という願いでニールたちも連れて行き、送還まで行ったこと。言葉通りなら、連翹を日本に連れて行って終わりだろう。

 次にカルナの『別世界の金が欲しい』という願いで人数分の金が湧き出る財布を渡したこと。使いやすくて助かったのは確かだが、願いの内容から考えて札束の山を手渡されてもおかしくはなかった。

 そう、ディミルゴはこちらの都合、やりたいことを考えた上で願いを叶えてくれたのだ。先ほどのノーラの願いとて、こちらの世界の住人に出所を突っ込まれないようアドバイスも行っていたではないか。自分の願いが役立たずに終わったり、または扱いづらいモノでないようにしてくれているのだ。

 

「褒美なんだ、出し渋ったりはしないんだろ?」


 その言葉に、鳥類の姿に見えるディミルゴが笑った。

 表情など分からぬというのに、満面の笑みを浮かべたのだと理解できてしまう。正直、この感覚は慣れない。


「無論だ。だが、少々意外だったな。この手の駆け引きは苦手なのだと思っていたが」

「察しの通り苦手だよ。なんかしら理屈を突っ込まれてたら次の言葉なんて考えつかなかったからな」


 やっていることは雑音ノイズと大差がない。自分の頭の中で考えた理屈をそのまま出力して垂れ流しただけ。反論一つで封殺される拙いモノだ。

 ディミルゴがニールに甘かったからこそ通じただけで、他の人間に似たような理屈を述べたら屁理屈はやめろの一言で終わってしまうだろう。

 だが、それでもニールなりに考えたのだ。

 連翹が転移者に戻るだけでは駄目だ、どちらも死なないだけでは無理だ、ならばどう願えば良いのかと。

 そして、認めた相手には甘い神だ。『こうすれば良い』と教えこそしなくとも、まっすぐな願いの為ならニールの無茶を聞き届けてくれると思った。


「認めよう、それが嘘偽りない願いだというのであれば。

 叶えよう、それが真っ直ぐに願い続けたモノであれば。

 蝋翼の餓狼、新たな勇者、私の想定を上回った者よ。

 思うままに剣を振るい、己が願いを成就させると良い」


 その言葉と共に、ニールの体が、そして連翹の体が淡く輝いた。

 夏の夜に輝く蛍めいた光が体から生み出される特殊な事態とは裏腹に、何か特別なことが起こったようには思えない。体が熱くなるワケではなく、力が満ちるワケでもなかった。


「ん……あれ、これ……?」


 だが、連翹の方はニールとは違う感覚らしく、訝し気に手の平を握っては開いてを繰り返している。

 

「蝋翼の餓狼よ、お前たち二人の命は私が保証した。剣を交えるその時を私もまた楽しみにしている。

 再起の乙女よ、戦う直前に力を取り戻したとて、十全には戦えまい。その時が来るまで、ラインを繋いでおいてやろう」


「あ、だから――ありがと、正直とても助かるわ。……けどこれって、今思うと某人型決戦兵器みたいよね。神様のラインで繋がってるからこそ動けてて、切断されても貯蓄してたり無理矢理に充電しちゃえば動けちゃう、みたいな」


 暴走とかした方がいい? などと言っているが、生憎と全く意味が分からない。

 連翹の世界でなら通じる何かなのだろうが、ニールがそこに居たのはたった数日。多くを知るには時間が短すぎた。


「無事、終わったようで何よりだよ」


 事の成り行きを見守っていたカルナが、安堵の笑みを浮かべた。


「ホントね――というかカルナ、なんか援護してあげればよかったのに。こういうのってニールよりカルナ向きだったんじゃないの?」

「僕の助力が必要なら、ニールは前もって相談しているさ。致命的なミスをやらかしそうだったらフォローしたけど、その必要もなかったしね」


 だろう? とこちらに不敵な笑みを向けて来たので「ああ」と頷いた。

 いざという時にはサポートして貰おうと思ってはいたが、最初から頼ってはいけないと確信していたのだ。たぶんそれは、ディミルゴが好むやり方ではない。

 仲間の力を頼ること、それ自体を否定はしないだろう。だが、初めから自分には出来ないから――そう考えて何もやろうとしない人間を好みはしないはず。

 ゆえにニールなりに考え、行動した。

 その結果は先ほどの通り。やはりこの神は、己の目標のために邁進する者を好んでいる。ゆえに、ニールたちに対してだいぶ甘い。

 もしニールたちが嫌われていたとしても殺されることはなかったろう。だが、願いはもっと事務的に叶えていたはずだ。いや、そもそもこの神殿に招かれてもいないだろうか。

 

「さて、ならばこの場に用はあるまい。すぐに戦友の下へ帰還させよう」

「っと、そうだ。全く必要ないかもしれねえが、これ」

「あ、そうです。わたしも渡すモノがあったんですよ」


 昆虫に見えるディミルゴがその触覚をこちらに向けるのに対して、ニールとノーラは待ったをかけた。

 用はまだある。

 そしてどうやら、ノーラもまたニールと同じことを考えていたらしい。

 互いに土産用の袋から、個別に分けていたモノを取り出す。

 ニールが取り出したのはスカイツリーの置物。

 そしてノーラが取り出したのは――なんだろう、非常にリラックスした覇気のない顔のクマ、そのぬいぐるみだ。

 

「正直、転移者を招き入れまくっている件に関しちゃ思うところはあるが――それでも、色々よくしてもらったからな。土産の一つも買わねえのは不義理だろ」

「ええ。お気に召すかは分かりませんが、受け取ってください」


 しばしの間があった。

 創造神にとっても想像の埒外であったのだろう、ぽかんとした表情を浮かべているのを心で理解する。

 無言で見つめ合うこと数秒。不意にニールとノーラが持つ置物が、ぬいぐるみが浮かび上がり――ディミルゴの下へと飛翔し、椅子の足付近に着地した。


「ああ、なるほど、なるほどなるほど――長くこの世界を見守って来たが、これは初めての経験だ」

「上から見下ろすだけじゃそういう機会もねえだろ。一度、お忍びでこっちに混ざってもいいんんじゃねえか?」

「魅力的な提案ではあるが、それでは目で見える範囲しか見えん。人に合わせてしまえば虫などを踏みつぶしてしまう可能性もあるからな、それは駄目だ。私はここで多くの種族を見守るのが性に合っている」


 だが、と。

 ディミルゴは人間の姿になって、楽しそうに微笑んだ。

 

「だが、この経験も新鮮だった。この二つは大切に扱うと誓おう」


 神聖不可侵な純白の部屋。

 その中央に存在する質素な椅子の足元に、スカイツリーの置物と地べたで横たわるリラックスしたクマのぬいぐるみの姿。

 それを連翹は信じがたいモノを見るような目で見ている。


「いや、ええ……? というか二人とも、そのお土産のチョイスはなんなの?」

「メシ食うのかも酒飲むのかも分からねえ以上、そこそこ出来が良さそうな置物がいいと思ってな。幸い、殺風景で置き場には困らねえだろ」

「わたしは、誰かを召喚したり過去の人物を呼び出したりする以外にはずっと一人に見えたので、ぬいぐるみでもあった方が寂しくなくていいかな、と」


 ニールとノーラは互いに目線を合わせて頷き合う。

 もっと高価なモノと考えなかったワケではないのだが――そもそも、あちらの世界で使った金はディミルゴから受け取ったモノだ。それを使って高価なモノを買い漁って当人に渡す、というのも違うだろう。

 ならば、自分が印象に残ったモノ、気に入ったモノを渡す方が良い。


「ああ、そういう考えでああなったのね――けど、神様転生する時の部屋の質素バージョンみたいな場所に、スカイツリーの置物とリラックスしてるクマのぬいぐるみかぁ……ミスマッチというか、ナイトに両手剣装備というか」

「騎士は基本両手剣だろ、何言ってんだお前」


 ニールの突っ込みも気にならないのか、「いやでも、完全善意だし、かつ神様喜んでるっぽいし……」と頭を抱えだす連翹。一体何が気に入らないというのか。

 その様子にディミルゴは呵々大笑している。おかしくて仕方がない、そう言うように。

 

「なるほど、こうやって直接顔を合わせるのも良いモノだ。先ほど駄目だと言ったばかりだというのに心が揺らぐ」


 だが、揺らぐだけだと。

 全てを愛するがゆえに一種族ばかり贔屓をしていられないと。

 ディミルゴはほんの微かに寂し気に笑った。

 

「それでは、戦友の下へ送ろう。さらばだ、新たな英雄たちよ。もう会うこともないだろう」

「いいや、それは間違いだね」

 

 何を勘違いしているんだお前は、そんな物言いでカルナは挑発的な笑みを浮かべた。


「いずれ、またここに来るよ。おおよその場所は分かったんだ、なら辿り着けないという道理はないだろう」


 人間は進歩する生き物であり、そしてこの時代にはカルナという男が居る。

 ならば、不可能なことではないだろう――そんな聞く者によっては傲慢に聞こえる、けれど当人にとって至極当然な理屈を言い放つ。

 

「ならば、そうしてみせるが良い。だが、黒衣の銀龍よ。それが叶わなかった時、私はお前を有言不実行の愚者だと断じよう。それでも構わないな?」

「投げた石ころが空に落ちたら、みたいなありえない仮定を言われてもね」


 ディミルゴは自信に満ち満ちた笑みを浮かべるカルナとしばし見つめ合い、頷いた。


「なら、その時を待っていよう――それではな、英雄たちよ。またいずれ会おう」


 そうして、皆は光の粒子と化して転移していった。

 否――正確に言うなら、ニールを除いた皆、である。

 恐らくレゾン・デイトル周辺に設営された野営地に戻ったであろう皆を見送った後、ニールはディミルゴを睨みつけた。


「……どういうことだ?」

「悪いな。だが、蝋翼の餓狼。お前以外は否と断じるであろう話をしなくてはならなくてな」


 一人の方が本心を吐き出しやすいだろう? とディミルゴは言う。

 奇妙な言い方だと思った。

 正直に言って、ニールたち四人の中でニールのみが肯定する質問など思い浮かばない。


「この世界で神が担うべきモノ全てを私自身が行っている。他の世界では複数の神が協力しているようだが――私はどうしても愛子を他の神に委ねることが出来なかった」


 疑問に思うニールをそのままに、ディミルゴは突如として関係のないことを語りだした。

 思わず怪訝な顔をするが、ディミルゴは最後まで聞けとでも言うかのように喋り続ける。


「そう、死者の裁きもまた、私が執り行っているのだ」


 瞬間、轟、と。

 ディミルゴの椅子の真後ろに輝く何かが生み出された。

 それは炎のようにも見え、光そのもののようにも見え、薄い靄のようにも見えた。

 ディミルゴとは別の意味で上手く認識出来ないそれだが、思考ではなく体の感覚と本能がそれがなんであるのかを理解する。

 それは物質でも現象でもなく、精神的なモノ。本来、体に収まって見えないモノ。

 魂――そう呼ぶべき存在だと、ニールは無意識の内に察してしまった。


「ここ数日で裁いた死者の中に、蝋翼の餓狼に問いかけたいという者が居たのだ――彼の問いに答えて欲しい」

「なん、だ?」


 恐怖、というよりも本来見てはいけないモノ、見ることの出来ないモノを見てしまったような感覚に舌がもつれる。

 連翹辺りが居なくてよかったと思う。精神的ダメージに弱い彼女であったら、この事態に発狂していたかもしれない。

 脳が揺さぶられるような感覚に顔を歪めながら、ディミルゴの方に視線を向け――


『――もしも』


 ――その、声に。

 ほんの数日前に聞いた、とある男の声に、ニールの呼吸は止まった。

 脳が揺さぶられる感覚も、舌がもつれるような違和感も。すべて、すべて、消え失せる。

 そのようなモノは些末だ。今はただ、この男の声に耳を傾けよう。


『もしも、最期の瞬間、おれに言ってくれた言葉が嘘だったとしても、おれは恨まない。

 その場の勢いで言って、熱が冷めてしまうこともあると思うから。

 俺は、君と戦えた喜びだけで満足して逝ける。


 ――――だが、もしも。

 

 もしも、あの時言った言葉が真実であったのなら。

 もし、互いに転生し、その時に互いに剣士であったのなら。

 おれは――』


 それは、とある剣士の声だ。

 平和な時代に生まれ、しかし規格外な剣の才を有し――結果、世界と噛み合わなくなってしまった男の声であった。

 なるほど、とニールは笑みを浮かべる。これは確かに、ノーラも、連翹も、カルナとて排除しておいた方がいい。

 あの三人は彼に対して同情することはあっても好感は抱いていなかった。あくまで敵であり、悪逆無道な行いをした転移者でしかないのだ。

 そして、その認識は正しい。

 どのような理由があろうとも、彼が行ったことが許される道理はないのだから。

 

 ――だが、それでも。


 それでも、ニール・グラジオラスという男は。

 剣士であり、剣に狂った者であれば。

 

「――二言はねえよ」


 深く、大きく頷いた。


「つっても、俺は俺。そして生まれ変わった奴は、たとえ俺の記憶を多少受け継いだとしても別人だ。何度も同じ意識でやり直してたら、それこそ剣に対する想いが濁るだろ」


 連翹の自宅で転生モノの小説を読んだからこそ、余計にそう思う。

 道半ばで倒れ、まだ剣士として生き足りないというのならばまだしも――全力で生き抜いた後に、もう一度人生を歩み直せと言われても困る。

 ゆえに、ニールはニールの意識を保ったまま転生などしたくない。そんなことになれば、一度目の人生を蔑ろにしてしまいそうだから。

 それは嫌だ。両親、弟、女将、ヤル、ヌイーオ、カルナ、ノーラ、連翹――それ以外にも出会ったたくさんの人達を過去の残滓として考えたくない。

 ゆえに、ニール・グラジオラスの人生は一度だけでいい。

 だがら、転生したとしても、その時代に生きる自分に記憶だけを渡したいと思う。

 その記憶をどう扱うのかは、その時代を生きる自分次第だ。極論、自分の夢には邪魔な記憶だと捨ててくれても構わない。そもそも他者の記憶を受け渡す時点で迷惑だろうに、受け継ぐことを強制することなど出来るはずもない。


「だが、そいつもまた剣が好きで、お前の方も剣が好きだったのなら――もう一度勝負しようぜ。次は実力で勝って見せるからよ」


 記憶を受け継ぎ、ニールの良い部分を吸収しながらも当人らしい剣術を扱う誰か。

 ニールであって、けれどニールではない誰かがきっとお前を打ち倒すのだと笑う。

 その笑みに対して、揺らめく魂は安堵したように震えた。


『――楽しみに、しているよ。いつまでも、いつまでも。ああ、全く――こんな幸せな最期、想像もしていなかった――――』


 炎が消える、光が失せる、靄が晴れる。

 それっきり、声は聞こえなくなった。 


「今後、生まれ変わったお前はこの記憶を思い出すだろう」


 名残惜しむように先程まで魂が存在していた場所を眺めていると、ディミルゴは静かに口を開いた。


「だが、思い出すだけだ。その時代に生まれた者はその時代に生まれた者として生き、ニール・グラジオラスという男の記憶をどうするかは自由。それで良いのだな?」

「ああ。俺は俺として今を生きるさ。死後だとか次の人生だとか、そういうのを考えてたら今が濁るだろ」


 記憶を受け継いだだけの別人を転生と呼ぶのかどうかは疑問だったが――それでも、ニールは彼ならば不満はないだろうと思っていた。

 なにせ、あれだけ剣に狂った、剣を好いた男なのだ。

 ならば、感動の再開は魂の有無ではなく容姿の同一性でもない。

 ただただ、振るう剣にこそ価値を見出すと思ったから。

 

「また会おうぜ、無二の剣鬼(オンリー・ワン)


 その時はもう、ニール・グラジオラスという男ではないだろうが。

 それでも――これから歩む人生で鍛え上げる剣術が、その記憶を受け継いだ誰かが、必ず再会することだろう。

 満足気に笑うニールの体が、ゆっくりと光の粒子と化していく。

 さあ、未来に思いを馳せるのは終わりだ。

 その未来に繋ぐために、今を生き抜いてみせよう。


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