250/TVゲームと友情崩壊/2
「……どうしよう、あれからノーラが動かないんだけど」
真っ白に燃え尽きちゃってるんだけど――という連翹の言葉が示す通り、ノーラはゲームが終了してからずっとテレビの前で硬直していた。
哀傷が漂う背中に、誰もがどう接すれば良いのか測りかねている。
当然である、大体原因はニールたち三人なのだから。
でも、さすがにあそこまではするつもりはなかった。せいぜい同じ場所まで引きずり下ろしてやろう程度にしか考えてなかったのに、勢い余って奈落の底まで落下させてしまったイメージだ。ああいうゲームだと知りつつも罪悪感を抱いてしまう。
「……あれね、確かに殴ったけど殺すつもりは無かった、的な?」
連翹の言葉にニールとカルナは力強く頷いた。
どういう言い回しだよそれ、とも思ったが、今の状況を的確に表現している。
「あれだけ順風満帆だったってのに、最終的には借金まみれで最下位だしな。ああ、うん、俺でも心が折れそうだ」
現金やカードが軒並み捨てられ、キング貧乏神化が収まっても、追い打ちをかけるようにノーラが買い占めていた駅付近で地震やら台風イベントが発生。後半、貧乏神をカルナに押し付け必死に挽回しようとしていたが、さすがに時間が足りなかった。
結果、圧倒的トップのノーラ社長は、転がり落ちるように最下位へと没落したのである。
もはやざまあとすら言えない状況だ。さすがに可哀想過ぎるだろう。
途中まで順調だった分、精神的ダメージも大きかったらしい。若干泣きが入っている。
「そう思うなら……もうちょっと……加減してくれても……良かったじゃないですかぁ……」
「いやごめん、ごめんねノーラさん。でもさすがに僕もニールもあの貧乏神がパワーアップするとか知らなかった、って言い訳はさせて欲しい。つまり全部知ってたのに僕らに協力したレンさんが悪い、彼女が諸悪の根源だ」
「カルナァッ!? ちょ、あたし一人に責任を押し付けないで欲しいんだけどぉ!?」
「だってよ連翹お前、どさくさに紛れて一位になってるじゃねえか。最初に共闘申し出たのもお前だし、やっぱりお前に一番責任あるんじゃねえの?」
「……レンちゃん……絶対……ユルサナイ……必ズ……復讐……フフ」
「ちょ、怖い怖い怖い! ちっちゃな声でそういうこと言うのやめてくんない!? わりと本気で怖いんだけど! ねえ、大丈夫よねノーラ!?」
顔を両手で覆いながらぶつぶつと言うノーラの肩を連翹が揺さぶる。
だが、よく見るとノーラの肩が震えているのが分かる。泣いているワケではなく、堪えきれない笑みを必死に押さえ込もうとしている震えだ。
(……実はとっくの昔に立ち直ってんな、ノーラ)
ただ、それはそれとして悔しいから反撃しているのだろう。気持ちはちょっと分かる。
いつ頃気づくことやら――そう思いながら後ろを向くと、キッチンで食事の準備をしていた茉莉がこちらを見てくすくすと笑っていた。
「いや、すんません、なんか騒がしくしちまって」
「いいのいいの、さすがに夜だったら近所迷惑だって叱らなくちゃいけないけどね」
掃除や洗濯といった家事はとっくに終わらせていたらしい、今は野菜の皮を剥いている最中のようだ。洗い終えた野菜を一箇所に集めている。
「あ、野菜の皮むきくらい手伝うっすよ。つーか、そのくらいしか手伝えそうにないっすけどね」
「あら、いいのよ別に、遊んでても」
「ぶっちゃけ何もせずだらだらしてるのも申し訳ないんで……ああ、厨房に他人を入れたくないってんなら下がってるっすけど」
「ああ、そういうところは平気よ。そういうの気にするタイプじゃないから、わたし。……そうね、それだったらちょっと手伝ってもらおうかしら」
キッチンに存在する調理器具の半分くらいはどう使えば良いのか分からなかったが、包丁ならなんとかなる。
にんじんやジャガイモの皮をさらさらと剥いていく。ジャガイモの方は芽をくり抜くのも忘れない。大して大きくなってないのでこの程度は大丈夫だとは思うが、これでしか手伝えない以上は丁寧にやるべきだろう。玉ねぎは後回しにしておく。
一つ剥いては生ゴミ入れに、もう一つ剥いてはまたそこに、そのようにやっているとふと手元に視線を感じた。
怪訝に思い隣に顔を向けると、茉莉が驚いた顔でこちらの手元を覗き込んでいる。
「……もしかしてこっちじゃこの皮の部分も食うとかあったりするんすかね……?」
魚を生で食べる文化があるのだ、野菜の皮を有効活用する文化だってあっても不思議ではないだろう。その辺り、もうちょっと聞いておくべきだったろうか。
「え? ああ違う、違うのよ。ただ……やだ、あたしより包丁さばき上手くない……? って思って。ピーラー使わないでそんな簡単に皮剥けちゃうの? ……というか、喋りながら剥いて大丈夫? 指切っちゃうわよ」
「ん? あー、こういう下ごしらえみたいなのは実家で仕込まれたんで、知ってる食材なら手元見なくても余裕っすよ」
連翹たちと話そうかと前を向くと、嘘泣きならぬ嘘闇がバレたらしく連翹がノーラのほっぺたをぐにぐにと伸ばしているのが見えた。カルナはとっとと安全圏に避難して、桃○プレイ前にやっていた音ゲーを再プレイ中だ。どうやらスコアでニールに負けているのが我慢ならないらしい。
「……テレビで見たことがあるけど、これが料理男子ってやつなのね。ギャップでちょっとトキメキそう――あ、オリーブオイルあるけど、使う?」
「すんません、俺は味付けとか超適当なんで、これで料理がどうのとか言われても――てかなんでそこでオリーブの油薦めるんすか?」
下ごしらえだけなら適当な飲食店でやっていける程度の腕はある、はず。
さすがに実家に居た頃よりは鈍っているので、すぐにプロ並みには出来ないと思うが、経験があるのですぐ慣れるだろう。
ただ、ニールが出来るのは下ごしらえと皿洗いくらいだ。
そもそも細かな味の差なんて分からないし、調味料の分量とか考えるだけで面倒くさくなってくる。きっと真面目にやっても素人に毛が生えたレベルだろう。父に「……良いモノを食わせているはずなのだがな」と溜息を吐かれたのも良い思い出だ。店で仕事をしても下働きで終わるのが目に見えている。
きっと根本的に細かな味わいとやらに興味がないのだろう。実家の手伝いの時などは頑張って指定された調味料を使っていたが、それ以外はもう完全に適当な目分量だ。どうせ自分で作ったモノなのだし、味が濃かろうが薄かろうが文句もない。そこそこに美味ければニール的には満点だ。
男料理などそんなモノだろうと思うのだが、舌が繊細な父や弟にはとても不評であった。その度に母が「わたしの血かしらねぇ」と笑っていたものだ。
「……しっかし、この包丁はなんなんすか? 最初金属だと思ってたっすけど、たぶんこれ別物っすよね?」
にんじんとジャガイモの皮むきを終え、玉ねぎに移行する。頭と尻の部分を切り落とせばつるりと剥けてしまうのでジャガイモなどよりだいぶ楽だ。
だからこそ考える暇があった。
手元の包丁をじっと見つめる。よく切れるし金属より軽いその刀身を見て霊樹を連想する。
あれよりも見た目が金属っぽく見えるが、光沢が鉄とか合金などとは別物だ。出来栄えもシンプルで、職人が全力を込めた一品というより鋳造の中でも大量生産向けのモノに近しいと感じる。
「セラミック包丁っていうの。セラミックっていうのは……ええっと、陶器みたいなの? だったかしら。ごめんね、今ちょっと手元にスマホが無くて」
「いや、いいっすよ。たぶん説明されても理解どころかすぐ忘れちまいそうなんで」
「そう? ああ、気に入ったのなら今度買いに行く? 珍しいモノじゃないし、安物だったらスーパーでだって売ってることもあるけど」
「……いや、止めときます。あっちでこれを直せるか分からないっすし、これに慣れた後に普通の包丁使うと辛そうなんで」
それに、こちら側の道具を考えなしに持って帰るのはどうかと思う。
あちらの世界でも、技術の発展と共にいずれ作り出す者も居るはずだ。そんな未来の天才や凡人たちの積み重ねを、悪戯に無に帰すのは違うだろう。
それでも本気で欲しいモノというのなら是が非でも持って帰るつもりではあるが、これはせいぜいあったら便利かもしれないという程度。ならば、この世界に居る間だけ、この未知の刃物の感触を味わって楽しむのに留めておこう。
(しかしセラミックだったか……これを剣にしたらどうなるんだろうな)
軽くて薄くて頑丈で、と良いことばかりに目が行きがちだが、しかし陶器という面がいただけない。
刃こぼれした時に手入れが出来ないからだ。もしかしたら修繕方法はあるのかもしれないが、ニール個人では不可能だろう。
「……グラジオラスくん? さすがに無言で包丁を眺められると、わたし怖いなー、って思うのだけれど」
包丁越しにセラミックの剣を幻視していたら、恐る恐るといった風に声をかけられた。
なるほど、確かに満場一致でヤバイ奴だ。
「あ、すんません。つい剣士的な本能っつーか、なんっつーか」
「そういえばグラジオラスくんは剣を使うんだってね。どんなのを使っているの?」
「霊樹の剣っていう、見た目が木剣みたいなヤツっすよ。エルフの国に行った時に手に入れて、以来は俺の相棒っすね」
「エルフかー。連翹と一緒にファンタジー映画で昔見たことあるけど、あれよね? 耳が長くて魔法使ったりする人たち」
「連翹も時々言うんすけど、俺らはそのファンタジーの意味がよく分からねえんすよね……」
エルフを見たことがないのか? そう思ったが、そういえば連翹がエルフやドワーフを見て大喜びしていたことを思い出す。
先程街を歩いた時にも人間以外の種族は見当たらなかったし、もしかしたらこちらの世界では獣人のように絶滅しているのかもしれない。
そのようなことを考えながら作業していると、皮むきはあっという間に終わってしまった。たかだか六人分だ、実家の手伝いと比べればだいぶ楽だ。
「うっし、これで終了っと……どうします? 一口サイズに切るくらいなら出来るっすよ」
「ううん、もう大丈夫。皮むきの方は大半やってもらっちゃったから、これ以上はこっちが申し訳なくなるわ」
遊んでていいわよ、と言いながら鍋を取り出す茉莉に頷き――しかし取り出した鍋を見て思わず問いかける。
「なんかちっこい鍋っすね。それ使うんすか?」
棚から出した鍋はどう見ても六人分の材料が入るようには見えない。入ってせいぜい三人前だろう。
茉莉は小さな鍋をコンロの上に置き、もう一個の鍋を取り出しながら「そうなのよ」と苦笑する。
「最近まで二人分しか作ってなかったし、二年前だって三人分だったからね。あんまり大きな鍋がないのよ、うち。だから今回は二つ鍋を使います……けど、同じ料理で鍋二つ使うのって地味に面倒ね」
二品作るならともかく、一品なのに二度手間で損してる感じがするわ――とぼやきながら調理を開始する茉莉の傍から離れる。これ以上は大して手伝えることも無さそうだし、無理に割って入っても困るだけだろう。
「あ、ニール帰ってきた。どうする? またゲームやる? そろそろごはんだしあんまり長時間やれないけど、ド○ポンとか皆でやる?」
「なんか打撃音みてぇな名前だな。どんなゲームなんだよそれ」
「さっきの桃○が生易しいくらいに見える友情を破壊出来るゲームよ。小学校くらいの頃は友達とやってたわ、おすすめ! 最初の島で終わりにすれば短い時間でプレイ出来るしね」
「もうちょっとマイルドなゲームにしてやれよ、ノーラが再起不能になんぞ」
どうしてそんなに友情を破壊させたがっているんだこの女は。
「いいえ、負けたままでは終われません……次は、次こそは絶対勝ってみせますからやりましょう……!」
だというのに、ノーラは瞳を爛々と輝かせて宣言する。
逃げるワケにはいかない、今こそ戦うのだと。
いや、とっとと逃げろよ明らかにそんな決意振り絞るタイミングじゃねえぞここ、とは思うが――まあ対案があるワケでもないので、ノーラの意見を尊重しよう。
「ああ、うん、それは構わないんだけどね――カルナ、ノーラにギャンブルとかさせないほうが良いと思うの」
「うん、そうする」
ハマり過ぎて破滅するタイプだよね、と二人で頷き合っている。
「あはは……さすがにそこまで熱くなってませんよ。それに、さっきニールさんやカルナさんがやってた音ゲー? とかは指が追いつかないので、こっちの方が楽しめそうだなって」
リベンジしたい気持ちは確かにあるが、だからといってそれ全てではない、と。
そんなことを言うノーラを信じ、ゲームを開始し――そしてゲーム終盤。
「待って! お願い待ってノーラ! 思いとどまって! 神官である貴女がゲームとはいえ悪魔と契約しちゃうのはいかがなものかと思うんだけど!」
高価な剣を装備したニールに殺されたり、強盗を失敗し賞金首になった連翹を倒そうとして返り討ちにあったり、町を開放するためにモンスターと戦っていたらカルナが遠距離魔法でモンスター共々撃ち抜いてきたり――そんなことを繰り返して最下位になったお目々ぐるぐるのノーラがこちらです。
アイテム欄には『けいやくしょ』という文字が一つだけ。
当然だ、少し前にニールが勝てそうだったので思わず殴り倒して奪ってしまったから。先程手に入れた悪魔の契約書だとかいうアイテム以外ノーラは何も持っていないのである。
「ふふふふ……ここまでボコボコにされて、もう形振りなんて構ってられないんですよぉ! 皆、わたしと一緒に死んでください……!」
「おい、追い詰められ過ぎて重たい女みてえなこと言ってるぞ」
一体誰がここまで追い詰めたんだ――などと呟いたら射殺すような視線を向けられた。
そしてその勢いのままデビル化したノーラは戦闘可能マスに止まっているニールのキャラをぶん殴る。過剰に強化されたデビルノーラとニールではステータスが違いすぎる。防御の上からHPを全損させられてしまう。
「ふふふ、勝った勝った――というワケでニールさんの剣、捨てちゃいますね」
「ばっ……!? ノーラお前、ちょ、お前ぇ……ッ! どうしたらこんなひでえ真似が出来んだよ――!?」
「そうですよ、そうですよ! その顔が見たかったんですよニールさん! これは殺されたあげく、大枚叩いて買った防具を盗られた恨みですからね……! ようやく買えたって喜んだ矢先に「じゃあそれ貰うな」、ですからね! わりと本気で殺意が芽生えましたよ、ええ! ええ!」
「やっべえ、想像以上に自業自得だ」
思わず素に戻るくらいの因果応報っぷりである。
防具を後回しにして剣ばかり新調していたら、さすがに中盤防御に不安が出てきた。
そんなところで殺せそうなノーラのキャラクターが近くに居たのだから、そりゃ殺すし奪う、仕方ない。これはそういうゲームなのだから。
ノーラは棺桶になって城に戻されたニールには見向きもせず、新たな獲物をカルナに定めた。デビル化によって増えまくった多量のルーレットを回し、島の反対側に逃げようとしていたカルナに接敵。バトルスタート。
「まっ、待って欲しいノーラさん! 僕が君に何をしたっていうんだ、冷静になってみよう!」
「遠距離から魔法で何度も殺しておいてなに行ってるんですかぁ――!? 慈悲はありません、どうか苦しんで死んでください」
「ああくっそ、やっぱ丸め込めなかった! でもごめん、最下位の僕がトップのノーラさん倒すのは中々楽しかったんだ! ゆえに、僕は謝らない! そのおかげでお金もたくさん手に入ったしね」
「そうですか、それじゃあ殺しますね――ふふふ、勝った、勝ちましたよ……! それじゃあ早速装備魔法捨てちゃいますね。マップ使用の単発魔法が捨てられないのが心残りですけど、これで通常戦闘が厳しくなりますから……」
その発言に怒るでもなく、冴え冴えとした殺意を以てデビル化したノーラのキャラクターはカルナのキャラクターを惨殺し、カルナが習得していた魔法をゴミのように捨て去る。
カルナの頬が引きつった。恐らく、誘導して持ち金を捨てさせるつもりだったのだろう。
だが、ノーラはじろり、とハイライトの失せた瞳でカルナの瞳を覗き込む。
「さっき、銀行にお金預けてましたよね? ふふふ、知ってますよ、知ってるんですから。わたし、さっきからどうすれば皆が困るんだろうなってずっと考えてるんですよ……ッ!」
「怖い怖い! ノーラさん落ち着いて! のめり込むのは良いけど入り込み過ぎだと僕は思うな!」
知ったことか全員殺す――と今にも言い出しそうな真顔でコントローラーをいじるノーラが怖い。
だが、そんなノーラを前にしても、連翹は楽しげにゲームをプレイしていた。まるで、自分には関係ないとでも言うように。
「ふふふ……いかにデビル化しようとも、お店とかアイテムマスに止まれば無意味――護身完成。デビルの危ない攻撃が来ても『ほう……』と受け流すって寸法よ! これで一位はあたしのモノね! 後は余裕があれば銀行に行ってお金を預けないと……」
「お? おっし、ようやく復活だ……なるほどな、連翹のプレイを参考にすっか……」
さすがに何度も殺されては敵わない、そう思ってルーレットを回してアイテムマスに止まる。
序盤の城付近に存在するマスなので大したモノは得られなかったが、無茶をして殺されるよりはマシだろう――
「あら、そうなんですか? 知りませんでした。なら溜まったデビルポイントを使ってヘイカモンを発動しますね――ほうら、レンちゃん、ニールさん、こっちですよこっち。そしてカルナさんは運が良かったですね、さすがに死人は引き寄せられませんから」
――そう、思っていた時代がニールにもあったのである。
「あ"あ"あ"あ"!? 待って待って待って、まだお金預けてないの! それ捨てられるとホントヤバイの!」
「おまっ……持っていくなら連翹だけ持ってけよ、ようやく生き返った俺を巻き込むんじゃねえ……っつーか新しい武器手に入れてねえんだけどうすんだこれ!?」
「大丈夫です、ニールさんだってまだお金を捨てられるじゃないですかぁ!」
「うわあ、地獄絵図になって来たぞこれぇ……!」
――――その後。
魔法特化であるため魔法マスにさえ止まれれば強力な遠距離攻撃手段を得られるカルナが巻き返し一位、やりきったぞという笑みを浮かべるノーラが二位、殺されたのが一回だけだったのである程度リカバリーが効いた連翹が三位、二回も殺されて金も装備もスッカラカンになったニールが四位という結末で終結した。
「ち……くしょう、ノーラぜってえ許さねえ……!」
一か八かで武器屋で強盗したら見事に失敗し、賞金首になったあげくカルナに殺され、最下位と一位の座を決定づけることになってしまった。
正直、むちゃくちゃ悔しい。攻撃力にステータスを多めに割り振っていた分、全裸状態では他のプレイヤーに対抗する手段が皆無。せめて武器さえ残っていればワンチャンあったというのに……!
「あらあら、敗北者が何か囀っていますよカルナさん、うふふふふふ」
「ノーラさんキャラ変わったままだよ、戻って戻って! そんな邪悪な笑みを浮かべる人じゃなかったろう!?」
口元に手を当てながら「ふふふ」と邪悪に笑うノーラ。前のゲームで惨敗したのがよっぽど悔しかったのか、童女のように楽しげだ。発言内容を顧みなければ、だが。
「ああ、終わったかしら? なら、そろそろゲーム片付けてくれない? もうそろそろ旦那が帰って来るから」
激戦で気づかなかったけれど、キッチンの方から美味しそうな匂いが漂って来る。カレーの匂いだ。
「……ん、分かったわ」
連翹は少しだけ怖がるように体を震わせ、しかしすぐに片付け始める。
それから数分程後に、がちゃりと玄関のドアが開く音がした。
靴を脱ぎ、廊下を歩く足音、それが一人分。
「お帰りなさい、桜大さん」
「――ああ、今帰った」
背はさして高くはないが、しかし威圧感のある男であった。
眼鏡越しの鋭い眼に短めに切り揃えられた黒髪。無精髭などなく、カッチリと着こなしたスーツも相まって清潔な――そして鋭利な印象を抱く。
険しい顔はニールたちという異物が居るから警戒している――というのもあるだろうが、半分くらいは素だろう。
戦士の体つきではないものの引き締まった体も相まって、どこかカミソリを連想させる。
茉莉の言葉に短く返答した彼は、桜大と呼ばれた男は最初に連翹を――そしてニールたちを見つめた。
疑るように、そして警戒するように。




