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231/孤独の剣鬼/8

 

(――ああ、楽しくて楽しくて仕方がない)

 

 雷鳴を通り越し雷光めいた速度で駆け抜けるニールは、孤独オンリーと剣を交えながら荒々しい笑みを浮かべた。

 体躯を翻す。剣が舞う。斬撃が走る。

 遠心力で関節が抜け筋肉が千切れていく痛み共に、もはや自分の目ですら追えない剣撃が孤独オンリー目掛けて解き放たれた。

 直撃すれば一撃で相手を両断し、たとえ防御されたとしても正面から叩き潰せる程の力だ。直撃でなくともカス当たりさえすれば衝撃と剣圧で肉を引き裂けることだろう。

 そう、当たりさえすれば。

 

「まだだ――まだ鈍いぞ、狼翼ろうよく! その程度なら銃弾を回避し続ける方が難しかった! 上空から降り注ぐ爆弾から逃げ回る方が難しかったぞ!」

 

 けれど、届かない。

 孤独の剣鬼オンリー・ワンは生身の力で人外の速度に喰らいついてくる。渾身の斬撃は、孤独オンリーの妖刀を滑り、逸れていく。

 身体能力は超強化されたニールの半分以下であり、彼を治癒する仲間もいない。一撃、たった一撃だけ攻撃が届けば肉片になることだろう。

 だが、彼は生きている。

 ただただ磨き抜いた技で、殺し合いの経験で、ニールの動きを一手、二手、三手、四手――想像を絶する精度で動きを見切り、回避し、受け流し、カウンターで首を切り落とさんとして来る。

 どれだけ速度が上がり、腕力が増しても、安堵など出来るはずもない。気を抜けば一撃で殺されるのは明確であった。

 

「はっ――言ってろ! もうすぐお前の記憶にあるそいつらに追いついてやっからよ」

 

 けれど、だからこそ楽しいと思うのだ。

 剣術とは、要は自分よりも肉体的に優れた者を倒す術だ。それを正しく実践している以上、ただ強くて速いだけの存在では届かないのは道理である。

 ゆえに動きを調整し、無駄な動きを省いていく。

 届かない技量を身体能力に任せながらも、それに頼り切らず剣術で勝負する。

 無駄な力が入れば骨はたやすくへし折れ、肉は裂け、血管が引き千切れていく。自身の体が、お前の動きにはまだまだ無駄があると痛みを以て教えてくれる。

 激痛に顔を歪めながら力加減を微調整すると、痛みは消えて体の動きが洗練されていく。無駄な力が失せて、体が、そして剣が疾く鋭くなる。

 まるで、凄まじく厳しい師匠に指導されているようだ。

 ニールの師も指導中は厳しかったが、さすがに骨をへし折る真似はしなかった。


(だが――これでいい!)


 なぜなら、矯正出来なければ死ぬのだから。

 孤独オンリーは既に最初の速度、腕力程度であれば簡単に対応出来るようになっている。ニールとの斬り合いの中で、技を磨き、成長しているのだ。

 ならば、こちらも成長しなければ追いつけない。

 もっと疾く、もっと鋭く、もっと鮮烈に――剣を振るうのだ。

 地面を砕きながら疾走し、袈裟懸けに剣を斬り下ろす。孤独オンリーはそれを受け止め、力に逆らわず回転――轟、という音と共にニールの首目掛け刃を振るう。

 高速で振り向き、イカロスの腹で受け止める。めきり、と振り向いた時の衝撃で足首と膝が破壊され、即座に再生する。無駄な力が掛かりすぎている、要修正。

 相手の剣を受け止めた状態のまま、思いっきり力を込めて踏み込む。めきり、と軸足にヒビを入れながら孤独オンリーを押し潰さんとするが――失敗。のれんを押した時のような手応えの無さと共にすり抜けた。ぐらり、とバランスが崩れる。

 

「第一秘剣――」


 瞬間、ちり、と首筋に感じる殺意。 

 即座にバランスを取ることを放棄し、そのまま前方に倒れ込んだ。ひゅん、と頭の少し上で雷すら置き去りにする刃が通り過ぎていく。

 ニールは瓦礫を砕きながら地面を転がり、距離を取って再び剣を構える。その姿を、孤独オンリーは牙を見せつける笑みで見つめていた。


「――雷切……駄目だね、さすがにもう見切られたかな?」

「余裕を持って避けられる、なんて大嘘は吐かねえがな! 必死になりゃなんとかなるくらいにはなったぜ!」


 雷切は孤独オンリーがニールに対し速度で勝負出来る現状唯一の技だ。

 ゆえに、隙を見せたら彼は必ずそれを使用してきた――いいや、使わざるをえないのだ。身体能力で劣る以上、技で補う他ないのだから。


(だが――雷切は技の性質上、どうしたって直線的な動きになる。小刻みな動きで誤魔化しちゃいるが、それは確実だ)


 要はカルナの鉄咆てつほうと似たようなモノだろ、とニールは予測する。

 射出する機能が何かの液体を染み込ませた粉末か、魔法か、闘気かの違いでしかない。高速で射出されたモノは、真っ直ぐにしか飛ばないのだ。

 ゆえに、相手の技は見切った。勝利に近づいた――


(馬鹿が。んなこと、言えるはずもねえ)


 ――まさか、今斬り結んでいる男をその程度で追い込めるはずがないだろう。

 目の前の男は天才だ。それも、努力を決して怠らなかった天才なのだ。

 そんな男とニールのような凡夫が拮抗している時点で奇跡である以上、それ以上の奇跡を望めるはずがない。十中八九、別の活用法、別の技でニールを追い詰めてくるはずだ。

 慢心するな、警戒しろ、そして全力で立ち向かえ。

 今のニールに出来るのは、たったそれだけなのだから。


「出し惜しみすんじゃねえよ、まだなんかあるんだろ? そっちも全力で来いよ――犀抜さいぬきィ!」


 喋りながら踏み込む。一瞬で間合いを詰め、孤独オンリーの左胸目掛けて刺突を放つ。

 直撃で心臓を穿てれば最上、駄目でも体のどこかに当たれば良し、それが無理でも衝撃波でダメージを与える――!


「ああ――その本気に応えよう!」


 切っ先が孤独オンリーの心臓を穿つ寸前、孤独オンリーは消滅した。

 否、違う。地面が抉れている、瓦礫が砕けている。

 これは跳躍、つまり――


「上かぁ!」


 ――上空からの攻撃を予測し、即座に剣を構え直す。

 ニールの予測通り、孤独オンリーは上に居た。想像と違ったのは、即座に攻撃を仕掛けて来ることなく、上空まで打ち上げられていたことだ。

 怪訝に思う。確かに闘気によって自分の体を射出出来るとはいえ、上空は地に足を付けられない。踏み込むことが出来ないのだ。

 そしてそれは、今のニールにとって大き過ぎる隙であった。上空を移動するにしろ、着地してから行動するにしろ、人外の速度と化したニールなら簡単に追いつき斬り殺すことが出来る。

 ゆえにこれはチャンス――そう思いかけて、しかしニールは否とその希望的観測を否定した。

 あの男がこんなつまらない隙を晒すはずがない。

 何より――孤独オンリーの眼は爛々と輝いている。おれの本気を見せてやる――そう告げるように。

 

「第三秘剣――大嵐おおあらし


 宙で体を捻った孤独オンリーは、右手に妖刀を、左手に鞘を握りしめ、高速で回転する。

 刀と鞘から放たれる斬撃による衝撃波――それは巨大な竜巻に変じて、地面や家屋の瓦礫を巻き上げていく。

 

(――竜巻で近づかせず、距離を取るつもりか?)


 そう思考して、すぐに否と断ずる。

 先程ニールを見つめていた眼は剣呑な輝きを発していた。そんな後ろ向きな行動ではないはずだ。

 その思考を肯定するように、大嵐によって生みだされた竜巻はぐにゃり、と曲がった。

 地面と水平になった竜巻は、周囲に散らばる瓦礫や転移者の死体を巻き込みながら――ニールへ向かって真っ直ぐ突き進んでくる。

 

「ぐっ……!?」


 瓦礫や石塊を多量に含んだ竜巻に飲まれる。

 ちい、と舌打ちをしながら頭部に向かってくるモノだけをイカロスで叩き落としていく。自然、無防備な四肢や胴体、下半身に高速で飛来する物体が直撃するが――意識さえ失わなければ問題ない、戦える。

 だが、そんなことは孤独オンリーとて察しているはずだ。この程度では、今のニールを倒すことなど出来ない、と。

 女神の御手(コード・グロリアス)による回復能力を得ている今、多数の瓦礫を叩きつけられたところで決め手にはならない。

 ならば、これは――


「複合秘剣――雷霆らいてい

 

 ――声が聞こえるのと、ニールが跳躍したのはほぼ同時であった。

 つま先をへし折りながら跳んだニールは、飛来する瓦礫に着地し、再び脚を砕きながら跳躍していく。

 そうせねば死ぬ――そんな確信があったから。

 

「――へえ」


 嵐の中で、剣呑に輝くモノがあった。

 それは刃であり、こちらを見つめる双眸だ。ニールと同じように瓦礫を跳躍しながら高速で迫る、孤独オンリーの姿だ。

 二人は互いに嵐の中を跳躍しながら間合いを詰め――すれ違いざまに刃を振るう。

 鳴り響く甲高い金属音。

 正面から衝突した二人だが、力負けしたのは孤独オンリーの方であった。彼はニールの腕力を受け流しながら、後方に跳び、再び瓦礫を足場に跳ね回る。

 

「正直、本気で驚いた。まさか、これに順応されるとは思わなかったよ」

「生憎……ッ、似たようなことは王冠クラウンの時にやったからな。こんなもん、ただの二番煎じだ」


 嵐の中に足場があるのなら、それを蹴り飛ばしながら跳べる――カルナの氷嵐でやったことと同じだ。体が強化されていなかったとしても、この程度なら対応出来ただろう。

 嵐の中で輝く双眸が、納得したように輝いた。

 

王冠クラウン、か――なるほど、考えることは同じというワケか」


 高速回転して嵐を形成していた孤独オンリーが攻撃に移ったからだろう、竜巻はゆっくりと勢いを減じていく。巻き込まれていた瓦礫が周囲に投げ出され、辺りに叩きつけられる。ぐしゃり、と何者かの体に直撃する音がした。

 ニールも孤独オンリーもそちらには目もくれず、再び疾走し剣を振るう。


「雷霆――あれは対王冠に謳う鎮魂歌(クラウン・レクイエム)用の技なんだ。仲間の彼に使う機会はなかったけれど、やっぱり自分を倒せる相手をどう攻略するか、って考えるのは楽しくてね」


 飢えた肉食獣の如く迫るニールを笑顔で――しかし、額に汗を滲ませながら受け流す孤独オンリーは互いの剣戟に比べてゆっくりとした口調で話し始めた。


王冠クラウン崩落テラー――この二人は幹部の中でおれに勝利出来る存在だった。だから、イメージトレーニング……は、気取り過ぎか。よく戦う空想をしていてね、その結果色々と技を編み出した。幸い、時間だけは沢山あったからね」

「――はっ、ぁ……王冠クラウンは分かるが――崩落テラーだと?」


 息が荒い、逆立った茶の髪は汗で体にべったりと張り付いている。正直、喋る体力などあまり残ってはいない。

 だが、それでも彼の物言いは意外で、思わず問いかけてしまったのだ。

 確かに王冠クラウンは空高くから魔法をばら撒くという戦闘スタイルである以上、剣士では相性が悪い。遠距離攻撃手段はあっても、それはあくまでいざという時の技であり、剣士の本領ではないのだから。

 だが崩落テラーはそこまで厄介な敵だとは思えない。

 確かに街門前では苦戦したが――あれは転移者多数対現地人多数の戦いだからこそだ。一対一でもそれなりの脅威だろうが、孤独オンリーがそこまで言う程の強者ではないだろう。


「だっておれは規格外チートを失った生身の人間だ。崩落テラー咆哮ハウリングも十分ダメージになるし――その上、重度のハピメア中毒になった最近の彼女は、おれにとって天敵だった。彼女がおれを本気で殺しに来ていたら、勝利出来ても脳をハピメアで犯されていたかもしれない」


 その言葉に、ああ、と納得する。

 もしも、もしも彼女がもっと好戦的で、転移者の身体能力を生かして間合いを維持しつつ咆哮ハウリングをばら撒くような戦法を取ってきたら――非常に厄介な敵となっただろう。

 確かに咆哮ハウリングの威力自体はそれほどではないが、声という避けづらい攻撃方法である以上、完全に回避し続けるのは難しい。間合いを詰めるまでに何発も攻撃を食らい――最終的にハピメアに犯されて身動きが取れなくなる。

 

「だから、最初に出会った時は嬉しくてね。テンションが上がって、無理にでも本気で殺しに来て貰おうと思って危機感を煽るために腹を数発殴ったんだけど――彼女は泣くばかりで、まともに反撃して来なかった。ああ、酷く、酷く、残念だったよ」


 だが、彼女は争いを忌避し、争いに怯えるだけの少女だった。それはハピメア中毒になってからも変わってはいない。

 ゆえに、彼女は宿敵になってはくれなかった。

 王冠クラウンもまた同じ。転移者世界で整形手術を受けた彼は顔に傷を負うことを酷く恐れていた。そんな彼が、孤独オンリーという強者と本気で戦うはずがない。

 認めた相手ほど、孤独オンリーと本気で戦ってくれなかった。

 

死神グリムはいじめられっ子が力を持って暴走しているだけで、興味はなかった――だから殴るなんて可哀想だと思ってね。そう言ったんだけど、彼女はなぜか酷く怒ってしまって。仕方ないから軽く殴って黙らせたよ。

 狂乱インサニティ――インフィニットは見た目は格好良かったけれど、それだけだね。大きくて力強いだけの素人で、正直期待はずれだった。巨大で力強いだけなら、モンスターと戦えば良い。

 雑音ノイズは戦闘能力も戦闘に挑む態度も論外でさ、欠片もそそらなかった。だから長く一緒に居れたのかもしれないけどね」


 刃を振るいながら昔懐かしむように語る。ゆらり、とした軌道で防御をすり抜け顔面を抉ろうとする刃を、ニールは頭を思いっきり捻って回避する。ごきり、と首の骨がへし折れ、しかしすぐに治癒される。


(しかし――本当に、最悪なめぐり合わせもあったもんだ)


 小物だったからこそ、雑音ノイズ孤独オンリーを利用し続けることが出来て――だからこそ孤独オンリーの内面を理解出来ず、破滅した。

 孤独オンリーも、また――自死を選ぶ前に彼の心を揺さぶる人間が現れていたら、ゲイリーのように真っ当な道を歩んでいたのかもしれない。

 だが、それらは全て終わったことだ。今更どうやっても覆すことの出来ない現実だ。どれだけ悔やもうが意味はない。

 ゆえに、ニールは――


「はっ――安心しろ、お前は二度とつまらねえ日々に絶望することはねえ――俺がお前に勝つから! おれがお前を殺すからだ!」


 ――この刹那を全力で楽しみ尽くすのみだ。

 確かに目の前の男は別の道があったのかもしれない、世間一般から見れば最悪な結末に向かって墜落して行っているのかもしれない。

 だが、それでも――酷く不謹慎なことだと自覚しながらも、ニールはこう思うのだ。


「ありがとうよ、ここまで堕ちてきてくれて――俺と出会ってくれて! おかげで、こんなにも楽しく斬り合える!」


 そうだ、ニールは嬉しいと思っている。

 彼が真っ当な道を選んで、ニールの知らない場所で幸せに暮らしているIFよりも――剣鬼に堕ち、廃墟の街で斬り合う今が良いと思ってしまう。

 こんな思考、愚かを通り越して狂気そのものだ。ニールとて、剣が関わらない事柄で似たようなことを言っている人間が居たら、頭がイカレていると考えるだろう。

 当然だ、結局のところニールは剣にイカレているのだから。


「――ははっ」


 そして――眼の前の男も、また同様であった。

 当然だ。何かを極めようという熱量は、他者から見れば狂気でしかないのだから。

 ニールは大笑しながら餓狼食がろうぐらいを放つ。瞬間、視界が高速で背後へ流れ消えていく。動きを調整し剣術の動きに最適化こそしているものの、極まった速度にニールの目がついていかない。

 だが――積み重ねた経験が、鍛錬し続けた体が、剣を振るうべきタイミングを考えずとも無意識に実行してくれる。

 閃光めいた斬撃を解き放つ。刃は音すら置き去りにして孤独オンリーへひた走る。

 

「ああ、おれもだ――」


 鮮血が、舞った。

 ニールのモノではない、孤独オンリーのモノだ。

 刃は未だ届いていない。けれど、音すら置き去りにする斬撃の衝撃波が、僅かに彼の回避速度をほんの僅かに上回り、左胸を軽く撫でていく。するり、と刻まれる微かな裂傷。

 天秤が僅かにこちらに傾いたのを感じた。

 慢心や思い込みなどではない、事実として孤独オンリーに手が届きつつある。

 

「――おれの人生は、この刹那に辿り着くためのモノだったんだと思うよ!」


 けれど孤独オンリーの瞳に負の感情は欠片も映らない。傷を負った痛みも、追い詰められつつあるという恐怖も、全て全て蒸発してどこかに霧散してしまっているのだろう。

 彼は満面の笑みと共に踏み込み、最上段からの斬撃を放った。

 剣を振り下ろした直後のニールは回避することが出来ない。無理矢理体を横倒しにするように跳ぶ。刃が脳天を削り、滑りながら左耳と僅かな頬肉を削り取っていく。

 肉を抉られた痛みと無理矢理跳んだことによって砕けた全身の骨が苦痛の大合唱を行う。視界が微かに白く染まり――舌を噛みちぎって強引に気付けを行う。

 地面を転がりながら距離を取り、高速で立ち上がり孤独オンリーを睨めつける。既に体の傷も、噛みちぎった舌も、最初からダメージなどなかったかのように繋がっていた。

 なら、問題ない。まだ、まだ、まだ――まだ、戦える。

 呼吸は乱れ、傷は無いというのに頭が酷く痛む。脳に血が足りていないのだろうか、思考はぼんやりとし始めている。

 だが、まだ剣を振るうことは出来る。

 その眼を見て、孤独オンリーは微かに瞳を潤ませて――けれどそれ以上に猛獣めいた獰猛な笑みを浮かべた。


「けれど! けれど! 勝つのはおれだ! ここまで来た以上、底の底まで堕ちるのも悪くない! 君を倒した後、この包囲網すら喰らい尽くしてみせる!」

「させるかよ、勝つのは俺だぁ――!」


 罵り合うような声音で、けれど心からの笑みを浮かべて互いの剣が噛み合う。

 決着は近い。カルナとノーラがどれだけ持つのかは分からないが、仮に後一時間余裕で超強化を続けられたとしても、ニールの集中力と体が持たないだろう。

 だが、それを恐れる心は今のニールには存在しない。

 頭の中にあるのは刹那の斬り合いに関することのみ。それ以外は余分だ。

 ゆえに、溶け落ちる蝋の翼を翻し、剣の頂きへ飛翔して行く。迷いなど、あるはずもない。



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