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210/無二


「――ッ!」


 アレックスが抜剣し、微かに遅れて皆が武器を構える音がした。

 ヒヤリとした汗がにじみ出るのが分かる。

 無二の剣王(オンリー・ワン)と戦うこと、それ自体は分かりきっていたことだ。そこに恐れなどなにもない。


 ――だが、今はまずい。


 まだ少女たちの脱出が終わっていないこの状況で戦闘になれば、どれだけ気を使ったとしても巻き込んでしまう。斬撃が、魔法が、衝撃波が――地下に囚われ、虐げられ、体力を著しく消耗した娘たちに当たってしまう。

 無論、そうならないように務めていた。

 スカウトのファルコンはもちろん、アレックスとて周囲の気配を常に探っていたのだ。戦いに巻き込まぬように、死者を出さぬように。

 

(無意識に侮っていたか――転移者だから、と!)


 油断したつもりはなかったが、現実が突きつけるのは自分たちの甘さだ。ぎりっ、と歯を食いしばる。

 転移者は確かに強大な力を持っているが、しかし技量という面では下手な現地人をも下回る。

 無論、この世界に来てから修行した者――気配を断つ術を学んだ者は居るだろうとは考えていた。

 だからこその警戒していたのだ。普通の転移者なら、その絶大な力が気配を色濃くするため、ファルコンのような専門家ならば探るまでもないだろう。

 だが、それでも――転移者だから、スキル頼りの存在だから、と見くびっていたのかもしれない。自分たちに気づかれぬ程に上手く気配を断てる者が、転移者に居るなど想像もしていなかったのだ。


「ああ、すまないね。邪魔をするつもりはなかったんだ。ただ、ここまで来た騎士と早く会ってみたくて、つい話しかけてしまっただけなんだよ」


 無二オンリーは剣を抜いて警戒するアレックスたちを前に、敵意が無いとアピールするように両手を上げた。

 

「邪魔はしないから、その娘たちを逃してあげて欲しい。酷い扱いをされる女の子っていうのは、見ていてあまり気持ちが良いモノじゃないからさ」


 ――この国の王とやらが、どの口で。

 そんな言葉が喉までせり上がって来たが、呼吸を落ち着けながら静かに飲み込む。

 眼前の男がどのような思惑で動いているのかは、正直理解出来ない。だが騎士として、アレックス・イキシアという一人の人間として、あの娘たちを放って戦いを挑むような真似は出来なかった。

 それに、現状で無二オンリーがこちらに敵意が無いのは事実だ。

 殺意も害意も見えないというのもあるが……油断を誘って奇襲を狙っているのであれば、気配を断ったまま背後からスキルを放つだけで良いだろう。少なくとも、少女たちを逃がすまでは何もしないのは真実のはずだ。


「……感謝しよう」

「必要ないさ。主観的に見ても客観的に見ても、おれは救い様のない畜生だ。君が飲み込んだ感情は正当な怒りだと思うよ」


 そう言って、彼は笑みに自嘲の色を滲ませる。

 その姿はまるで『酷い偽善者だな』と自身を嗤っているように見えた。

 

(……片桐が言っていた通りだな)


 言葉を交わしてみれば分かる、無二の剣王(オンリー・ワン)を名乗る男は、真っ当な倫理観を兼ね備えているのだと。

 実際、彼が少女たちに向ける視線には憐憫の情が見て取れた。

 とてもではないが、こんな無法の国の在り方を良しとする人間には見えず、アレックスは困惑してしまう。

 

「ブライアン、準備を頼む」

「……いいのか?」

「ああ。無論、気は抜けないがな」


 両腕を上げたままこちらを見つめる無二オンリーを観察する。

 腕の動き、脚の動き、それらを動かす筋肉の脈動。それらを一切見逃さぬと注視し続ける。

 背後で行われる治癒と入船していく少女と兵士の足音を耳にしながら、アレックスは剣を構え続ける。幸い、リディアの剣は守勢の剣術だ。待ち構えるという性質上、疲労は溜まりにくい。

 脇を締めて両手を胸まで引き寄せる。

 剣は天を貫くが如く真っ直ぐに。

 両脚はすぐにでも動けるように力が込められ、しかし程よく弛緩していた。

 

「……わぁ」


 向かい合っていた無二オンリーが感嘆の声を漏らした。

 突然どうした? とは思うが隙は見せない。


「八相――いいや、どちらかといえばドイツの屋根の構えに近いか。そして筋肉の力の入れ加減、剣の握り方、こちらの動きを見極める洞察力に集中力。なるほど、これが騎士か」

「何を言うかと思えば、騎士となら一度戦ったはずだろう」


 数ヶ月前、ナルシスが占拠されたという報告を聞き、同期や部下の騎士たちを見送ったのを今でも覚えている。

 見送った者たちが、半分も帰って来なかったという事実も、また。忘れられるはずもない。

 

「残念ながら、君たちの第一陣は死神グリムが率いた転移者たちに倒されてしまったからね。おれは戦ってないよ」


 そうか、と淡々に応える。

 血塗れの死神(グリムゾン・リーパー)の戦闘スタイルはニールたちから聞いている。

 武器を破壊することによって発動する、スキルの連続発動。まだ対転移者戦に慣れていなかった騎士たちでは、それを防ぐことは難しかったのだろう。

 

「アレックス! こっちはもう大丈夫だ!」


 背中を叩きつけるような声が響く。ブライアンの声だ。

 疾走しながら剣を抜き、アレックスを庇うように前に出る。

 少し遅れてアレックスの後方に向かう足音――これはマリアンだろう。腰に吊るしたメイスを構える気配がする。

 その遥か後方で薄れていく気配があった。これはファルコンだろう。気配を消すことによって不意を打つつもりだろうか。

 

(だが――これで問題ない)


 四対一という戦力差。

 これは言葉にする以上に圧倒的な差だ。そして、こちらには防御に秀でたブライアン、神官のマリアン、数々の道具を操るファルコン、そしてアレックスが居る。戦闘が始まれば音を聞きつけて屋敷からキャロルとノエルが増援に来るだろう。


 ゆえに、勝てる――と思う。


 これが女王都を出立した直後ならまだしも、今のアレックスたちは対転移者の経験を積んでいる。身体能力、スキルの威力と範囲を頭と体に刻み込んでいるのだ。

 無論、相手はレゾン・デイトルの王。ただただスキルを放つだけの転移者ではないだろう。

 だが、それでも十分勝利は可能だと確信する。

 どれだけ強力な攻撃でも、ブライアンなら耐えてくれる。

 耐えきれぬ大技を放つようなら、アレックスが速攻で間合いを詰めて殺す。 

 それらが失敗したとしても、マリアンの治癒が、ファルコンの援護がある。

 油断できる相手ではないが、決して勝算が無いワケではないのだ。

  

「さて、と――これで巻き込まないで済むね」


 係船柱から立ち上がると、無二オンリーはにこりと微笑むと腰に差した刀――その柄に手を伸ばす。

 警戒するアレックスたちの前で流れるような動作で抜刀し、その刀身を掲げる。刀身が光を反射し、怪しく煌めいた。

 それは血を啜る妖刀のように邪悪に、けれど磨き抜かれた鋭さゆえの美しさだ。剣士がその輝きを見れば、この刃を自分のモノにしたいと無意識に思わせるであろう、剣呑な美であった。

 

 ――ゆえに、アレックスは表情を歪めた。

 

 細く鋭い刃はアレックスが用いる剣技リディアの剣には合わない。肉厚な刃で相手の攻撃を受け止める動きが多いためだ。

 だというのに――あの刀身を見た瞬間、欲しい、と思った。己のモノにしたいと、己の手でそれを振るいたいと。

 

(魔剣――いいや、日向ひむかいで言うところの妖刀か)


 じわり、と体に染み入っていく欲求を振り払い、無二オンリーの剣を見つめる。

 長い月日を経て魔力を特殊な効果を得た剣、もしくは魔法王国トリリアムの時代に製造されたという剣奴用の玩具。

 生み出される経緯は別だが、どちらだったとしてもまともなモノではない。

 剣とはどう言い繕っても他者を殺すための道具だ。ゆえに、前者であれば殺戮の果てに力を得たモノが多い。結果、剣の殺意に当てられ使用者は狂ってしまう。

 後者の剣、魔法使いによって生み出されたモノは――使い手を弄ぶためにわざと副作用が付与されたモノが多数存在している。闘技場で苦痛に喘ぎながら剣を振るう剣奴を眺め、愉悦に浸る文化があったかららしい――今の時代を生きるアレックスには、欠片も理解出来ない理屈ではあるが。

 そして、恐らく目の前の男が持つ刀は前者だ。

 装飾があるワケではない、ただただ生き物を斬るために研ぎ澄まされたがゆえの美しさは、剣士を弄んでいた時代の魔法使いに作り出せるモノだとは思えない。


「……本当に、戦わなくちゃならないのかい?」


 マリアンが、不意に問うた。

 

「少なくとも、アンタはあの娘たちに手を出さなかった。悪党なのかもしれないが、外道のようには見えない。……理由があるのなら、手を貸してやってもいいんだよ?」


 止むに止まれぬ事情があるからレゾン・デイトルの王などをやっているのではないか。例えば――雑音ノイズのような転移者に親しい人を人質に取られている、といった風に。

 だからこそ、他の転移者の目がない今、少女たちの脱出を見逃してくれたのではないか、と。

 ならば、自分たちに戦う理由などない。

 むしろ協力し、この国に存在する外道どもと戦えるのではないだろうか。


「なにを言うかと思えば――おれは我欲にまみれた外道であり、悪鬼だよ。それ以上でも、以下でもない」


 自分は邪悪である。倒されるべき悪である、と。

 どこか罪悪感に満ちた表情を浮かべながら言った。

 けれど、そんな立ち居振る舞いを見ていれば分かる――彼の心根は真っ当なのだと。

『自分は神に選ばれたから自由に全てを弄んで良い』などという世迷い言を信じる愚者ではなく、今まで行ったことが邪悪だと誤魔化さずに認めている。

 なるほど、確かにマリアンの言は理屈として正しく聞こえる――


(……だが、なぜだ?)


 ――だというのに、アレックスの本能は気を抜くことを許さない。

 心根が真っ当なのは恐らく事実なのだろう。だが、それとこの男と協力できるという言葉が、どうしてもアレックスの頭で繋がらないのだ。

 ふう、と無二オンリーは溜息を吐いた。


「仕方ない――なら、遠慮なく戦えるようにしようか」


 自室に友人を招く前に掃除をしてくるよ――そんな気楽さで言うと、彼はアレックスたちから視線を逸した。


「ファスト・エッジ――」

(いや、違う――!?)


 逸したのではない、別のモノに視線を向けたのだ。

 刀を構え、振り上げる。刀身に闘気を纏わせながら、無二オンリーは海を――否、そこに浮かぶモノを真っ直ぐと見つめる。

 そこにあるのは、一隻の船。

 先程、少女たちを乗せ、レゾン・デイトルから離れつつある船だ。ようやく救われる、と安堵に包まれている場所だ。


「――シュート」


 スキル名の発声と共に、刃が空を斬った。それと同時に、斬撃が飛ぶ。

 石畳で舗装された地面を切り裂きながら疾走するそれは、真っ直ぐ真っ直ぐ高速で直進していく。

 アレックスは即座に理解した。

 この速度であれば、この切れ味であれば、容易く船に追いつき中に居る娘たちごと両断出来るだろう、と。

 少女たちの希望は墜落し、絶望の海に投げ出されることになるのだと!

 

「貴――様ぁ!」


 リディアの剣――雷華らいか

 雷光の速度で駆け抜けたアレックスは、娘たちを喰らおうとする斬撃に鮮烈な刺突を叩き込む。

 鳴り響く鋼の咆哮と共に霧散していく闘気の刃。おお、と無二オンリーは場違いな感嘆の声を上げた。


「自分に向けられたモノでもないのに、良く止めたね。加減していたとはいえ、大抵の転移者や現地人は初見では反応出来ないんだけど」

「なんの真似だ!」


 先程の出来事などなかったかのように称賛する無二オンリーを怒鳴りつける。


「あれが直撃していたら――一体、何人死んだと思っている!」


 斬撃は船を両断し、船内の娘たちを幾人か斬り殺したことだろう。生き残った者たちも全て海に投げ出される。

 そうなれば――多くの娘が溺れ死ぬ。

 彼女たちは地下で長期間監禁され体力を消耗しているのだ、陸地まで泳げるはずがない。いいや、そもそも冬の海の冷たさに耐えることすら出来ないだろう。

 船内に居た兵士と従軍神官が全力で救助活動をしたとしても、半分も助けられまい。

 

「それに関しては本当に申し訳ないと思っているよ――」


 言って、彼は申し訳なさそうに顔を歪め――


「――けど、おれは君たちに教えたかったんだ」


 ――けれどすぐに、にこりと微笑んだ。

 人好きのする笑みを浮かべ、楽しげに――アレックスの怒りを前に、何も感じてもいないように。


「対話なんて無意味だと、おれはただただ倒すべき悪鬼なんだと。おれを見逃せば、さっきのように無辜の民を殺し尽くすと」

 

 そう言って――彼は構えた。

 剣先をアレックスへ向けた中段の構えだ。全身に力が漲っているといるように見えながらも、無駄な力など欠片も入っていなかった。

 理想的な構えだ。そして、その動作に規格外チートもスキルも介在している様子はない。

 

(片桐のように転移してから剣を――いや)


 違うな、と断ずる。

 彼がどれだけの時間この世界で暮らしてきたのかは分からない。だが、制限時間を過ぎてもスキルが使える無二の規格外(ユニーク・チート)などと言われている以上、最低でも三年以上はここで暮らしていることになる。


 だが――それでは短すぎる。


 剣の技術とは積み重ねるモノ、体に刻むこむモノだ。アレックスとて幼い頃から修練を欠かさずに行ったからこそ最年少でアルストロメリア騎士団に入団出来たのだ。

 剣士として才があったアレックスとてそうなのだ。仮に目の前の男が転移直後から剣の修練を始めたとしても、ここまでの技術を得るには期間が短すぎる。

 

(ならば、この動きそのものが無二の規格外(ユニーク・チート)なのか?)


 無二オンリーは魔法スキルが扱えないのだという。

 けれどその代わりに剣術スキルは強化されているのではないだろうか? 先程の気配を断つ術でこちらを欺いたように、必要なタイミングで練達の剣士の動きをトレースすることが出来るのではないかと推察する。

 ならば、先程放った『ファスト・エッジ』の派生らしきスキルも、魔法を捨て剣士としての力に特化したからこそ引き出せた転移者の可能性の一つではないだろうか。

 それに、ここはレゾン・デイトル――転移者の国だ。

 住まう者の多くは規格外チートを有している以上、スキルであるか否かを見極めることくらいは出来るだろう。

 

(転移者は剣術の素人だ。だからこそ、スキルを放つ直前、放った直後に大きな隙が生まれる。だが、この男の無二の規格外(ユニーク・チート)ならばその隙を一方的に攻撃出来る)


 それが王の力の正体であると推測する。

 無制限に使え、スキルの技量を思いのままに操れる力。だからこそ転移者たちは自身を至高としつつ、けれど自分よりも上の王という存在を許しているのだろう。

 自分が使う力とは違うから――そして、いつか王と同じ力を得たら、自分の方が上手くやれるから、と。

 

「――今日この瞬間から、おれの願いは成就する。その結果、多くの人間が死ぬぞ? エルフが死ぬぞ? ドワーフが死ぬぞ? 大勢大勢、死んでしまうぞ?」


 そう言った瞬間、轟、と全身を叩きつけるような圧力がアレックスたちを襲った。


「ッ――!」


 アレックスたちは衝撃波めいたそれに、思わず顔を歪めた。

 感じる圧力は、無二の剣王(オンリー・ワン)の腕の動き、脚の動き、目線、気迫――それらを用いて放たれる殺意の波濤だ。

 さあ! さあ! 今すぐにでもお前の首を取りに行くぞ! そう怒鳴り散らしているような分かりやすいそれだが、しかし素人には絶対に気づけ無いモノである。

 当然だ、素人ではこの無遠慮な殺意に気づけ無い。

 刹那の間でこちらの首目掛け刃を振るってきそうな腕、今すぐにでも踏み込んできそうな足、『こうやって斬るぞ』というわざとらしい目線の移動、そして嵐の前の静けさめいた凪いだ精神。

 だが、それら全てはどれだけ分かりやすくとも予備動作でしかない。全くの素人が見れば何もしていないように、ただそこに居るだけのようにすら見えるだろう。


(なるほど、片桐が言っていたのはこれか!)


 連翹はまだ素人だ。規格外チートが無ければ連合軍の皆と共に戦うことなど出来るはずもない。

 だが、彼女は己のスキルを師とし剣術の鍛錬を行っていた。時にニールに引っ叩かれながらも、必死にスキルの動きをトレースし実力を付けていた。

 だからこそ、無二オンリーの予備動作に半端に気付いたのだ。

 他人にこの圧力が何であるかを説明出来るほど理解はしていなかったが、しかし相手の動きを見て反射的に危ないと思える程度の技量を有していたのだ。

 

「――ははっ」


 アレックスたちが全員この殺意の圧に気付いたことを理解した瞬間、無二オンリーは笑みを浮かべた。

 先程までの人好きのする笑みでは断じて無い。

 それは、飢えた猛獣が獲物を見つけた時のよう。ようやく見つけた! ようやく見つけた! 喰らわせろ! 喰らわせろ! そんな声が聞こえてきそうなギラついた笑みであった。


「おれの願望を阻むというのなら、全力でかかって来てくれ。ああもちろん――」


 アレックス、ブライアン、マリアン、ファルコン。

 四人の眼を一人一人、順番に眺めた後、彼はくいっと顎で自分の後方を指し示した。


「――おれが怖いから逃げる、というのなら構わないよ。勝手に逃げると良い。そんな臆病者を追いかける理由はないからさ」

「ふざけるな――この下衆が!」


 それは侮辱であり、挑発であった。少なくともアレックスは、そして一緒に居る皆もそう感じたはずだ。


(だが――なんだ?)


 小さな違和感を抱く。

 無二の剣王(オンリー・ワン)の表情はどこか寂しげで――期待が裏切られ傷つくのを防ぐため予防線を貼っているような、そんな風に見えたから。

 彼が罪のない娘を躊躇いもなく殺せる外道であることには間違いない。

 だというのに、なぜだろうか。

 アレックスの目には彼が倒すべき邪悪ではなく、寂しがっている子供のように見えたのだ。

 

「だが――貴様はここで倒す!」


 己の思考を強引に断ち切るように叫ぶ。

 どのような理由があれど、目の前の男は捨て置けない。

 仮に同情すべき理由があったとしても――それを考慮してやる義理はない。

 アルストロメリアの騎士から見て、そしてアレックス・イキシアという一人の男から見て――無二の剣王(オンリー・ワン)は決して生かしてはおけぬ敵であると確信したのだから。

 


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― 新着の感想 ―
うーん破綻者、しっかり罪悪感を感じながらも解放されて喜ぶ少女達を殺そうとできるとかやばすぎ
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