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208/賢人円卓/2


「さあ、お前たちも存分に見るが良い! これが我々に逆らった者の末路だと!」


 その様子を見て、男たちは笑う、笑う、笑う。

 楽しげに、愉しげに、これ以上の愉悦など無いと言うように。


「最初は私だ。囚えたのは私なのだから、構わんだろう?」

「仕方がない、約束は約束だ」

「そうとも、我々は同士ゆえに」

「然り、然り、我々は賢人円卓。我々の中に上下はなく、同じ目的と利益、そして欲望によって繋がる賢人であるがゆえに」


 取り寄せた書物を誰が先に読むか相談する――そんな空気で談笑する賢人円卓の面々に仲間割れの気配はない。

 その理由は、彼ら自身が言ったように同じ目的と利益、欲望で繋がっているからだろう。

 互いに協力し合うことによって個人では成せないことを成すのは、善人も悪人も変わりはしない。

 それに、ノーラの顔立ちは整っている方ではあるが、しかし絶世の美女というワケではない。その程度の娘を組み伏せるチャンスなどいくらでもある。ならば、無理矢理奪うより仲間同士のルールに則った方が長期的に見れば得ということなのだろう。

 であるからこそ、彼らは同士ではあっても友人ではない。事実、階段で気絶している二人の賢人円卓は放置されたままだ。協力はするが、あくまで利益と欲望を優先しているらしい。

 ぎしり、とベッドが軋んだ。

 男が、ノーラに覆いかぶさるようにノーラの腕を抑え込む。


「さて、これから貴様の処女を散らすが――その前に言いたいことはあるか? 恨み言も泣き言も好きなだけ言うが良い、聞いてはやらんがな」


 下卑た笑みを浮かべながら、ベッドに備え付けられた拘束器具でノーラの腕を固定する。

 これで、もう抵抗は出来ない。


「あなたに言うことなんて、何もありません」


 震えそうになる声を必死に平坦にして、自分を見下ろす男を睨む。

 恐ろしさを我慢して、気丈なフリをしつつも震える小娘を演じて。

 そう、演技だ。

 怖いのは確かだが――問題ない。

 想定外のことは多々とあったが、それでも一つだけ、上手く行ったことがあるのだから。


(ここに逃げ込んだら、ここで捕まったら、絶対こうするだろうなって思ってました――あなたたち、ずっとそんな目でわたしを見てましたから)


 ノーラの変装が露呈していた以上、一人で目的を達成することは出来なくなった。

 一人で逃走するのであれば手段はあるだろうが、地下の娘たちを見捨てずにとなると不可能に等しい。

 彼らはなぜノーラがレゾン・デイトルに残ったのかを理解している。だからこそ庭で待ち伏せていたのだ。

 ゆえに、仮にノーラが包囲を突破し逃げ出しても、焦らず地下室に行って奴隷少女たちを抑えれば良い。少女たちを助けに戻ってきたら人質を使い服従させればいいし、見捨てて逃げたら逃げたで女奴隷候補が一人消えるのみ。彼らは何も困らない。

 

 ――だから、逃げ道の無い地下に行った。


 わざと逃げ場の無い地下に逃げ込んで、袋の鼠になって。

 必死に抵抗し、自分の目的が各個撃破だと思い込ませる。

 そうすれば、全員ここに集まる。なにせ、ここには拘束道具もあれば行為をするためのベッドも器具も常備されているのだから。

 

(だから――賢人円卓たちは、わたしに注目する)


 必死に抵抗して、けれどどうにもならなかった小娘を組み伏せる。

 その欲望に集中しているからこそ、今は囚われた少女たちに手を出していない。転移者の力を信奉し騎士を下に見ているから、外を警戒する可能性も低い。

 それに、包囲を脱出する際に賢人円卓たちに発煙筒を投げつけた。

 レゾン・デイトル潜入前にゲイリーから貰ったそれは、騎士が任務中に使うモノだという。そう簡単に煙は消えないだろうし、連合軍の誰かが気がつくはずだ。

 無論、外壁で戦っている囮側の皆がこの屋敷周辺まで来るのは不可能だろうが――奇襲側なら、十分可能性はある。

 それに、連翹を通じて地下室に幽閉された少女たちのことを知ったはずなのだから、救出の準備をしてからこちらに向かっているはずだ。ここで『少女たちを見捨てる』という選択肢を取らないことは、一緒に行動していた以上よく知っている。

 

 結果――地下で愉しんでいる賢人円卓たちは、奇襲組に地下室に踏み込まれるまで自身の危機に気づけ無い。

 

 彼らとて危機に気づけば牢の中に居る少女たちを人質にするだろうが――牢の鍵は閉じたままだ。

 無論、彼らは鍵くらい持っているだろうが、解錠するよりも連合軍の誰かが部屋になだれ込んでくる方が早いはず。

 そうすれば人質を取られる前に賢人円卓たちを拘束、もしくは討伐出来る。少女たちを無事に救うことも可能だ。

 それなりに思惑通りに動いたとは思う。

  

(……問題は、わたしが負けるのが、思ったより早かったこと)


 ノーラとてこんな男たちに組み伏せられたくはなかったし、これから行われる行為を想像すると吐気と寒気が襲ってくる。

 

(こんなことになるかも――とは、思っていた、けど)


 そうなるかもと覚悟はしていたが――しかし、決してそうはならないだろうと、それなりに時間を稼げるだろうと楽観してしまった。

 だって――理不尽を捕食する者デバッギング・ダーリングトニアによる女神の御手(コード・グロリアス)。それによって転移者の力を奪い、拳で打ち倒すことが出来たから。現地人よりもずっと強い、転移者を。


 ――その経験が、ノーラの判断を誤らせたのだ。


 力を奪ったとはいえ、転移者を殴り倒せたのだ。だから――現地人の、それもあんな不健康そうな相手なら、武器を持っていようが自分一人で十分時間を稼げると。

 考えて見れば馬鹿げた話だ、愚かしいにも程がある。

 転移者を殴り倒せていたのだって、力を失って困惑する相手を一方的に殴っていたに過ぎない。決して戦闘をしていたワケではないのだ。

 それはある種、規格外チートに酔った転移者と同じ思考ではないか。抵抗しない相手を一方的に攻撃し、調子に乗って、けれど反撃されたら簡単に心が折れる。そんな無様な姿。

 

「良い表情だ――では、頂くとしよう」


 ローブの裾を掴まれ、胸元まで一気に捲り上げられる。お尻を包む淡桃の下着が露出し、ふくよかな胸を包み込む同色のブラジャーが曝け出される。周囲から囃し立てるような歓声が上がった。

 かあっ、と頬が燃えるように熱くなり、視界が水に潜った時の視界のように歪んでいく。

 

「いっ――、……!」


 反射的に「いや」、「やめてください」、「お願い」といった言葉を吐きそうになり、歯を食いしばって耐える。

 せめて、目の前の、そして周囲に居る男たちに懇願するような惨めな真似だけはしたくなかっ。


(それに――ああ、ここでちゃんと我慢出来れば――時間稼ぎの仕事は、ちゃんと全うできるかな……?)


 そこまで考えて、ノーラは瞳を閉じた。

 自分なりに覚悟を決めたつもりだけれど、その瞬間を見続ける勇気は無かったから。

 下腹部を撫でる、嫌な感触がする。太もも、腰、尻、そこを味わうように手の平で撫で回され続ける。時間にすれば数分経っているか否か、しかしノーラにとって数十分に近い責め苦であった。

 

「さて――」


 手の平が体から離される、不快な感触が消えた。

 だが、それが喜ばしいことではないということくらい、ノーラにも分かっている。


 ――下着を掴む感触。ひっ、と喉が鳴った。

 

 ずる、ずる、と少しずつズラされていく感触に、ただただ無性に泣き叫びたくなる。

 閉じた瞳から、じわり、じわりと留めきれない涙が溢れ出していくのが分かって、それが惨めで悔しい。こんなの、相手を喜ばすだけなのに――そう思っても、ノーラにはどうしようもなかった。

 それでも、せめて悲鳴だけは漏らすまいと歯を強く、強く食いしばる。


「――ははっ」


 その様子を見下ろしている男が、愉しげに笑う。無駄な抵抗をするノーラの姿が面白いと、そういう姿こそ昂るのだと言うように。

 そうして、目を閉じているノーラに理解できるようなわざとらしい仕草で、男はぐっと力を込めた。

 このまま一気にズリ下げるぞ、と。

 お前の秘部が詳らかになるぞ、と。

 言葉ではなく行動でノーラに伝え、嬲るように恐怖を煽ってくる。

 そうやってノーラの反応を愉しんだらしい男は、一気に――

 


 ――――ドン、と重たい何かが衝突したような音が響いた。



 ――手の動きが、止まった。

 そして、ぽたり、ぽたり、と腹部に液体が滴るのを感じ取る。

 唾液か何かか? 一瞬そう思ったが――違う、それにしては、熱い。けれど、責め苦に使うような耐え難い熱さでもなかった。

 

「お、ご――ご、ぁ、が……?」


 言葉にならないうめき声が頭上から響き、どさり、と男の体がノーラの上に崩れ落ちる。

 ノーラの体を押しつぶす圧迫感。それが苦しくはあるが、同時に疑問でもあった。

 だって、こんな風に覆いかぶさっても何も出来ない。ノーラとて詳しいワケではないが、そういう性的な行為をするのなら、最低限下着くらい脱がさねばどうにもならないだろう。

 だが、男はノーラに覆いかぶさったまま、びくり、びくり、と痙攣するのみ。

 怪訝に思っていると、不意に錆びた鉄のような異臭が漂ってきた。

 その臭いは知っている。

 見習いとはいえ、怪我人を治癒する神官の一人だからこそ分かる。これは――血の臭いだ。

 

「……え?」


 だけど、なんでそれが臭ってくるのかが分からなくて、固く閉ざしていた瞳をゆっくりと開く。

 すると、ようやく自体を飲み込めた。

 

 ――男の頭部に、剣が突き刺さっていた。

 

 それは、分厚い刀身を持つ長剣だ。

 ニールが使うモノよりも頑強な見た目のそれは、きっと転移者の腕力で振るってもそう簡単に壊れたりはしないだろう。

 確か黄金云々という名前をつけられていたはずだけれど、しかしどう見ても黄金色ではない、頑強そうな剣である。

 ノーラはその剣の持ち主を知っている。誰よりも――と言ったらニールがふてくされてしまいそうだけれど、同着一位程度には彼女のことを知っていると思う。


「……剣をこんな風に使うのはニールに怒られそうだし、『なげる』のアビリティって忍者が使うべきモノだし黄金鉄塊の騎士的には圧倒的に無しだけど――」


 女の――否、少女の声が、聞き慣れた声が階段の方から響く。

 何かを投擲したような、右腕を振り切った体勢から、ゆっくりと姿勢を正す。ぴちゃり、と彼女の足元から水が滴る音が鳴った。


「それでも、仲間を助けるためなら例外扱いしてくれると思うの……ノーラ、遅くなってごめんね」


 水をたっぷり吸ったセーラー服に水滴が付いたブレストアーマーを装備した少女、片桐連翹は申し訳なさそうな顔でそう言った。 

 なぜだか全身びしょ濡れの彼女の視線の先にはノーラの体。何度か刃物で切り裂かれた痕と強引に破られた衣服を見れば、彼女がどのような行為をされそうだったのかは理解出来るはずだから。


「いいえ、想像していたより、ずっと早くて助かりました――思ったより簡単に負けちゃって、これはもう貞操は諦めるべきかな、って思ってたところなので」

「ニールがけっこう派手にやってくれてるみたいだからね。思ったより早く出発出来たの。その途中、船の上で煙を見て――規格外チートの身体能力に任せて泳いでここまで来たの」


 転移者のクロール凄いわね、船よりずっと速いわ――と。

 喋りながらノーラの元に近づいた連翹は頭部に剣が突き立ったまま痙攣する男を蹴り飛ばし、その勢いで剣を引き抜く。

 床に叩きつけられた男は、傷口を埋めていた刀身が抜けたため、後頭部から勢いよく血液が噴出する。頭の中身と一緒に、ごぼり、ごぼり、と。

 グロテスクな光景に、しかし連翹は誇ることも気色悪そうに顔を歪めることもない。

 ただただ、淡々と。

 可能な限り冷静であろうとするように、そしてノーラを安堵させるように微笑む。

 

「それと、そんな覚悟決めるのは良くないと思うの。経験した人を中古って呼ぶ趣味はないけど、初めてが大切だってのは事実なんだからね。カルナが悲しむわよ」


 友達二人が纏めて不幸になるとか勘弁なんだけど、と。

 冗談めかして――けれど、抑えきれない怒気を発しながら、連翹はぐるりと地下室を見渡した。

 賢人円卓も、牢の中の少女たちも、この急展開に頭がついていっていないのか呆然としている。

 その様子を確認し終えると、連翹はにこりと微笑んだ。

 口元と頬だけ、楽しげに。

 けれど瞳だけは――冴え冴えと輝く刃のように、鋭くして。


「……さて、それじゃあちょっと遅いけど謝っておくわ。ごめんね」

「な、なにを――」

「貴方たちじゃないわよ、女の子たちよ」


 そう言って、ぐっ、と。

 連翹は拳を握りしめて――


「けっこう血生臭くなるわ。苦手な娘は視線を逸して鼻塞いでね」


 ――返事を待たず疾走。拳を振るい、賢人円卓の貴族の頭を殴る。

 パァン! と。

 連翹の拳が賢人円卓の一人、その頭部に直撃し――頭蓋ごと頭部を割り砕ける。

 びちゃり、ぐちゃり、と多量の赤色に混じった骨片とぶよぶよとしたかつての思考回路が床に撒き散らされた。


「ひ――ひぃいいいいいいい!?」


 悲鳴が、上がる。

 少数の少女と、大多数の男のモノだ。

 

「ま、待て、待てぇ! 雑音ノイズの小僧に口添えしてやる! 幹部よりも高待遇な暮らしをさせてや――」


 的はずれな説得をしている男の頭部が爆ぜた。

 

「糞、早く鍵を、鍵を――開いた! ほら、早く来い! とっとと人質に――」

「させると思った?」


 牢の娘たちを人質にしようとした男の首がへし折れる。

 

「小娘が、し、死ねえええ!」


 首がへし折れた男の亡骸を放り捨てた瞬間、怒り狂った男の刃が連翹の顔面に叩き付けられ――けれど、刃は薄皮一枚切り裂くことは出来ず静止した。

 当然の理屈だ。現地人の児戯如きでは、たとえ急所に叩きつけようとダメージを与えることなど出来るはずもない。

 連翹は自身の顔面に押し付けられた刃を、淡々と掴み――


「それはこっちのセリフよ、おっさん」


 ――掌で握り潰し、破片を眼前の男の頭部に投擲する。

 細かな鉄の破片が顔面に食い込み、肉を食い破り、頭蓋を粉砕し、脳を破壊し尽くし――貫通して天井に突き刺さっていく。


「い――嫌だぁあああ! どうして、どうして我々がこんな目に――!」

「どの口で言ってんのよ、それ」


 半狂乱になって階段へ駆けていく男の背中に向けて、連翹は頭部の失せた音の死体を投擲する。

 高速で飛来する肥満体の男の体――その直撃を受け、骨が砕ける音と共に階段に叩きつけられる。ぐしゃり、と死体と階段に挟まれ、ミンチ肉となって絶命する。

 その様子を見届けた後、連翹は床に散らばる死体――その一つを射殺すように睨む。


「死んだふりするなら、もっと上手く演じなさい、ばーか」


 死体に混ざって震えていた男の頭部に、踵が叩きつけられる。高所からスイカでも落としたかのように、血液と脳片がぶちまけられる。

 ――その様子を見て、壁際で震える男の姿があった。

 腰を抜かし、股間から糞尿を漏らしている彼は、顔から涙と鼻水を垂れ流しながら媚びた笑みを浮かべていた。


「ごべ――ごべん、なさい。まけ、まけです、然り、然り――我々の、まけ。みとめる、みとめます、みとめますから、殺さないで。死にたくない、死にたくない……!」

「……うん、確かにあたし、命乞いって苦手よ。それは今でも変わってないわ。最初の一回くらいは、裏切ると思ってても見逃してやろうと思うくらいにね」

「それじゃばぇ――」


 希望が花開いた男の顔面に、つま先が突き刺さった。壁に赤い花が咲く。


「だけど――苦手だったとしても、友達を犯そうとした奴を見逃せるワケないでしょうが」


 吐き捨てるように言うと、連翹は申し訳なさそうな顔でノーラに歩み寄った。

 

「さて、と――ごめん、先にこっちを外すべきだったわ。ちょっと冷静じゃなかった」


 引きちぎるように拘束器具を破壊する彼女に、ノーラは静かに首を左右に振った。


「いいえ――ありがとう、レンちゃん。助かりました」

「間に合った、なんて誇り辛いタイミングだけどね。うん……ローブは少し破れてるけど、着れないことはないかしら。お腹部分が切り裂かれて珍妙なへそ出しルック状態だけど、下着は露出してないし――っていうかあれ、お腹! ノーラのお腹、すっごい傷があるんだけど!? ねえ、大丈夫なの? ノーラ、動ける?」

「だ、大丈夫ですよ。ええ、なんとか……もう一度治癒の奇跡を使えば、なんとか――」


 腹部の傷を見て慌てる連翹をなだめていると、不意にかしゃんという音が階段の方から響いた。

 それは金属音と重なった足音。甲冑を身に纏った者が階段を降りる音である。

 ひっ、と。怯える声が牢から聞こえてきた。

 賢人円卓たちを全滅させた――無論、クレイスは除外している――が、それでも彼女たちは安堵出来ない。自分たちは助かるのだと希望を抱けない。

 それを成したのが連翹だから――転移者だから。転移者に虐げられた彼女たちにとって、連翹の行いがただの気まぐれか否かを判断する材料がないのだ。

 それに、先程ノーラが撃退され、拘束された様子を見ていたから、希望を抱き難いのだろうと思う。下手な希望を抱いても、先程のように砕かれるだけだから。

 ゆえに、この足音もきっとそれなのだと、少女たちは恐怖と諦めに澱んだ眼で階段へ視線を向け―― 



「――――片桐、無事か」



 ――この場所に似つかわしくない、白銀の鎧を纏った青年を見た。

 艶やかな金髪と碧眼が印象的な美青年だ。背丈は高く、分厚い鎧を纏っているというのに布の衣服でも纏っているかのように自然体だ。

 腰には剣が一振り。鎧と同じく白銀色のそれのつばには、剣を掲げた少女――勇者リディア・アルストロメリアの絵が刻まれている。

 その剣はアルストロメリア女王国を守る騎士の証であり、秩序を守る者であるという証明であり――

 

「あ――きし、さま」

 

 ――牢に囚われた少女が心から望み、しかし諦めていた救い主の姿であった。

 それは勇者リディア・アルストロメリアの意思を継ぐ戦士たち。

 秩序を守り、国を守り、民を守り、正義を行う者の姿だ。

 即ち、アルストロメリア女王国最強の戦闘集団――アルストロメリアの騎士である。

 

「まさか、本当に――来る、なんて」


 呆然と、どこか現地味を感じていない声が響く。

 それはある意味では仕方がないことなのかもしれない。

 自分たちを虐げていた者たちが突如として全滅し、恐らく捕まった時からずっと待ち焦がれていた存在が現れたのだ。

 まだ自分は眠っていて、都合の良い夢を見ているだけだと――そんな風に考えても仕方がないだろう。


「私はアレックス・イキシア。アルストロメリアの騎士であり、レゾン・デイトルの転移者たちを倒すために組織された連合軍の一員であり――そして、君たちを助けに来た者だ」


 そう言って、アレックスは柔らかく微笑む。

 瞬間、わぁ――と喜びの声が上がった。

 疑う者など、もう誰も居ない。

 自分たちは助かるのだと満面の笑みを浮かべる少女、同じ牢の友人と手と手を取り合い笑い合う少女たち、感極まって泣き出す娘。多くの少女が、体全体で喜びを表現している。

 賢人円卓たちに媚びていた娘たちは少しばかり居心地が悪そうにしていたし、肺炎を患ったエルフの少女は起き上がる体力が無いようだったが――それでも安堵の息を吐いていた。

 

「……ねえノーラ、この説得力ズルくない? あたしけっこう頑張ったけど、イケメンで信頼される職業ってもう完璧コンボ決まり過ぎててあたしじゃ勝負にならないんだけど。もうアレックス凄いって小学生並の感想(小並感)しか抱けないわ」


 その様子を見てふてくされた物言いをしながら――しかし、彼女は安堵したように微笑んでいた。


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