17/転移者
(同じ馬車でも値段が違うとこんなにも乗り心地が違うんだな)
とニールは座席に座りながら思った。
中は広く腕を大きく伸ばして伸びができるくらいだ。床も磨きぬかれシミ一つ見えず、体重を預ける座席はふわりとやわらかく体を包む。振動はほとんどなく、時々車輪が石を踏むのか僅かに揺れるものの、その衝撃もふわふわの座席が殺してくれる。
だが、高い。
途中まで乗っていた安い乗合馬車の値段に宿の代金を合わせても、今乗っている馬車の代金の方が上だろう。とてもではないが、自分の意思でこんな馬車に乗る気にはなれない。
「どうかしら、行きに乗ったっていうボロ馬車に比べて雲泥でしょ?」
そう言うのはフードの女だ。対面に座るノーラに対し、露出した口元を微笑みの形に緩めている。
「いえ、その、まあそうですけど……いいんですか、四人分も」
「いいのよ、気を使って貰ったお礼。それに、馬車の旅なんて慣れたら退屈なだけだしね、話し相手も欲しかったの」
――気に入ったわ、あたしと一緒に女王都に行くわよ。
今朝、ホットミルクを飲み終えたフードの女がノーラに対して言った言葉であり、現在の状況の発端である。
当初はノーラだけを連れて行くつもりだったらしい彼女だが、しかしノーラがニールたちに世話になったこと、なのにいきなり他の人に着いて行くのはちょっと……と渋っていたら三人まとめて女王都行きの高級馬車の中である。
現在、この馬車にいるのはニールたち四人と御者、そして名家に仕える執事のように車内に控える男しかいない。控えている男に頼めば軽食やら飲み物やらを頼めるらしいが、そこまでやると贅沢に慣れてしまいそうなのでニールは自重している。
(……しかしまあ、転移者が突拍子もないのはいつもことだが)
ノーラの何がそんなに気に入ったのやら、と内心で首を傾げる。
「でも、僕らが泊まるような宿に泊まっていたのに、どこにこんなお金があったんだい? えーと……君は」
カルナは問いかけつつなんと呼ぼうかと考えたようだが、結局無難なところを着地点にしたようだ。
そうだ、ニールたちは彼女に名を聞いていない。無論、フードに隠れた素顔もである。
根掘り葉掘り聞くような間柄でないというのもあるが、なぜ隠すのかある程度推測できるからというのが大きい。
(西の事件は『転移者の集団』が起こしたモノだ)
人間は考える生き物であるが、同時に酷く短慮な生き物でもある。
彼女がその集団に属しているかどうかを確かめず、転移者=あの集団と結論付ける者も多いだろう。
ゆえに、顔と名を隠すのは必然――
「片桐連翹――こっちの世界ではレンって呼んでもらってるわ」
「ってあれぇ――ッ!?」
――だと思っていたのに、あっさりと喋りやがったこの女。
「それと、ああいう安宿の方が冒険者っぽくて楽し――なによアンタ、いきなり奇声あげて」
「なんでサラッと名乗ってんだお前!? いや、偽名だとしてもその名前完璧転移者系じゃねぇか!」
ニールの言葉に「何を言ってるんだろうコイツ」とばかりにぽかんと口を空けたフードの女は、しばしの間を置いてようやく「ああ、そういうこと」と納得した。
「別に危ないから隠してるわけじゃないのよ。というか、こっちの世界の住民が数十人くらい一斉に襲ってきても、あたしなら無双できるんだから」
「あー……それじゃあ、君、レンさんはどうしてそんな格好を?」
カルナの疑問にニールとノーラが頷く。
フードの女――連翹は「なぜこんな簡単なことも理解できないのか」と言うように小さく笑うと、
「だって、謎の女剣士っぽくてカッコいいじゃない」
と自慢気に言った。
沈黙の帳が降りる。
「……えっと、レン――ちゃん? その、それだけ、ですか?」
沈黙を破ったのはノーラだった。
恐る恐る、と言うように問いかける彼女の表情から「それだけのはずはない、きっと自分には理解できない深い理由が隠されているはず」という思考が見て取れる。
カルナが掌をひらひらと振った。たぶんそれは考え過ぎだと思うよ、という言葉を込めて。
「……しまったわ。なんかこう、バトルの最中になんやかんやの流れで名前を聞かれて、『アナタ如きに名乗る名は無いの』的なことを言ってやるあたしの計画が……ッ!」
「馬鹿じゃねえのお前、てか馬鹿だろお前」
計画の意味不明さも、ところどころ過程が曖昧でふわっとしている所とかも。
「なんですって――」
ニールの言葉に連翹が怒りを露わにした、その時だ。
「糞! なんてこった、今日は命日、よくて厄日だ!」
と恐怖心の混じった怒声を発する御者の声によって、彼女の言葉は遮られた。
なんだ、と思い身を乗り出すと、御者の視線の先を確認する。
――そこにあるのは土煙。それが巨大な面としてこちらに近づいてくるのだ。
何かの大群が地面を駆け、空中に砂をばら撒いているのはなんとなく理解はできる。たが、量と範囲が段違いなのだ。
人間ではない、馬車でもない、動物でもない、あれは魔物だ。魔物の群れだ。
先頭を掛けるのは鳥。緑がかった羽毛で構成された翼は退化しており、しかし脚とクチバシが発達したそれは、前へ前へと進み続ける。
「――ロード・ランナー……!」
カルナが厄介なことになった、と悪態を吐くように魔物の名を吐き捨てた。
それは巣を作らず群れを作り大陸を走り続ける魔物だ。人工ダンジョンなど歯牙にもかけず、朝昼晩と脚を止めたら死ぬと言うように走り続ける。
その戦闘能力だが、実のところ大したことはない。攻撃手段が脚とクチバシしかないのだ。素早いが動きは直線的であり、発達した脚によって蹴り飛ばされると金属鎧すら砕けるが、正面にしか攻撃ができない。クチバシも同様だ。
ゆえに一体どころか五、六体に同時に襲われようと問題のない雑魚である。よく動きを見れば、一般市民であろうと逃走が可能なくらいに。
――せいぜい十体前後程度であれば、の話だが。
御者が悪態を吐きながら馬を右に向ける。近くで控えていたらしい護衛が馬車を守るべく、剣や魔導書を取り出しロード・ランナーを睨む。
直線的な行動しか取れないロード・ランナーの対処法は、回りこんで側面から攻撃することである。
だが、何十匹――もしかしたら百に届くかもしれない――群れの直進は、既に直線ではなく面による攻撃だ。回りこむ間もなく圧殺されてしまう。
ゆえに、馬車の護衛中にロード・ランナーと出会った時の対処法は一つ。馬車を可能な限り早く群れの正面から離脱させつつ、自分たちはその時間を稼ぐことである。
「行くぞ、カルナ!」
「分かってる!」
ニールが叫び馬車から飛び出した。その背中にカルナが続く。
客として乗り込んだものの、傍観していて踏み潰されました、では笑い話にもならない。
剣を抜き放ち、ロード・ランナーの群れと対面する。先程より距離が近くなったため、緑がかった羽毛がよく見える。膨大な数がこちらに押し寄せてくるため、森の木々が走って自分たちを踏みつぶそうとしているようにすら見えた。
(とりあえず馬車と並走しつつ、カルナや護衛の冒険者の魔法で数を減らす。その後、撃ち漏らした連中を俺ら戦士が斬り殺して馬車を守る)
単純だ。
だが、単純ゆえに誤魔化しが利かない。
魔法使いの力量が低ければ馬車に向かう数が増え、抑えきれなくなる。
戦士の力量が低ければ少数であろうと馬車を守りきれない。
ニールの額に汗が滲む。カルナの実力は一欠片も疑っていないが、先程まで顔すら見ていなかった護衛冒険者の力量はどうなのだろうか。
高級馬車の護衛に就くくらいだ、弱いわけがない。だが、そういった理屈と土壇場に産まれる感情は全く別のモノ。とても感情的で、とても非論理的なのだ。
「――おもしろいじゃないっ!」
そんなニールを含めた冒険者たち全員が考えるであろう不安、それを全く抱いていないらしい女の声が響く。
馬車から跳躍し、ニールたちを跳び越えたのは連翹だ。彼女はこの状況をむしろ歓迎するように笑いながら、フードの中に隠していたらしい長剣を抜き、歌劇の中の登場人物がするような見栄えしかしない構えを取った。
「大量の敵! 焦る現地の人々! それを颯爽と屠るあたし! いいわね、最高よ、そうでなくちゃいけないのよそうでなくちゃあ!」
最高のステージを用意してくれてありがとう、と言うように笑う彼女は、矢の速度でロード・ランナーに突貫した。
「ばっ……おい馬鹿戻れ! 巻き込むだろうが!」
詠唱中だった護衛の魔法使いが罵るが、そんなもの瑣末だとばかりに無視した彼女は高らかに叫ぶ。
「うるさいわね、アンタこそ巻き込まれないようにしてなさい! 『バーニング・ロータス』!」
瞬間、彼女の動きが変わった。
指が動き剣の柄を正しく握り直され、体の動きが素人のそれから一流の剣士のモノとなる。剣には詠唱すらしていないというのに精霊が集い、刀身が灼熱を纏う。
そして彼女は体を大きく回した。
演舞のようであり、歌劇のようであり、しかし無駄のない実践的な動きで刃は閃きロード・ランナーを焼き切る。
「まだよ、まだ終わらない!」
歓喜の笑みを浮かべる彼女の舞は終わらない。
彼女の剣から、轟々と燃える炎が剣圧と共に辺りに放たれる。周囲を蹂躙する灼熱の斬撃は、ロード・ランナーたちを引き裂き、燃やし、焼き切る。
「……なんつー、デタラメだ」
遠目からその姿を見て、ニールは呆けたように呟いた。
炎の軌跡が連なり、そして繋がり、赤い蓮の花のような姿を見せる。しかし、違う、とニールは思った。花なんて可愛いモノじゃない、あれは檻だ。炎の檻で敵を閉じ込め、剣と炎で蹂躙する技だ、と。
事実、ロード・ランナーはあそこから一体も脱出できていない。逃げ出そうとしたモノは紅蓮の格子に阻まれ焼かれ、連翹を危険だと理解し反撃に出たモノは剣で切り裂かれている。
「さあ来なさい、もっともっとあたしに挑んで来なさいよ! そうじゃないとつまらないじゃない! 雑魚モンスターは雑魚らしくあたしを楽しませつつ、あたしの名声の糧となりなさい!」
その中心で、連翹は笑う。
楽しい楽しい楽しい――ああ楽しい! と。
圧倒的力で蹂躙する快感に笑い、己はこんなにも素晴らしいと賛歌を歌う。
「――なんだ、アレ」
護衛の剣士が青い顔でニールに問うた。
剣は地面を落とし、体は小さく震えている。
別に、彼が臆病なワケではない。むしろ彼は勇敢だろう。ニールの記憶が正しければ、ロード・ランナーが現れた時、真っ先に剣を抜いて馬車を守ろうとしたのはこの男だ。
「転移者だ。アンタ、見るのは初めてか?」
「……ああ。話には聞いてたんだけどな。けど、ああいった噂話は話半分に聞くもんだろ? 尾ひれなんてのは人を介せば介すほど増えるモンだしよ」
「転移者に限っちゃ逆だぜ、それ」
怖い、怖い、怖い、恐ろしい。
そういった感情を抑えるために、自分が見た惨状を見間違いであったと思いたいがために、尾ひれ背びれどころか肉や骨すら削いで噂に流すのだ。
だってそうだろう? あんな連中が普通にこの世界に存在すると理解してしまうと――自分はなんのために努力し、腕を磨いてきたのか分からなくなる。
これが、ただ才能のある誰かならいい。彼らだって才能を腐らさぬように努力を重ね、そこに至った。妬みもするし、羨みもするが、仕方のないことだと割り切れる。
だが、突然別世界の素人が神様に力を与えられ、好き勝手に暴れる。
その事実に、羨みや妬みなどといった感情をすっ飛ばして恐怖を抱く。
努力をしなくては自分が才能があるかどうかを理解できないが、仮に才能があったとしてもアレには勝てないかもしれない。
そう思ってしまうのが、何よりも、怖い。
「……その通りだな、ああ糞、なんだよアレ。西の街はあんなのの集団に制圧されたってのかよ、ふざけんなよ、一人でも勝てそうにないのに集団だぞ。それに挑むなんて、もう直接的に自殺じゃないか」
「お前もあの依頼を受けるつもりだったのか?」
「ああ、ああ、そうだよ。この瞬間までは、そのつもりだったよ。でも、無理だ。負けるのはいい、俺より強い人間に殺されるのも怖くない。でも、あんなよく分からない何かに潰されるのは、嫌だ。怖いよ、怖いんだ」
彼の心は折れ、屈していた。
勝てない、勝てない、勝てない――あれを見た後に挑めっていうのか、勘弁してくれよ助けてくれ、と。
その気持ちは理解できる。
理解できるからこそ、ニールは悔しかった。
諦めるな、と言いたいのに説得力のある言葉を紡げないニール・グラジオラスという男が情けなくて、奥歯を噛みしめる。
(――待ってろ)
だから、青い顔でうつむく男の横顔を見て、決意を新たにするのだ。
(絶対にこの依頼を成功させて、俺らでも対抗できるってことを証明してやるからよ)
気づけば、炎の蓮は消滅し、ロード・ランナーも消え失せていた。
ロード・ランナーの群れに襲われたという事実は炎と共に焼け消えて、大地に刻まれた蹂躙の跡と血に濡れた連翹のフードだけがあの敵が現実だったと示していた。
「皆が慌てるからどんなに凄いモンスターかと思ったけど、がっかりね。これならあたしが出るまでもなかったんじゃないの?」
畏怖の視線を向けられていることに気づいていないのか、はたまた興味がないのか、普段通りの軽い口調で連翹がぼやく。
戦闘後の疲労など全くない様子で馬車まで戻ると、口元を不快そうに歪め己のフードを掴む。
「ああもう、数だけ多いから返り血だけで酷い臭い……!」
吐き捨てるように言って、彼女はフードを剥ぎとった。
「――――」
瞬間、ニールの呼吸が停止した。
――小柄な少女だ。
この辺りでは珍しい濡れ羽のように水気を含んだ黒い髪が、風に撫でられさらさらと揺れている。黄色の花を模った髪飾りが、よく似合っている。
――肌の色は白く、体つきも細い。
これが剣士の身体などという妄言は、実際に彼女の動きを目にしなければ信じられなかったろう。
――その身体を覆うのは紺色の水夫服とスカートを掛けあわせた奇妙な衣類だ。
かつてみた時と違い、要所を金属で補強したそれだが、しかし少女の衣服らしい可愛らしさはそのままである。
「――おま、え」
知っている。
知っている、知っている。ニールはこの姿を知っている。
二年前に比べ、僅かに背が伸び胸も微かに膨らんでいる。それでも平たいのだが、今はそんなことはどうでもいい。
己の愚かさに苛立つ。あの声を覚えていたのに。忘れた日はないというのに、なぜ、自分は気づかなかったのか。
――片桐連翹。彼女が、二年前のあの日にニール・グラジオラスに敗北を与え、胸に炎を灯した転移者であると。
「……なによ、そんな真顔でこっち見て」
だが、その驚愕の理由に気づかない。
彼女は気づいていない。覚えていない。
ニール・グラジオラスという男を負かしたという事実。それを全く記憶していない。
今朝、酒場で少し知り合った現地の冒険者として、ニールを見ているのだ。
その事実に愕然としつつ、しかし当然だと納得した。
自分だって倒したモンスターの名など一々記憶していない。二年も前の出来事となれば尚更だ。よっぽど鮮明な記憶でもない限り、日々の生活の記憶に埋もれてしまう。
――つまり、あの時のことは彼女にとって、ニール・グラジオラスは記憶に埋もれる程度の存在だった。
「――――なんでもない、とっとと馬車に戻ってろ。ノーラも不安だったろうし、話して安心させてやれよ」
「……そう? それじゃあお言葉に甘えるわね」
絞り出したニールの声に不審そうに瞳を細めた連翹だったが、しかしすぐに背を向けて馬車に乗り込んでいった。
なんでもない、という言葉を信用したワケではなく、ニールの悩みなど自分には関係ないと思ったがゆえの行動だろう。
積極的に嫌っているワケではない。ただの無関心。その事実に、胸が痛む。
「――二年前に会ったっていう転移者、それがレンさんなんだね」
連翹が馬車に乗り込むのを確認して、カルナがニールに問うた。
カルナに二年前に戦った転移者の容姿を語ったことはない。が、彼女の顔を見て狼狽するニールの姿を見れば、よっぽどの愚図でもなければ察しがつく。
小さく頷き、拳を強く、強く、強く強く強く握る。
「ああクッソ――分かる、分かってるっての、俺だってあの時の対戦相手の名前を全員記憶してるワケじゃねぇからな」
けど悔しい、悔しいのだ。
自分があれだけ思っている相手に、簡単に忘れられている現実が腹立たしい。
今すぐに首根っこを引っ掴んで、自分たちがどう出会ったのかを説明する――などという女々しい行動をしたくなってしまう。そんな弱い自分に尚更腹が立つ。
「それで、ニールはどうするんだい?」
「どうする、だって?」
そんなニールを真っ直ぐ見つめ、カルナは問いかける。
その瞳を見返し、ニールは獣のように笑った。
「……もっと、もっともっと強くなって、活躍して、ニール・グラジオラスって男を連翹の奴に刻み込んでやる」
己という存在を無視できなくなる程に大きくし、埋もれた過去の記憶を引きずり出してやるのだ。
幸い、名を上げる機会はある。そこで活躍し、思い出させた後に一対一で戦いたい。
別に相手が忘れていようと関係ない、とっとと剣を抜いて挑めよ――という思考も、あるにはある。
だが、なぜだかそれを許せない。
かつて負かした相手と理解させた上で勝利したいと思うのだ。
――しかし、可能か? それは可能なのか? さっきの戦いを見ただろう? 本当に、お前如きがそれを成せるのか。
心の奥底から弱気が叫ぶ。止めとけ止めとけ、無理だ無謀だ時間の無駄だ――と。
「知った事か、俺がやりてぇからやるんだ。賢しい口調でぐだぐだ言うんじゃねえ、耳障りだ!」
それら全てを打ち払うように、ニールが獣の如く叫ぶ。
その姿を見つめるカルナは、ふふ、と小さく微笑んだ。
「うん、大丈夫そうだね。落ち込むようなら叱咤してやろうと思ってたのに」
「うっせうっせ、俺の心は長剣みたく真っ直ぐなんだよ、慰めなんていらねえよ」
「……うん。そういう君だから、僕は信じられたし、共に歩み続けたいと思ったんだ」
「臭いこと言ってんなよ――ま、その気持ちはこっちも同じだ」
にい、と笑い互いに拳を突き出す。
拳と拳が重なる。
「どちらかが道半ばで諦めるその時まで――」
「――僕と君は互いに支え合い、進み、夢を追い求める」
それは一年ほど前に行った誓い。
無理無謀に抗う者同士の友情の証だ。
「頼むぜ、相棒」
「任せなよ、相棒」
どれだけ困難であろうと、その道を肯定し一緒に歩む者が居る限り――前に進めると信じている。




