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グラジオラスは曲がらない  作者: Grow
王冠は謳い、巨兵は狂い、雑音は響き渡る
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179/響/雑音/く/雑音/雑音/雑音/と/雑音/胸に/雑音/抱/雑音/く/雑音/誓/雑音/い

 ほう、と吐息を吐き、その後ゆっくりと息を吸い込む。

 緊張から開放されたのもそうだが、何より彼が去ったためにハピメアとやらの甘ったるい臭いが消えたことも大きい。


(……ベストじゃないけどベター、ってことでいいのかしら?)


 深呼吸しながら頭の中を整理する。

 ベストは雑音ノイズを仕留めることだったのだろうが、ノエルたちを死なせずに済んだ。

 それに、情報だって得ることが出来た。転移者の規格外チートのタイムリミットと――自分がやってしまったことを。

 拳を強く握り締める。

 どれだけ悔やんでも取り返しのつかないことだ、どう足掻いても覆しようのない現実だ。

 けれど、だからこそ向き合わなければならないことなのだろう。自分がやったことだ、自分で責任を取らなければならないのは当然の理屈だ。

 雑音ノイズが去って行った方角を見つめながら決意を新たにしていると、反対側から複数の足音が響いてきた。

 

「――居た! 連翹さん! 今どうなってるの!?」


 戦闘を走るのは赤髪のポニーテイルの女騎士、キャロルだ。十名程の兵士と数人の従軍神官と共に現れた彼女は、倒れ伏すノエルたちを見て簡潔に問いかけてくる。


「……ごめん、してやられたわ! ハピメアとかいう粉を撒き散らされて、ノエルたちが初手で倒れたの! あの糞男も逃した!」

「ハピメアって――エルフ相手に!?」


 その言葉を聞いた瞬間、キャロルたちは迅速に動き出した。

 心地よさそうな笑みを浮かべながら昏倒するエルフたちの額に掌を押し当て――ほう、と安堵の息を一つ。


「発熱はないから、脳を苗床にはされてないみたいね。……いくら敵対してるからって、使っていいものと悪いものがあるでしょうに……!」

「苗床、って……なんか凄い怖い単語が出てきたんだけど」

「本来、気持ち良い夢を見にやって来た動物を苗床にして増えるキノコの胞子だからね。もちろん、麻酔用に出回ってるのは品種改良されてるから、脳を寄生されることはないのだけれど」


 うえ、と思わず呻く。

 状態異常に耐性があるとはいえ、そんなモノを沢山吸い込んじゃったぞ、と。

 

「それでも、純度を上げれば麻薬そのものになるから――普通は相手に使ったりしないわ。昔から、ずっとね」


 キャロルの言葉から察するに、地球における生物兵器の位置づけなのだろうか。

 昔から使用を禁止されていたであろうそれを使ってくるなど、多くの者は気づけなかったのだ。もしかしたらと考える者くらいは居たかもしれないが、「まさか」とその考えを否定してしまったのだろう。

 実際、転移者はそんなモノに頼るよりも自分でスキルを使った方が手軽で強いし、何よりコストがかからない。だから、現地のルールを守る気のない転移者もそれに手を付けなかったのだろう。

 だが、雑音語り(ノイズ・メイカー)は躊躇なく使った。

 自分が転移者の中でそこまで秀でていると信じていなかったから、使えるモノはなんでも使うとハピメアを集めていたのだろう。

 

(……本当に、厄介)


 力を振りかざすだけの奴より、ずっとずっと戦い辛い。

 その上、その当人だって別に圧倒的に弱いワケではないのだ。転移者として平均よりやや上――その程度の実力は確保している。 

 それがいやらしい。仮に全ての思惑を潰したとして、残るのは疲弊した自分たちと無傷の雑音ノイズだ。相手が戦闘を選ぶにしろ、逃走を選ぶにしろ、心身共に疲弊した状況でそれを対処しなくてはならない。

 小さくため息を吐く頃には、エルフたちの診察も終わったようだ。兵士たちが未だ意識の戻らぬエルフを抱えていく。 


「連翹さん、ミリアムさんをお願いできる?」

「もちろん構わないわ。……けど、あたしがそっちを背負った方が良くない?」


 ノエルを背負うキャロルは、連翹の言葉に小さく首を横に振る。


「この程度で音を上げてたら騎士になんてなれてないわ」


 そう言って歩き始めた彼女の脚は、言葉通り揺らぎもしていない。ノエルは細身ではあるけれど、筋肉もついてるし背丈も大きいのに。

 細身ではあるが、やはり鍛えてるんだなと感心する。連翹など、規格外チートが無ければミリアムすらまともに背負うことが出来ないだろう。


「ちょっとごめんね――よいしょ、っと」


 感心しながらミリアムを背負う。脚を貫いた自傷の痕が癒され、白い素肌に戻っていることにホッとする。痕が残らなくてよかった、と。

 

「よし、それじゃあ戻るわよ! もう辺りに敵は居ないようだけど、最低限の警戒は怠らないようにね!」


     ◇

      

 幸い、転移者からの奇襲も、モンスターの襲撃もなく廃村の辺りまで戻ることが出来た。

 既に火は消し止められており、村の周りには即席の天幕が複数設営されており、そこで負傷者の治療を行っているようだ。

 そして喜ばしいことに――連合軍の皆の弛緩した空気を見る限り、一般人の死傷者も存在しないようだった。

 唯一の例外は数名の年若い娘たちで、廃村から離れた位置に存在する王冠に謳う鎮魂歌(クラウン・レクエイム)の亡骸の前で滂沱の涙を流している。


「ああ、嘘です――王冠クラウンさま、いつものように愛を囁いてください、王冠クラウンさまぁ……!」

王冠クラウンさま、確かに貴方はわたしの故郷を焼いた非道なお人でした。ああ、けれど――けれど、心より愛したお人でした。道半ばで倒れた無念はありましょうが、どうか――どうか、安らかに」

「貴方は絶対に焼かせません。騎士たちがそうしようとするなら、全力で抗ってみせます。貴方の言う通り、わたしはただの女ですけれど――」


 感情のままに泣き崩れる村娘、

 涙を流しながらも祈りを捧げるエルフ、

 二人と同様に滂沱の涙を流しつつも、騎士たちが王冠クラウンの遺体を乱雑に扱わぬよう目を光らせる者。

 その在り方は様々であったが、王冠クラウンの死を悼んでいるということ共通している。

 

(正直良い印象は無かったけど――やっぱり人間、死ぬ時は悲しむ人が居るのね)


 連翹にとって傲慢で女を装飾品とか言ういけ好かないイケメンだったけれど、なにかの拍子に仲良くなっていたら違う印象を抱いていたのだろうか?

 それとも、女の価値を容姿でしか認めていなかったから、苦言を呈さず優しくしていて――だから頭の軽い女がありのままの自分を認めてくれる男性と勘違いした結果か。

 もっとも、どちらにせよ真実を知る日は訪れない。死者は語らず、胸に抱いた想いと共に消え去るのみだ。

 彼と戦った者の一人として居心地の悪さを感じていると、背負ったミリアムの体が揺れた。

  

「んぁ……ああレン、君か」


 どこかまだ酩酊したような、ふわふわとした声音。

 それを聞きながら、連翹は振り向いてにこりと微笑んだ。

 

「ええ、あたしよあたし。大丈夫? ……じゃ、ないわよね。すぐに横にしてあげるから待ってて」

「ああ、うん、ありがとう。……そっか……夢か……」


 いつも通りを装って礼の言葉を述べた後――惜しむように、悲しむように呟いたミリアムは、ぎゅうと連翹の背を抱きしめた。

 連翹は後半の言葉を効かなかったフリをして、キャロルたちと共に負傷者用の天幕へと急ぐ。

 

(あんまり掘り返さない方がいいもんね、こういうのは)


 他の者達も薬が切れ始めたのか、目覚めて自分を背負う者たちと会話している姿が見える。

 その事実に、心底安堵する。キャロルから聞いたハピメアとやらの効果と、雑音ノイズが言っていた純度を上げたという言葉。それらから、もっと長続きする嫌らしい仕掛けがあるのかと思ったが、思いの外早く効果が消えているようで何よりである。

 ミリアムを簡易寝台に横たえ、安堵させるように微笑む。


「よし――それじゃあ、あたしは行くわね。

「うん、そうするよ――参ったなぁ、あんな昔のこと、とっくに忘れてたつもりだったのに」


 ほんの少しだけ自嘲するように笑ったミリアムは、すぐにいつもの顔に戻ってこちらに手を振った。

 若干無理している感はあったけれど――そこはある程度仕方がないのかもしれない。

 幸福な夢を見た後の現実は酷くくすんで見えるのだろう。現実に幸せが存在しないワケでは断じてないが――やはり、夢には敵わない。

 その気持ちは、連翹にも分かる。現実が嫌いで、自分が嫌で、だからこそ自分なんかよりもずっと強い最強の主人公に憧れて、自己投影して――結果、この世界に来て、ニールと出会った。出会ってしまったのだから。

 

「おっ。よう連翹、お疲れさん――どうやら取り逃がしたみてぇだな」

 

 負傷者用の天幕から出て一息吐いていると、聞き慣れた声が耳に届いた。

 視線を向ければ、こちらに駆けてくるニールの姿が見える。もう体の方はいいんだ、と小さく安堵の息を吐く。

 彼の少し後方にノーラとカルナも居た。ノーラは大きく手を振って、カルナは小さく微笑みを向けてくれている。

 

(ああ、本当に――あの時、雑音ノイズなんかの言葉に唆されなくて良かった)


 大好きな仲間。

 大切な友達。

 少し恥ずかしいから言葉には出来ないけれど、しかし心の中でならいくらでも言える。

 きっと三人が居たから、今の片桐連翹があるのだろうと。

 誰かが欠けていたら、ブバルディアを襲った無法の転移者のようになるか、レゾン・デイトルの一員になっているか、あの時の雑音ノイズの誘いに乗っているかしただろうと思う。

 だからこそ、告げる。告げなくてはならない。

 己の罪を。


「ねえ、ニール――」


 実はあたしはね、と。

 そう、言おうとして。


「―――――」


 ――こひゅ、と。

 震えた吐息にしか、ならなかった。


「あ? どうした? ……言っとくが、取り逃がしたことをとやかく言ったりしねぇぞ。ノエルがどうにもならなかった相手を、お前が完封して捕縛しろなんて無茶ぶりはしねえよ――むしろ良くやった。仲間が全員倒れたんだろ? だってのにお前は誰も死なせず守りきった。連翹、お前はよくやった」


 真っ直ぐに褒めるのが気恥ずかしいのか、少し頬を赤らめて言うニール。

 その言葉は嬉しい。

 すごく嬉しい。

 けど違う――違うの、違う、違う、違う。


(なん、で……声)


 喉が痙攣している。

 いいや違う、腕も、脚も、全て全て。

 なんだろう――分からない。分からないけど、言わないと。

 自分のことなんて今はどうでもいいから、とにかく、告げないと。謝らないと。

 自分はあの時の転移者なんです、って。

 ごめんね、貴方を傷つけたのはわたしなの、って。

 決意を新たにし、もう一度声を発しようとして――

 

「に、ニール……あた、あたし、あたし――」

「……なんだよ。こんな風に言うのは俺らしくねえってか? 前も言ったが、ちゃんと頑張った奴を褒めねえワケねえだろ。……何度も言わせるんじゃねえよ」


 違う、違うの。

 自分が言いたいのはそんなことではなくて。

 言わなければいけない言葉があって。

 絶対に、伝えなくてはならかくて。

 だから、喉を抑えて。

 痙攣する喉を必死に抑え、なんとか言葉にしようとして――


「ニール、あたしは――」

『あーあ、気づきやがったか――ちっと予想より速ぇがまあいい、死ねよ』


 ――瞬間、頭の中で声が響き、耐え難い恐怖と吐き気と悲しみが連翹を苛んだ。


『遅えんだよ――思い出したんなら丁度いい、その首切り落とす』

『友達ごっこもようやく終わりか――ああ、せいせいしたぜ』


 ニールの声が聞こえる。

 現実の声ではない、想像の声。

 もしかしたら、もし、ニールに『自分があの時の転移者です』と告げたら、こう返されるんじゃないかっていう不安が、声に、声に声に声に声に声に――声に、なって。


『死ね』

『死ねよ』

『気色悪い』

『何を仲間面してやがる』

『俺は一度だってお前をそんな風に見てねえ』

『のぼせ上がんな、糞女』

『俺はずっと前からお前のことが大嫌いだったよ』


 ああ、もしかしたら――そんな風に、言われるんじゃ、ないかって。

 頭の中で響いて――響いて響いて響いて響いて響いて――!


「う――ぉ、げ、ぇ……!」


 瞬間、胃液が逆流した。

 べちゃり、べちゃり、と地面を汚していく吐瀉物。

 冷静な片桐連翹が「言うべき言葉は出せないのに、出さなくて良いモノは勢い良く出すのね」と嘲笑っていた。

 

(なん――で、あたし)


 ニールと対面した瞬間、言葉を発しようとした瞬間、その結果を予測した瞬間。

 雑音ノイズ相手に高らかに語った決意は、微塵に砕かれた。

 怖くて怖くて怖くて――四肢が力を失い、膝から地面に崩れ落ちる。


「……連翹? ――おい、大丈夫か? おい連翹!? ……ッ、ノーラ来てくれ! 頼む、早く! 俺にはよくわからねえけど、なんかやべえ!」


 呆然とした顔のニールが、酷く焦った顔で自分の体を支えてくれる。


(――ああ、違う、違う、違うの)

「ノーラさん、僕はいいから早くレンさんのところへ! なんだこれは……転移者は状態異常が効かないんじゃないのか? いや、耐性をすり抜ける何かがあったのか?」


 未だ顔が青白いカルナが叫び、考察する。なぜ連翹がこんな状況になっているのかを。

 

(――あたしは、そんな風に心配して貰える人間なんかじゃなくて)

「ええ! ……大丈夫、大丈夫ですよレンちゃん、落ち着いて。ゆっくり、ゆっくり息を吸って、吐いて……」


 駆け寄ったノーラは、背中を撫でながら優しい声をかけてくれる。


(――自分は大丈夫だって言ったくせに、いざその瞬間が訪れたら、こんな風に謝ることすら出来ない、情けない奴で)


 何が――一体なにが相応しい自分になる、だ。

 ここぞって場面でこの有様で。

 自分が傷つけた人の前で――こんな、被害者みたいな、自分も辛いんだみたいな顔をして、嘔吐して。


「ち、違うの、なんでもない、なんでもないの、ちょっと、気持ち悪くて、……きゅ、急に吐いて、ごめんね、き、汚くてごめんね、ごめんね、ニール……」

「強がんな、そんな顔色で大丈夫なワケねぇだろこの馬鹿女」


 ニールが有無を言わさず連翹の体を背負う。

 目指す場所は先程連翹がミリアムを横たえた負傷者用の天幕だ。

 ニールの背を抱きながら、じわり、じわりと涙を零しながら謝る。何を謝っているのか、言えてない癖に。


「ごめんね、ごめん……ね」

「くだらねえことで謝ってんじゃねえよ馬鹿女。……とっとと休んでいつもみてぇに黄金鉄塊の騎士ごっこでもしてろ。調子狂うんだよ」


 ああ、心配してくれてるんだなぁ、と強く強く実感する。言葉から、行動から、強く強く。

 けれど、だからこそ、自己嫌悪で死にたくなる。



 ――――ああ、ここまでして貰ってるのに、あたしは謝ることすら出来ないのか、と。



「うん、ごめん、ごめんね、ごめんね――――」


 ああ、なんで。

 どうしてこの舌は思い通りに動いてくれないのだろう。

 やるべきことは分かっているのに。

 言うべきことも理解しているのに。

 

(こんな、まるで、被害者みたいに傷ついて、泣いて――そうすべきは、ニールの方なのに、あたしは、加害者の癖に)


 そんな自分が、嫌で、嫌で、嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で嫌で――だからこそ、思うのだ。

 ああ、自分は――片桐連翹は、何一つ成長なんてしていないんだ、と。

 結局自分は、地球に居た時のまま。

 変わったつもりになっていただけで――何一つ、変わってないんだ。


     ◇


「確かに、彼女はぼくの誘いを断った。それは正しく彼女の想いで、力なんだろう」


 ゆるゆると地平線に溶けていく太陽を眺めながら、雑音ノイズは呟く。


「けど、彼女もまたハピメアを吸っている……気分が高揚として、感情が上向きになっていたんだ。けど、ぼくが離れて、時間が経過して――薬の効果が薄れたら?」


 自分と会話している時、彼女はきっと自信と決意に満ち満ちていたのだろう。

 お前なんかに屈さない、お前の言葉に従わない、自分のやらかしたことの責任は取る、自分は友を信じるのだ、と。

 ああ、確かにそれは彼女の心の中にある感情だったのだろう。胸の中で光り輝く尊いモノであったのだろう。


 ――だが、心の中にあるのはそんな尊いモノばかりではない。


 汚泥のように溜まった悪感情。薬の効能で抑え込まれていたそれが、そろそろ吹き出している頃だろう。


「さぁて、さっきまでのようにポジティブに友達とやらを信じられるかなぁ? 自分自身を信じられるかなぁ? 難しいと思うな。だって――転移者なんて、規格外チートが無ければただの気弱で後ろ向きなインドア人間なんだから」

 

 そんな人間が、力を失っても友人が自分を信じてくれる、認めてくれる――そんな風に信じられるだろうか?

 元々何もなかった癖に力を得て調子に乗ったダメ人間であることなんて、自分自身が一番分かってるだろうに――そんな自分を信じて、友人が自分を信じてくれると思えるだろうか? 

 

「そんなの不可能さ。人間はそんな簡単に変われない、変わらない。タイムリミットと真実を知ったあの女は、どこかで崩れる」


 三年という時間は長いようで短い。

 高校に入学した学生が、卒業後にはかつてとは全く違う人間になっているのか? 

 答えは否だ。懸命に自分を変えようとしているのならともなく、規格外チートに頼って遊び呆けてる奴の根っこはそうそう変わらない。


 ゆえに、未来は全て思うまま。


 光り輝く未来は無く、あるのは汚泥の底に沈む未来のみ。

 レオンハルトのように爆発するのか、精神にダメージを負って精神的な病を発症するか、いずれ殺されるという恐怖から連合軍から逃げ出すか、一応いつも通りにしようとするが傍から見てもボロボロな状態となり他の現地人の脚を引っ張るか。

 ああ、やっぱり仲間にして欲しいと無様な勇者のように泣きついてくる可能性もある。

 

「ああ、どうなっても――ぼくは困らない」


 連合軍という組織でそこそこ信用を得た彼女の変化は、連合軍全体のパフォーマンスを低下させる。

 彼らは善人だ。見ず知らずの人間が炎に焼かれて、本気で怒れるような大間抜けどもだ。

 そんな彼らが――仲間が辛そうにしていて、放っとけるワケがない。

 心配して、笑いかけて、励まして――心に後ろめたいモノを抱く彼女は、余計にこじれていく。悪循環が発生し、連合軍全体の連携が乱れるのだ。

 ああ、なんて便利で有能なデバフ装置なのだろう。

 運が良ければ手駒も増えるんだから、これはもう高レア確定ガチャと言っても過言ではないのではなかろうか? 


「友情ごっこに夢中な連翹さん、大好きだよ――ぼくのために友情なんてバランスの悪い積み木を重ねてくれてありがとう!」


 友情なんて形の見えないモノに縋ってるからそうなるんだよ、と。

 雑音ノイズは一人、嗤う、嗤う、嗤う。

 やはり、他人が積み重ねたモノをひっくり返す時こそ――愉しくて愉しくて仕方がないのだと。

 

「あははっ、たーのしー、ってね」


 隣に誰も居ない場所で、雑音語りノイズ・メイカーは楽しげに独り言を呟くのだった。

 壊れたスピーカーから響くノイズのように、ざらついた嫌らしい声音で。


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