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グラジオラスは曲がらない  作者: Grow
女王都へ
16/288

13/乗合馬車

 二頭の馬によって引かれた幌馬車ほろばしゃが、ゆるゆるとした速度で街道を進んでいた。

 大きくて頑丈な造りだけれど乗り心地はよくねえよなぁ、と座席に座りながらニールは思う。両サイドに備え付けられた座席は、椅子というより固定された木の板といった感じで座り心地は良くない。が、床に直接座り込むよりはずっと楽だ。

 回る車輪が小さな石ころを踏みつけるたびに、馬車全体がガタリと揺さぶられる。年代モノなのか、床を構成する木材は暗い泥色に染色され本来の色がなんだったのかすら分からない。

 

(ま、運賃の安い乗合馬車を選んだのは俺らだし、文句を言うのは筋違いだな)


 女王都は遠く、徒歩で行くわけにはいかない。そのため、最もポピュラーな移動手段である馬車を選んだワケだが、その中にもグレードというモノはある。

 貴族や有力な商人なら自前の馬車を使うだろうし、そこそこの金持ちは運賃の高い乗合馬車に乗る。金を払う量が多いほどサービスが良くなるのは当然の理屈だ。

 しかし、ニールやカルナはそこまで金を稼いでいるワケではないため、このように安い馬車に乗ることになったのである。金を払う量が少ないほどサービスが悪くなるのもまた当然の理屈だろう。

 しかし、乗り心地こそよくないものの、頑丈なのは良いことだよなとニールは一人で頷く。モンスターに襲われてもいくらかは耐えられそうだし、頭上のほろはちょっとした雨くらいなら防いでくれるだろう。

 そんな頑強だけが取り柄の安い馬車の中、ニールとカルナは辺りをぐるりと見渡した。

 

「やっぱ、あの依頼を受けようっていう冒険者が多いな」

「そうだね。依頼を受けたのが僕たちだけだった、なんてオチではないみたいで安心だよ」

 

 何度か女王都行きの馬車に乗ったことはあるが、普段はそれなりにスペースの開いている座席も、今は全て埋まっている。そして乗客もガタイのいい男――腕自慢の戦士たちが多いように見える。重装軽装問わず武装している彼らの瞳は、緊張と期待に彩られていた。

 当然だろう。

 勇者リディア・アルストロメリアが活躍した魔王大戦以来、大きな戦が起こったことはないのだから。

 平和であることは良いことではあるものの、己の武で富や名声を得たいと思っている者たちにとっては、成り上がるチャンスの少ない退屈な時代でもあるのだ。


 故に彼らは歓喜し、そして期待している。


 倒すべき敵の登場を。

 街を制圧した者たちとの戦いで名声を得ることを。

 騎士たちと共に敵を討ち倒し褒美を得ることを。

 

 無論、力及ばず倒れる者もいるのだろうが、この馬車に乗る者たちはそれを恐れる者は見受けられなかった。

 自分は強いのだから負けるはずがない、と考えている者もいるだろう。

 考え、リスクを吟味した結果、ここに来た者もいるだろう。

 どちらにしろ、悩みぬいた結果ここにいるのだ。今更びくびくとする理由もあるまい。

 

(しっかし)


 この馬車の中に乗っている冒険者の何人が、転移者と戦ったことがあるんだろうな――とニールは心の中で呟いた。

 転移者は反則めいた強さを持つが、その強さを一目で理解することは非常に困難だ。

 体つきは細すぎるほど細く、手の平もどこぞのお嬢様のようにつるつるとしている者が多い。足運びも素人臭く、魔法の知識もない。完全な素人――いや、素人の中でも弱そうに見える者がほとんどだ。見た目通りならば、酒場の酔っぱらいの方が強そうに見えるくらいである。

 ゆえに舐めてかかり――鎧袖一触で打ち倒される者が多い。

 知識として『転移者は強い』ということは知っていても、実物を見て『彼は強い』と思えないのだ。


「おっ、と……」


 揺れが止まった。女王都まではまだまだ距離があるから、他の町に停車したのだろう。

 外を覗くと、やはり乗り込もうとするのは冒険者が多い。ナルキの街に比べ人数こそ少ないが、同じように瞳をギラつかせた男女が多い。

 

 だからだろう。

 その少女は酷く場違いに見えた。


 艶やかな桃色髪のサイドテールを揺らしながら馬車に乗り込んだ彼女は、とてもではないが冒険者などには見えなかった。女の冒険者だって多く存在するが、彼女をそれと同種と断じるには雰囲気が小動物過ぎる。

 凪いだ海のように碧く澄んだ瞳に、何者の手も入っていない浜辺めいた白い肌。細身の体をゆったりとした白いローブで覆い、その上から淡桃色のケープを羽織っていた。右手には大きめのバッグを持っている。

 そして、体のラインが隠れるローブの中に隠されているというのに微かに目立つ胸元。その上で銀色の十字が揺れていた。神官だ。


(珍しいな。神官の――それも俺らと同じくらいの歳の奴が一人で乗合馬車に乗るなんて)


 神官は治癒の奇跡を扱えるため、医者と並んで町に必要な職業だ。そのため、遠出することは少ない。

 そして年若い神官の多くは修行中の身であり、教会とその近辺から離れることなど滅多にないのだ。

 無論、滅多にないだけで出歩くことが無いわけではない。どこかの教会に顔を出したり、多数の怪我人が出た村に出向いたり、などだ。ニールもクエストの際に、そういった集団を見たことがある。珍しくはあるが、それだけだ。

 しかし一人で出歩き、かつこんな安い乗合馬車で移動するというのは、珍しいを通り越して奇妙だ。

 彼女も自分が場違いだと自覚しているのだろう。気弱そうな顔を不安に染めて俯きかけるが、しかしすぐさま表情を引き締めた。


(なめられないように、つーことなんだろうけど)

 

 しかしどうしても小動物な雰囲気が拭えない。獅子の前で必死に強がるウサギのようだ。

 彼女は辺りを見渡して座席が全て埋まっていることを確認し、困惑気味に再度辺りを見渡した。だが、何度見返しても座席が埋まっている事実は覆せず、おずおずと冒険者たちのように床に座ろうとする。


「そこの君、席ならここを使うといいよ」


 言って立ち上がったのはカルナだ。長い銀髪を他の客に引っ掛けないように左手で抱えながら、彼女を先程まで自分が座っていた場所を右手で指し示した。


「えっと、あの……」

「僕の服は見ての通り黒いローブだからね、多少汚れても問題ないから」


 突然の提案に戸惑う彼女をそのままに、カルナは彼女が座ろうとしていた床に腰掛けた。席からさして距離が離れているワケでもなく、ニールとカルナが会話することに不都合はない。

 

「えっと……ありがとうございます」


 すでに床に座り、「僕はここに根を貼ることに決めた」とばかりにくつろぎ始めたカルナに対し少女は一礼し、ニールの隣に座った。白いローブに隠されたふとももの上に、とさりとバッグを置く。

 それを待っていたように、ゆっくりと馬車が動き出した。

 それからしばしの間を置いて、少女はぺこりと頭を下げる。

 

「ごめんなさい、せっかく座っていたのに」

「いいよ。椅子だろうと床だろうと、歩いて女王都目指すのに比べれば大した差はないよ」

「お前、冒険者になる前は乗合馬車の乗り方知らなかったから、西の村から延々と歩いて女王都目指したんだったな……」


 初めて会った時、なんであんなフラフラしてるんだと思ったぜ、と笑う。

 頭を下げる必要なんてないよ、と微笑んでいたカルナの表情が一気にこわばった。


「しっ、仕方ないじゃないか! 仕方ないじゃないか! 村から出たことなんて無かったんだから!」

「そうだな、その上教えてくれる友人がいなかったんだもんな!」

「オッケー、ニールその喧嘩買ったよ。宿場町についたら街道の外れに行こうか……! 泣いたり笑ったりできなくしてやる……!」

「あ、あの……?」


 オロオロとニールとカルナの顔を見比べる彼女を見て、二人は小さく笑った。

 その仕草で先ほどまでの寸劇が演技だったと知ったのか、彼女は「えっと……」と困惑の声をもらす。

 そんな彼女に、カルナは柔らかく微笑みかけた。

 

「緊張はほぐれたかな?」

(……まったく)


 ニールは「はあ」と小さく息を吐いた。

 真っ先に席を譲るところとか、小さく微笑みかける仕草とか、そういうのがうまいよなぁと思う。

 抜けているところは多々とあるし、女性と付き合ったことがあるわけでもないのに。世の中には天然かつ無意識に女を落とす才能を持つ人間が居るらしいが、もしかしたらカルナがそうなのかもしれない。

 

「ごめんなさい、気を使ってもらって」

「慣れてない人に手を貸すのは当然だよ。僕もニールに色々助けてもらったし」

「だな。……で、今回はどうしたんだ? ……ええっと、そういや名前聞いてねぇし、こっちも話してねぇな。俺はニール・グラジオラス、そっちの銀髪はカルナ・カンパニュラだ。どっちも冒険者やってる」

「ノーラです、ノーラ・ホワイトスターといいます」


 ノーラと名乗った少女は丁寧にお辞儀をした。


「ノーラか。お前くらいの歳の神官が一体全体どうしてこんなボロ馬車に乗ってんだ? 女王都でなんかあったのか?」

「ニール、御者台の人がこっち見てるよ」

「あっちだってコレを良い馬車だとは思ってないだろ、冒険者としちゃあ安い頑丈安いの三拍子揃った素晴らしい馬車だけどな」

 

 それって二つしか揃ってないような気がするんですけど。

 そう言いたげなノーラだったが、御者台の男が未だこちらを見ていることを確認し、その言葉を飲み込んだ。


「えっと、この話は冒険者のお二人の方が詳しいと思うのですけど――西部の事件で教会の方にも依頼が来ていて」

 

 西部の事件。

 その言葉にニールたちは表情を引き締めた。

 西部では事件など珍しい話ではないが、教会に対して依頼を送るような大規模なモノは一つ。転移者が新たに建国した――占領した、というのが正しいのだろうが――レゾン・デイトル絡みだろう。

 街を占領し、騎士団を撃退した彼らと顔を合わせて平和に終わる可能性など皆無に等しい。そのため、騎士団が回復魔法を扱える神官を募るのは当然のことだ。

 しかし、

 

「依頼があった、とか言うワリには一人なんだな」

「ええ。癒し手が一人でも多く欲しい、と手紙が来たのですが……みんな、戦いに関わるのを嫌がってて。司祭様も全てが終わった後に救いの手を差し伸べるべきだ、と仰っていましたから」


 だから、こっそり抜けだして来たんです、とイタズラがバレた子供が誤魔化すように小さく笑う。なるほど、一人なのも道理だ。

 小動物めいた気弱な瞳には、「危険を冒せば救える誰かがいるのに救わないのは怠慢だ」と宣言するように決意に満ちた光があった。


(ま、司祭さまとやらの言うことも分かるけどな)


 不満気に言うノーラだが、その司祭が言う言葉も理解は出来る。

 魔王大戦から時間も流れ、神官が争いの矢面に立つことは滅多になくなった。そのため、神官たちの間で戦いの技術や心構えの多くが失伝したという。

 それに、犠牲を未然に防ぐより、多くの犠牲が出た後に救った方が感謝されやすいのは当然である。


 ――要は感情の問題なのだ。


 誰だって死にかけてる所を助けられたら涙を流して感謝するだろう――おお、ありがたやありがたや! アナタは命の恩人だ! と。

 だが、この手で守ると宣言した者がいるというのに重症を負えば、どす黒い感情が湧いてくる者もいる――なぜもっと早く、もっと効率よく助けなかったのかこの無能め! と。

 重症という過程と治療という結末が同じであろうと、好悪の感情は変わってしまう。前述の二つの例も、環境によっては真逆になるはずだ。

 

 そして、この大陸に住まう者の多くは神官が戦場に立つことはないと思い、事前や事後の治療をする者たちであると考えている。戦場に神官が居ないことに対して文句を言うものは少数派なのだ。

 故に、教会は動かない。動きたくない。騎士団からの要請はハイリスクでありローリターンなのだから。

 

 だが、それでもそれが不満だと思い彼女は来た。

 リスクだけが高く、大してリターンも期待できない仕事に首を突っ込んだ。

 その行動原理は純粋なのだろう。しかし、周りから見ればそれは愚かや考えなしと形容されるモノだろう。今頃、彼女の言う司祭さまとやらは頭を抱えているに違いない。

 

「奇遇だな、俺らもその仕事で来てるんだ」


 けれど、だから・・・。そう、だから・・・ニールは手を貸してやりたくなったのだ。


(無謀? 考えなしの愚か者? ……知った事かよ、黙ってろ!)


 ――剣士として無謀を行うか、神官として無謀を行うかの違いでしかない。

 そういう感情論だけの無謀をやらかしているのは自分だって一緒ではないか。転移者と相対し、勝ちたいという願いは彼女のそれよりずっと無謀で愚かだ。

 そういう愚か者だからこそ、同じ愚かさユメを持つ者に共感を抱く。


「あんまり一人で外を出歩くのも慣れてないだろうからね。エスコートしてあげるよ」


 そして、その想いはカルナもまた同じだったらしい。にこりと微笑んだ。


「ははっ、それは経験論か、カルナ」

「そうだよ、悪いかよ、悪いかよ!」

「いや」


 ムキになって反論するカルナに笑いかける。


「今は簡単に出来るが、昔は出来なかったことで苦労している他人――」

 

 誰だって初めてがあり、他人が安々と行うことで苦労する時がある。

 ニールだってそうだ。今は剣を自分の半身の如く振り回しているが、木剣の素振りですら満足に出来ずにいた頃があった。

 それは当然だ。誰だって初めから全てを行える者はいない。才能のある人間だったとしても、それは凡人よりもぶち当たる壁が先にあるだけであり、そこを突破するために努力するのだ。

 ……だが、かつて通った道であろうと、今現在自分が楽にできることで苦労している者に手を差し伸べるのは思いの外難しい。

 頭では分かっていても「この程度もできないのか」と嘲笑う思考が脳裏をよぎる。

 だから、

 

「――それを馬鹿にしないで手を差し伸べられるのは、お前の美徳だと思うぜ」


 カルナは一瞬、呆けたような顔をし――無言で視線を逸らした。


「なんだよ、昔馬車に乗れなかったことを弄ったくらいでそんな怒るなよ……や、悪かったって、宿のメシなんか奢るから」

「えっと、カルナさんは怒ってるわけじゃあないと思うんですけど」

「え? マジ?」


 ええ、たぶん……と。

 ノーラが苦笑しながら言ったその言葉は、車輪が石を踏みつけ鳴らしたガタンという音にかき消される。


「まったく……まったく、急にこっ恥ずかしいこと言ってくるからなぁ……」


 頬を赤らめた少年の呟きも、また誰に聞かれることも無く消えていった。 


      ◇


 いくつかの町を経由し、空が少女の頬のような淡い赤で染まり始めた頃、ニールたちが乗る馬車はゆっくりと停車した。

 馬車の外から見えるのは小さな町並みである。けれど寂れているということはなく、幾つもの施設を一箇所に纏めたが故の小ささだ。見渡せば旅人用の宿や酒場などがいくつも軒を連ねている。

 そこを行き交うのは馬車の御者であり、冒険者であり、旅商人であり、町の住人である。

 

 今日ここに辿り着いた旅人たちは表情に疲労を覗かせつつも、一仕事終えたとばかりに微笑み、

 町の住民は仕事の時間だと気合を入れている。

 

 ここは宿場町。

 渡り鳥たちが翼を休めるとまり木だ。

 

(……なんか、こういうのいいよなぁ)

 

 御者に急かされ馬車を降りながら、ニールは頬を緩ませながら辺りを見渡した。


 ニールたちと同じように長時間の移動で固まった体をほぐす者、

 すでに宿の部屋に荷物を置いて酒場に向けて歩く者、荷物を持ったまま酒場に突撃をかます者、

 依頼でもこなしていたのか町の住民に薬草を渡す者、町の商人に己の商品を売り込む旅商人。

 

 太陽が静かに瞼を降ろしていく下で繰り返される旅人たちの営みに、なんら特別なモノはない。

 だが、なぜだろう。

 なぜ、こんなにワクワクするのだろう。

 屋台で売られるチープな食い物の匂い、旅の無事を祝うお守りから小腹が空いた時に食べる菓子などといった雑多な種類の物品を販売する土産物屋。近場の酒場はすでに満員で、宿には未だ旅人たちが吸い込まれている。

 

 一つ一つはどうということの無い要素だ。むしろ、普段ならば満員の酒場や中々部屋を借りられない宿など、舌打ちの一つでもしてやりたいくらいだ。

 だが、それらを一つに纏めて宿場町という箱に突っ込めば、旅の香りがするのである。水平線を見て、あの先には何があるのだろうと思考した少年時代のような胸の高鳴りを感じるのだ。


「ニールってさ、よいしょ、ホントこういうの好きだよね」


 ニールに続いて馬車から降りながら、カルナはからかうように笑った。


「うっせ、悪いかよ。この空気は男のロマンが詰まってんだよ」

「理解はできるけどね、僕だってこういうのは嫌いじゃないし――ノーラさん、大丈夫? 降りられる?」

「このくらいなら大丈夫ですよ……よいしょ、っと」

 

 桃色のサイドテールを靡かせながら着地するノーラを見て、カルナは「うん、それなら良いんだ」と微笑む。


(……顔もそうだが、こういうトコが違うのかもなぁ)


 カルナはモテる。

 いや、正しくはここ一年くらいからモテるようになったのだ。冒険者に成り立ての頃は、体はガリガリで瞳は世界を呪うように淀んでいた。

 だが、それはもはや過去の話である。

 今のカルナはやや少女めいた顔立ちだが背丈は高く、体も引き締まっている。風が吹く度にさらさらと靡く銀の長髪も女性を魅了するのに不足はない。

 だが、それ以上に先程のようなことを軽い流れで行えることが大きな理由だろう。困っている時にカルナのような美男子が手を差し伸べると、チョロい奴ならそれだけで落ちる。ニールにはそんな現象、一度として起きたことがないというのに。

 

「……? どうしたんだい、ニール」

「いや、お前の下の剣がモゲたり玉が爆ぜたりしねぇかなとか考えてただけだ」

「待って、待ってよ! 落ち着け、話しあおうよ! どこをどうしてそういう思考に至ったのかとかその辺り特に!」

「ハンッ――教えて理解できるモンならとっくの昔に自分で理解してんだろうが」

「うわあ何その上から目線、すごく腹立つんだけど」


 言い争いながら拳を構える二人に対し、くすくすという小さな笑い声が向けられる。

 それはノーラのモノだ。彼女は言い合いながらも仲が良さそうな二人に対し、笑みと共に微笑ましそうな視線を向けていた。 

 

「本当に仲がいいんですね、お二人とも」

「へいへいへーいノーラよノーラ、今のどこをどう見てそういう結論に至りやがりましたかねー?」

「だよねだよね、もう本気マジで殴りあう寸前だったのに」

「だって二人とも、町中を走り回るわんぱくな子どもみたいですから。どれだけ言い合ってても、次の瞬間一緒にお菓子を頬張っている感じの」

「オイ! そういうのが当たり前みたいに言うのやめてあげなさい! そういう経験のない子だっているんだぞ! ほら俺のすぐ前にいる元ぼっちとか!」

「どうやら僕を本気にさせたようだね……! いいよ、ここで決着をつけようじゃないか! 僕の魔法が火を吹いたり氷を吐いたりするからな!」

「ふふ、『仲良いね』って言うとムキになるところとかも、とってもそっくり」

 

 くすくす、という笑い声が濃くなっていく。それを聞いて二人は気恥ずかしそうに構えていた拳を戻す。

 笑いに馬鹿にする響きがあれば、気にせずそのまま大乱闘と洒落こんでいたのだが――彼女のそれは、まるではしゃぐ子供を見て微笑む母のような笑みだ。

 それを身に受けながら言い争いを続けるのは、なぜだかとても気まずい。それこそが彼女の言うわんぱくな子供のようである、ということの証明なような気がするからだ。

 ニールとカルナは若干頬を赤らめながら、頬を軽く掻く。

 

「そ、そんじゃあ宿を探してからメシでも食いに行くか」

「そ、そうだね……それじゃノーラさん、はぐれないようにね。狭い町とはいえ、人は多いからさ」

「ええ、よろしくお願いします」

 

 ぺこり、とお辞儀をする彼女と共に、旅人でごった返す宿場町へと進んでいった。


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― 新着の感想 ―
ううん、まさしく親友って感じだなぁ……
[良い点] BLの表記は…ありませんね。時と場合によってはアリなんですがね。
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