131/霊樹の篭手
革の手袋に縫い合わせるように、木のチップを縫い合わせられていく。
それを為すのはエルフの老人だ。皺が刻まれた体は、長い時を生きた老木を連想させる。
老齢の体は、少し触れただけで表面がパラパラと崩れ落ちてしまいそうな脆さを感じてしまう。だというのに、彼の指先は力強く、そして繊細である。
丁寧に、丹念に、黙々と行われるその作業は見ている者にとっては淡々としていて、退屈だ。
けれど、ノーラ・ホワイトスターは暇そうな様子を欠片も見せず、その様子を見つめていた。
(――連なった木片が鱗みたい……スケイルメイルに近い造形なんでしょうか?)
連合軍に所属する冒険者の一人がそんな鎧を着ていたな、と思う。あれは金属鎧で、これは霊樹とはいえ木製という違いはあれど、見た目は少し近い。
それを自分がつけることになるという事実は、少しばかり現実感が無いのだけれど。
◇
想起する。今朝、ミリアムに案内されてこの工房に訪れた時のことを。
そこは市街地から外れた場所にあるログハウスであった。豪奢ではないものの質の良い造りのそれは、しかし長い歳月で少しばかりくたびれているように見える。
「ここがぼくの知る霊樹の木工であり、武具の職人の工房さ。他にも沢山居るけど、ぼくが紹介出来るのはここだけかな」
ぼくの弓を作ってくれたのはここだけだったから、と背負った弓を指示す。
小型の霊樹の弓、その両端に金属製の刃がジョイントされている。そのせいかサイズのワリに中々重いらしく、持ち運ぶ時は矢筒と一緒に背負っているらしい。
「霊樹の職人はあんまり金属とか好きじゃないからね。商売敵ってのもそうだけど、老齢な方が多いから」
だから、あまり他種族のために装備を作ってくれないと思うんだ、と申し訳なさそうに言った。
エルフは寿命が長く、多くの知識を有する種族だ。けれど、だからこそ蓄えてきたモノと相反する新しいモノに否定的な者が多いのだ。エルフの半分の寿命もない人間だって、年老いたら新たな何かを受け入れるのは難しいのだから。
無論、古きを尊ぶことも一つの正道であろう。新たなモノに手を出してばかりではその道を極めることなど出来ないのだから。
そして、新たなモノに手を出すこともまた、間違いではない。古きを守ってばかりでは、新たな変化が訪れないのだから。
(結局のところ……人間と一緒なんですよね)
新しい何かを扱う若者と、それを受け入れられない古きモノを扱う大人。
言ってしまえばただそれだけなのだが、エルフの寿命は人間の十倍近い。上の世代が長生きしたまま残り、下の世代もまた長期間若者のまま存在するのだ。若者と大人という確執も人間よりも長期間存在し、熟成されるのだろう。
「おはよう、コリンお爺さん。起きているかな?」
「……ああ、とっくにな」
だから、しわがれ声が響いてきた時は、少し驚いた。
先程の話から、ミリアムが紹介してくれる木工は若い人なのだと思っていたのだ。若者だから金属とかけ合わせた弓を作ることを良しとしたのだと。
だが、ログハウスから現れたのは老木めいた老人であった。白い頭髪は枯れ葉のようで、皺のある腕は乾ききった樹皮のようである。
しかし、目だけは。
瞳だけは、弓の弦が如く張り詰めていて、矢のように鋭かった。
それが、ノーラの方に向いた。弓を引き絞り脳天を狙っている――そんな、貫くような視線。ぞわり、と。肌が泡立つのを感じた。
「――初めまして、ノーラ・ホワイトスターと言います」
自然と後ずさりしそうな脚を内心で叱咤し、地面に縫い付ける。
微笑んで頭を下げたものの、顔が引きつっていないか不安だった。
「ええっと、今回お尋ねしたのは――」
「……ニコチアナ嬢から聞いている、入れ」
それだけ言って、老人は家に引っ込んでしまった。
ぽかんとした顔で立ち尽くすノーラに、ミリアムが優しく肩を叩いた。
「大丈夫だと思っていたけど、やっぱり問題なかったね。おめでとう、作ってくれるってさ」
「えっと、これは――?」
「コリンお爺さんの試験さ。『この程度で二の足を踏むなら、武具になんて手を出す必要はない』……ってさ」
だから初手で脅すんだって、ところころと笑う。
楽しそうな彼女に、なるほど、と思うのと同時に少しだけむっとする。
「それなら前もって教えてくれても……」
「そんなことしたらお爺さんが察しちゃうから。それに、ノーラなら問題ないだろうって思っていたからね」
「そんななんの根拠もない――」
「根拠ならあるさよ」
だってさ、と。
慈しむようにミリアムは微笑んだ。
「死ぬほど痛いって知りつつあんな真似――ええと、女神の御手だっけ? をやれるんだもの。いざって時の肝は下手な戦士よりは据わっているよ」
「てっ、定着してる――ッ?!」
「……いやまあ、うん、あんな大声で騒いでたら嫌でも覚えるよ――たぶん、同じ宿に泊まってた連合軍の冒険者たちとかもさ」
慈しみの笑みが苦笑へと変化していく様を眺めながら、ノーラは小さく呻きながら頭を抱えるのであった。
◇
「――見ていて楽しいモノでもないだろう」
女神の御手はもう決定なのかぁ……そんなことを思い出し少しだけ憂鬱になっていると、エルフの老人――コリンは手を止めずに言った。
実際、単調な作業ではある。ミリアムも「昼食でも作っておくよ。コリンお爺さんはまともな食事とかしてなさそうだしね」と言ってそそくさと退出してしまった。
(言葉の感じから、本音と建前が半々、って感じでしょうか)
そんなことを考えながら、ノーラはゆっくりと首を横に振った。
「いえ、自分が扱う道具がどう作られるのか見ているのも楽しくて――もちろん、邪魔になるようなら退室しますが」
「小娘が一人居る程度で鈍る手ではない。好きにしろ」
ふん、とだけ言ってまたコリンは口を閉じた。
すでに革の手袋の大部分は木片で覆われ、手袋というよりも篭手めいた見た目になっている。
もっとも、素人のノーラにはそれがどの程度完成しているのかを察することが出来ない。まだまだ途中のようにも見えるし、霊樹のチップを少し繋いだらもう完成するようにも見える。
「……そういえば、どういう原理で力を散らせるようになるんだろう……?」
少しずつ出来上がっていく様子を観察しながら、ふと疑問が口からこぼれた。
答えを求めての問いではなく、思わず口から漏れ出した疑問。だが、コリンはそれを掬い上げ、淡々と答えを述べていく。
「指先、もしくは蔦から相手の素肌に接触し、吸収する。強すぎる力を霊樹のチップ一つ一つで散らし、ホワイトスター嬢の前腕で素肌と霊樹を接触させ、力を受け渡す」
言うなれば魚のエラだ、と彼は言う。
転移者の莫大な力を必要な分だけ取り込み、残りは外に流すのだ。水の中にある酸素を吸収し、残った水を外に吐き出すように。
「もっとも、あれは効率良く『吸収』するための機能であり、これは効率良く『散らす』ための機能であるという違いはあるがな」
言って、彼は手を止めた。
そこにあったのは木製の篭手だ。といっても、手の甲から前腕辺りまでを覆うだけで、掌側はほとんど革の手袋のままだ。後はせいぜい、指先部分が霊樹で覆われているくらいだろうか。
「これで完成ですか?」
どんどん篭手みたいな見た目になっていくから、もっと腕全体を覆ったデザインになると思ったのだが。
「鍛えた女戦士であればもっと頑強に仕立てたのだがな。霊樹は重い。ホワイトスター嬢ならこれでも重いくらいだ――そして質問に答えよう、否だ」
そう言って、コリンは何かを取り出した。
それは細長いツタである。彼はそれを篭手にぐるりと巻きつけ、手を止めた。これで完成だとでも言うように。
「あの……これは?」
さすがに疑問に思い、問いかける。
そのツタが重要な意味を持っているのかもしれないが、固定もせずただ巻きつけただけではすぐに外れて地面に落ちてしまう。
「創造神が奇跡を与える時、治癒に加え何が必要かを問うた。結果、人間は生命を守るための力を、ドワーフは闇を見通す眼を、エルフは木々と語らう力を欲し、今現在我々が使う奇跡を得た」
疑問に答えるように、けれども今は完成の無さそうな話を語り始める。
そんなこと、ノーラも神官なのだから言われずとも知っている。他にコボルトは脆い自分の体を補う頑強な体を、ゴブリンは自身の無知を埋めるための知恵を求めたという。
だからこそ、一口に神官と言っても種族ごとに出来ることは違うのだ。治癒だけは統一されているものの、人間はエルフのように木々の声を聞けず、エルフもまた人間のように防壁や結界、軽度の身体能力強化などを扱うことが出来ない。
「あ……そっか」
そこまで考えて、ようやく気づけた。
ノーラの様子に気づいたのか、老人もまたうむと頷く。
「霊樹の神官にもまた、特有の奇跡がある」
ぎちぎち、ぎちぎち、と篭手が鳴る。篭手が鳴く。
それは霊樹の篭手が巻きつけたツタを飲み込み、改変していく音だ。
「霊樹が求めたのは植物操作。自分が滅ばぬよう、多くの植物が枯れぬよう、そして傍らで生きる同胞と共存するため、木々や花を操り、改変する権能だ――大樹の中身を削った塔も、これのおかげで生きている」
ノーラたちが泊まっている宿や商業塔、更にはオルシジームの中心にある一際大きな大樹――エルフの城も。
そのように改変し、『最初から中が抉れている木』に変質させているからこそ、木々は生きているのだ。
無論、大規模な改変によって水分や栄養が末端まで行き渡らない場合もあるが――それをサポートするのがエルフの役目である。
そして、住処と森の恵みを貰ったエルフは、自分の意思では動けぬ木々に代わって外的と戦うのだ。
(……なんだろう、初対面なのに凄い親切)
悪意や下心はない。少なくともノーラはそう思う。
だが、だからこそ解せない。粗雑に扱われたいワケではないが、しかし理由もなく親切にされるとそれはそれで収まりが悪い。
「……接続も終わったか。付けてみろ」
「は、はい!」
胸の中に浮かんだ疑念を打払い、慌てて篭手の元へと駆け寄り、右腕にはめる。
すると感じる、確かな重み。腕を振るうのに違和感がある程ではないが、しかし長時間装着していたら段々と辛くなって来る――そんな重さだ。
(……見た目は木なのに、ずっと重い)
もし腕全体を覆うような大仰な装備であったら、ノーラには扱えなかっただろう。
コリンに感謝しながら、手を大きく握り、開き、握り、そしてまた開く。手首を軽く動かしてみるが、違和感はない。
大丈夫そうだ、と思いながら篭手を眺め、ふと違和感に気付いた。
(巻きつけたツタは――どこに行ったんでしょうか?)
篭手の一部として取り込まれたツタ、それが見当たらないのだ。
怪訝に思い腕を動かしながら篭手の全体像を確認する。手の甲から上腕辺りまでは霊樹のチップで構成された鱗の篭手めいた見た目のままだ。くるりと手のひらを返すと、革の手袋が――
「……ここにあったんですね」
――その革の手袋に、模様のように張り付いていた。
そして、手首の少し下の位置に一つ、穴が開いている。このツタを扱うための機構なのだろうか。
「使い方はおって説明する……これで完成だ、遠慮なく持って行くといい」
「ありがとうございます。ええっと、代金は一体どれくらいになりますか?」
ミリアムが紹介してくれた以上、若者が払えないような高額な値段設定ではないだろう。
それに、お金ならそれなりにある。故郷の村から出立する時に持ち出した貯金とか、連合軍に所属するクエストの前金をいくらか貰っているからだ。
無論、多少は消費しているものの、それだって護身用の武器や宿代、そして食事とかお酒とか食事とかお酒とかであまり多額の出費はしていない。
(……待って、なんかわたし、女としてすごいダメなような……!?)
なんか食べて酒を飲んでいるヴィジョンしか浮かばないのはどういうことだ。
さすがに女として死に過ぎではなかろうか。
というか、連翹はニールと買い物に出かけたりしているというのに、ここ最近自分はあまりカルナと一緒じゃない気がする。いや、もちろん今回の用事はカルナには関係ないので、わざわざ呼び立てても迷惑にしかならないのだけれど。
「いらんよ、そのまま持っていけ」
あれ、わたしってレンちゃんより女子力が低い……!?
驚愕の事実に頭を抱えるノーラに、コリンはそんなことを言い放った。
「え――いや、その、違うんですよ!? 今、頭を抱えたのはお金がなくて困ったとか、そういう意味じゃなくてですね……!」
さすがにそんな施しをされるワケにはいかない、と弁明しようとするノーラを、コリンはそっと手で制した。
「――儂には息子が居る。作業に没頭してばかりで女と出会う機会も中々無かったからな、遅くに出来た息子だ。そいつはまた儂に似ていて――けれど別の道を歩んでいてな」
そうして語りだした内容は老人の昔語りであり、現状とは関係のないものだ。
怪訝に思うノーラをそのままに、彼は語り続ける。
「今の時代は鉄だ。ドワーフに師事し、鍛冶師になると言いおってな――技術を継いでくれると思っていたから、少しばかり落胆はした。けれど、遅くに出来た子の可愛さもあり、やりたいことに邁進する姿が昔の儂とそっくりだということもあり、背中を押してやった。今は、数少ないオルシジームの工房で働いておる」
そして、と。
言葉を区切り、ノーラを真っ直ぐに見つめた。
最初に彼女を試した威圧感のあるモノではない、柔らかく、優しげな視線だ。
「此度の襲撃でストック大森林に穿たれた穴、息子の職場はその近くだった」
「それって――」
「もう二度と会えんと思ったよ。無残に殺されるか、連れ去られて奴隷となるか、どちらにしろ老い先短い儂では息子と対面出来んと思った」
だがあいつは、ひょっこり帰ってきてなぁ、と。
厳しそうな顔を、嬉しそうに緩め、微笑んだ。
ここに至って気づけ無いほどノーラは愚鈍ではない。
襲撃があったあの日――複数の転移者たちや王冠に謳う鎮魂歌から、カルナやデレクやアトラたち工房サイカスの面々、そして助けに来てくれた連翹とニールたちと共に守った工房。そこに数人のエルフが居た。
「街で生きる霊樹からどうやって守ったのかも聞いた――ありがとう、息子を助けてくれて。儂がしたのは、その礼に過ぎん」
ここに至ってようやく理解した。
初対面なのに親切なように思えたのは、つまりはそういうこと。身内の命を救った者に対する礼なのだ。
「ふふっ……そこまで知っているのなら、最初の試験もやめてくれても良かったんじゃないですか?」
怖かったんですよ、あれ。
冗談めかして言うと、コリンは好々爺めいた笑い声を上げた。
「あそこで腰が引けるようなら、あの時点で道を断ってやるつもりだったよ。分不相応な道を歩む若人を窘めるのも、年老いた者の役目だろう」
そんな小心な者に、何度も無茶はさせられない。コリンはそう言って大きく笑った。
出会った時の視線は、見定められていたのだ。
ノーラ・ホワイトスターが戦いの場で皆を助けられる存在か、たまたまそのような場所に立っただけで、どうしようもなくなって勇気を振り絞っているだけの存在かを。
「その点、ホワイトスター嬢は良い。恐怖心は抱きつつも、それに立ち向かう精神を持っている。猪突猛進でもなく、臆病過ぎるわけでもない。それは必要な資質だ」
「そう……なんですか?」
「ああ。だからだろうな、巷で噂の転移者の姫を守る霊樹の剣士とやらは、儂は好かん。知り合いと霊樹からの伝聞であり、実物を見たことが無い以上、勘違いの可能性もあるが――あれは戦場で自滅する類の男だ。戦いを目的に戦い、笑いながら屍になる狂人だ」
――なんか凄く聞きなれない言葉を聞いたような気がする。
それに対して色々と問いただしたい気もするが、それ以上に、言わなければいけないことがあった。
「……確かにあの人は無茶をする人です。ええ、その辺りはわたしもどうかと思います」
けれど、
「――人の友人を狂人呼ばわりしないでもらえますか」
ちょっと、カチンと来たのだ。
自分のために霊樹の篭手を作ってくれたことは感謝している、彼がノーラに嫌味を言ったワケでもないこともまた理解している。有名な誰かの嫌な部分を、ちょっと話題に出した。それだけ。
そんなことは分かってる。
それでも、思わず口に出たのだ。友人が悪く言われて、どうして口を閉じていられようか。
確かにニール・グラジオラスという男は暴走しやすい男だ。アレックスとの試験でやらかしたことを、ノーラは今でも忘れてないし、許してもいない。戦士に怪我をするなとは言わないけれど、しなくても良い怪我を喜々としてやらかすのはただの馬鹿だ。
でも、それでも。
彼は優しい人間だ。
少なくとも、旅慣れていない小娘の分不相応な想いを笑い飛ばさず、手を差し伸べる程度には。
そして友人想い男だ。
少し子供っぽいけれど、しかしちゃんと相手のことを考えて行動することが出来る人間なのだ。
「……ホワイトスター嬢がその剣士の友人であるなら、一つ言っておこう」
ノーラの言葉を真正面から受け止め、コリンは苦い声音で言う。
「駄目だと確信したら止めろ。あの手の類は大なり小なりカリスマがある。先陣を切って突貫する姿に、共に戦う仲間はどうしても心が震え立つのだ。良くも悪くもな」
強大な敵に恐れず立ち向かう味方というのは、ある種の劇薬だ。
皆の士気を高める役割も出来れば、多くの仲間を道連れに死ぬ可能性もある。
「だからといって、その手の戦士は一人にすると死ぬ。英雄としてか、無謀な愚者としてかは当人の才能によるがな。だからこそ――大切な友人だと思っているなら、いざという時に憎まれてでも止める覚悟をしろ。それで相手がホワイトスター嬢を疎むのなら、さっさとその男と関係を切ってしまえ。そんな男は勇敢な戦士ではなく、ただの死神なのだからな」
「……分かり、ました。その、ごめんなさい」
「何を謝る。友人なのだろう、悪く言われて怒るのは至極当然のことだろう」
気にした風もなく笑うコリンを見つめながら、ノーラは、ゆっくりと先程の言葉を噛み締め、飲み込んでいく。
友人たちと並び立ちたいと思う以上、そういう悪い面も受け入れ、手助けをしなくてはならない。追いかけていた時には背中しか見えなかった皆も、隣に並べば色々な面が見えてくるのだ。きっと良い部分も、そしてそれ以上に悪い部分も。
それを受け入れてこそ、きっと対等な友人なのだろう。
「コリンお爺さん、お昼ごはん出来たから食べよう。ノーラもどうだい? どうせこのお爺さんは放っといたら面倒臭がって食事に行かないから日持ちをするモノを多めに作っておいたからね。遠慮なく食べていいよ」
「材料費は儂なのだがね――まあいい、頂こう。ホワイトスター嬢はどうするかね?」
「いえ、その、さすがにこの篭手を頂いた上に食事までなんて――」
言いかけたノーラの声を遮るように、くう、という音が鳴った。
それはごく普通の生理現象であり、遠慮する彼女の行為を窘める体の宣言だ。
その宣言をミリアムは聞かなかったフリをして、コリンはカカと大笑するのであった。




