118/祈る少女と奇跡
銀に輝く十字聖印を握りしめ、ノーラは沈んでいく。
地平まで広がる海の底へと埋没していくように、潜る、潜る、潜る。
中に、心に、自分自身に。
肉体という不純物を削り取り、魂という一個の物体にした後、ゆっくりゆっくり神へと手を伸ばす。
それが祈り。神に助けを求めるのではなく、自分の力で届くように必死に手を伸ばし、神と自分に繋がったラインを逆走するようにして想いを届ける技術だ。
ノーラの肌は、既に霊樹の視線を感じてはいない。実際は彼女に突き刺さる視線も認知できない程、深く深く、自分と神の繋がりに集中しているからだ。
(もっと、もっと、奥へ奥へ)
普段の祈りよりも集中し、深いところまで精神を己へと埋没させる。
無論、普段だって手を抜いているつもりはないが、しかし今日は熱意が、想いが、気合が違った。
誰かを頼る以上、自分もまた惨めを晒してはいられないと、守られるだけの女ではないと――自身の力で証明したかったから。
(だって、そうでしょう?)
力が足りない、弱い自分に力を与えて欲しい、誰か誰か誰か――そんなの、巣の中で口を開く雛鳥とさして変わりはないではないか。
自分は未熟だけれど翼がある。望んだ未来へと歩く両足がある。もう庇護を受けるだけの雛鳥ではないのだから。
だから、出来うる限り自分の脚で前に進みたい。それが出来ると、証明したい。
もちろん、それで誰かの迷惑になるのは嫌だ。脚を引っ張るくらいなら、誰かの助けを享受しよう。
だが、今はそうではない。失敗しても、ノーラが一人未熟さを露呈させるだけ。その結果、他の誰かが死ぬようなこともない。
なら、問題ない。全力で、全開で、己が求める方向へと駆け抜けるのみだ。
「――――けど、それはなんのため?」
音すら失せた集中の最中、ふと声が聞こえてきた。
少女の声だ。柔らかいその響きは、ノーラになぜ? と問いかける。
誰だろう、と思いかけてすぐ気がつく。これは、自分の声だ。ノーラ・ホワイトスターという女の声音だ。
怪訝に思う間もなく、その声は言葉を連ねていく。
「いいじゃないですか、雛鳥でも。巣の中で親鳥が目的のモノを与えてくれるのを待つことと、巣の外で自分で目的のモノを見つけ出すこと。そこにどんな違いがあるんですか?」
結果が同じなら何もしなくていいじゃないですか――そんな言葉が脳内に響き渡る。
どちらでも得られるモノが一緒なら、そんなに必死になる必要はないだろう、と。言葉はノーラの体を愛撫するように這い回る。
(――……)
その言葉に、僅かばかり心地よさを感じてしまった。
それは朝、ベッドで起きた時に再び夢の世界へ微睡みたいという心地よい誘惑。駄目だ、と頭では分かっているのに屈したら気持ちが良いだろうなと思ってしまうモノ。
(いいえ、いいえ。……確かに、短期的に見れば一緒なのかもしれません。けど、決してその二つは同じじゃない)
巣の中で口を開けていた方が良いモノを手に入れられるのだろうと思う。
ノーラはまだ飛び方を学んだばかりの鳥だ。遠くまで飛ぶことは出来ないし、エサを探す技術も拙い。必然的に得られるモノの質も低下する。
それに引き換え、自分を救う誰かは飛ぶことにもエサを獲ることにも慣れている。自分で探すよりも質の良いモノを持って来てくれるのは自明だ。
けれど、その誰かはいつまで自分に施しをしてくれる?
誰か《親鳥》が別の道に進むか、施されるだけのノーラという女に呆れるか。どちらにしろ自分に施しを与えることを止めた時、雛鳥のように口を開くしか脳のない自分はどうなる? どうすればいい?
もう訪れない誰かの施しを待って、飢えて死ぬ?
親鳥の後を必死に追って、乞食の如く施しを乞い願う?
誰かに与えられることに慣れ退化した翼で、肥え太った腹で、惨めに地面を這いずりながら他人が食べないようなエサを必死に掴んで喰む?
どれもお断りだ。
無論、誰かの助けを借りるのは悪ではない。自分一人でなんでもしようとする方が、ずっと悪であり傲慢だと思う。
けれど、自分で動かず、他人の力を狩り続ける有り様は歪だ。
「頑張って飛ぼうとしても、飛ぶのが得意な人に抜かされていくとしてもですか? 生き物は平等ではありません。わたしが必死に翼を動かすのを尻目に、どんどん、高く高く、空へと飛翔して行ってしまいますよ?」
世には天才という存在が居て、自分が頑張って進んだ道のりを軽い足取りで踏破してしまう。
どれだけ頑張っても追いつけず、それどころかいずれは見えなくなってしまう誰かの背中。それを目にしながら進み続ける方が、ずっと惨めで情けないとは思わないのか、と。
なるほど、頑張って歩いた道を鼻歌交じりで走破されるのは、きっと悔しくて悲しくて、頑張ってきた分だけ惨めに感じるだろう。
その気持ちは分からなくもない。
(いいえ――だってそんなの、当然じゃないですか)
分からなくもない、けれど――それだけだ。
なぜなら、生き物なんてこの世に存在してからずっと、平等だった時なんてないのだから。体、能力、環境――その全てが不平等なのは、子供の頃に直面した両親の死という環境の激変で理解している。
自分が苦労して習得した技術を容易く手に入れる人が居て、病弱な人と頑強な人が居て、家族に恵まれた人と恵まれなかった人もいる。誰もが皆、不平等の中で生きているではないか。
だからこそ劣っている自覚がある人は追いつかんと努力をし、高みに立つ者は追いつかれぬように走り続ける。それが出来ぬ者は、ずっと底に居るか、引きずり降ろされるだけ。
そういったことを繰り返して、人間は色んな生物を引きずり下ろして大陸の支配者になったのだ。
(遠い先祖が出来たのだからわたしも出来る――なんて確証はないですけど、出来ないって確証もありませんから)
だから、そんな弱音はいらない――そう強く想い、心に浮かぶ弱音を跳ね除ける。
(だから――弱音はまだ要りません。いずれそれを必要とする時はあっても、それは今ではありませんから)
弱音を吐くとしても、それはやれることをやってから。
必死に頑張って、それでも成果が出なかった時に、心の膿を出すために吐き出せば良い。
「ああ――――その想いに祝福と喝采を」
どろり、と上辺の化粧が溶け落ちるように。
自身の弱音を語る声がゆっくりと別の声色へと変質する。
それは男性の声。最近聞き慣れたニールやカルナではない、故郷の村の司祭などといった男性でもない、全く聞き覚えのない男の声音だ。
「凡人を置き去りにして世界を塗り替える天才は確かに存在する――それは否定はせぬ。が、多くの場合、世界を塗り替えるのは複数の凡人であり、突き動かす熱意だ。心の熱だ。ああ、だからこそ彼女もまた、我の予測を上回ったのだから」
どこか懐かしむように言う声の主。姿は見えないけれど、過去を懐かしむようにどこか遠くを眺めているのだろうな、と思った。
(貴方は――?)
一体、誰?
心にある弱音を見抜き、声音は真似て不安を煽った貴方。
ノーラ自身の心の声であると誤認させ、諦めさせるような誘導をしておいた癖に、それを跳ね除けたら喜ぶ奇妙な人。
自分がされたことを考えると、相手は詐欺師とか悪戯好きな何者かと思うのだが、不思議とそういった人物像とは結びつかない。
ノーラが連想したのは獅子だ。愛する子を谷底へと落とし、這い上がるのを待つという狂暴で力強い獣。それが、自分よりも遥か高みで厳しくも慈しむような眼でこちらを見つめている――そんな、根拠もない空想が頭に浮かぶのだ。
「贈物を与えられた者は順調に芽吹き、贈物もまた自身の足で立つ者も現れた。喜ばしいことだ、ああ、喜ばしいことだとも。善であろうと悪であろうと、己の意思で進む道を決める生き物は、やはり愛おしい。この世は森羅万象、全てが光り輝いている――」
自分に酔ったような、どこか芝居臭さのあるセリフ。
だというのに、なぜだか妙にしっくりと来るのだ。気取った言葉を言おうとしているのではなく、自然体で出た言葉であるとノーラには思えた。
恐らく、元から偉そうな振る舞いをすることに慣れた人なのだろう。
だが、だからこそ解せないのだ。
自分はこんな人を知らない。連合軍に入るに当たって偉い人を遠目に見たことはあるし、騎士たちとも何度も言葉を交わした。だが、こんな喋り方をする人に覚えはない。
「さあ行け凡人よ。特別な才無き、けれど前に進む者よ、祈る者よ。慢心することなく、その足で歩むと良い」
――結局、声の主はノーラの疑問に何一つ答えることなく消えていった。
勝手に褒めて、言いたいことだけ言って消えた声の主に対し、むっとする気持ちがないと言えば嘘になる。ちゃんと会話してくださいよ、と。
だが、なぜだろう。
(……嘘ではないんですけど、そこまで強い気持ちでも無いんですよね)
もっと怒ったり苛立ったりしてもいいだろうに、と自分の事ながら不思議に思う。
けれどそういう気持ちはごく僅かで、大半は『困った人だな』という呆れだ。友人たちの駄目な部分をどうかと思いつつも、そういう人なのだから仕方ありませんよね、と溜息を吐く感覚である。
「本当に、なんでだろう――」
肉体の感覚を削ぎ落とした集中は途切れ、ゆっくりと五感が戻ってくる。
額に浮かんだ汗を拭う。冬場で肌寒いはずなのに、全身からじんわりと汗がにじみ出ていた。
「……? 確かに、集中はしていましたけど」
それでも、こんなに汗をかくだろうか? と首を傾げる。
凄く緊張した後みたい――そう思いながら、タオルを持ってこなかったことを少しだけ悔やみ――
「え……ぁっ、んっ」
――その違和感に、ようやく気づけた。
下腹部にある圧迫感。しかし、集中していたノーラの体を誰かが弄ったとか、そういった類のモノではない。
それは自然の理であり、人間ならある程度の時間を置けば必ず起こる衝動であり、体を冷やしたら加速する類のモノである。
ぶるり、と体を震えた。
肉体の感覚を意図的にそぎ落としていたため気づけなかった危険信号が、もはや暴力的な勢いでノーラの頭を揺さぶったのである。
「え、ちょ、待っ――え、ええっと、霊樹の皆さん、その、えっと、まっ……ッ、また後で――!」
何かしら失礼にならない挨拶をしてから、という思考をかなぐり捨てて駆け出した。
全力で、いいや、全力よりやや遅めで。今、全力疾走などしたら色々とまずい。
体の中でたぷんたぷんと揺れる水の感覚。誰もが何度となく体に貯め、その度に排出する液体。それがノーラの体を苛む。
「ふっ……く、うっ、ん……い、急がないと……!」
――まあ、要するに。
非常に、非常におしっこがしたくてたまらないのである。
祈っている間に時間がどれだけ過ぎたかは分からない。下腹部に溜まった液体の総量がけっこう長い間だったと暴力的な力で股下の水門を広げようとしながら教えてくれる。教えなくてもいいから少し黙っていてくれないだろうか。
冬場の風通しの良い倉庫、という場所も悪かったのだろう。冷たい大気はノーラを冷やし、トイレへの欲求を加速させた。
もしも普段であれば、とっととトイレを探しに行っていたのだろう。だが、幸か不幸か今日の集中は普段とは一線を画していた。体の警告すら聞き流してしまう程度に。
(幸いなのは――祈っている間に酷いことにならなかったこと、ですね)
祈る自分の足元から水たまりが広がっていく様子を想像し、赤面しつつ体を大きく震わせる。恥ずかしいのもそうだが、出しているところを想像したら尿意が更に加速したのだ。
ぎゅ、っとスカート越しに出口を抑えながら、ゆっくりと走る。加速した欲求はそろそろ暴力的を通り越して殺人的な領域に達している。それも、生命ではなく女としての尊厳とか社会的生命とかを容赦なく殺し尽くす類の殺人鬼だ。殺されるワケにはいかない。ええ、いかないですとも。
(でも、大丈夫。確かこっち方面に、ミリアムちゃんの店があるはず)
この街に慣れているワケではないが、大通りと行ったことのある店くらいは覚えている。
だから小さく安堵の息を漏らしながら移動し――
「ああ? 悪いね。昨日の襲撃のせいか石造りの家が崩れてな」
――道を遮るように瓦礫を撒き散らす建物と、そこで作業するエルフと冒険者たちの姿に、呼吸が僅かに止まった。
「あっちに用があるなら迂回して行ってくれ。悪いな、お嬢ちゃん」
「い、いえ、御仕事、おつかれ、さまです」
ノーラの様子に怪訝そうな顔をする作業員だが、それを気にしている余裕はない。
(うっ、迂回? どっ……どこを、どう、行けば……?)
ちらり、と大通りに繋がる路地に視線を向けるが、どこがどう繋がってミリアムの店に行けるのか全く想像出来なかった。
でも、ここからミリアムの店はそう離れてはいないはず。だから、路地を伝って行けばなんとかたどり着けるはず――いや。
(まっ、迷ったら――色々終わっちゃう!)
ここは博打を打つべきタイミングではない。道に迷って限界を迎えたら、そしてそこが人目がある場所だったら、そう思うととてもではないが賭けには出られなかった。
なら――目指すべき場所は宿。外から来た人向けの施設だから目立つ場所にあるし、道だって広い。今みたいに建物が崩れても、道全体を遮るってことはないだろう。
「大丈夫――あともう少し、問題ないですから……」
◇
(うそです、ごめんなさい、助けて)
スカートが皺になるとか、この姿は恥ずかしいとか、そんなことを考えている余裕は皆無であった。
尿意とは波があるもの。ざぱーん、と水門を叩かれる度に足を止め、落ち着いたらゆっくり歩き出すということを繰り返す。
なんであの作業員の人にトイレがどこか聞かなかったんだろう、と悔いるもののもはや後の祭りだ。
だが、悪いことばかりでもない。既に宿の入り口近くまで来た。後少し、あと少しである。
(しょ、食堂の方にトイレがあったはず――そちらに)
宿に入り、視線を食堂の奥へと向ける。
(あ、れ……?)
確かに、トイレはあった。
だが、そこに複数の人間が一列に並んでいたのだ。
(なんだろう、近くで珍しいモノでも売ってるのかな――?)
現実を認識したくないためかそんな思考をしてしまうが、本当はちゃんと分かっている。
並んでいる人々は瓦礫の撤去作業をするための装備をしている。恐らく、近くで作業をしている人がここに来たのだろう。
(な、ら――宿の、自室の、で)
踵を返し階段を登ろうとし――最大級の波がノーラを襲う。
「は、ぁ、あ、くっ、う、うぅううぅぅぅ……!」
必死に両手で抑え、歯を食いしばって、けれども僅かに漏れだした液体が下着を僅かに湿らせる。
それで理解する。もう、次は駄目だ。次、また波が来たら一秒だって耐え切れやしない、と。
だが、ノーラたちが泊まっているのは上の方だ。階段を登っている間に――というか、階段を昇るために足を上げると我慢が緩んでしまいそう。
「あの……大丈夫ですか? 体調が優れないようですが」
もう駄目なのか、そう思った時に声をかけてくる者が居た。
宿の従業員らしい、男性のエルフだ。涙目で一人振るえるノーラを心配して駆け寄ってきたらしい。
だが、もう返事する余裕も――
(あ……浮遊、床)
――従業員にチップを払えば風の魔法で移動させてくれるサービスがあると、聞いた、ような。
「あっ、ふゆ、床、お願い、しま」
片手を離して財布を探ろうとするが、真っ白になった頭ではどこに財布をしまったのかを思い出すことが出来ない。
「お金はいいですから、時間もないでしょうし早く載ってください。もうすぐですから、頑張ってください」
だが、ノーラがどういう状況なのか察したのだろう。半泣きで財布を探すノーラを制し、浮遊床へと誘導する。
おしっこを我慢していることを完璧に悟られた事実に顔が耳まで赤くなるが、もうそんなことを気にしている余裕などない。
浮遊床に立つと風の魔法で床がゆっくりと上へと登っていく。あまり速くないのは、ノーラの現状を見て振動を与えてはならないとエルフの従業員が察したためだろう。
それに対する感謝と、もうそんなことどうでもいいから早く部屋まで送り届けてという焦り。二つの想いを抱きつつ、両手をぎゅーっとスカートの奥にある門を抑えこむ。
「つい、――たぁ」
床の上昇が終わり、ようやく自室に辿り着く。
ポケットから鍵を取り出し、ドアに突き刺す。幸いに、先程の財布のように慌てるようなことにはならなかった。
「はあ――これで」
大丈夫、と。
そんな風に、体が緩んだ。
長く閉ざされ、僅かに痙攣していた水門が、こじ開けられるように開いていく。
(え、あ、違っ、まだ、駄目!)
慌てて力を込め、流れだそうとした液体を食い止める。
しかし、一度勢いづいてしまったそれは、もはや容易く止めることが出来ない。水門は、じわり、じわりと開いていく。
「……あっぐ、う、創造、神ディミルゴに、請い願う。失われ行、く命を守る力を、癒しの、奇跡、を。創、造神ディミ、ルゴに、請い願、う。獣の爪、牙から命、を守る、盾を、防壁、の奇、跡を、あ、あ、ああ、あっ」
それは奇跡を使うための祈りの言葉。神に力を借りる時に詠唱する聖句である。
無論、意味のある行動ではない。ノーラが無意識で最後に縋り付いたのが神官の奇跡だったというだけ。
そう、無意味。溢れ出そうとする水はもう誰も止められない。水門は今完全に開き、中から多量の液体を迸らせ――
(あ――れ?)
――るはずだった。
だというのに、スカートや床どころか下着すら湿った様子はない。
全身の力が抜けているというのに、溢れ出そうとする尿意の感覚だけをそのままに、漏れだした様子が皆無なのだ。
(ゆ……め?)
もしかしたら自分は既に尿を撒き散らして、その水たまりの上で現実逃避をしているのではないだろうか?
そう思いつつ、しかし体はゆっくりと部屋の中のトイレへと向かう。
その中で、ようやく気付いた。
自分の股の辺りを半透明な光が覆っているのだ。その光を触ってみると硬質な感触がして、金属の鎧とか盾とかを連想する。
「あ――もしかして、これ防壁の奇跡?」
人間の神官が扱える奇跡の一つ。命を守るため、敵の攻撃を阻むための光の防壁。それが防壁の奇跡だ。
ノーラはまだ使えなかったはずだが、今回の祈りで神へと繋がるラインが太くなり使える奇跡が増えたのだろう。
それを喜ぶ気持ちはある。
あるのだが――
「新しく使えるようになった奇跡の、最初の使用方法がこんなのなんて……」
頭を抱えてうつむく。確かに女の尊厳は守れたが、これ神官としては完全にアウトではないだろうか?
自分のことながら、さすがにどうかと思う。こんなの、絶対他人には話せない。
「ディミルゴ様には申し訳ないですけど、今回は助かりました、ということで」
ため息を吐きながら防壁の解除をしようとして、ふと、気付く。
「――――あれ、でもこれ、どうやったら解除できるんだろう」
使えるようになったばかりで、まだ制御の仕方などが全然分からない。
分かっているのは、防壁は今もそこに存在し、出口を完全に塞いでいるということだけだ。
さあ、とノーラの顔が青ざめた。
「うっ、く、うう、これどうしたら……おっ、お腹が、お腹がもうぱんぱんで――もう出していいのにぃ」
――そうしてしばし、ノーラはトイレの中でのたうつこととなる。




