3
プレクス学園の入学試験を受けるので休みをくださいと言ったら、店長はとってもいい顔であっさりと休みをくれた。後、役に立つのか役に立たないのかよくわからない人生訓もセットでくれた。
でもアルベールの料金は依然として俺持ちだ。あいつだけは絶対にゆるせん!
プレクス学園、正式名称プレクス魔法学園に訪れるのは実のところ初めてでは無い。入学に関しての敷居は高いが、学校に入る敷居はかなり低い。
その一つ理由の一つは学校が広大すぎて町との境目が解らなくなっているからだ。
必要になったら増改築していくと言うスタイルをとっていたが為に、その場その場で必要な建物を立てていった結果が、町の中に学校があるのか、学校の中に町があるのか全く不明な状態になってしまった。
民間人が入れないのはプレクス図書館ぐらいで、他にも細々とあるらしいが、メジャーなのはこれだけ、他の施設は一応入れる。入れるがあまり入らない方が良い。
「間に合うかなぁ?」
ネージュはのほほんと地図を回していた。その横をプレクス学園の制服を着た男子生徒二人が通り抜けていく。
女子の制服は深い緑色のブレザーで中々可愛い、男子のはどうでもいい。
さて、道を聞くべきなのだろうか?
プレクス学園の生徒達には未だ貴族至上主義的なところがあり、アルベールはその典型だ。さて、貴族至上主義な学舎に魔法不能者やそれに類する平民が入ったり道を尋ねたりしたらどうなる?
貴族様にあれこれ文句を言われるに決まっている。
なので、俺は最初からそうなりそうな場所には近づかない事にしていた。平民ならまだマシかも知れないが魔法不能者だとバレたら、俺を擁護してくれる人間などまず出てこないだろう。貴族様達からしてみれば俺など、道ばたに落ちている犬の糞と変わらない。
「どうにか間に合わせるさ」
「うん。頑張ってね。頑張らないと大変だよ」
「待ち合わせに遅れるとコルテさん何をするか解らんからな」
「ううん。私がこの世界をねじ曲げてでも到着させるから、世界がどうなっても知らない」 ……ちょっと見てみたい、それだけしてくれるならネージュの証明にもなるだろうけど、女神を悪魔に変えさせるのは遠慮してもらいたい。
「どうした? 息が上がってるけどそんなに急がなくても良かったぞ?」
俺は意地でコルテさんの研究室にまで探しついた。必殺技謝罪を使い貴族達から研究室を探そうとしたが、最初に道を聞いた生徒が平民で助かったよ。
「時間までまだ五分もある。まぁ良い入れ」
コルテの研究室は凄まじかった。
まず図書館を想像して欲しい。さらに理科室と、一般的家屋も足してみよう。
さて、そこで内紛がありました。
想像できたかな? それでコルテさんの研究室ができあがる。
コルテさんが詠唱すると、本によって椅子とテーブルが組み上がった。なおその場にある本で作るだけなので、部屋が汚いのはそのまま。
「テストって言っても、何も難しいことはしない。簡易式テストでね。アニマ結晶体に魔力を流して伝導性を調べるんだよ。と言ってもオーシュ君には解らないかな」
コルテさんは本の山をかき分けながら、水晶みたいな玉を発掘した。たぶんこれがアニマ結晶体なんだろうけど、正直言って不気味なので触りたくない物体だ。
玉の中では気体が浮いていてたまに玉から飛び出ていくが球体を保っている。その玉をテーブルの上に置くと、コルテさんは何も書いて無い紙を胸元から取り出した。
「んじゃコレに手をおけ、まずはオーシュ君だ」
俺は言われるがままに玉の上に手を置いた。
「魔法とか使わなくて良いんですか?」
「アニマ結晶体の方が勝手に使ってくれる、心配するな」
コルテさんが握っている紙に文字が浮かび上がってくる。
「魔力A++ 魔力伝導性A 魔力耐久性A 魔力範囲性A 魔力凝縮性A+ 長距離魔力A++ なんじゃこりゃ」
コルテさんは紙を投げ飛ばした。
「やっぱり駄目でしたか?」
Aとかいっぱい並んではいるけれど、平民でプレクス学園に通うのは天才の中の天才。しょせんちょっと良いぐらいでは太刀打ち出来るような場所では無い。
良いんだ。魔法が使えるようになっただけで、差別対象にならなくなったんだ。最高峰の魔法を学ぼうなんて俺には過ぎた願いだよ。
勇者? そんな事も昔はあったね。現状同居人が増えたぐらいしか実感無いよ。
「せっかくだからロリス君のを見せてやろう」
ゴミ溜めみたいな部屋の中から一枚の紙が俺の手元に飛び込んでくる。どうやらロリスのテスト結果らしい。
魔力A++ 魔力伝導性C 魔力耐久性C 魔力範囲性B 魔力凝縮性A+++ 長距離魔力B
「あれ? もしかして俺の実力めっちゃ高すぎ?」
「この数字がすべてと言うわけでは無い。所詮魔力その物を推し量っているだけでね。一部の魔法にのみ特価しているような魔力は、こういった測定方式だとうまく測定できない。これだけの数字が出ていれば、試験の点数が酷くても入学できるだろ。
もっとも、どれだけ酷くても学校に入れるつもりだった。ボクの学内政治力ってばとってもゴージャスだからさ。これぐらいなら出来る」
「そんな、適当でいいのかよ」
「そこは君が考える部分じゃ無いさ。どれネージュさんもやってみな」
ネージュが玉に触る。
……特に何も起こらない。
「おかしいな。ネージュさん氷の女神なのに、反応が魔法不能者と同じだぞ」
「私魔法は使えないよ。私が使うのは奇跡だからね」
ネージュが玉から手を離し、自分の手の中に花を作りあげた。
「だから魔法みたいな事は出来るんだ。魔法として認識されないのは初めて知ったよ。でも魔法が使えないはずなのに魔法が使えるって方が絶対カッコイイよね!」
興奮気味に語るネージュ。
いや、その場合は素直に奇跡使った方がカッコイイと思うよ……
「テストに反映されないけど、魔法は使える……入学どうやってさせるんだこれ?」
「私は別に入学する気ないよ。魔法使えないのに魔法の学校に通ってもねぇ、でもしたいことはちょっとある」
ネージュはコルテに近づくと耳打ちをする。
「あんたってば見た目に似合わずクレイジーだな」
「そうかな?」
「やって欲しいってなら遠慮せず全力全開いかせてもらうさ。だから頑張ってくれたまえオーシュ君」
「どうして俺に話が向けられるんだ?」
「そのうち解るさ」