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 嫌な予感は当たった。

 アルベールの未払いだった料金600グリがなぜか俺の払いになってしまった。

 正確に言えば予感じゃ無くて、予期できた事実だけどね。

 ロリスから話を聞くと本物のアルベール家のお坊ちゃんらしいので、今度あったら利子込み込みでたっぷりふんだくってやるぜ!

 ………

 あぁ、女の子については色々複雑になってしまった。

 いや、ある意味では非常に簡単な話だ。事象の説明だけなら魔法に詳しくない俺にだって一言で出来る。

 しかし、その事象を成立させるためにはいくつもの不可解な問題を解決しなければならない。それは氷の女神ネージュにだって難しい。

 話は簡単だ。

 俺が助けた女の子、アンジェ マルティルは俺が前に夢の中で助けた女の子だ。

 俺はその場で『人違いです。勘違いです。思い違いです』とロリスっぽく否定をしたのだけれど、パスタを貪りながらネージュが近づいてきて。

「彼女を一度おうちに招待しようよ。きっと楽しい話が聞けるよ」

 と要らんことを口走ってしまったが為に、アンジェを家に呼ばなければならなくなってしまった。


 そう言うわけで我が家の夕食にアンジェをご招待した訳だ。

「そうしてオーシュさんは私に名前を語ってその場を去って行きました」

 アンジェはうつむきながら俺の夢の一部始終を語ってくれた。俺が夢で見た内容と何から何まで一緒だった。

 むちゃくちゃ恥ずかしい。

 何で人を助けたのにこんな罰ゲームを受けなければいけないのでしょうか? せめてロリスとネージュの居ないところでやってください。

「私の兄さんがそんなに恥ずかしいマネをするわけ無いのです」

 優しさが心に突き刺さる。

 ロリスごめんね。兄さんその恥ずかしいマネを凄い格好いいと思ったし、むしろもっと見たいとすら思っていたんだ。

「兄さんどうしましたか? リゾット美味しくないですか?」

「いや大丈夫オイシイヨ」

 なお夕飯はリゾット、我が家の夕食は交代制(ネージュ除外)で今日はロリスのお手製。ついでに美味しいかどうか全然わかんない。

「それ以上に兄さんが魔法を使えるようになったのは極々最近です。使える時期とアンジェさんを助けた時期が一致していません」

 俺がアンジェを助けたのが一週間ほど前だ。

 対して、俺が魔法を覚えたのが五日ほど前。

「だからオーシュは前から魔法が使えるんだって」

 ネージュがリゾットを食べながら主張する。

「ネージュがそう言っても俺は使えなかったからな」

「ちがいますー」「オーシュさんは」「兄さん」

「この際アンジェを助けたのは誰かなんて話はどうでもいいさ。少なくともボクにとっては」

 しわがれた声が他の声を遮る。

 夢の中に出てきたのはアンジェだけでは無い。俺がボコボコにした男達……では無く、アンジェを助けた長身で骨みたいにやせている男。

 それがしわがれた声の持ち主コルテ レーヌ。

 プレクス学園の教師であり、学校内での地位はかなり高いらしい。

「それよりも大事なのはネージュの事だ」

 ネージュはアンジェとコルテさんに自分のことをさらっと全部話してしまった。自分がネージュであることを秘密にしろとは言われてはいなかったけど、こうもあっさりと他人に話してしまうのにはさすがに驚く。

「あなたは本当にネージュなのか?」

「氷の女神ネージュかどうかは私にも少し疑問ですが、奇跡を起こしたのは本当です」

「ロリスちゃん信じてくれてなかったの?」

「まぁいいさ。それは追々調べてやるよ。オーシュお前プレクス学園に入れ」

「今度そちらに伺いに行けば良いんですよね?」

「いや、入学しろ」

 プレクス学園に入る方法は色々あるが、その敷居はすべてが高い。

 貴族であったり、成績優秀であったり、特異な魔法の才能だったり、あるいはそれらの複合。少なくとも、学校に行ってなくて魔法覚え立ての平民が行くような場所じゃ無い。

「形式上テストは受けてもらう形になるが、ボクが適当に書いておく。ロリスの兄さんなら、そこまで酷い結果を出すとも思えん」

「アンジェさんを助けたからと言ってそこまでしていただかなくても」

「何を言ってるんだ? 実験材料は手元にあった方がいいだろ?」

 ……この人は何を言ってるんだろ。

「辞退させ――」

 すべてを言い終わる前にネージュが俺の口をふさいだ。

「何するんだよ」

「プレクス学園には通って欲しいの」

「どうして?」

 学校に通うのも有りかなとは思っていたけれど、実験動物としてプレクス学園に行ってもしょうが無いだろ。そんな待遇なら普通の学校に通うさ。

「勇者に成るためにはプレクス学に行ってもらわないと困るの」

「もしかして――」

 俺が全部を言い終わる前にネージュは頷いた。

 もしかして、最初から俺をプレクス学園に入学させるために、彼女らを家にまで招待させたのか?

 俺はそう言いたかった。

「さて、入学資料は置いていこう。さて、ボクは帰るけどアンジェ君はどうする?」

 アンジェはこくこくと頷いている。

「どうせこの話はどうやっても片付かない。本当に助けたのかどうかを知るためにはオーシュ君の魔法を調べる必要があるからね。じゃあ早速明日からテストをしよう。待っているよオーシュ君」

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