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 俺のバイト先、月影亭は一般的な飲食店だ。プレクス魔法学園が近いと言う立地なので客は学生が多い。その学生を喜ばせるために大盛りで値段も安いのが特徴と言えば特徴だろう。

 バイトの内容は多岐にわたる。

 皿洗いは当然だし、ウェイターだってする、料理も当然だし、会計もする。

「お客さんちょっと困りますね」

 接客だって当然仕事だ。

「他のお客様の迷惑になるような事は」

 例えこの後、怒鳴られたあげくに理不尽な展開が来ると解っていようとも、バイトには立ち向かっていかなければいけない瞬間があるんだよ!

「あぁ?」

 眼鏡をかけた男はガンをつけてくる。素行が悪いと言うわけでは無く、むしろ良いとこの生まれなのだろうと思う。

「お前は関係無いだろ、さっさと失せろ」

「その子は内の店の売り物でもありませんし、ナンパをする場所でもありません。他のお客様の迷惑になる行為はおやめください」

 男が絡んでいるのは同じくプレクス魔法学園の女子生徒だ。腕に本を抱えて、完全に萎縮してしまっている。

「こんなとこで働くド底辺の魔法不能者が、俺にたてつくとは良い度胸だな」

 俺だってこんなの無視したいからさっさと帰ってくれよ。

 店内をきょろっと見回してみても、好機の目を向ける人間が居ても助けてくれそうな人はいない。

 まぁ俺だってこんな状況に突っ込まないから当然だと思うよ。

「どうした? それで終わりか? 用が終わったらさっさと失せろ」

 男はまた女の子に視線を戻す。

 店員として客を殴るわけにはいかないしなぁ。と言うか客じゃ無くても魔法使いなんて殴ったら、俺が一方的に魔法で殺されるだけだろ。

 固有魔法はあるけど男をスライムまみれにさせて助かるとも思えないしな。何よりスライムまみれにするなら女の子の方が……

 男は突如として俺をぶん殴った。

 拳は俺の胸に当たるがそこまで痛くは無い、むしろその衝撃でぶっ倒れた結果、背中がテーブルに当たってめっちゃ痛い。

「今回は一発だけで許してやるよ。このカルカソンヌ アルベール様に感謝する事だな」

 アルベールってこの辺りでも有名な貴族様じゃんかよ。何でこんな大衆向けの食堂に居るんだよ。

「何をしているですか?」

 その声に男と俺は同じ場所を見る。

 ロリスだ。……バイト先にはあんまり来ないようにって言ってあるんだけど、今回ばかりは助かった。

 さすがに同じ学校の女学生にまでは手を出さないだろ。

「おやおや、ロリス嬢ではありませんか、今日もいつもと変わらず可愛らしい。それにしてもこんな魔法不能者の下等種にまで手を差し伸べるとは、ロリス嬢は心まで澄み渡る天空のようにお美しいようで」 

 ……こいつロリスにまで媚び売ってるのか。

「確かにこの男は下等種でどうしようも無い男です。ところで、この男の名前はオーシュ ブランシェ、私、ロリス ブランシェの兄さんです。その男と同族で下等種で下劣な私にまでおべっかを使ってくれるなんて、アルベールは澄み渡る天空のように頭が空っぽなのですね」

「い、いやそう言うわけではなくて」

「失せろ、ゲス野郎」

「……ロリス嬢に免じて今回は許してやろう」 

 カルカソンヌはそう言い放つと店から去って行った。

 あれ、無銭飲食じゃね? むしろお店的には被害悪化してるよね?

「兄さん何やってるのですか、やれやれ、私がいないと喧嘩で勝利することも出来ないなんて不甲斐ないと言うより間抜けと言った方が正解です」

 ロリスは俺に治癒魔法を使う。痛みと腫れが引いていく。

「ごめん。にしても、お前もあんなのと知り合いなのか」

「女には手当たり次第話しかけてます。まるで発情期の猫です」

 萎縮して縮こまっていた女の子が俺たちを見上げる。黒い髪のおかっぱの子で、ロリスと同じぐらい小さい。

「あ、あのありがと!」

 女の子が頭を下げてお礼をしようとしたところ、思いっきり頭をテーブルにぶつけていた。

 声にならない声を叫びながら頭をさすっている。

 ……この子大丈夫だろうか?

 あと、どっかで見たことあるような気がする。たぶん気のせい。

「あぁ礼はいらん、結局ロリスが解決しちゃったし」

 結論だけで言えば俺は殴られただけだ。その傷もロリスが治してしまった。

「兄さんが絡まれていなければ無視したので、兄さんにお礼を言ってください」

「にしてもロリスどうしているんだ?」

「兄さんを監視するためです……というのは冗談で、ネージュさんに兄さんがどこで働いているの教えてと言われたので連れてきました」

「ネージュは?」

「あっちでもりもり食べてます」

 ロリスが首を向けた先にはネージュが食事をしていた。先ほどの騒動など全くなかったと言いたげにパスタを貪っていた。

 そう、食べているんじゃなくて貪っている。胃袋の女神様ですか?

「あの、ありがとうございます」

 痛みも引いたのか、ちょっとだけ首を動かして女の子はお礼をした。

 女の子は俺の事を見つめる。ちょっと顔が赤くなってる。

 あれ、俺モテ期到来したの!?

 助けた事から始まるラブストーリー! ボーイミートゥガール! 勇者などゴミ箱に投げ捨てろ!

 やれやれ、モテちゃうのもつらいよね!

「またお会いしましたね。オーシュさん」

 女の子はうつむきながら消えそうな声でつぶやいた。

 嫌な予感しかしない……


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