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おおよそロリスがどこに行ったのかなんて見当がついていた。友達が少ない、あるいはいないロリスにとって友人にかくまってもらう選択なんて無い。
自室に引きこもってるなら、根気強く待てば良い。
家に居るのが我慢できないような時、ロリスの居場所はたった一つしか無い。
「帰るぞ」
街灯が届かない町外れ、俺はロリスをカンテラで照らす。ロリスは墓石にもたれかかって俺の顔を見ようともしない。
「嫌い嫌い嫌い、みんな嫌い、大っ嫌い!」
ロリスの言葉に意味なんて無い。叫び声そのものがロリスの感情だ。
後ろも振り向かず、ロリスは手をばたばたと振って近づけさせないようにしていた。
俺はしょうが無いので、ロリスの手の当たらない位置に座った。
本来なら静寂であるはずの墓地にはロリスの声だけが響いている。
俺はただ待ち続ける。
ロリスの泣き声が徐々に引いていく。
「帰るぞ」
「嫌です。私はパパとママと一緒に暮らすので、兄さんはネージュさんと暮らしてください」
墓石の冷たさは死の冷たさだ。そこに生前のぬくもりを求めたところ、熱を奪っていくだけだ。
「ネージュが嫌いなのか」
「いいえ、ネージュさんの事は好きです。ダメダメな所も多いですが、憎めるような人では無いです。だからもっと嫌いです。
兄さんがネージュさんと仲良くしているのを見ているのがたまらなく不快です。最悪です。死ねば良いのです。
そうやってネージュさんの事を嫉んでいる自分が一番嫌いです。こんな最低な自分が兄さんと一緒に居る価値なんて無いのです。
いいえ、それすらきっと言い訳で、本当はそんな自分を兄さんに見せるのが嫌だっただけ、
嫌われたくないから、
こんなに嫌われることしかしてないのに嫌われたくないからです」
ロリスは俺に顔を向けた。
泣きじゃくっていて、ぐちゃぐちゃな顔だった。
「兄さんはロリスが嫌いですか?」
「愛している」
俺は即答した。
迷う事なんて無い。こんなに兄の事を思ってくれるなんて、俺としては今すぐ世界中に自慢したいぐらいだ。
「でも、私はネージュさんと比べておっぱい大きくないですし、そこまで上手に魔法使えませんし、女神でもありません、嫉妬もします。」
「俺には罵詈雑言で管理してくれる妹が必要なんだよ。ほら、家に帰ろう」
「……でも、でもでも」
「実はここ最近怖い夢を見るから、一人で寝るのが怖いんだ。あぁ、誰か一緒に寝てくれる妹は居ないかなぁ」
「……死ねば良いのです」
ロリスは奇麗な笑顔で罵倒した。
「兄さんは全妹の敵になりたいのですか? むしろすでに敵ですね。今すぐ逮捕されて、性的思考を規制されるべきですね」
あれ? これでロリスを連れ帰って一緒のベットで眠ってめでたしめでたしじゃないのか?
「そこまでか!」
「しょうが無いので、本当にしょうが無いので、私が保護観察してあげましょう。優しい妹に感謝することです」
俺はほほえむと共にロリスの手をつかんだ。
朝起きると、隣に妹が寝ていた。
すーすーと寝息が当たる。
なお眠るときは間違いなく、一人で寝ていた。妹をだっこしながら寝れるぜ! と期待していたのに、思いっきり打ち砕かれてしまったので、間違いない。
さて、これは一体どういうことなのだろうか、寝るときのピロートーク的なイベントも無しに妹と一緒に寝た事実だけ残されても困るんだけど!!!!!!
『お兄ちゃんのお嫁さんになる』みたいな発言がロリスの口から出てくるとは全く思わないが、『やれやれ、駄目な兄さんですね』と甘えた口調で言ってくれることぐらい希望したって罰は当たらないと思う。
昔はこんな事を思うまでも無く一緒に寝ていたんだけどなぁ。
ほんと、変化ってのはいつも俺を待ってくれない。
両親のこと、ネージュのこと、何時だって突然来て俺の周りをぐちゃぐちゃにしやがる。
「兄さん」
そんな事で興奮していたら、ロリスが目を覚ましてしまった。
この時点でようやく俺がすべきだったことが解ったよ。
ロリスの顔をしっかり凝視すべきだったんだよ。たぶんこの瞬間を逃したらロリスの寝顔を寝息が当たる場所で見ることは出来ないだろうからね。
これはきっと神様(あの駄女神は除外)が俺に与えた罰だ。
現状に文句をつけるのでは無くて、今を精一杯生きろと言う警句を与える為の罰なんだ。
ロリスは俺の事をじとーっと見つめる。いつものロリスだ。
「ところでロリスさんはどうして俺のベットに居るのでしょうか?」
「死ねば良いのですとは言いましたが、一緒に寝ませんとは一言も言ってませんが」
「………マジか」
「マジマジ」
………すぐに寝るんじゃ無くて、ロリスが俺のベットに入り込むまで頑張って起きていれば良かった!
「兄さんを監視するには一番近い場所に居ないといけませんから、しょうがないのです」
ロリスはそこまで言うと、ベットからのそりと抜け出した。
「ところで兄さん、私ネージュさんと友達になれるのでしょうか?」
「ネージュの事好きなんだろ」
「はい」
「なら大丈夫だろ」
俺はロリスの頭をなでた。