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 ユイットを討伐し、精神と記憶の聖杯を取り戻し、バスティアも元に戻り、めでたしめでたし。

 とはいかない。

 脅威は去ったが、脅威が去るのと問題が解決するのは別の話だ。むしろ問題は山積みだった。

 とりあえずバスティアに怪我は無かった。あの後すぐに起きたかと思うと、俺をベチベチ叩いていたからとっても元気。

 気を失ってる人をおんぶするのは普通だし、その時におっぱいの感触を楽しむのは不可抗力だと言うのに何で俺は叩かれ無ければいけないのでしょうか?

 けが人は少々出たけれど死者は出なかった。カルカソンヌもユイットから聖杯を奪い取られたおかげで死んでいない。これから襲撃、窃盗、末裔達に関する話をひたすら聴取されるから、死んだ方がマシって可能性はある。


 物的被害はカルカソンヌ邸とアリーナの舞台。

 とりあえず俺に要求されないらしい。勇者借金苦に自殺とか笑えないので本当に良かった!


 バスティアは騒動の責任を取ってネージュ派閥の党首を辞職。連鎖的に俺の決闘の話も消えた。辞職したときのバスティアはすがすがしい顔をしていた。何人かのネージュ派閥の人間はバスティアを追って辞職しようとしていたが、『私は君たちが思うほど強くない』と言って止めていた。強くないバスティアを好きになってくれる人が増えますようにと俺は祈る。


 アンジェとコルテに関しては非常に申し訳の無いことをした。

 カルカソンヌ邸にあった資料は全部俺がぶっ壊したからだ。

『君とバスティア嬢がボクの研究室に入れば不問にしてやる』

 ……もちろん入りました。


 ロリスは仕事が増えたと愚痴っている。俺に対する罵詈雑言が一切無くて、あまりにも寂しいから聞いてしまった。

『俺の心配してくれないの?』

『聖杯から体ができあがるのを目の前で見て、一体何を心配すれば良いのですか? 人間かどうかですか?』

『そう言うのでも良いさ。俺がバケモノだったらどうするんだよ』

『バケモノだろうと、変態だろうと、犯罪者だろうと、聖杯だろうと、勇者だろうと、兄さんは兄さんです。ロリスの兄さんはどうであろうと兄さんだけなのです』

 俺の妹に歪み無し。


 さて一番肝心なのはネージュだ。あいつあの日以降用事だ何だと言って極力俺から逃げてきやがったからな。

 しょうが無いので、俺は両親の寝室、現在はネージュの寝室で三時間ほど待ち伏せしていた。

 すでに時間は深夜でよい子も悪い子も寝ている時間だ。

 音も立たないほどゆっくりとドアは開いた。

 ネージュと俺の目が合ってしまった。

 そのままドアをしめようとした。

 許すか!

 俺はドアノブをつかむと強引に開いてネージュをベットに投げつけた。

 ネージュは怯えた表情をしていた。シーツをぎゅっとつかみ、何かに耐えようとしている。

「ちがうもん! ちがうもん! あんなの数に入れちゃ駄目なの!」

「あぁキスの事か?」

 いやあれは本当にビックリした。キスもそうだけど、背中から羽生えたり、武器生み出したり、女神が聖杯を使うと別次元の力を発揮するみたいだ。

「キスじゃないの! あんなのキスじゃないの! ファーストキスは町明かりの見える丘で、二人っきりでキスするって決めてるんだから!」

「ファーストキスだったのか……」

 こっちは気にしないようにしていたのに、そうやって掘り返されると俺まで恥ずかしくなるだろ!

 お互いに視線を合わせないようにしながら、ちらちらと相手の反応を疑ってしまう。

 そんなのを一分ほどやった後、俺はネージュの隣に座った。

「なぁあのスイッチって押すとどうなってたんだ?」

「……聞かない方が良いと思うよ?」

「……聞かせてくれ」

「オーシュの体から聖杯を抜き取るようになってた。たぶんそうなったらオーシュ死んでた。あんなの押すような勇者だったら、この先助けるべき人間を殺しそうだもん。だからあたしは鬼になってそう言うスイッチにしたの。

 でも殺す気は無かったんだよ。聖杯を回収して、オーシュから勇者の契約を解約するつもりだった。

 でもあんなに聖杯と密接しているなんて思わなかったから」

「ほんと聞かなきゃ良かった」

 背筋が凍り付きそうだよ。

「俺の心臓に入ってる聖杯ってどうなってるんだ?」

「こんなこと初めてだからあたしも推測しか言えないけど、聖杯と融合してるみたい。あたしは体を聖杯で強化しているだけだと思ってたんだけど、聖杯が体を蘇生してたから、たぶんオーシュは聖杯になってる。聖杯になってるから、あのとき、その、だから、その」

「偶然唇が触れてしまって聖杯の力がネージュに渡ったんだな!」

 そう、あくまで偶然であり事故であってキスなんて破廉恥な行為ではありません。

「そう、そう、そうなんだよ!」

 ほらネージュだってそう言ってる。女神様の言うことは絶対です。

「俺を勇者にしたのも体に聖杯が入ってるからか」

「うん。普通あんな状態だと死ぬもん。その時点でもうある意味勇者だよ。でもオーシュで正解だったよ。これからもお願いしますあたしの勇者様」

「はいはい」

「ひどーい」

「聖杯に関してだとさ、俺が魔法不能者だったのは何でだか解るか?」

 聖杯を体に突っ込まれてる時点で、聖杯の力を魔法みたいに使うことは出来るはずだ。俺の固有魔法はどう見ても誕生と終焉の聖杯から生まれる原始の水だし。

「これも憶測になっちゃうけど、聖杯の力が十分に発揮しているときと、していないときとで記憶が別になってるからだと思う。アンジェを助けた時も聖杯モードの時だったからオーシュは記憶が曖昧になってて夢を見てたって思ったんだよ。たぶん」

「そういや契約する前から俺が魔法使えるって主張してたな」

「誕生と終焉の聖杯を体に入れてるんだから、魔法が使えない方がおかしいよ。蘇生と破壊に関してならあたしよりも強いはずだよ」

「そうだ。最後に一つ。これは疑問じゃなくて、答え合わせなんだけどさ。前にさ『あたしはすでにヒントを言ってるよ。あるいは言ってないことがヒント』って言ってただろ」

「もう決闘が終わった後だから答え会わせしなくても解るでしょ?」

「あぁ、今ならよくわかるよ。聖杯を賭けた決闘をすることが大事であって、決闘で勝つ事なんかどーでも良かったんだな」

「うん」

 むかついたので頭をつかんで揺すってみた。

「や~め~て~髪型崩れちゃう~きもちわるくなっちゃう~」

「バスティアとの二週間意味無かったのか」

 知ってたら絶対女装しなかった! もう女装なんてしない! 絶対にしない!

「意味はあったよ。オーシュはバスティアを助けたんだよ。暴力的な脅威を打ち倒すのが勇者だけど、孤独の絶望から救うのも勇者だと思うよ。少なくともあたしの勇者様は、そんな勇者でとってもカッコイイんだ。だから大好きだよ」

 無垢の笑顔が俺の前で咲いた。

「ちがうもん! ちがうもん!! 好きってそう言う意味じゃ無いんだから! お友達的な好きだもん!」

「……俺、寝るわ」

「違うっていってるでしょ!」

「俺明日早いんだよ。お前と違って常識的な時間に生きてるからな」

 そう、明日は動物園でのデートだ。




 今日と言う日は新しい船出の日だ。

 なぜならこれからオーシュとして初めてバスティアとデートするからだ。服装バッチリ、時間もバッチシ。

 しかし動物園の入り口の時点ですでに俺の計画は破綻していた。

「二人きり、と言う話だったが、お前は私との約束を違えるふしだらな男だったのか?」

 バスティアが断鉄の女と呼ばれていた時に戻っていた。

 見た目は完全にオリヴィアモードなんだよな。真っ白なワンピースを着ていて、少女趣味っぷりがネージュと良い勝負だ。

「俺だって聞いてないよ!」

「私だって聞いていません。私はただ、ネージュさんと、アンジェさん、コルテ先生と動物園に行こうとしていただけです」

 どうやらロリスには筒抜けだったらしい。

 ロリスめ、お兄ちゃんの勇者と言ったらやっぱりハーレムだよね計画を妨害する気か? ハーレムといえども同時に四人も相手に出来ないし、個別撃破は戦略の基本だろ。 あぁでも、ロリスがお友達を連れて動物園に来ているなんてお兄ちゃんとしてはとっても嬉しい。でも許せない。でも嬉しい!

「ここまで来たらみんなで見に行こうか」

 まぁいいや、今日はハーレム状態で動物園、ぐへへここは女の園だったのですね。ぐらいで勘弁してやろう。

「んじゃ入ろうか」

 そして俺たちは動物園に入っていった。


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