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 アリーナはプレクス学園の生徒たちが模擬戦闘用に作られた施設であり、闘技場として使うことはかなり希である。

 本来は事前申請とかとても面倒らしいのだが、バスティア自らの威信や、ここ最近起こっている魔法使い連続襲撃事件から目をそらさせる為に、かなり大々的に行われることになっていた。

 手元にある目録を見ると、とりあえず俺とバスティア戦があって、その後は四大女神対抗戦が待っている。

 おかげで本来は授業中の時間だと言うのに観客席には人がいっぱい。この闘技場だけで二万人は収容できるので、明らかに学園外の人間も来ている。

 決闘はいつからお祭りになったのでしょうか?

 その答えを知っていそうなバスティアは、反対側にある待合室でただ静かに試合が来るのを待っているのだろう。

 こっちの待合室はと言えば……

「あの聖杯を試合中に強奪して力を逆に使うと言うのはどうでしょうか」

 これでも大分パワーダウンした発案なんですよ?

 最初は『ロリスが殺します』だったのだから……ロリスにネージュからもらったスイッチの話をしなくて本当に良かったよ!

「グラウンドにあるから、手に取ることは出来るだろうけど、警備員している生徒たちをどうするんだよ」

「殺します。失礼、天に召されてもらいます」

「表現を柔らかくしたところ、ロリスの性格までは柔らかくならないからな」

「ブラコンのロリスに言わせれば、兄さん以外の事はハッキリ言ってどうでも良いのです。決闘など無視して逃げるべきです」

 それも何度か考えたさ。この決闘は俺が望んだ事じゃ無い。ネージュが望んで起こしたことだ。

「でも、女神様に認められた勇者だからな。逃げるわけにはいかない」

「私にとって大切なのは兄さんです。勇者では無いのです。勇者になるには女神に認められれば成れますが、私は兄さん以外の人間を兄さんとは絶対に認めません。私の兄さんであると言うことは、勇者であることよりも意味のあることだと理解すべきです」

「ロリスの兄さんは決闘をしたあげくにしっぽを巻いて逃げるような男でしたなんて、どうやって妹に顔を見せれば良いか解らないだろ、行かせてくれ」

 俺は笑いかけながらロリスの頭をなでる。

「ずるいのです。凄くずるいのです」

「あと、決闘に逃げるなんてダサすぎてモテないだろ」

「……しねばいいのです」

「行ってくる」


 扉を開けて、アリーナに向かう途中ネージュとそれを監視する生徒が待っていた。手錠と首輪がはめられており、普通の人間なら逃げ出せない状態になっているが、女神様まで拘束できるのかどうかは不明だ。

 ヒキコモリ専用の部屋でも与えた方が拘束できるんじゃないか?

「ねぇねぇ、奴隷ルックも可愛くない?」

「……死ぬかも知れないのにそんなこと言ってる場合かよ」

「オーシュには女神がついてるんだから、勝って当然だよ!」

 ふふんとすまし顔の女神様、ただし勝利じゃなくて氷と知恵を司る女神だし、勝利をくれるどころか、苦難をくれる。

 まぁでもこいつの世話になったのは間違いないか。

「スイッチありがとう。奴隷ルックも悪くないぜ」

「どもどもー」

 にへへと笑うネージュを横目に俺はアリーナに上っていく。




 俺がアリーナに出ると大音量の歓声が待っていた。よくよく聞くと殺せだの死ねだのって罵声も聞こえてくるな。

 女神に選ばれた勇者と語る不届き者、それが俺だ。

 決闘と言う名の公開処刑。

 彼らが見たいのは戦いでは無く一方的虐殺だ。

 エンターテイナーならその瞬間を見せないのは駄目だろうが、俺は勇者だ。面白くしたいなら、後で好き勝手に脚色すれば良いだろ。

 一歩一歩戦いの舞台へと階段を上る。

 バスティアが俺を見ている。

 無表情で何を考えているのか俺には解らない。

 お互い舞台に立つと、会場は一瞬の内に静まりかえる。

 決闘のルールは簡単だ。負けを認めさせるか、相手が意識を失うか、死ぬか、そのどれかだ。基本的に禁止事項は無い。あえて言うなら、立会人が開始の合図を言う前に攻撃をしたらいけない。

 立会人は生徒会長であり、フレム派閥党首のスダン ベルが行う。

 本来は武器の指定をするのが通例らしいのだが、あいにく俺は武器なんて使ったことが無い、そのため何も指定しなかった。そのためお互い好きに武器を使う、変則的手法がとられることになった。

 スダンの手から剣が渡される。ロリスに『何使っても変わらないはずなので、勇者っぽい剣にするべきです』と言われたからだ。

 同じくネージュの手にも槍が渡される。フェルディナンド家に伝わる由緒正しい物らしい。

 そしてスダンは舞台から降りて、賭けられている者達の隣に立った。

 一つは精神と記憶の聖杯。この聖杯が一般に公開されるのは初めてで、これを目当てに来た観客もそこそこいるはずだ。

 細かい装飾の施された銀製のワイングラスにしか見えない。

 その隣に置いてあるのは魔法道具の人形だ。人形と言っても手足もついていない板に、魔方陣が描かれているだけで人形らしさは無い。本来は戦闘中のダメージを肩代わりしてくれる道具で、今回は俺とネージュの代わりとしておかれている。

 あれがおかれている理由は二つ。一つは俺があそこに座るわけにはいかないのと、ネージュが美人だと知れ渡っているので出し惜しみをしたい。と言うことらしい。

 あとその近くに断頭台もあるのはどういうこと?

 命がけの決闘だから殺しても法的に何も問題無いし、こんだけ観客を集めてるんだからそりゃあるんだろうけどさ。

 公開処刑ショーポロリもあるよはちょっとね……死因は腹上死にするって決めてるからな。ここで死ぬわけにはいかないんだよ!

 お互いに武器を構える。

「始め!」

 スダンの声が響き渡る。


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