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家に帰るとネージュが料理を作り終わり、皆の帰りを待っているところだった。
「すまんネージュ、俺、勇者になれないかも知れない」
俺はネージュに全てが露呈してしまったことを話した。
「まだ、決闘は始まってないよ! ファイトだよ!」
「いや、終わりだ。俺の実力じゃ勝てない」
素養として俺の方が高いのは間違っていないのだろうが、バスティアは学年上位でありさらには聖杯の力まで使っている。
「解った」
ネージュはまた宙から物体を取り出しテーブルにおいた。
手のひらサイズのスイッチだ。
「このボタンを押せば、必ず決闘で勝てるよ」
「……今までのバスティアとの二週間は何だったんだ? 女神ってつければ何でも許されると思うなよ!」
「女神だから許されるとは思って無いよ。 可愛い女神だから許されるとは思ってる!」
「タチの悪さが半端じゃねえ!」
「うん、少し元気になったね」
どうやらネージュなりに俺を元気にさせようとしていたらしい。元気になるよりも疲れが大きいので気持ちだけ欲しい。
とりあえずデコピンだけ軽くしておいた。オーバーにデコをさすっているけど、力は入れていないので痛くは無い。本当に痛くありません。
「で、話を本題に戻すと、私の力で人間の運命をねじ曲げる事は難しくないの。今からオーシュ君をオーシュちゃんに変えるぐらい簡単なんだから」
「それで、このボタンを押せば良いんだな」
「うん。押せば勝てるよ。ただしバスティアちゃんは死ぬ」
「はい?」
「運命を変えるの。ボタンを押せば明日の決闘でバスティアちゃんは死ぬって運命に書き換える。そうすればオーシュは助かるし、聖杯も手に入る」
「聖杯だけ手に入れるのは? 別にバスティアを殺す必要なんて無いだろ」
「勝利の女神は火の女神であるフレム姉さん。氷の女神である私の管轄外なの。だから殺す運命に書き換えて勝利できるようにするだけ」
そうか。勝利するために殺すのでは無くて、殺す事によって勝利するのか。あくまで勝利は副産物であり、このスイッチの目的はバスティアを殺す事にある。
「勝たないとどうなるかは知ってるんだよね?」
俺もネージュも命を賭けている。不届き者として公開処刑をしたっておかしくない。いや、別にそんなことをするまでも無く、決闘で死んでいる可能性だってある。
「押すかどうかはオーシュ君に任せるよ。意思を込めて押さない限り効果は発動しないようになってるから誤作動の心配はしなくて大丈夫」
俺はネージュからスイッチを受け取ってしまった。
「兄さん失敗です」
夕飯を食べた後、もはや恒例になってきた俺とロリスの家族会議が始まる。今日はネージュも一緒で、ネージュとロリスは二人して俺のベットに腰をかけている。
「バスティアに俺の正体がバレた事か」
「はい。まさか兄さんが女装して町を歩いている変態であることが、カルカソンヌにバレているとは思わないのです」
「ちょっと待てよ! それだと俺が喜んで女装しているみたいだろ!?」
「違うのですか?」
違います。
「それにしてもどうしてカルカソンヌが俺が女装してバスティアに近づいていたのを知っていたんだ?」
「それが解らないのです。聞かされたバスティア先輩もカルカソンヌを馬鹿にしていましたし、『貴様がそこまで言うのなら確認だけはしてやろう』とかなり消極的でした」
「いや、ちょっと待てよ。まず何でカルカソンヌがリリアナを知っているんだ?」
カルカソンヌがナンパしていたのがきっかけでバスティアと友達になれたが、それ以降カルカソンヌは関わって無いだろ。
一体どこで?
「リリアナの存在自体は前に末裔達が襲撃した時の情報を調べれば解りますが、それでも報告書には平民女性としか記述されていないはずです。そういえばカルカソンヌはリリアナと確かに発言していたです。おかしいですね」
「偶然知ったとかじゃなくて、俺の事を調べていたのか?」
そんな事より貸しっぱなしの900グリ(利子マシマシマシ)を返せよ。
「どうやらそうみたいですね。もしかしたらロリスを調べていた可能性もあります」
「なぁネージュもせっかく居るんだから何か無いのか?」
ついでにネージュはベットで横になって目をつぶっていた。
「私、頭使うの苦手」
「お前知恵も司ってるんだよな?」
「それ、そう言う設定なんだ。ほら、今時の女神は色々な事しないと信仰心が得られないから」
デコピンの構え、構えで止まったのはロリスがデコピンをしたからだ。
「うぅ……こんなデコピン魔ばかりの部屋にいられるか! 私は部屋に引きこもらせてもらう!」
「どうぞ」
「止めてよ! 今日はみんなと居たい気分なの!」
どっちだよ……
「……カルカソンヌについて考えても今のところは無駄みたいですね。今はロリス考案の対バスティア先輩戦の作戦を頭に入れてください」
ロリスの発案した作戦は作戦とは呼べなかった。
意図的な無策とも言うべき暴論。ある意味では魔法不能者としか言い様の無い戦略。当然却下だ。




