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「学校で窃盗があったらしいのだが、元から汚い事で有名な研究室でね。本当に盗まれたか疑わしいんだよ」
今日の訓練も終わり、公園内のベンチで
だよねー、と凄く同調したいけど、リリアナちゃんは飲食店で働いている設定なので当然しらないはず。
「校内でそんな犯罪がおこるなんて怖いのですね。やはり貴重な研究なのでしょうか?」
「歴史関係の資料が大量に無くなっているらしいのだが、個人所有と、プレクス図書館にある物がごったになっていてね。可愛い後輩が頑張っている最中だよ。『家で右往左往しているしか出来ないロリスには、こういったつまらない仕事がお似合いですね! みんな死ねばいいのです!』なんて言って拗ねちゃってる。そこが可愛いけど」
バスティアがロリスを真似る時はあまり似ていない。感情が入りすぎて可愛すぎる。
「後輩さんの事、お好きなんですか?」
「うん。でも嫌われてるんだよなぁ。死ねばいいだって、やっぱりみんな私の事怖くて、強いって思ってるんだ。」
バスティアはため息をついた。その妹キャラは皆にそう言う対応をとりますので、嫌われていません。
「学内でも私と応対するような態度に変えるべきです」
「それでは駄目なんだ。ネージュ派閥も、リュシェール家も守らなくちゃいけない」
「どうして、バスティアは偉大な指導者であろうとするの、私が好きなのは優しいバスティアなのに、優しい指導者じゃ何が駄目なの!? 兄さんとも父さんとも違う皆に慕われる指導者じゃいけないの!?」
「そ、それは」
俺はバスティアの手をつかむ。冷たく強ばっている。
「大丈夫です! バスティアの事みんな好きになってくれる。バスティアはバスティアらしい指導者になれば良いんだよ」
「……うん、明日から、普段の私で生活してみる。ちょっとだけ、ほんとにちょっとだけ」
ではまず明後日の決闘相手を殺さず、見逃してみることから始めてください。とはさすがに言えない。
言えないけど、それこそバスティアの心境が変わったことを、知らせるにはちょうど良い出来事だ。
今日も毎度同じくペットショップに通う。そろそろペットショップの人が可愛そうになってくるが、特に買う物が無い。
俺より一足先に来ていたバスティアがウィンドウにかじりつくように見ていた。
「あれ?」
しかしいつも可愛がっているグルちゃんらしき犬はいなくなっていた。
「売れてしまったのですか?」
ペットショップは読んで字のごとく、ペットを売るお店だ。当然グルちゃんも商品の一つなので何時かは売られてしまう。
飼えないのなら、何時かこういう日が来ること自体解っていたはずなのに。
「みたい」
「きっと幸せに暮らしていると思います。私たちはグルちゃんがすばらしい人に飼われていることを願いましょう」
「飼えば良かったのかな……でもメイドさんがダメって言うんだよね……」
「相談とかしたのですか?」
「してない。だって、そんなこと言って嫌われたら……」
「本当にメイドさんが貴方の事をお好きでしたら、考慮してくれると思いますよ。どうして何もせずにダメと思うのですか?」
「でも……」
「メイドさんだってバスティアに何かしてあげたいって思ってるよ。だってそれが好きって言うことですから」
「うん」
バスティアの顔に少しだけ元気が取り戻っていた。
次の日の夕方、決闘から換算すれば前日、俺はバスティアが来るのを楽しみにしていた。
イメージチェンジを行うとしたらロリスにも行うはずだ。そこでロリスには好意的な対応をするようにはすでに言ってある。素の自分でも皆に認められると気づいたバスティアは明日の決闘でも寛容な態度を見せる。具体的には殺さない。
完璧だね!
しかし、明日以降俺はどうすべきなんだろうか?
勇者としてはあの聖杯を手に入れれば終わりなのか? と言うか勇者としてこれであってるのか?
これからも毎日リリアナヴェスとして会うべきなのだろうか? 最初の予定では情報をある程度聞ければ良いと思っていたのだが、今ではバスティアが依存しまくり。
これを渡すと余計依存されるのか? でも誘ってみたいんだよな。作戦とか関係無しに純粋にバスティアの喜ぶ顔がみたい。
と考えている合間にバスティアは来た。
しかしどうしてだろうか、あまり浮ついた表情をしていない。奇妙な物でも見たときのような表情をしている。
「バスティア~」
俺は手を振ってバスティアにアピールするがバスティアは何もしない。
バスティアは俺の右手を握った。
「ごめん。私は決して疑っていない。ただ、指導者としての私が、君の潔白を証明しろと訴えるのだ」
バスティアは俺の右手に魔法をかけた。
魔法が溶けていきネージュの紋章が現れてしまった。
リリアナが魔法使いならばまだ言い訳はできただろう。しかしバスティアには紋章を見られているし、ここまで奇麗に掘られた紋章などそうあるわけでは無い。
「オーシュなの、か?」
全部終わりだ。
何かが瓦解するのを理解するが、気持ちは不思議と澄み渡っていた。
「私を騙して、遊んで、内心馬鹿にしていたのか! 私に皆に優しくしろと言ったのも全部嘘なのか!」
バスティアは俺の腕をきつく握る。へし折れそうだなと他人事みたいに思う。
「始まりは嘘だったよ。君から情報を聞き出して決闘を有利にしようと思っていた。でも俺は君の事が友人として本当に好きだったし、素直な君の方が素敵だと思ったのも本当だし、学校でも素直な君をみたいと思っている。
僕たちはお互いにお互いの事を偽っていたけれど、
そこにあった物は本物だよ。」
「嘘をつけ! 全部嘘だ全部ゼンブ何もかも嘘だ! お前なんか嫌いだ! 大嫌いだ!」
俺の腕を振り捨てて、バスティアはマンションの方へ帰っていった。