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お風呂も超絶デケーのです。いや、何これ? 体を洗うだけのスペースなのに、我が家のリビングぐらいあるよ?
ざぱーんとひとっ風呂入ると、いつもの俺が戻ってきた気がした。
シリアスモードだったからどうにか我慢できていたけれど、女の子が自分に抱きついてくるとかものすごく興奮する。思い出してくるだけでも興奮するね! なんで女の子はあんなに良い匂いがするの? ぷにぷになの?
おかげで心臓はドッキドキ下半身のはバッキバキだ。
これが俺がお風呂に入った最大の理由だ。男の子にあるべきモノが、女の子についていたらとっても大変だろ?しかもバスティアは一緒のお布団で寝ることをご希望だそうだ。
今ならおっぱいに顔を埋めても、いやがられるどころかむしろ喜びそうだし、俺だって両手をあげて喜びたいけど、なぜかもう一本の手まで上がっちゃうんだよね。人体ってとっても不思議!
そう言うわけでリラックスする必要がある。
さて、長風呂だと心配されてしまうかも知れないからさっそく……
「リリアナ、友達と言うのは一緒にお風呂に入るって聞いたぞ」
扉越しからバスティアの声、脱衣所にある衣服は全部女性物なので大丈夫(男としては終了している)けど、さすがに入ってこられるとやばい。
友達と一緒に風呂なんてネージュぐらいしか言っているのを聞いたことが無い。ロリスだって――と思ったがあいつは友達をまず作らないしな。いや、でも無いよ。
「あの、私一人で」
「リリアナは私の事が嫌いなのか?」
いいえ、大好きです、でも無理。
「あの、私胸小さいし」
「そうか後輩が、『胸は揉むと大きくなるです。ロリスに言わせれば兄さ……男の性癖を洗脳した方が早いとは思いますが』って言ってたぞ。ほら私が揉もう」
ロリスめ!!
がらっと扉が開く。思わず体育座りをしてバスティアの裸を見ないようにする。
「お嬢様、すみません電話が入っております」
さらに後方から声が聞こえてくる。
「取り込み中だ」
「しかし、相手はフレムの……」
「あぁ解った今行く。すまないが、一緒のお風呂はまた今度だ」
扉は閉じるがまた何時来るか解らない。しょうがないのでさっさとお風呂から上がることにした。
朝起きるとすでにバスティアの姿は無かった。
なお、メイドに頼んで睡眠薬をもらうことによって難を逃れました。
だから楽しい夜の会話とかも全然無いし、バスティアのおっぱいとか、おっっぱいとか、おっぱいが解らない。
俺、自分の棒で人生を棒に振った気がする……
メイドに色々世話をしてもらって、絶望の朝帰り。
おかしい俺の将来予想図では、女の子とイチャイチャトークをしながら帰るはずだったのに……
自宅を開けると、ロリスが俺にぎゅっと抱きついてきた。
「死ねば良いのです。極刑です。終身刑です。轢死です。感電死です。火あぶりです。ロリスを心配させるなんて兄さんは最低最悪の極悪人です」
「……ごめん」
せめて一言外泊してくると言えれば良かったのだが、そんなことをいうタイミングは一度も無かった。家に電話があれば良いのだけど、あんな高級品我が家には存在しない。
「探したです。探したのに見つからなかったです。どこに居たと言うのですか、死ねば良いのです」
「バスティアの所に―――」
腕の力が強まった気がするのですが……」
「兄さんは私の許可無しに他の女の所にお泊まりに行ったと言うのですか? 私が必死になって探している時に、『ロリスの胸って揉んでも大きくならないんだよな』と楽しく会話をしていたのですか?」
……似たような会話はしたな。そんなにお胸にコンプレックスなのか? まだ発展途上だろ?
――母の胸のサイズとほぼ同じぐらいに成長していることは黙っておこう。
「ね、オーシュは帰ってくるって言ったでしょ」
ネージュが珍しく朝っぱらから起きていた。いや、朝まで起きていたが正解なのか?
「大変だったんだから、あたしと一緒になって町中駆け回って探して、どこ巡っても居ないから、結局家に帰ったのは良いけど、『兄さんが犯罪に巻き込まれたらロリスは一人になってしまうのです』ってさっきまでずっとおろおろしてたんだよ」
「嘘です! 大嘘です! ロリスはそんな事言っていません」
ロリスが珍しく感情のある声で反論している。
マジっぽい……
今後はできる限り、ロリスには連絡を入れてから女の子の家に泊まろう。
「それで、バスティア先輩から何か情報は得られたのですか?」
俺はさっそくバスティアとの会話で重要そうな所だけ語った。
「精神と記憶の聖杯ですか、ネージュさんの見地からしてそのような事は可能なのですか?」
「んー言っちゃっても良いのかな? あぁでもこれは企業秘密っぽいなぁ~ 知ってるけど言えないなぁ~ 本当は言いたいけど、これは無理かな~」
ネージュは自分の髪をいじりながらにやにやしていた。
「言わないとそろそろお前のメシを抜いたあげくに今までの飯代を徴収するぞ」
「お~しゅ~解ってよ~ あたしだって意地悪したくてしてるんじゃないんだもん。あたしにはオーシュを勇者にする使命があるんだよ」
「俺には家計を守る使命があるし、勇者をする理由は無い」
使命と使命のぶつかり合い。言葉だけはかっこよかった。ネージュはう~と寂しそうにうなると、ロリスに視線を向けたが、ロリスはむしろにらみ返した。
「ろりす~……ちぇっ、じゃあちょっとだけ言うよ。精神と記憶の聖杯ならそういうことが出来るよ。でもあんまり良くない使い方なんだ」
伝承では聖杯の力を使って魔王やその眷属達を倒したような描写があるみたいだけど、具体的にどうやって使ったのかは一切書かれていない。
「説明書が付属してるなら禁止事項に入るような使い方だよ。あれは勇者と女神が奇跡を使うための道具だから、普通の人間が使っちゃ駄目。それに精神と記憶の聖杯なのがもっと問題だよ。あれには……ごめんこれ以上はちょっと」
「ちょっと待てよ! 明らかにバスティアの命に関わりそうだよな!」
「これ以上言ったらネタバレだよ」
「ネタバレ上等だ!」
「オーシュが勇者として成長しなくなるよ~。勇者は困難に立ち向かってこその勇者だよ。あたしが困難を壊しちゃそのうち出てくる魔王が倒せなくなる。だからあたし私は鬼になります!」
両腕を組んでしたり顔をしていた。
「まぁお前が意地悪してたり、ただ単に引きこもってるわけじゃ無いのは解ったよ」
「ほんと! やっぱりあたしってば超有能なメイドよね」
女神だろお前、と突っ込む気力は無い。
「ロリス、バスティアの父親と兄について知らないか?」
「……やれやれ、兄さん知らないのですか? 現在リュシェール家はバスティア先輩しか居ません。たしか四年前の火事だったでしょうか?」
「そうだったのか」
「それ以降バスティア先輩が当主をしてるのです」
「父親と兄がどんな人だったか知らないか?」
「バスティア先輩同様荒々しくも凜々しい人と聞いています。基本的にリュシェールの人間はそう言う人間ばかりみたいですが」
だからバスティアにもそういった気風と言う物を、周囲から求められてしまったのだろう。そしてバスティアは誰にも言えないまま、周囲の希望を答える為に、
精神と記憶の聖杯に手を出してしまった。