11
「ベットにまで連れ込んだかと思うと、他の女とイチャついているところ話すとかあり得ないです。死ねばいいのです」
俺は妹を女扱いした記憶は一切無いし、ベットに連れ込んだ記憶も無い。と言うかお前が勝手にベットを椅子代わりにしているんだろうが。
「今の話がイチャイチャに聞こえるか?」
「どう考えてもバスティア先輩は兄さんにべたべたしすぎなのです」
「学校でのバスティアを考えればそうなるか」
バスティア リュシェール、凜々しい少女で厳つい言葉遣いと気高さがある。女子生徒から圧倒的な人気を誇るが、なびくことは一切無い。
オリヴィア ヴォルダーレン、やたらめったら強い以外はどこにでも居る普通の女の子。カワイイもの大好きで、訓練の後はお店を巡る毎日。
「いえ物理的に接触しすぎです」
魔法を教えてくれるのはいいのだが、バスティアはやたらめったら肉体的な接触を好む傾向にある。女装はしているが、下半身を触られたらバレるので、是非とも止めて欲しいのだが……
「それだけ、信頼を得ているとも考えられるだろ。人を殺すのはよくありませんと説き伏せるだけで、俺の死亡率がガクッと下がるかも知れないんだぜ」
「後ろ向きです。目論見通り情報も増えてきているのです。別の固有魔法を使うなど通常ありえないのです。素養の無い魔法を習得するときは初等的な魔法を覚えるのが基本であって、その根源である固有魔法を覚えるパターンはありえません。まさか自分を偽る為だけに固有魔法みたいな魔法を創造して習得するとも思えないのです」
「じゃあ固有魔法を二つ持つとか?」
「それなら隠すよりも誇示すべきです。勇者ですら固有魔法は一つしか無いのですから」
「じゃあそれなら俺はどういうことなんだよ。お前の服を解かすスライムと、傷を治す水の生成。どう考えても二つあるだろ」
「どちらも液体を生成しています。何かをする液体を生成してスライムと癒やし両方をやっているのだと思います」
単純に考えるなら、物質創造、生命創造、治癒魔法、の三つになるけど、どんな水を作れば癒やし系スライム(融合)が誕生するんだ。
「どちらにしても兄さんの固有魔法が攻撃に向いていないのは確実みたいですね。兄さんの固有魔法とバスティア先輩の固有魔法、どうやらこの辺りがバスティア先輩攻略の鍵になるとロリスは睨んでいます」
バスティアに魔法を教えてもらってから一週間。魔法を教えてもらう時間が一番の癒やしになっていた。
学校生活は最悪だ。
学内で話しかけてくれるのはロリスとアンジェだけで、その会話内容の大半は授業の説明になってしまう。だって授業難しいんだもの。
なお、ネージュは、
「もうあたしはあたしを偽らない! 料理もしない! 掃除もしない! そう、完全なる無欠のぐうたらメイドとして引きこもるのさ!」
デコ☆ピン
「うぅ、でもあたしはそれぐらいじゃ負けないから! あたしのヒキコモリ精神を舐めないでよ!」
と言って基本的に引きこもっております。バスティアが可愛い人を見つけたと、たまに報告してくれるので、出かけている時もあるのだと思う。
「ごめん、学校の用事で遅れてた」
いつもより十分ほど遅れてバスティアは来た。走っていたのか少し息が上がっている。
「大丈夫だよ」
そんなの知っている。今日は連続魔法使い襲撃事件対策会議があったんだよね。犯人が何を狙っているのか、犯人像、何もつかめていないんですよね。
でも、それを語ることは出来ない。
ここに居るのはオーシュ ブランシェではなくて、リリアナ ヴェスだから。
「そうそう、今度動物……」
バスティアの顔が一瞬にして変わる。オリヴィアと名乗る可愛らしい少女から、バスティア リュシェール、ネージュ派閥党首の誇り高き魔法使いに。
俺の後ろにいる何かを睨みつけると、魔法で氷の槍を錬成し、魔力の球をそのままぶん投げる。
「逃げろ」
俺に語りかけるその言葉にはオリヴィアとしての感情が切り捨てられていた。
上から飛んできた襲撃犯達から俺を守るために、バスティアは大地を起伏させ強引に壁を作りあげる。
襲撃犯が着地する隙を狙って槍でなぎ払おうとするが、襲撃犯はそれを理解していたかのように槍を器用にかわす。
襲撃犯達の連携は完璧と言って良かった。隙を作らずに、バスティアを追い詰めていく。
バスティアは壁の作成による後手後手の対応しか出来ていない。
それもすべて俺がいるからだ。
確かに決闘の為にはここで正体を明かすわけにはいかない。もしかしたらここで手負いになってくれて優位に運ぶかもしれない。
でも、それでいいのか?
それが俺の望んだ事なのか。俺は何がしたいんだ。
何をすべきなんだ?
突如として、火が空から降ってくる。バスティアは俺を抱きしめて火からかばう。
襲撃犯は夢幻を見ていたかのように消えてしまった。
「大丈夫か!」
フレム派閥の男達がこちらに駆けつけてきた。
「あぁ大丈夫だ。ありがとう」
バスティアは立ち上がり服を整え始める。
「も、もしやバスティア リュシェール様では、なぜ庶民のような格好を」
「いや、これは」
その言葉が誰に対しての弁明だったのか、本人にすら解らなかったのかも知れない。目は俺に助けを求めるように見ているが、口はぽかんと開いている。
「リュシェール…」
リュシェール家は有名な貴族の名前だ。町娘が名前を知っていてもおかしくないだろう。だから初めて知ったような演技をする。
俺っていつからこんなに嘘がうまくなったんだっけ?
「こ、これはその」
「バスティア様お怪我はありませんね」
「……あぁ大丈夫だ」
そして彼女はバスティアであることを選択した。
「お連れの方も大丈夫ですか?」
「え、えぇ大丈夫―――」
「リュシェール様!」
フレム派閥の男の呼びかけを無視してバスティアは走って行く。
「オリヴィア……」
俺の呼びかけにバスティアは何も応じない。




