9
「かーわーいーいー! 写真撮ってブログにあげた~い!」
がネージュの感想で、
「姉さん。可愛いです」
が、ロリスの感想。
俺は男としての尊厳を奪われた……
髪の毛はネージュにいじってもらった結果、地毛の黒が完全に消失してプラチナブロンドになっている。変装と言うことなので眼鏡っ男にクラスチェンジ。
服装は最大限の譲歩として、上をセーラー服にしてもらった。ただし下はとっても短いスカートに、だぶだぶな靴下を履いている。ネージュに言わせればジェーケーファッションらしい。
ジェーケー、ネージュの世界だと世界海軍の精鋭部隊名だ…………と思う。……本当の事は聞きたくない。
「譲歩しまくって、俺が可愛くなったとしよう」
「兄さんはロリスよりも可愛くなって何が不満なのですか? 死ねばいいのです」
「本当に突っ立ってるだけでいいのか?」
「えぇ、思い出してみますと、バスティア先輩にいきなり生徒会に入れと言われました。可愛いと思ったら即座に手を出すタイプだと私は分析します。安心してください遠くから監視しますので、最悪の時はサポートします」
いや、そこまで都合良く行くわけ……そういやネージュの時も話しかけていたな。ならいけるかな。(口を開かなければ)かわいい系少女と、(見た目だけ)美しい系少女の二人に絶賛された俺ならきっとうまくいく。
公園で待ち伏せして十分ほど、ようやくバスティアが来た。今日も昨日と同じように平民ファッション。
それより気になるのはメイドが居ないことだ。昨日全部のアイスを制覇したいと言っていたから来るかと思っていたけど……いいか、居ない方が話しかけやすい。
話しかけやすいけど、何を話せと言うのだ!?
女の子にどうやって声をかけるかって事を、ベットの中でもんもんと考えていたことはあったが、それは男から女へってパターンであり、女から女へなんてパターン考えてない。
「やぁお姉さんさっきから露店見てるみたいだけど、俺なら君のためにいくらでもアイスを買ってあげられるよ。お金の心配はいらないよ。貴族だからね」
そうそう、こういう感じに声をかければナンパ出来るんじゃ無いか……
ってあいつカルカソンヌ アルベールか、バスティアだと気づかずにナンパを始めてやがる。さすがにバスティアだと気づいていたらナンパなど怖くて出来ないはずだ。
……何回ナンパしてるんだろカルカソンヌ。可愛そうな存在に見えてきたぞ。
「あの、ごめんなさい」
「ほらほら、遠慮しないで」
しかしこれはチャンスだ。俺が長年暖めていた"ナンパしている奴から女の子を助け出すことによってむしろナンパ出来る作戦"を、ついに実行できる! ロリスには『死ねばいいのです』と一発で却下されたこの作戦だが、ついに優位性を見せつける日が来た。どこで監視しているか知らないが、ロリスめ、俺の頭脳明晰っぷりに感嘆せよ!
俺は一歩一歩バスティア達に近づいていく。
「なぁいいだろ? 悪いことしないからさ」
「すみません、人を待っているだけなんで」
「ちょっとやめな……」
カルカソンヌがバスティアの肩に手を触れた瞬間だった。バスティアはカルカソンヌの手をつかむと背負って投げ飛ばした。
カルカソンヌが油断しているとは言え、 魔法無しで男を投げ飛ばすような女と俺闘うの?
バンッとたたきつけられた音が辺りに響く。周りの人間も全員バスティアを見ている。
「きゃ、きゃーーー」
棒読みだった。
その一言だけで、一部始終を全く見ていない人間からはカルカソンヌが完全な悪人扱いされるのだから、可愛そうに思えてくる。
思えてくるけど、俺の750グリ(利子マシマシ)を返さないような奴はこれぐらいの報いを受けて当然だ。もっと受けろ。
バスティアは周りが好奇の目で見ているのに気づくと、俺の手を取ってがむしゃらに逃げていった。
裏路地に入り込むとバスティアはようやく止まった。お互いに息を荒げている。バスティアの視線と俺との視線が混じり合う。
「良かった君のおかげで助かったよ」
なお俺は何もしていません。はい、そうです、無実です。
「別に何もしてない」
「君が来てくれなかったら今頃どうなっていたか解らない」
たぶんカルカソンヌの容態の事を言ってるんだよね。投げた後にトドメを決めるつもりだったんだよね。
「是非君にお礼したい」
バスティアが俺の肩をがっしりつかむ。ほほを染めながら、うろんな瞳で見つめる。
望んでいた結末ではあるけれど、
望んでいた展開では無い。怖いよ! 絶対同性愛者だろ!?
「あの、私、貴方みたいに強くなりたいです」
「え?」
バスティアの表情に一筋の影が入る。
「いや、私はそんなに強くない」
「いいんです。護身術ぐらいので、ええと」
「オリヴィア ヴォルダーレン」
バスティアが語ったのはメイドの名前だった。
「とても強かったですけど、オリヴィアさんはプレクス学園に通ってらっしゃるのですか?」
「私はどこにでも居る平民だよ。魔法は使えるけど、大した物じゃ無い。普通の学校でちょっと覚えただけだよ」
「出来れば魔法の使い方も」
「……私で良ければ」
「ありがとうございます。私リリアナ ヴェス、リリアナとお呼びください」
この偽名はちょっと前に読んだ小説のヒロインの名前だ。ネージュから借りて読んだのでたぶんこの世界の物では無い。
「よろしくねリリアナ。ところで、その服はどこで買ったんだい」
「ええとこれは……」
その後俺はカワイイものに関して質問攻めにされた。ネージュとロリスの入れ知恵が無ければ即死だった。




