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 俺が教室に入ると、ざわついていた生徒達が一瞬にして沈黙し俺を見る。やれやれモテ気到来だな……うん、絶対違うね。

 睨まれるような事をしてしまったのだろうか? でも学内で気をつけるような事は昨日アンジェから聞いて、それを守ってきている。

 違いと言えばアンジェからもらったバッジぐらいしか、思いつくような事は無い。

 俺が席に座ると、前の席の男子が語りかけてきた。男子の胸にはネージュ派閥であることを示すサファイアのバッジがつけられている。

「お前はどっちなんだ?」

「どういう意味だ」

「お前はネージュなのか、それともブリズなのか」

 なぜそこでネージュが出てくる?

 教室は沈黙を保っている。言葉を出すことがそのまま命取りになりかねない。

 廊下からカツカツと音が聞こえてくる。

「オーシュ ブランシェが居るのはこのクラスで、間違いないな」  

 透き通る声で有りながらも力強い声が教室に響く。今まで俺に向けられていた視線がすべてその声に集まっていく。

「俺だけど」

「そうか、貴様か」

 腰まで伸ばしたサファイアブルーの髪が凜々しい少女は俺の所まで歩いてくる。身長は俺と同じぐらいで女の子としてはかなり高い。腰には剣を差している。

 体はかなり引き締まっており、芸術的な美しさがる。

 胸のバッジは大きなサファイアをプラチナで彩っている。ネージュ派閥の貴族でしかもかなり上位の人間だと言うのがそれで判別できる。

 おまけにメイドまで居る

 まずお目にかかれるような人では無いのだが、どこかで見たことあるような気がする。

 バスティアは俺の右手をつかみ魔法をかけた。俺の右手に描かれているネージュの紋章がくっきりと浮かび上がる。

「どうやらお前で間違え無いみたいだな。プレクス魔法学園の規則を遵守し私バスティア リュシェール、が貴公、オーシュ ブランシェに決闘を申し込む」

「はい?」

 少女の瞳に澱みを一切感じない。彼女には意思をねじ曲げない凄みがある。

「知らないとは言わせん。貴様が氷の女神ネージュから魔法を授かった上に、自らを勇者である、などと言った戯言を広げているのはすでに知っている。女神ネージュに忠誠を誓う身としてそのような流言を見逃すわけにはいかない」

「俺はそんな事言ってませんが」

「事態はすでにそのような事では収まらないのだよ。貴様を罰しなければ女神ネージュに面目が立たない」

 つまり、他の派閥に馬鹿にされるから、お前にはそれ相応の罰を与えなければならないと言うことか。

「それはどうかな~」

 少女の後ろから声が聞こえてきた。ネージュだ。ネージュは仮面舞踏会用のマスクをつけている。

「貴様いつの間に!」

「初めまして、あたしが氷の女神ネージュだよ。よろしく」

「貴様が女神ネージュの名を騙る愚か者か、恥を知れ、姿を見せよ!」

「あたし女神なんだけどなぁ。オーシュも勇者としてこれから目覚めていくんだけどなぁ~」

 期待たっぷりの眼差しにドヤ顔な表情。そういや入学前にコルテさんになんか耳打ちしていたけど、もしかして噂を流したのはコルテさんとネージュか?

「ふざけたことを言うと―――」

「決闘をするんでしょ。オーシュが謝罪と退学を賭けるとして貴方は何を賭けてくれるの?」

「バスティア リュシエールの名誉を賭けよう」

「女神ネージュと勇者を侮辱するにしては少ないよね」

「何が侮辱だ! 大体金髪でネージュを名乗るとは少しぐらいは真似ようとは思わないのか!」

 伝承だとネージュの髪はサファイアブルーだ。金髪では無い。ネージュが女神である以上伝承の方が間違ってるんだけど、そう言って納得する訳無いよな。

 バスティアが剣を引き抜きネージュに突きつけようとするが、剣はその場で水になってしまう。

「何をやった!」

「女神の起こした奇跡。それにネージュであるあたしにアイスソードを使うだけ無駄だもん。こっちはオーシュの命とあたしの命を賭けるから、バスティアちゃんは精神と記憶の聖杯を賭けて」

 精神と記憶の聖杯の名前が出たとき、教室がざわつき始めた。

 聖杯と言えば、勇者の伝承に出てくる聖杯だよな?

「ネージュの加護があるんだったら負けないんでしょ?」

 一瞬苦虫を噛みつぶしたような表情をするが、それも一瞬先ほどのような強い意志を感じさせる表情に変わる。

「女神ネージュを信仰する私が負けなどしない。良いだろう。聖杯を賭けて戦ってやろう」

「二週間後アリーナで良い?」

「いや、明日だ!」

「それぐらい譲歩してほしいなぁ~」

 ネージュは仮面をゆっくりと外す、いつものお日様みたいな朗らかな笑顔が見える。それとは対照的にバスティアの表情が明らかに変わった。恥ずかしがっているように見えるが、何で恥ずかしがるんだ?

「い! 良いだろう!二週間後だ!」

 バスティアは逃げるように教室から走って出て行った。

「どういうことだよネージュ!」

 弁明が必要なネージュもすでに消え去っていた。残ったのは好奇な視線を送るクラスメイトだけだ。


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