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 その後実技の試験の方も行われたが、ほぼすべて白紙だ。

 一般教養は少々出来たけれど、魔法教育なんて生まれてから一度も受けたことが無い。知っていることと言えばロリスが教えてくれた事や、一般教養としての魔法知識ぐらいなものだ。

 こんなんで学校やっていける訳無いのに、なぜか合格通知が届いたりする。

 現代の魔法教育に異を唱えたいけど、コルテさんの計らいで授業料免除なので、文句は言えない。むしろエコヒイキ最高です。

 ボルドーさんからは行ってこいと愛情いっぱいの手紙も届いてしまうし、店長はすでに俺が店を止める物だと思っている。

 俺に選択肢は無かった。

 資料や記入事項の束で頭を抱えているとロリスがテーブルを覗いてきた。

「大丈夫ですよ兄さん。兄さんがどんな劣等生でも、私がきっちり教えます」

「俺とお前じゃ学年も違えばクラスも違うだろ」

「プレクス学園はそういった物がかなり希薄です。好き勝手学問を選んで修得していって、特定数履修すればそれで十分です。教養科目に関してはクラスですけど、それ以外の科目は私と同じ科目を選んでおけば兄さんの手助けが出来ます」

「ほんとか! 助かるよ」

「いえいえ、不出来な兄さんを助けるのもブラコンの一つですから」

 おさらい、ロリスの言うブラコンはブラザーコントロールの略です。コントロールされる兄ってどうなのよ? と言う疑問は投げ捨てて、ロリスに言われるがまま科目を選択する。

「これで一緒に兄さんと学校に通えますね」

「そうだな」

「これで一日中監視できます」

 ……ロリス風の冗談だと思うことにした。


「オーシュブランシェですよろしくお願いします」

「みんなも仲良くするように」

 男性担任教師の気迫のある声が教室に響く。

 魔法の権威プレクス魔法学園。だからといって他の学校と特別違うと言うわけでは無い。少なくとも高等教育棟においては俺が通っていた義務教育の学校とあまり変わらない。コルテさんの話ではちょっとおまけをしてくれたらしいが、そのおまけと言うのが何だか解らん。

 教師に言われるがままに後ろの窓側の席に座るとようやく俺は理解出来た。

 窓側の席さいこ―――

「あ、あの、オーシュ君」

 では無くて、アンジェが居るクラスに配属された事だ。知らない人間ばかりの所よりも知っている人間が居る方がいいだろ? と言う計らいだろう。

「よろしくね」

 今までよりもさらに消えそうな声でアンジェはささやいた。教室がうるさかったら絶対に聞こえなかった。

 そのクラスメイトがとっても人見知りをするので、これがプラスなのかどうか、解らないな。

「あぁ、よろしく頼むよ」




 全く理解出来ない授業が終わり、ようやく昼休みの時間がきた。

 アンジェにつれられて学食に来る。月影亭と違って中はかなり広くて明るい雰囲気だ。何より違うのは天井がステンドグラスになっていて、ネージュ、フレム、ルブル、ブリズが描かれている事だ。

 でも、そこにある活気がどうしてもインチキみたいな物に見えた。

「月影亭じゃないんだ」

 まぁあそこは女の子が一人で行くような雰囲気の店じゃ無い。狭いし、不潔とまでは言わないけど、清潔とまでは言えない。

「あ、あのときは、アルベールさんから逃げるために色々行ってたの。私がああいう場所に行くと、他の生徒に迷惑掛かかるから、もう行かない」

 アンジェは奥のあまり人が居ない場所を選び座った。

 俺も対面の席につくとウェイトレスが近づいてきたが、メニューを聞くこと無く、じっと見ている。

「か、かれは、新しく来たばかりなの、だから勧誘してる」

「そういうことですか」

 そこからメニューを聞かれたが、何かトラップがありそうなのでアンジェにすべて任せてしまった。

 俺はアンジェに顔を近づけてできる限り他の人に聞こえないように小さな声で語る。何が命取りになるのか解らなくて怖いんだよ。

「なぁこの学校ってさ。派閥対立が凄いのか?」

「うん」

「ここに座ったのもその関係か、ウェイトレスが妙に怖かったのも」

 この席の上に描かれているステンドグラスは風の女神ブリズになっている。周りの生徒達を見回してみると、胸にはトパーズがついたバッジを必ずつけている。

 たぶんこれがインチキっぽい原因なんだと思う。

 アンジェも鳥のバッジをつけている。銀細工で出来ていおり、瞳にトパーズが使われている。

「そう」

「月影亭に行くと迷惑がかかるってのもそういうことか」

「うん」

 月影亭に来る生徒がバッジをつけていた記憶が無い。たぶん平民と貴族でさらにわけられるのだろう。貴族様達から逃げてきたってのに、その貴族様がいたんじゃ安らげねえよな。

「こう言うのって何かまちがってないか」

「私も、そう、思うけど、けど」

 声を大にして言ったらそのまま社会的に殺されそうだもんな。

「ありがとう。俺もうまく派閥社会になれるようにするよ」

「そ、それで、こ、これ」

 アンジェは胸ポケットからバッジを取り出して俺に押しつけた。恥ずかしいのか俺と視線が合わないようにしている。

 ブロンズで作られているバッジで、ブリズのマークが掘られていると共に中央にトパーズがはめられている。

「これでブリズの派閥になれるから」

「ありがとう」

 でも俺がこれをつけても良いのだろうか?

 ネージュから魔法をもらったのに、派閥がブリズと言うのは許されるのだろうか?

 言わなきゃネージュから魔法をもらった事などバレないだろうし、そんなことが信じられるとも思わないけど……

「ご、ごめんなさい、迷惑、でしたよね」

 そんな捨て猫みたいに瞳で俺を見るな! つけるしかないだろ!

 俺は急いで胸にもらったバッジをつけた。

「似合う?」

「はい、とっても」

 ウェイトレスが食事を持ってきた。学内のつまらない政治話よりは美味しい食事の方が楽しいに決まっている。

 食事が来たのを合図にして、俺は全く別の話題をアンジェと話すことにした。

 なお料理は月影亭の方がうまい。


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