プレゼント配り
「ひなは、どうするんだ?」
「わ……私も行っていいの?」
ひなは、動揺が隠しきれなかった。
「そうだよ。なぁ? じいちゃん?」
うなずかねぇと蹴るぞ~
……そんな目をサンタクロースに向ける。
「もちろんじゃ。騎士と一緒に行くなら、これを使うといい」
サンタクロースはそう言うと、持っていた白い袋の中から、何かをとりだした。
「はい。どうぞ」
「あっ!」
それは、赤い帽子と赤い服―サンタの服装だった。
「これを着ると、サンタや見習い以外でも普通の人から見えなくなる。……気に入ってくれたかな?」
「私が、こんなすごいものもらってもいいんですか!」
と、言いながら手は動いていた。
サンタは微笑んで、
「騎士がさぼらないかしっかり見ていてくれ」
「は、はい!」
「俺はさぼらねぇよ! っておい! ひなも『はい』って言うなよ!」
「あはははは……」
「では、行くぞ!」
「おう!」
「はい!」
月は、満月になった。
「どっから行くの?」
騎士とひなは、サンタクロースからもらった大きい袋を二つにして、半分ずつもっている。
サンタの服を着ると、騎士みたいに自由に空を飛べるようになった。
「とりあえず、明りが消えた所から行こう」
時間は夜の10時を過ぎていたので、明りが消えている家は結構あった。
ふわりと地上に降り立ち、軽やかな足取りで進む騎士。
「いや~悪い子狩りも楽しいけど、やっぱりプレゼントを配る方がいいなぁ!」
―騎士君、悪い子狩り楽しんでたんだ……
「そ、そう?」
「プレゼント配るの、楽しくないの?」
話が少し食い違う。
「あ……やっぱり気にしないで!!」
と、言って話を中断した。
「着いたぞ。ここは、幼稚園児だな。欲しいものは……ゲームカセット? すごいもん頼むんだな。幼稚園児なのに」
と、いいながらごそごそと騎士はプレゼントをとりだす。
―騎士君、ゲームカセット知ってるのかな?
そちらの方が気になった。
「じゃ、おじゃましまーす」
ドアをすり抜けた。
「わ!」
「おいで」
騎士はひなを引っ張って、家の中に入った。
「クリスマスツリーは……お!」
クリスマスツリーがあった。その横には、クッキーと手紙が添えられていた。
「なになに……」
そこには、かわいらしい文字でこう書いていてあった。
さんたさんへ
めりーくりすます! わたしがほしいぷれぜんとください!! ままとくっきーをつくったから、たべてね!
漢字、片仮名はまだ書けない様だ。全て平仮名で、その下にはサンタの絵が書いてあった。
「……こんな嬉しいプレゼント、もらった事ない!」
興奮し、騎士は言った。
「よかったね。騎士君」
「あぁ、そして、このクッキーもうまい! でも、ひなのが一番だな」
ぽりぽりとおいしそうにほおばっている。
―私のが一番……
その言葉が頭の中をグルグルと回転している。
プレゼントを置き、
「さぁ、次行くぞ」
と、言って窓からすり抜けて行った。
時間は、11時半になった。
「次で最後だぞ」
「疲れたねぇ~」
「あぁ。でも、俺のじいちゃんはこれの100倍くらい配っているからな」
「うそ!」
「ほんとだよ」
騎士は苦笑しながら言った。
「最後は、菫の家だ。覚えている?」
「あ……」
最初の悪い子狩りをした、高校生の女子だ。
「菫さんは、なにをお願いしたんですか?」
「えっとな……? 来て欲しい? それが、お願い?」
「どういうことなの?」
「分からない。とりあえず、行ってみよう」
菫の家に到着した。菫の部屋は2階なので、2階の窓から入った。
机の上に、1枚の手紙。
本人は幸せそうな笑顔で寝ていた。
手紙の内容は、こうだ。
サンタクロースへ
来てくれて、有難う。私は、万引きなんてする、悪い子なのに……。
でも、ちゃんと改心した。店員の方にあやまったの。そうしたら、許してくれてね。警察にも言わないでくれたの。
親にも、あやまった。自分は本当に悪い事をしてすみませんって―
あと、弟のことも言ったの。サンタなら、なにか分かるでしょう? そうしたら、涙を流して2人とも「ごめんね」って言ってくれたの。
だから、今は楽しい生活を送っているわ。
なんとなく覚えているんだけど、私を変えてくれたのは、小さい子供達じゃなかったかな? そんな気がするの。サンタクロースの知り合いだったら、言っておいてほしいんだけど……有難う。って。
メリークリスマス。
菫より。
「普通、俺たちのことが分かるのは悪い心だけなのに……」
「きっと、あの悪い心が私たちの事を菫さんに入っていた悪い心に言ったことが菫さんの心にも通じたんだと思う」
「きっとそうだな! 菫がこんないい子になれたのは、ひなのおかげだ!」
―私のおかげ……
「さぁ、帰ろうか。じいちゃんも、終わっているころだと思うし」
「うん」
その時、ほんの少しだが菫の中に入っていた悪い心の声が聞こえた気がした。
―本当に、有難う……
「!」
「今の聞こえたか!?」
「うん!」
そうして2人は菫の家を出た。
「いやぁ、御苦労」
ひなの家に帰ると、サンタが待っていた。
お腹がぽっこりとしている。それは、ひながイメージしていたサンタクロースそのものだった。
―いっぱい、お菓子もらったのね。
「どうだったかな?」
「すげぇ楽しかった!!」
「お前に聞いてない!」
サンタクロースはおじちゃんと言えないくらいのすばやい動きで騎士に蹴りを繰り出した。
「ちょ、待て! あぶねぇ! 何するんだよ!」
そして、少しの間2人の乱闘。
ケンカ、と言うのか?
「はぁ、はぁ……」
「騎士も、少し強くなったな。それで、ひなちゃんはどうだったかな?」
「……あ、えっと、とても楽しかったです。素晴らしい体験をさせてもらい、有難うございました!」
つい2人の乱闘を見ていて、答えるのに数秒時間がかかった。
「それは、よかった。では、帰ろうかの。騎士、先に帰るぞ」
「あ、うん」
「じゃあな、ひなちゃん、来年また会おう!」
「はい」
サンタクロースは、一瞬にして消えた。
「全く、忙しいじいちゃんだぜ……」
そして、騎士はひなをひなを見ながら、真剣な眼差しをひなに向けて言った。
「これで、お別れだ」
「うん……」
―やっぱり、さみしいよ……
「それで、俺からの提案だ」
―え?
「ひなは、親がいない。友達もいない。普通の子だったら、悪い心に乗っ取られるような心境だ。それでもひなは負けなかった。自分1人で生きる。そう思っただろう? 俺は、それにつられたんだ。ひなの頑張りを、俺はずっと見ていた。本当に、すごいと思った。実は俺も、両親がいないんだ……でも、俺にはじいちゃんがいた。いつも、俺の事を考えてくれた、大切な家族。でも、ひなは違う。俺はひなを救いたかった。ひなを幸せにしたい。学校から帰って来るひなの悲しい顔を、1人でさみしくご飯を食べている姿、俺はもう見たくない!」
―ずっと、私のこと見ていたんだね……
「すぐに、ひなの所へ行って、助けたかった。だが、俺はまだ見習いだ。こっちの世界に簡単に来れなかった。前に、俺はどこにでも住んでいるって言ったの覚えているか?」
「うん……」
「きっと不思議に思っただろうが、それには理由があるんだ」
「?」
―俺は、ずっと子供達のそばにいたんだ。誰の近くにも……ただ、皆は見えないだけ。聞こえていないだけ。あの日、ひなが俺の事が見えた時にはとても驚いた。俺のじいちゃんも言っていただろう? いい子で良かったって。
「そうだったんだ……」
ひなは全ての疑問が解けたような気がした。
「俺と一緒に見習いをしないか? 俺とペアを組めば、きっと最強のサンタになれる。じいちゃんだって、大歓迎だと思うぜ!」
「……」
「どうだ?」
そう言ったあと、騎士はひなの方に手を差し出した。
「私は……私は……」
ひなはしばらくの間、その手を見つめていた。
今回の話はどうでしたでしょうか? 感想、意見などがあれば教えて頂けると嬉しいです。
ちなみに、騎士はゲームカセットと言うものを知りません(笑)一体、なにを基準にしてあのセリフを言ったのでしょうか?
次回が、本編の最終回となります。