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贈り物  作者: 怪盗エース
3/10

悪い子狩り

12月20日の夜。月はもう少しで満月になりそうだ。

その月に、シルエットが二つ映った。気付いたものは誰もいない。

「ねぇ、どこに行くの?」

一つのシルエットがしゃべった。

彼女の名は神楽坂かぐらざかひな。成り行きで、今「悪い子狩り」に向かっている。

そもそも「悪い子狩り」とは何なのであろうか。

「ちょっとこれ見ろ」

そう言ったのは風守騎士かざもりないと。サンタ見習いだと言っている。本当にそうなのかは、まだ不明だ。

彼が指を鳴らした。

すると、ひなの前に書類みたいなのが現れた―もっとも、宙に浮いているが。

「これなに?」

「リストだ。悪い子たちはこのリストにのっている。俺たちは一番上に書いている子の所へ向かっている」

そこには、ひなより少し年上の少女が写真付きで載っていた。

寺内菫てらうちすみれ。高校生だった。

「菫は最近万引きと言う悪い事をしているそうだ」

万引きと言う所には興味なさそうに言う騎士。

「ところで、万引きってなに?」

「万引きって言うのはね……! 騎士君、万引き知らないの?」

「俺はサンタの使いだ。この世界に来たのは初めてだからな。ひなの料理もこっちの世界に来て初めて食べたよ。いやー、おいしかったな」

それを聞いてひなは驚いた。

「本当に?」

「あぁ、サンタ見習いって言うのはまず、何年かサンタクロースの所で修行する。そのあと合格をもらうと、やっとこの世界に来ることができる」

―じゃあ、騎士君は、この世界の住人じゃないって事?

「騎士君は、どこに住んでいるの?」

「う~ん……上手くは言えないけど、どこにでも住んでいるよ」

ひなの頭の中には「?」のマークがいっぱいあった。

―まぁ、一緒にいれば何か分かるか。

そう思いひなはそれ以上質問しなかった。

その代わり、万引きを教えた。だが、騎士は「ふぅん」と言ったきり、何も言わなかった。


「お、あそこの店だ!」

一つの店を指差して騎士は言った。

地上に静かに着地。

「よし。行くぞ」

「ま、待って!」

急ぎ足で追うひな。


店の中には、菫がいた。友達も何人か連れている。

「これから始めるぞ。まず言っておくが、俺は皆には見えていない」

「え?」

「俺を見ることが出来るのは「子供」と「いい子」と言う条件があるやつだけだ。つまり、ひなはとてもいい子だったから俺が見えた」

菫を指差して騎士は言った。

「これから菫はひなが言う、万引きをする。その時、俺が動き出すからよくみていろ」

「?」

騎士が言った通り、菫はきょろきょろしながら、友達と輪になった。監視カメラからは見えない。

バックを開けて―

「あっ……」

ひなが言いかけた時には横にいたはずの騎士が消えていた。

「悪い事したら……」

菫に向かって走り出す騎士。

「だめだろうがぁぁぁ!」

「え?」

菫は今までいなかった少年がいきなり見えて驚いている。なぜか、周りの人は動きが止まっている。

騎士の蹴りが菫にあたった。

―なにしてるの!! あたればけがするじゃない!

ひなはそう思っていたが、予想とは違った。

菫はその場に崩れ落ちただけだった。意識を失っている。

その代わりに、なにか黒いものが飛び出してきた。

「これが、菫にとりついていた悪い心だ」

黒い塊を見ていった。

そのなにかが、急に動き出した。

「いてぇ! お前、何者だ?」

黒い塊がしゃべった。


状況を整理すると―

騎士が走りだしたときには、騎士、ひな、菫以外に動いている人はいなかった。

そして、騎士の蹴りで何かが出てきた。


今、その物が人の形になった。

見た感じ、不良少年なよう。人間と明らかに違うのは、体が黒いと言う所だけ。

「よし。後は倒すだけだ」

「俺の仕事、邪魔するんじゃねぇよ!」

そう言った少年は、騎士に向かって殴りかけてきた。

それを軽く避けた騎士は話した。

「俺はサンタの風守だ! せっかくのいい子の心を、汚すな!」

ベッドの上で遊んでいた時とは違い、迫力が全く違った。

「は? お前ごときに俺が……」

そう言っている時には騎士の回し蹴りが直撃していた。

「うっ……」

「お前は俺には勝てない。分かったらさっさと、この子から出ていけ!」

「そうもいかねぇ!!」

そう言った瞬間、少年はひなに向かって走ってきた。

「きゃあ!」

少年の体がひなの中に入っていく。

なに……これ……

ひなの意識は飛んだ。

「そう来ると思ったぜ。頑張れよ。ひな!」

そう言って騎士は倒れかけたひなを抱きかかえた。


「……ここは?」

そこには、暗い所だった。

「お前の心の中だよ」

不意に誰かが言った。

声の持ち主は、さっきの少年だった。

「あなたは!」

「いやぁ驚いた。お前、いい子だったんだ」

「?」

「お前が少しでも悪い子だったら乗り移れたのにな」

「どういうこと?」

「俺たちはな、悪い心を少しでも持っている人間にとりつく事が出来る。でもな、何百人、いや何千人の中には「いい子」が存在する。少しも悪い心をもっていない、とてもいい子が存在するのさ。それがお前だ!」

ポカンとしているひな。

―そんなこと急に言われても……あ、でもさっき騎士君が言ってたっけ。

「だから、もう少ししたら俺は消える。いい子には逆らえないのが、この世界のおきてみたいなもんだ」

「そうなの?」

「あぁ。全く、運が悪いな……」

そう言ったあと、

「そんな事も知らないで、俺の事を体に取り込んだのか?」

―?

「……ひな? 聞こえるか? これから、俺の言う通りにしろ」

騎士の声が聞こえてきた。

「その声は!」

「しっ! 聞こえないようにしろ」


いいか。詳しくは説明する暇はないが―

そこにいるのはひなも分かるように、「悪い心」だ。そいつはもう少ししたら消えてなくなる。それまでに、いい子の心にして菫に戻してくれ! そうしないと、菫は悪い心のままになってしまう!

―つまり?

お前ならできる! とにかく頑張れ!

声が聞こえなくなった。

―私にできる事?



ひなは考えた。

―あの子の心の声を聞く。

本能的にそう感じた。

「ねぇ、なんであなたは菫さんに万引きなんてさせたのですか?」

「? それは……」

さっきまでと違い、少し戸惑っている様子。

「なんで?」

「俺は、あの子の心に言われた。親にかまってほしいって…」


―中学三年生になると、弟が生まれた。受験が控えていると言うのに、両親は菫のことなんてどうでもいいように彼女から離れていった。


「高校生になるんなら、自分の事は自分でしろって……だから! 万引きをしてばれたら言おうと思っていたんだ! だけど、初めのとき上手くいってしまった。次第に、目的も忘れて盗みだけになっていった」

少し、彼の姿が白くなってきている。

「そんなの……」

自分でも驚くような声で、ひなは叫んだ。


「そんなの、間違っています!」


「親にかまってもらいたい? その気持ちは分かります。でも、おかしいと思いませんか? 盗みを犯してまでですよ? あなたは、間違っています!」

ひなは自分が気付いた時には泣いていた。

「親がいるだけでも、いいと思って下さい」

「?」

「私は、両親も友達もいません。あなたには、大切な友達や家族がいるでしょう? まだ、やり直せます。償って、両親に謝って下さい!」


「っ……」

言葉にならない声で少年は何かつぶやいた。黒い体から少しずつ、白くなった。

「俺のやり方は間違っていたのか?」

「そうです!」

きっぱりとひなは言った。

「……」

彼は、少し考え込んでから言った。

「俺、あいつの心に入って説得してくる。俺は俺の罪を償うことにするよ」

一呼吸置いてから彼は言った。

「有難うな」

そう言って、彼は消えた。

と、同時に、ひなも目が覚めた。

「……?」

「お疲れ!」

騎士は、嬉しそうに言った。

「ひなのおかげで、いい子の心が戻ったよ」


店の中で、客や店員は忙しそうに動いている。

「終わったの?」

「あぁ。今日の悪い子狩りは終わりだ。帰って詳しく説明する」

そう言って、騎士はひなを引っ張っていった。

店を出るとき、店員に泣いて謝っている菫の姿が見えた。

今回は、少し長くなってしまいました。

騎士の行動は、びっくりしましたね(作者もびっくり)。

次回は、悪い子狩りについて書こうと思っています。それまで、お待ち下さい!

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