『いい子』
買い物が終わった帰り道。ひなは夕飯の事なんて上の空で家に帰って来た。
「何だったの…」
先ほどからずっと同じ事を言っている。
―さっきの子は一体…
「ま、いっか!」
深くは考えないタイプなのだ。
しだいに、空が暗くなってきた。
「ただいま~」
誰もいない家の中に、ひなの声は響く。
まずは、テレビをつける。中学生でも1人はさみしいのだ。
「よし…」
手際良く作業を始める。
肉、玉ねぎ、卵…
トントントン…
まるで踊り出しているような包丁さばき。
ひなは、両親が死ぬ前から料理が大好きだった。なので、小学生の頃でも、大体の料理は作れるのだ。今はなお、料理が好きになった。それくらいしか、気をまぎらわす事が出来ないから…
「ん~…サラダもつけたいなぁ…」
ハンバーグを焼いているを間に、サラダ作りも始めた。
「できた~!」
料理をテーブルに乗せ、準備完了。
「いただきます!」
1人での食事。
電気は明るいのに、なぜかひなは暗く感じた。
―やっぱり、1人じゃなぁ…
その時、横から声がした。
「俺の分はないの?」
「わっ!」
先ほどの少年が椅子に座っていた。
「どこから入って来たの!」
ドアと窓のかぎは全て閉まっている。
「だから、いっただろ。俺はサンタだって。ひなの家、煙突あるだろ? そこから入ってきた」
当たり前だろ、と彼は言った。
―どこが当たり前なのよ!
そう思いながらも、ひなはハンバーグの準備をした。
「サンキュー。いただきます!」
彼は待っていました! とばかりに食べ始めた。
「あなた、なんて名前? なんで私の事知っていたの?」
「あぁ、言ってなかったっけ? 俺の名前はカザモリナイト」
「カザモリナイト?」
「そう。『風』に『守』で風守。そして『騎士』でないとだ」
ひなは分からなかった騎士の名前の変換を頭の中でした。
「それにしても、ひなは料理が上手だなぁ! すごくウマいよ!」
「あ、ありがとう…」
自分が大好きな料理をほめられたことがとても嬉しかった。
―そう言えば、ほめられたって久しぶりだな…昔はお母さんによくほめられていたっけ。
ハッと気がつき質問した。
「なんで私の名前知っているの?」
「俺は仮にはサンタ見習い。だから、ここ周辺の子供の名前は覚えている」
―だからか…
「それで、何の用?」
「おいおい、質問しすぎだ。ゆっくりごはん食べさせてくれ。その後な…お前のせっかくの料理が冷めるだろ」
「うん」
2人は黙々とご飯を食べた。
その後、ひなの部屋に移動した。
「―それで? ひなは何が知りたいの?」
「その前に、なんて呼べばいい?」
「自分で決めろよ…まぁ、『騎士君』とか、『風守君』とか?」
―ちゃっかり言っちゃっているじゃない…
「分かったわ。騎士君」
素直にひなは言った。
「私に何の用?」
先ほどと同じ事を聞いた。
「そう! そこが問題だ!」
「?」
「今から言うことはすべて事実だ。しっかり聞けよ」
ドスンとベッドに座る騎士。
「ふかふかだなぁ!」
キャッキャと子供みたいに言う。でもきっと、年齢はひなと同じくらいだろう。
―楽しそう。
ひなは彼と一緒にいると安心している事にまだ気が付いていない。
「話し、続けていいよ」
「あぁ、分かった」
騎士の話に耳を傾けると―
もうすぐクリスマスだ。俺たちサンタはもちろんのこと、忙しくなる。
俺たちは「いい子」にプレゼントを配るのが仕事だ。だが、子供たちの中には、悪い心を持った「悪い子」がいる。それを「いい子」にするのが俺たち見習いの仕事だ。そして、クリスマスイヴまでに、悪い心を排除する。
「悪い心?」
「そう。悪い心は俺達が何もしなくても、無くなる時もある。でも、サンタは子供達の成長を妨げる悪い心を排除しなくちゃいけない」
「ふぅん…」
―サンタって子供達にプレゼントを配るだけじゃないんだ…
「そこで、ひなにお願いがある」
「なに?」
「これから、『悪い子狩り』に行く。ひなも来てほしい」
「え?」
―私が?
「そう。ひなの役目は…実際に行った方が早いな。行くぞ!」
騎士がひなの手をとる。
「ちょっと待てよ…」
何やら集中しているようだ。
「? なにやって…!」
その瞬間、ひなの体が浮いた。
「きゃあ!」
「さぁ、悪い子狩りを始めようか…」
ひなには見えなかったが、騎士の目は先ほどとは違い、獲物を狙う獣のような目だった―
こうして、ひなは騎士と悪い子狩りに行くことになった。詳しい内容は知らないが、自分が必要とされている事はひなも嬉しかった。
2人の冒険が今、始まる―
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