出会いは、とある商店街で
雪が街にしんしんと降り積もる。
今宵は12月20日。クリスマスの5日前になる。
不意に、誰かがこの地上に降り立った。
「ここか…」
そう言い残すと、足音も立てずにある街へと歩き出した。
「クリスマスシーズンが近づいてきました。皆さんはどのようにお過ごしでしょうか…」
ここは商店街。クリスマスの準備などでにぎわっていて、クリスマスツリーがあちらこちらに並んでいる。
そこを、つまらなそうに歩いている少女がいた。
「クリスマス、かぁ…」
少女は呟いた。
「今日のご飯はなににしようかな…」
今夜の夕食について考えているようだ。
その前に紹介をしておこう。
彼女の名前は神楽坂ひな。中学2年生だ。素直な性格。
彼女には家族がいない。去年の夏、事故があり両親とも死んでしまった。仕事の出張の最中で、ひなは幸いその場にいなかった。
そんな両親もいないでクリスマスを過ごすのはとても嫌だった。親がいない為1人で家事をするので、友達とも遊ぶ暇はない。ノリが悪いと言われ、最近は友達が離れていってしまう。
―私だって皆と遊びたいよ。皆みたいに普通に過ごしたい…でも、仕方ないじゃない…
「……今夜はハンバーグに決まり!」
先ほどの事は忘れ、張り切って肉屋に向かうひな。
すると、不思議な光景が目に入った。
「…?」
赤い服に赤い帽子。
そこには、サンタの格好をした少年がいた。この時期なので普通だと思うが、彼は、宙に浮いていた。
「え?」
なんで、浮いているの? しかも、誰も気づいていない…
そう。彼女以外には気づいているものがいない。そればかりか、少年が降り立ってこっちに向かってくる。
「お前、俺の事見えるのか?」
いきなり、少年がひなに話しかけてきた。
「誰ですか! 一体なんで浮いていたの?」
遠回しに聞いても仕方ないので、気になっていることを言った。そう言う性格なのだ。
周りの人が驚いてひなを見ているが、ひなは気にしないでそのまま少年から目を離さなかった。
「この格好見てもわからないのか?」
少年はにやりと笑って答えた。
「俺はサンタさ!!」
ひなの思考は停止した。
―なに言っているの? サンタ? サンタって私と同じくらいの年の子なの?
「あ、ちなみに俺見習い。俺のおじいちゃんが本物だから」
少年はまるでひなの心の声が聞こえたように答えた。
その後、少年はひなに背中を向けた。
「俺、まだ仕事が残っているから先に終わらせてくる。今日の夜、行くから」
「?」
「じゃあな。ひな!」
少年はそう言うと、一瞬で消えてしまった。
「なんだったの…」
そう言った後、驚く事に気が付いた。
「私、自分の名前言っていない…」
そう。彼女は話している間、自分の名前を口にしていない。
一体この少年は誰なのだろうか。
なぜ、ひなの名前を知っていたのか。ひなはこれからどんな事に巻き込まれるのか…
―その答えは、これから始まる物語の中にある。
さぁ、舞台の幕開けだ。
読んで頂き、有難うございました!