仲直り
夫と喧嘩した。
歩いていたらゲーム機のコードを足に引っ掛けてしまって、コンセントが抜けた。なんか古い機種だとかで、それまでの冒険の記録が、一瞬で消し飛んだらしい。
「んなっ!?」
「ごめん……?」
「何するんだ!!」
「ごめんね」
知り合ってから一度も怒ったことのなかった夫が口を引き結び、怒りの形相で立ち上がって、コントローラーを床に叩きつけて、車のキーを引っ掴み、家を飛び出していった。
夫は夕飯前に帰ってきた。
ただいまも言わず、いただきますも言わず、無言でご飯を食べ、黙ったまま居間へ出ていった。
それから必要事項以外、一言も言葉を交わさない日々が始まった。
「起きて」「行ってきます」「ただいま」「お風呂あいたよ」。だいたいその四言で事足りた。
夫は朝から晩まで不機嫌な顔をしていた。口数が多いわけではないけれど、くだらないことはぽろぽろ口にする人だから、黙っているのは、まだ怒っているのだろう。
馬鹿馬鹿しいから放っておいた。
私が悪い。確かに悪い。迂闊だった。それは認める。
でも、わざとじゃなかった。私は謝った。許せる許せないは、相手の度量の問題だ。
ゲームごときで離婚するつもりなら、それまでの男だ。未練はない。
淡々と日常を続けた。
諍うわけでもない。平穏な日々だった。
そうして一か月。
寝る用意をすませたつもりが、ハンドクリームがきれているのを忘れていて、居間にある薬箱まで取りに戻った。
まだ起きていた夫は、私が入っていくとテレビを消した。
そうして。
ソファの前を通りかかった私の裾を、つん、と引いた。何かと思って足を止めて振り返れば、上目遣いで、また、つん、と引く。
思わず笑ってしまった。大の男が、妻のパジャマの裾をつかんで、物も言わずに、つんつん引っ張っている。
私が笑ったら、夫は左手も伸ばしてきて、あっという間に夫の膝の上に乗せられていた。
「一緒に寝よう」
私の胸に顔をうずめて囁く。
「うん。いいよ」
私は夫のつむじを突っついた。