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掌編アラカルト  作者: 伊簑木サイ
犬も食わないアレ
7/9

仲直り

 夫と喧嘩した。

 歩いていたらゲーム機のコードを足に引っ掛けてしまって、コンセントが抜けた。なんか古い機種だとかで、それまでの冒険の記録が、一瞬で消し飛んだらしい。

「んなっ!?」

「ごめん……?」

「何するんだ!!」

「ごめんね」

 知り合ってから一度も怒ったことのなかった夫が口を引き結び、怒りの形相で立ち上がって、コントローラーを床に叩きつけて、車のキーを引っ掴み、家を飛び出していった。


 夫は夕飯前に帰ってきた。

 ただいまも言わず、いただきますも言わず、無言でご飯を食べ、黙ったまま居間へ出ていった。


 それから必要事項以外、一言も言葉を交わさない日々が始まった。

 「起きて」「行ってきます」「ただいま」「お風呂あいたよ」。だいたいその四言で事足りた。

 夫は朝から晩まで不機嫌な顔をしていた。口数が多いわけではないけれど、くだらないことはぽろぽろ口にする人だから、黙っているのは、まだ怒っているのだろう。

 馬鹿馬鹿しいから放っておいた。

 私が悪い。確かに悪い。迂闊だった。それは認める。

 でも、わざとじゃなかった。私は謝った。許せる許せないは、相手の度量の問題だ。

 ゲームごときで離婚するつもりなら、それまでの男だ。未練はない。


 淡々と日常を続けた。

 諍うわけでもない。平穏な日々だった。


 そうして一か月。

 寝る用意をすませたつもりが、ハンドクリームがきれているのを忘れていて、居間にある薬箱まで取りに戻った。

 まだ起きていた夫は、私が入っていくとテレビを消した。

 そうして。

 ソファの前を通りかかった私の裾を、つん、と引いた。何かと思って足を止めて振り返れば、上目遣いで、また、つん、と引く。

 思わず笑ってしまった。大の男が、妻のパジャマの裾をつかんで、物も言わずに、つんつん引っ張っている。

 私が笑ったら、夫は左手も伸ばしてきて、あっという間に夫の膝の上に乗せられていた。

「一緒に寝よう」

 私の胸に顔をうずめて囁く。

「うん。いいよ」

 私は夫のつむじを突っついた。

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