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お菓子くれなきゃ悪戯するぞ
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「お菓子くれなきゃ、悪戯するぞ」
不機嫌そうないつもの顔で、特に何の感情も込めず、意味のない呪文のように目の前で唱えられる。
しかも日本語って。
そんなことが気になるのは、余裕があるからではない。余裕がまったくないからだ。
いくら出張帰りだからって、給湯室の壁に追いつめて、肩の両脇に手をつくのはいかがなものかと!
「お、お茶、淹れますね」
スーツがちょっとよれっぽくって、肌に艶がなくて疲れて見えたから、お茶でも飲んで一息ついてもらおうと思って、席を立って給湯室に来たのに。
「いらない。甘いキスをしてくれるのと、俺に悪戯されるのと、どっちがいい」
「どっちも」
お断りです、と続けようとした言葉は、迫ってきて重ねられた唇に押しとどめられた。
仕事中だとか人に見られたらとか、焦って慌てて、目を見開いて硬直する。
押し付けるだけのキスで、見事に私の口を完全に封じた彼は、焦点の合う位置まで退いて、私の目を覗き込んだ。
「どっちも、だな」
私だけの狼男は、ニヤリと笑って、まずは甘いキスから所望した。