第4話:水晶板の静寂と、冷徹なる徴税官
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ギルドの登録で戦闘力が周知されたエイト、徴税官からの強引な徴収を退ける手立てとは?
翌朝。俺は昨晩の喧騒を振り払うように、街の冒険者ギルドへと足を運んだ。
「ちょっと、なんでこの子までついてくるのよ」
「おじさんの監視役だって言ってるでしょ! 私のハニートラップ、まだ諦めてないんだから!」
背後で賑やかにやり合うイチカと三奈を適当にあしらいながら、俺は受付に立った。まずはこの世界での「身分」を確定させなければ、あの寿命コインを換金することすらままならない。
「新規登録ですね。では、こちらの水晶板に手を」
受付嬢に促され、俺は冷たい板に掌を置いた。
一瞬、淡い光が走り、板の上に文字が浮かび上がる。
【名前:エイト】
【年齢:30】
【戦闘力:5】
「……5?」
受付嬢の声が裏返った。
周囲で談笑していた冒険者たちが、一斉にこちらを振り返る。
「おい、聞き間違いか? 5って……生まれたてのゴブリン並みだぞ」
「30にもなって、農作業すらまともにできないレベルじゃねえか」
静まり返ったギルド内に、失笑が広がる。
だが、その嘲笑を切り裂くように、鋭い靴音が響いた。
「――どきなさい。無能な男を眺めても、時間の無駄よ」
冒険者たちが左右に割れる。
現れたのは、軍服のようなカッチリとした制服を着こなした、一人の女だった。
燃えるような赤髪をポニーテールにまとめ、眼鏡の奥にある瞳は凍てつくほど冷ややかだ。
「……誰だ?」
「王都直轄・特級監査官、メリッサよ。昨日、兵士ゼノスから不正に『寿命コイン』を奪い取った男がいると聞いてね。……それが、その『戦闘力5』のあなた?」
メリッサはゴミを見るような目で俺を一瞥すると、カウンターに置かれた寿命コインを、白い手袋越しに摘み上げた。
「これは王国の資産として一時没収します。異論は認めないわ」
「没収、ね。ずいぶん勝手な理屈だ」
俺は鼻で笑い、彼女の視線を正面から受け止めた。
「『不正』だと言うなら、証拠はあるのか? それとも、自分の気に入らない数字はすべて没収するのが王国のやり方か」
「……戦闘力5の分際で、口だけは達者ね」
メリッサの眉間に深い皺が寄る。
「いいわ。ならば『正式な手続き』で絶望させてあげる。私が勝てばそのコイン、およびあなたの身柄を拘束する。もし、万が一にでもあなたが勝てば……この『特級監査免状』を貸してあげるわ。これがあれば、この国でのあらゆる税と検問をパスできる」
「免状か。悪くない……。なら、賭場を立てようぜ」
俺が指を弾いた。
【警告:固有権能『因果律の賭場』が発動しました】
【遊戯種目:『昏水ハイアンドロー』を開始します】
世界の色彩が抜け、俺とメリッサは巨大なガラス製の水槽の中に立っていた。
足元には、じわじわと透明な液体が溜まり始めている。
「な……魔法!? いや、結界術の一種……?」
「ルールは単純だ。1から13までのカードを使ったハイアンドロー。外せば、その数字に応じて水位が上がる」
俺は溜まり始めた液体を指差した。
「この水は『昏水』。触れれば魔力を奪われ、精神が混濁する。水位が口元に達し、眠りに落ちた方が負けだ。……ただし、この水には魔力回路を分解する性質がある。アンタのその立派な制服……最後まで形を保っていられるかな?」
「なっ……不潔よ! 貴様、こんな……っ!」
メリッサの頬が怒りと羞恥で赤く染まる。
俺はそんな彼女を冷徹に見据え、カードの山を提示した。
「さあ、始めようぜ。……それとも、カードを引く前に『チキって』逃げ出すか?」
第4話、いかがでしたでしょうか?
「戦闘力5」という絶望的な数字が公表された中での、格上への挑戦。
今回の対価は、実利の大きい「特級監査免状」です。
負ければ服が溶け、意識を失うという屈辱的なルールの中、プライドの高いメリッサがどう崩れていくのか。
次回、第5話「昏水に沈むプライド」。
お楽しみに!




