第3話:自称・色気担当のポンコツ刺客
第3話をお読みいただきありがとうございます。
新たなヒロイン(?)三奈の登場です。
大人を自称する子供体型のポンコツ。エイトの「枯れた」対応と、イチカのツッコミのキレをお楽しみください。
「……で、なんでアンタが私の隣で寝ようとしてるわけ?」
安宿の、ひどくカビ臭い一室。
イチカが、ベッドの端で身を固めながら、引きつった笑顔で俺を睨んでいた。
「なんでって……ここは一部屋しか空いてなかったんだ。それに、俺はアンタを『勝ち取った』んだぜ? 法律的にも俺の所有物だろ」
俺は、くたびれたコートを脱ぎ捨て、隣のベッド(といってもただの藁束だが)に腰を下ろした。
「言い方! 言い方が最悪! 助けてもらった恩はあるけど、そういう生々しいのはNGだから! 私、まだ心の準備とか、その、処女な乙女のプライバシーとかあるから!」
「安心しろ。俺は30だ。十代の小娘をどうこうするほど、元気もありゃしないよ」
俺は、ポケットから例の『寿命コイン』を取り出した。
鈍い銀色に輝くそれは、あの兵士ゼノスから徴収した「50年分」の重みがある。
「それ……どうするつもり?」
イチカが、恐る恐るコインを覗き込む。
「宿代の支払いだ。この世界じゃ、寿命は金よりも価値があるらしいからな。……おっと」
その時、部屋の窓が音もなく開いた。
夜風と共に滑り込んできたのは、小さな影。
「……動くな。そのコイン、大人しく渡してもらおうか」
聞き覚えのない、だがどこか幼い声。
月光に照らされたのは、身体のラインを強調した(つもりであろう)黒い革装束に身を包んだ少女だった。
……いや、少女というよりは、子供だ。
背丈はイチカよりも頭二つ分ほど低く、凹凸の少ない体型はどう見ても十代前半。だが、その表情だけは、無理に色気を作った「熟練の女」のそれを気取っている。
「ほう。泥棒か?」
「失礼な。私は闇の世界に生きる美しき毒花……三奈様だ。おじさん、死にたくなければそのコインを……ひゃっ!?」
決め台詞の途中で、三奈と名乗った少女が、床に落ちていた俺の靴に躓いた。
そのまま見事なスライディングを決め、俺の股間に頭から突っ込んでくる。
「……何してんだ、アンタ」
「い、痛たた……。あ、あえてよ! これも計算のうち! おじさん、私のこの……溢れ出る大人の色気に、あてられちゃったんじゃない?」
三奈は顔を真っ赤にしながら立ち上がると、今度はあからさまに胸を強調するように(ない胸を)反らし、指先で唇をなぞった。
「見てなさい……私のハニートラップにかかれば、どんな男もイチコロなんだから……さあ、私に魅了されて、そのコインを献上しなさい……!」
「…………」
俺は、無言で三奈の頭に手を置いた。
「よしよし。夜更かしは子供の毒だぞ。お家に帰ってネルネルネルネでも食ってろ」
「子供扱いするなー! 私はこれでも二十歳超えてるんだから! 完っ全に熟した大人の女なんだから!」
三奈がポカポカと俺の腹を叩き始める。
……二十歳? 嘘だろ。どう見ても成長が止まった子供にしか見えない。
「ちょっと! なにこの子!? 新しい刺客!? それとも変質者!?」
イチカが悲鳴を上げながら、枕を武器に構える。
「……天の声。こいつの詳細は?」
俺が小さく呟くと、虚空に無機質なログが流れた。
【個体名:三奈】
【職業:自称・超一流暗殺者(実態:見習い以下のポンコツ)】
【戦闘力:12】
【特記事項:極度の勘違い体質。色気で男を惑わそうとするが、成功率は0%】
「戦闘力12か。……俺よりは強いな」
「でしょ!? 私、強いんだから! 怖いんだから! ……あ、でも、あんまり見つめられると、私の魅力で魂まで溶けちゃうから注意してね?」
三奈は、さらに不自然なポーズで誘惑を試みるが、その拍子に装束のベルトがパチンと弾け、ズボンがずり落ちた。
「……あ」
「…………」
「……いやあああああ! 見たわね! 私の極上の秘部を見たわね! 責任取って結婚しなさいよおおお!」
「見てねえよ。そもそも何も見えなかったぞ、平坦すぎて」
「そこが一番傷つくのよぉぉぉッ!」
夜の宿場に、新たな喧騒が加わった。
俺の異世界生活は、どうやら現世以上に賑やかになりそうだ。
「……チッ。ったく、まあ、賑やかなのも悪くねぇか」
俺は、泣き叫ぶ三奈と、それにツッコむイチカを眺めながら、コインを高く放り投げた。
第3話、いかがでしたでしょうか?
彼女がなぜエイトの寿命コインを狙ったのか。そして、エイトがこのコインを使って異世界のギルドや権力者とどう渡り合っていくのか。
次回、新たなギャンブル『昏水ハイアンドロー』発動……?
お楽しみに!




