第2話:寿命をチップに、サイコロは振られる
第2話をお読みいただきありがとうございます。
異世界初の勝負『因果律チンチロ』、決着です。
戦闘力5の主人公が、いかにして「ざまぁ」を達成するのか。
ギャンブルという独自のシステムを用いた戦闘シーンを楽しんでいただければ幸いです。
ヒロイン・イチカのツッコミも、これから絶好調になっていきます。
【システムメッセージ:『因果律チンチロ』のルールを確定します】
無機質な『天の声』が、白黒に反転した空間に響き渡る。
【ルール概要:プレイヤーは交互にダイスを振り、出た『役』に応じて相手のライフポイント(LP)を削る。LPが0になったプレイヤーは敗北となり、賭け金を徴収される】
【プレイヤー:エイト。初期LP:100】
【プレイヤー:兵士ゼノス。初期LP:50(対象の残り寿命に換算)】
【特殊効果:この空間内において、魔法・スキルによる物理干渉、およびダイスの目の操作は一切禁じられる。純然たる『運』と『精神力』のみが勝敗を決する】
「な……残り寿命、だと……っ!?」
俺を突き飛ばそうとしていた兵士――ゼノスが、顔を蒼白にして絶叫した。
彼の頭上には、『LP:50』という数字が、まるで死刑宣告のように浮かび上がっている。
「ふん……たったの50か。案外、短い人生だったんだな」
俺は、自分のポケットから、現世で愛用していた年季の入ったサイコロを一つ取り出し、指先で弄んだ。
この空間では、俺の戦闘力は『5』のままだが、関係ない。
ここでは、暴力ではなく、確率が支配する。
「ふざけるな! 俺は王国の正規兵だぞ! こんな、わけのわからない魔法……ッ!」
ゼノスが剣を抜こうとするが、その手は空中でピタリと止まる。
『天の声』が淡々と告げた。
【警告:暴力行為による干渉は、因果律違反としてLPを10徴収します】
「ぐ、あああああッ!?」
ゼノスの頭上の数字が、『40』に減る。
同時に、彼の顔に一気に皺が増え、髪が白髪に変わった。
目に見える『老化』。
それが、このギャンブルの恐怖を、周囲の兵士たちに知らしめた。
「ひ、ひいいいっ! 悪魔だ、こいつは悪魔だ!」
「助けてくれ! 俺は関係ない!」
周囲の兵士たちがパニックに陥る。
だが、この空間からは誰も逃げられない。
「……さあ、チキって自滅するか、それとも運に賭けるか。選ばせてやるよ」
俺は、宙に浮かぶ巨大なダイスを見上げ、不敵に笑った。
「先攻は俺だ。……因果律、全開!」
俺がサイコロを弄ぶ手を止め、宙に放り投げる仕草をする。
すると、呼応するように、宙に浮かぶ三つの巨大ダイスが、轟音を立てて回転を始めた。
「頼む……外れてくれ、外れてくれ……ッ!」
ゼノスが、祈るようにダイスを見つめる。
【判定:プレイヤー・エイトのロール】
巨大ダイスが、地面に激突し、爆発のような土煙を上げる。
土煙が晴れた後、そこに現れた目は――。
「……チッ。ピンゾロか」
【1・1・1】。
【役確定:ピンゾロ(トリプル・ワン)】
【効果:相手のLPに、現在のLPの50%のダメージを与える】
「な、なんだと……っ!?」
ゼノスのLPが、『40』から『20』に激減する。
彼はその場に崩れ落ち、老人のように震え始めた。
「……あーあ、惜しかったな。もう一押しだったんだが」
俺は、だらしない笑みを浮かべたまま、ゼノスを見下ろした。
戦闘力5のゴミが、王国の兵士を、指一本触れずに破滅の淵に追い詰める。
このカタルシス。……ギャンブルは、やっぱり最高だ。
「つ、次は俺の番だ……ッ! 俺が、俺が勝てば……っ!」
ゼノスが、震える手で宙を指差す。
【判定:プレイヤー・ゼノスのロール】
ダイスが回転を始める。
彼の残りLPは『20』。
もし、彼が強力な役を出せば、俺のLPが削られる。
だが、俺は知っている。
ギャンブルにおいて、恐怖に支配された人間は、決して勝てない。
「出ろ……っ! ゾロ目、出ろぉぉぉッ!」
ゼノスが絶叫する。
ダイスが静止する。
そこに現れた目は――。
【1・2・3】。
【役確定:ヒフミ(一二三)】
【効果:役なし。自身のLPを10微増させる】
「……は?」
ゼノスのLPが、『20』から『30』に増える。
老人のようだった彼の姿が、少しだけ若返った。
「……ぷ。く、はははははッ!」
俺は、こらえきれずに爆笑した。
「ヒフミかよ! 命がけの勝負で、健康増進してどうすんだよ! 面白すぎるだろ、アンタ!」
「な……なぜだ! なぜ俺は勝てないんだ!」
ゼノスが、絶望に打ちひしがれる。
彼には見えていない。
ダイスが振られる直前、俺が『天の声』のアナウンスをハックし、一瞬だけ『恐怖による出目補正』という隠しパラメータを、彼に付与していたことに。
「……さあ、遊びは終わりだ」
俺は、笑いを収め、冷徹な目で見据えた。
「次は俺の番。……アンタの残り寿命、全部徴収させてもらうぜ」
俺がサイコロを弄ぶ仕草をする。
ダイスが回転を始める。
【判定:プレイヤー・エイトのロール】
ダイスが静止する。
現れた目は――。
【4・5・6】。
【役確定:シゴロ(四五六)】
【効果:相手のLPを0にする(即死効果)】
「……あ」
ゼノスのLPが、一瞬で『0』になった。
彼の体から、光の粒子が抜け出し、宙に出現した『寿命コイン』へと吸い込まれていく。
彼は、老人の姿のまま、物言わぬ抜け殻となって地面に倒れ伏した。
【勝者:エイト】
【賭け金:兵士ゼノスの全寿命(寿命コイン1枚)を徴収しました】
【空間を解除します】
世界の色彩が元に戻る。
静止していた周囲の時間が、再び動き出した。
「ゼ、ゼノス隊長!?」
「何が起きたんだ……?」
倒れたゼノスを見て、周囲の兵士たちが騒然となる。
俺は、だらしない笑みを浮かべ直すと、呆然と突っ立っているイチカの方へ歩み寄った。
「……おい、イチカ」
俺は、倒れたゼノスを指差しながら、彼女に告げた。
「アンタを苦しめてた奴は、俺が『勝ち取った』。……今日からアンタの命は、俺のもんだ。文句ねえな?」
イチカは、俺と、倒れた老人の姿のゼノスを交互に見つめ、それから……。
「……なんでそんなものに命賭けるのよぉぉぉッ!?」
広場に、彼女の渾身のツッコミが響き渡った。
第2話、いかがでしたでしょうか?
『因果律チンチロ』では、単純な運だけでなく、主人公の心理戦(という名のシステムハック)が勝敗を分けました。
徴収した『寿命コイン』。これが今後、どのようなアイテムとして機能するのか……。
そして、イチカを「自分のもの」にしたエイトの真意とは。
次回、新たなヒロイン(?)登場です。お楽しみに!




