第13話:魂を繋ぐ回路、そして死神の足音
第13話をお読みいただきありがとうございます。
ようやく手に入れた『器』による救済。
しかし、絆が深まった瞬間に訪れる最悪の追跡者。
王子の鋭い洞察力が、エイトの最大の武器である「偽装」を剥がしにかかります。
王都の地下道を、俺たちは肺が焼けるような思いで走り抜けた。
背後からは、オークション会場の混乱と、それを鎮圧しようとする騎士たちの怒号が遠ざかっていく。
「……ここまで来れば、……大丈夫だろ」
俺は二階堂の隠れ家……そのさらに奥にある、薄暗い倉庫の扉を閉めた。
膝の震えが止まらない。戦闘力5000というハッタリを維持するために張り詰めていた神経が、一気に弛緩して、泥のような疲労に変わっていく。
「……ねえ、エイト。大丈夫……?」
イチカが、震える手で俺の背中に触れた。
「さっきの……本当に爆発すると思って、私……」
「……馬鹿言え。ただの手品だよ。……ニカ、準備はいいか」
部屋の隅で、二階堂が呆れたように鼻を鳴らした。
「……無茶しやがって。一国の王子を相手に『ゼロ円落札』なんて、現世の闇カジノでもお目にかかれねえ狂気だぜ。……だが、ブツは本物だ。早くしな、エイト」
二階堂が指し示した祭壇のようなテーブル。
そこに、俺は奪い取ったばかりの『空の魔力核』を置いた。
淡い蒼光を放つそれは、まるで生きている心臓のように規則正しく明滅している。
「……イチカ。これをお前にリンクさせる。……そうすれば、魂を蝕む世界の負荷を、この核が肩代わりしてくれる」
「……うん。……分かった。エイトを、信じるよ」
イチカが覚悟を決めたように目を閉じ、核の前に立った。
二階堂が古い魔導書を開き、補助の術式を編み上げる。本来なら高位の術師が行うべき儀式だが、今の俺たちには「これ」しかない。
「……エイト、あんたが核に手を添えろ。……嬢ちゃんとの『因果』が一番太いのは、あんただ。あんたの意思が、核と彼女を繋ぐ道標になる」
俺は、冷たい魔力核に右手を添えた。
左手で、イチカの小さな手を握る。
その瞬間。
路地裏で感じたあの「熱」が、今度は爆発的な光となって溢れ出した。
俺の左手の甲に、黄金色の『8』が。
イチカの胸元に、透き通るような翠色の『1』が。
互いの紋章が共鳴し、部屋全体を眩い光で満たしていく。
「……熱っ……! なに、これ……!」
「……耐えろ、イチカ。……俺たちの『数字』が、道を繋いでるんだ……!」
暗闇の中に、かつての現世での記憶がよぎる。
一美と歩いた夏の夜道。彼女の笑い声。そして、救えなかったあの日の後悔。
(……今度こそ、逃がさねえ。……死なせやしねえぞ!)
俺の執念が魔力核を震わせ、光の奔流がイチカの体内へと吸い込まれていった。
やがて、光が収まる。
イチカの顔に、血色が戻っていた。常に彼女の肩を重く沈ませていた「世界の呪い」が、確かに核へと移し替えられたのだ。
「……はぁ、……はぁ。……終わった、のか?」
俺が荒い息を吐きながらイチカの顔を覗き込むと、彼女はゆっくりと目を開け、不思議そうに自分の手を見つめた。
「……体が、軽い。……ねえ、エイト。私、生きてる……!」
彼女が弾けるような笑顔で、俺に飛びついてきた。
三十路の体にその重みは少し堪えたが、俺は不器用に向き合い、彼女の頭を軽く叩いた。
「……ああ。……首の皮一枚、繋がったな」
だが、そんな安堵の瞬間を、冷徹な鉄の音が切り裂いた。
「――お取り込み中に失礼。……だが、私のコレクションを持ち逃げされたままでは、夜も眠れなくてね」
背後の扉が、音もなく溶け落ちていた。
そこに立っていたのは、数人の近衛兵を従えた、第一王子・フォルシアン。
その手には、抜身の細剣が握られていた。
「……ハッタリの魔法使い。……貴公の化けの皮、暴かせてもらうぞ」
王子の瞳には、侮蔑ではなく、獲物を追い詰めた冷酷な狩人の光が宿っていた。
第13話、いかがでしたでしょうか?
『1』と『8』の紋章が初めて本格的に共鳴し、二人の魂が繋がった重要な回となりました。
しかし、フォルシアン王子はやはり甘くありませんでした。
絶体絶命の倉庫内。次回、第14話。
エイトは再びハッタリで切り抜けるのか、それとも……?
お楽しみに!




