第11話:ゼロ円の入札、死線を歩く舌戦
第11話をお読みいただきありがとうございます。
金も力もないエイトが繰り出したのは、まさかの「出品物が爆発する」という狂気のブラフ。
フォルシアン王子とのヒリつくような心理戦。
一分というタイムリミットの中で、エイトはどうやってこの窮地を脱するのか。
「……さて。本日の目玉、『空の魔力核』。開始価格は一千万ゴールドから。……入札を!」
競売人の声が地下ホールに響き渡った瞬間、場内は熱狂に包まれた。
だが、その熱狂を冷ややかな一言が切り裂く。
「……一億」
貴賓席に座る第一王子、フォルシアンだ。
彼は優雅に頬杖をついたまま、眼下の群衆を虫ケラでも見るような目で見下ろしている。
その圧倒的な財力と、彼自身の背後から漂うナンバー『4』の威圧感に、さっきまで息巻いていた商人や貴族たちが一瞬で口を閉ざした。
「……一億、一億ゴールド! 他にございませんか!?」
競売人の声が上擦る。一億なんて金、逆立ちしても俺の懐には入っていない。
隣でイチカが、震える手で俺の裾をぎゅっと握りしめた。
「ねえ、……エイト。やっぱり無理だよ。あんなの、勝てるわけない……」
「……安心しろ。ギャンブルってのは、金を持ってる奴が勝つ遊びじゃない。……『降りる』と言わせた奴が勝つ遊びだ」
俺は、偽装された「戦闘力5000」のプレッシャーを全身から放ちながら、ゆっくりと一歩前に出た。
視線が、フォルシアン王子の鋭い眼光と真っ向からぶつかる。
「……おい。そこの王子様。……随分と安い買い物だな」
場内が静まり返った。
戦闘力5000。王国の近衛騎士団長すら凌駕する数値を持つ「謎の魔導師」の言葉に、フォルシアンが不敵に口角を上げた。
「ほう。……野良の魔導師が、私に異を唱えるか。ならば貴公、いくら出すつもりだ?」
「……金か? そんな紙屑、俺は一枚も持ってねえよ」
ざわつきが広がる。
だが、俺は冷徹な笑みを崩さない。
これはハッタリだ。一度でも弱気を見せれば、魔導指輪の偽装が剥がれる前に、この場の空気に飲み込まれて死ぬ。
「俺が提示するのは金じゃねえ。……その『空の魔力核』が、一分後に爆発してこの会場ごと消滅するという『事実』の回避だ」
「……何だと?」
フォルシアンの目が細まる。
俺は一歩も引かず、壇上の魔力核を指差した。
「あんたの目は節穴か? その核は過充填を起こしてる。……今すぐ俺が因果を捻じ曲げて封印しなきゃ、あんたも、その綺麗な銀髪も、灰すら残らねえぜ?」
「……ふん。出鱈目を。この会場の結界が、そんな不安定な代物を見逃すはずが――」
「……なら、賭けるか? 自分の命を、たった一億のガラクタのために」
俺は、懐から「見えないカード」を取り出すような仕草で、空中で指を弾いた。
もちろん、スキル『因果律の賭場』は発動していない。
ただの指パッチンだ。
だが、戦闘力5000という虚像が、その動作に「致命的な魔法の発動」という重みを持たせる。
「……ねえ、エイト、何やってるの……!?」
イチカが顔を青くして囁く。
「……黙って見てろ。……今、俺と王子の打算の戦いだ」
沈黙。
フォルシアンの瞳の中で、疑念と恐怖、そして収集家としての執着が激しく火花を散らしている。
俺は、冷や汗が流れるのを必死に堪えた。
もし彼が「やってみろ」と言えば、俺には何もできない。
全滅もしないし、封印もできない。ただの「無力な三十路」であることがバレて、首を跳ねられるだけだ。
「……よかろう。……面白い」
長い沈黙の末、フォルシアンがゆっくりと椅子から立ち上がった。
「その『爆弾』、貴公に譲ってやる。……だが、もし一分後に何も起きなかった場合……貴公のその首、私のコレクションに加えさせてもらうぞ?」
「……ああ。……上等だ」
俺は震える膝を必死に抑え、悠然とした足取りで壇上へと向かった。
手に入れた『空の魔力核』。
だが、本当の勝負は、ここからだ。
第11話、いかがでしたでしょうか?
「戦闘力5000」という嘘を最大級に利用した、ギャンブラー・エイトの真骨頂です。
イチカの不安を余所に、エイトは自ら退路を断つ「首を賭けた勝負」に打って出ました。
次回、第12話。約束の一分間。
会場中が固唾を呑んで見守る中、エイトが仕掛ける「爆発の演出」とは。
お楽しみに!




