第1話:チキった瞬間に、人生は終わる。
はじめまして。
一人の男が、過去の後悔を抱えて異世界で「賭け」に挑む物語です。
ステータスがすべてを決める世界で、数字と心理だけでのし上がる。
そんな大人の戦いを楽しんでいただければ幸いです。
「戦闘力、たったの5か。……ゴミめ」
石造りの広場で、豪華な鎧を纏った騎士が吐き捨てた。
彼の前にある水晶板には、俺――黒田栄人のステータスが非情な数字で刻まれている。
【名前:エイト】
【年齢:30】
【戦闘力:5】
【スキル:未発動】
周りで見物していた兵士たちから、容赦のない嘲笑が浴びせられる。
「ひでえな、農民の子供の方がまだマシだぜ」「30にもなってそのザマかよ」
……ああ、全くだ。言い返す言葉もない。
現世でもギャンブルに明け暮れ、借金を重ね、挙句の果てに――。
俺は、自分の震える指先を、ポケットの奥でぎゅっと握り締めた。
(……二度と、逃げねえって決めたんだ)
その時だった。
広場の隅で、汚れた服を着た少女が兵士たちに囲まれているのが見えた。
「おい、この娘。不法入国の疑いがある。連行して『精査』してやれ」
「や、やめてください! 私はただ、道に迷っただけで……っ!」
少女の悲鳴が耳に刺さる。
彼女の顔を見た瞬間、俺の心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。
喉の奥が焼けるように熱い。
ありえない。あいつは、あの時、俺の目の前で。
だが、目の前の少女――イチカと名乗った彼女の面影は、俺の過去にこびりついて離れない『八嶋一美』と、あまりに酷似していた。
「おい、おっさん。何見てやがる。邪魔だ、どけ!」
兵士の一人が、俺を突き飛ばそうと手を伸ばす。
俺は動かなかった。
逃げれば、またあの日と同じになる。
脳裏に響くのは、あのストーカーの嘲笑と、引き金が引かれる音。
「……おい」
俺は、だらしない笑みを浮かべたまま、兵士の目を見据えた。
「強いほうが勝つ? ……違うな、チキったヤツが負けるんだよ。……なあ、アンタ。命、賭ける勇気あんのか?」
その瞬間、世界の色彩が反転した。
【警告:固有権能『因果律の賭場』が発動しました】
【対象:兵士ゼノス、および付近の全人員を強制収監します】
【遊戯種目:『因果律チンチロ』を開始します】
無機質な『天の声』が、広場全体に響き渡る。
周囲の兵士たちが武器を振るおうとするが、その動きは空中で静止した。この空間では、暴力は意味をなさない。
「な、なんだこれは!? 体が動かん!」
「ほー、それでいいのか? お前の破滅の音が聞こえるぜ」
俺は、宙に出現した三つの巨大なダイスを見上げ、不敵に笑った。
「さあ……ショバ代は、アンタらの『全寿命』だ。賭けようか」
第1話をお読みいただきありがとうございます。
主人公の名前「栄人」は数字の「8」。
ヒロインの「イチカ」は「1」。
この数字が何を意味するのか……それは物語が進むにつれて明らかになっていきます。
次回、異世界初の勝負『因果律チンチロ』決着です。
お楽しみに!




