表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/21

5. 初クエストと騒がしき4人の日常の始まり

 



 辺境都市フレリアから北へ広がる、比較的浅い魔獣の森。


 木々の隙間から差し込む穏やかな陽光の中、ゼノは立ち止まって振り返った。


「さて、ここから先は魔物の領域です。今日あなたたちが受注した依頼は、冒険者の基本となるEランクの指定薬草採取。僕が先行して安全を確保しますので、絶対に僕の視界から離れず――」


「おいおいゼノ、ちょっと待てよ」


 生真面目に解説するゼノの言葉を、後ろを歩いていたラキシスが遮った。


「どうせ森に入るなら、ついでにDランクの小型魔物も狩ってしまえばいいんじゃないか? 効率がいいし、俺の新しい魔導具の実験データも取りたいしな」


「ラキシス、彼女たちは今日が初陣だぞ。いくら魔術の心得があるとはいえ、いきなり魔物の討伐は危険だ」


 ゼノが眉をひそめて難色を示す。


 Sランク冒険者である彼にとって、浅い森など庭のようなものだ。だが、護衛対象である二人の少女に万が一のことがあってはならないという、強い責任感の表れだった。


 しかし、当のセレスティアはパチンと扇子を鳴らして優雅に微笑んだ。


「ラキシス様の提案に賛成ですわ。あなた方のような最高峰の冒険者が見守ってくださるのなら、私たちも実戦に挑戦してみたいです」


「……分かりました。ですが、少しでも危険を感じたら僕が斬ります。いいですね?」


 ゼノが渋々頷いたことで、方針は決まった。


 Eランクの薬草を集めながら、魔物を見つけたらセレスティアとアリアが自力で狩る。


 ギルドに登録したばかりの二人の少女の、冒険者としての最初の実戦が幕を開けた。



***



「あ、セレスちゃん! あそこの木の根元に指定の薬草がありました!」


「ええ、アリア。ありがとう」


 森に入って数分後。


 アリアの完璧な索敵サポートにより、あっさりと目標の薬草を発見したセレスティアは、優雅な所作でそれを摘み取った。


 根や葉を一切傷つけていない、完璧な保存状態である。


「王都の学園で、薬草学は少しばかり嗜んでおりましたから。探すのも採取も容易ですわね」


(本物の勇者としての規格外の五感にかかれば、森のどこに何が生えているかなど目を瞑っていても分かりますわ! ギルドの指定薬草なんて、実家の庭の雑草を探すより簡単です)


 という規格外な本音は、当然ながら完璧な令嬢の仮面の奥に隠してある。


 あっという間に薬草の束を完成させたセレスティアに、ゼノが感心したように目を瞬かせた。


「お、あそこの茂み。Dランクの角兎(ホーンラビット)がいるぜ。お嬢さんたち、やれるか?」


 ラキシスが指差した先。


 茂みの奥から、鋭い角を持った小型の魔物がひょっこりと顔を出していた。


「下がって!」


 ゼノが咄嗟に剣の柄に手をかけた、その瞬間。


「私たちでやりますわ。――ッ!」


 セレスティアが扇子を軽く振るうと同時。


 無詠唱で放たれた極小の『風の魔術』が、的確に角兎(ホーンラビット)の足元をすくい上げ、そのまま木の幹へと勢いよく叩きつけて気絶させた。


 毛皮に傷一つつけない、素材として最高評価を受ける完璧な捕獲(討伐)である。


「護身用の魔術も、学園で優秀な成績を収めておりましたの。……どうかしら、ゼノ様。これなら、私たちも足手まといにはなりませんわよね?」


 セレスティアが小首を傾げて微笑む。


 彼女の眼は、風の軌道も、魔物の筋肉の収縮も、すべてを完全に捉え切っていた。

 しかし、彼女が前衛として大立ち回りを演じることは絶対にない。

 なぜなら、彼女の目的は愛する推しを『勇者』としてプロデュースすることだからだ。


「……驚きました。ただの貴族の令嬢ではないとは思っていましたが、これほどとは」


 ゼノは不思議そうに目を細め、小さく呟いた。


 彼女の魔法の精度もさることながら、その立ち振る舞いに、なぜか熟練の戦士のような「頼もしさ」を感じてしまったからだ。


(ええ、それでいいのよ。私は自分の身くらい自分で守れますから、あなたは最高の英雄として、自分の戦いに集中して頂戴!)


 セレスティアが内心で悦に入っていると、剣から手を離したゼノが、真っ直ぐにこちらへ歩み寄ってきた。


「見事な腕前です、セレスティア様。ですが、油断は禁物です。魔力は消費していませんか? 少しでも疲労を感じたらすぐに――」


「あはははは! ゼノ、見ろ! 俺の新しい『魔力圧縮型・爆炎石』の威力を! ……って、あぶねっ、魔力回路が暴走する!!」


 ゼノが過保護な言葉をかけようとした瞬間、森の少し離れた場所からラキシスの歓喜の声と、それに続く凄まじい爆発音が轟いた。


 モクモクと立ち上る黒煙の中から、全身を煤だらけにして倒れ込む天才魔術師。


「もう、ラキシス様は無茶しすぎです。はい、治癒魔法(ヒール)!」


 すかさずアリアが駆け寄り、国宝級の魔法を雑に、しかし完璧にかけて彼を全回復させる。


「一応ここは魔物の領域だぞ……」


 ゼノが呆れたように頭を抱え、セレスティアはふふっと優雅に微笑んだ。



 Sランクの冒険者を伴った、EランクとDランクの依頼を鮮やかにこなした初陣であった。




面白そうだと思っていただけましたら、ブクマしてくださると幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ