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20. 白銀の誓いと戸惑う英雄



 

 ロゼ会長(ローゼンブルク侯爵)が、王宮に『勇者と聖女の公式な保護者』として先制の報告を行うべく、王都へ向けて旅立ってから数日。


 辺境都市フレリアの冒険者ギルドは、かつてない熱気に包まれていた。

 ギルドのスイングドアが開き、セレスティアたち4人が姿を現した瞬間――。


「来たぞ!! 『白銀の誓い』の皆さんが来てくれたぞ!!」


「岩竜を討ち果たした、伝説の勇者パーティーだぁぁっ!!」


 割れんばかりの歓声と拍手が、ギルドホールを揺らした。

 荒くれ者の冒険者たちも、ギルドの職員たちも、全員が道を空け、畏敬の念を込めて彼らを迎え入れる。


「……セレスティア様、アリア様。僕の背後から離れないでください」


 しかし、その熱狂のど真ん中で、先頭を歩くゼノだけは極めて冷徹だった。

 彼はサファイアブルーの瞳を細め、腰のミスリル剣に手を添えたまま、周囲から向けられる無数の視線を「未知の脅威」として完璧に警戒していた。


「ゼノさん、殺気をしまってください。誰も私たちを襲おうなんてしていませんよ」


 背後からアリアが呆れたようにツッコミを入れる。


「ですが、アリア様。これほど多くの人間が、不自然なまでに一斉にこちらへ注目しています。集団による暴動や、この中に暗殺者が紛れ込んでいる可能性もゼロでは――」


「ゼノ様」


 セレスティアが、扇子を優雅に畳みながら彼の腕にそっと触れた。


「剣の柄から手を離してくださいませ。彼らの目に宿っているのは、敵意ではありません。この街を災害から救ってくれた『英雄』に対する、純粋な称賛と感謝ですわ」


「英雄……」


 ゼノは不思議そうに周囲を見渡し、小さく首を振った。


「僕はただ、あなた方の平穏を脅かす魔獣を斬っただけです。英雄などと呼ばれるような、大層な真理は持ち合わせていません」


 どこまでも生真面目で、自分の偉業に無頓着な剣士。

 その清廉な横顔を見つめながら、セレスは静かに目を伏せた。


(……713回。あなたはいつもそうやって、誰に褒められることもなく、ただ一人で世界を救っては消えていった。でも、今回は違うわ)


 セレスの胸の奥に、深く温かい感情が満ちていく。

 今度こそ、世界中が彼の強さを知る。彼の存在が、人々の記憶に絶対的な『勇者』として深く刻み込まれていくのだ。

 神が定めた残酷なシステムを欺き、彼を歴史の表舞台に立たせる。その壮大な計画が、今、確かに実を結び始めていた。


「あなたがどう思おうと、彼らにとってあなたは希望の光なのです。……さあ、胸を張って彼らの称賛を受け取ってあげてくださいな。私たちの、自慢の護衛様」


 主からの優しくも確固たる言葉に、ゼノは「……承知いたしました」と小さく頷き、ようやく剣から手を離した。


「おお! よく来てくれた、白銀の誓いの諸君!」


 受付カウンターの奥から、ギルドマスターが満面の笑みで飛び出してきた。


「君たちが岩竜を討伐して以来、街の連中からの指名依頼が殺到していてな! 中には『勇者様の剣から出る神々しい光を一度でいいから拝みたい』という貴族からの高額な護衛依頼まで来ているぞ!」


「フハハハ!! 見たかゼノ! やはり時代は『演出』を求めているのだ! 俺の『闘気光輝変換環』に、もっと光の粒子を増やす改良を施さねばなるまい!!」


 ラキシスが我が意を得たりと高笑いする。


「……これ以上、剣から光や音が出るのはお断りします。暗闇で目が眩んで、護衛の支障になりますから」


 ゼノが深々とため息をつく横で、有能な聖女アリアはすでにギルドマスターの前に陣取り、山積みになった依頼書を恐ろしい速度で選別していた。


「ギルドマスター。指名依頼が来るのは光栄ですが、私たちはあくまで冒険者です。見世物になるような依頼はすべてお断りします。受けるのは、純粋な魔物討伐か、高ランクの迷宮探索のみ。……もちろん、報酬の単価は通常より高く設定させていただきますよ?」


「う、うむ……! もちろんだとも、アリア君。君たちの要求はすべて通そう」


 伝説の勇者パーティーという絶対的なブランド力を盾に、アリアは一切の妥協なく、最も効率的で安全、かつ実入りの良い依頼だけを的確に確保していく。親友の壮大な計画を裏から支えるための、最高のマネジメント手腕であった。


 その日の午後。

 依頼の手続きを終え、市場の通りを歩く4人に、街の人々が次々と声をかけてきた。


「勇者様! 聖女様! 先日は本当にありがとうございました! これ、うちの畑で採れた一番良いリンゴです、どうか受け取ってください!」


 果物屋の老婆が、籠いっぱいの艶やかなリンゴを差し出してきた。


「……お気持ちは感謝しますが、出処の不明な飲食物をセレスティア様たちに口にさせるわけにはいきません。万が一、毒が――」


「ゼノさん、ストップ。おばあちゃん、ありがとうございます。とても美味しそうですね」


 アリアがゼノの口を素早く手で塞ぎ、満面の笑みでリンゴを受け取る。


「皆様の温かいお心遣い、感謝いたしますわ。大切にいただきますね」


 セレスティアも令嬢の完璧なカーテシーで応え、街の人々に微笑みかけた。

 その圧倒的に美しく神々しい立ち振る舞いに、市場の人々は「おおぉ……」と感嘆の溜息を漏らす。


(ゼノさんが最強の物理で、ラキシスさんがド派手な演出。そしてセレスちゃんが完璧なカリスマ性で場を支配する……うん、完全に『伝説のパーティー』の完成形だね)


 リンゴを抱えたアリアは、親友の鮮やかなプロデュースの成果に、内心で小さくガッツポーズを決めた。


 過保護な父親が王都で政治的な防波堤を築いている間、辺境都市フレリアでは。

 世界を騙す『真の勇者』と『最強の共犯者』、そして戸惑う護衛剣士たちによる、確固たる英雄譚の土台が、確かな絆と共に築き上げられていくのであった。





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