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18. 有能な共犯者と過保護なスポンサー

 



 辺境都市フレリアの、人目につかない薄暗い路地裏。

 豪商に変装したローゼンブルク侯爵と、護衛の傭兵(精鋭影騎士)たちは、串焼きをかじる金髪の少女――聖女アリアの前に、完全に圧倒されていた。


「ーー単刀直入に聞きます。セレスちゃんを王都に連れ戻しに来たんですか?」


 アリアが、極めて事務的な口調で切り出す。


「と、当然だアリア様! 我が愛娘と聖女様が、あのような恐ろしい『光の勇者』に囚われていると聞いて、居ても立っても居られず……!」


「……やっぱり。 それは勘違いなんです」


 アリアは串焼きを一本平らげると、ふう、と小さく息を吐いた。


「私たちは誰にも囚われていません。むしろ、セレスちゃんが、あのSランク剣士のゼノさんを『専属護衛』として雇い入れたんです」


「……な、なんだと? セレスティアから雇った?」


 侯爵が目を白黒させる。アリアは淡々と事実を並べていく。


「はい。ちなみに、先日の侯爵様の騎士団を追い返したのも、彼が『雇いセレスを狙う襲撃者』だと大真面目に勘違いして、護衛の任務を完璧に全うしようとした結果です。彼、少し……いえ、かなり真面目すぎるので」


「そ、それでは、あの光の剣による無限の回復と破壊の拷問は……?」


「あれは、セレスちゃんが裏から騎士の皆さんに『絶対防壁』をかけ続けて、私が『極大ヒール』を回してたからです」


 その言葉に、侯爵と影騎士たちは雷に打たれたように硬直した。


(なんと……! あの無傷の地獄は、光の勇者の残忍な拷問ではなく、愛娘と聖女様による慈悲だったというのか……!)


「それに、セレスちゃんは逃げているんじゃありません。彼女、あの卒業式の日に『実家を勘当された』と本気で思い込んで、一人で家出してるんですよ」


「か、勘当だと!? 馬鹿な!! 私があの愛しい娘を捨てるわけがないだろう!! 今すぐ誤解を解いて、連れ戻してやらねば!!」


 侯爵が涙目になりながら路地裏を飛び出そうとした瞬間、アリアがその行く手をサッと遮った。


「待ってください。今いきなり『勘当してないよ、帰ろう』と言っても、彼女は頷きません。セレスちゃんは今、あのゼノさんを『勇者』に仕立て上げるという壮大な計画にすべてを懸けているんです。無理に連れ戻そうとすれば、今度こそ完全に姿を消してしまいますよ」


「……っ! では、このまま指をくわえて見ていろと言うのか!」


「いいえ。ですから、ちゃんと『お話し合いの席』を設けましょう」


 アリアはいつもの明るい笑顔で、侯爵を見上げた。


「お父様は、西の大商会『ロゼ』の会長という偽装のまま、私たちの宿へ来てください。そして、ご自身の口で……愛する娘が今後も勇者の隣に立ち続けられるような、『最強の提案』を持ちかけてください」


 アリアの真意を悟り、侯爵の目に、貴族としての鋭い知性と、凄まじいまでの過保護な決意が宿った。


「……なるほど。そういうことか。よかろう、案内してくれ、アリア様」



 ***



 『暁のフクロウ亭』の貸し切り個室。

 アリアが連れてきた『怪しい豪商』とその護衛たちを見るなり、ゼノは音もなくセレスの前に立ち塞がり、サファイアブルーの瞳を限界まで細めていた。


「彼らの歩法、そして気配の隠し方……只者ではありません。先日の高度に訓練された襲撃者たちと同じ匂いがします」


 ゼノのSランクとしての直感が、激しく警鐘を鳴らしている。


「ゼノさん、剣を収めてください。彼らは敵じゃありません。……私たちのパーティーの『後ろ盾』になりたいと申し出てくれた、西の大商会『ロゼ』の会長さんです」


 アリアが場を取り成し、侯爵――ロゼ会長が、咳払いをして重々しく口を開いた。


「いかにも。私はロゼ商会の会長だ。君たちが岩竜を討伐し、Bランクに上がった噂はすでに聞いている。……特に、そこの剣士殿。君の『光の勇者』としての噂は、遠からず王宮や中央の貴族たちの耳にも届くはずだ」


 ロゼ会長の鋭い言葉に、ゼノが微かに眉をひそめ、ラキシスが興味深そうに身を乗り出す。


「王宮の連中が、伝説の勇者と、あまつさえ(行方不明の)聖女様らしき治癒術師の存在を放っておくはずがない。必ずや大義名分を掲げて干渉し、君たちを国の管理下に置こうとするだろう。……そうなった時、どうなるか」


 ロゼ会長の視線が、ゼノの背後に立つセレスティアへと向けられた。

 その瞬間、彼の目元が微かに潤んだように見えたが、咳払いで誤魔化す。


「国は、御しきれない不確定要素を嫌う。勇者と聖女のパーティーから、その他の者――例えば、訳ありの令嬢などを、いの一番に排除しようと動くはずだ。君たちは、それでも良いのかな?」


「……っ」


 ゼノの瞳が、剣呑な光を帯びた。

 セレスティアをパーティーから排除する。それは、ゼノにとって許容できない事態であった。


「そんなことは、僕の剣に懸けて絶対にさせません。王宮からの干渉など、すべて僕が斬り捨て――」


「国を相手に剣を抜けば、君たちは追われる身となる。それでは本末転倒だろう」


 ロゼ会長がゼノの言葉を遮り、力強く宣言した。


「だからこそ、私と手を結べと言っているのだ。我が商会の持つ巨大な財力と、中央の貴族たちとの太いパイプ。これを使い、私が君たちの『公式な保護者・交渉窓口』となってやろう。王宮の捜索隊や横槍、私が跳ね除け、君たちの冒険者としての自由を保証する!」


 それは、ただの商人には到底不可能な、貴族のトップ層だからこそ口にできる完璧な『政治的防波堤』の提案だった。


(お父様……つけ髭が少し曲がっていますわよ。それに、実の娘に初対面のフリをして媚びを売る姿、涙ぐましいですわ)


 セレスは一瞬で彼が父親であることを見抜いていた。

 アリアのウインクを見て、すべては彼女が間を取り持ち、この話し合いの場を作ってくれたのだと理解する。


(でも……お父様のおっしゃる通りだわ。私がこのままゼノ様の隣に立ち続けるためには、王宮の目を逸らすための強固な政治的窓口がどうしても必要になる)


「ご丁寧なご提案、心より感謝いたしますわ、ロゼ会長」


 セレスは完璧な淑女の笑みで応え、ゼノの背中にそっと触れた。


「ゼノ様、剣を収めてくださいませ。……あなたが勇者として名を馳せれば、いずれ国が干渉してきます。その時、私たちが引き離されることなく、今のままの居場所を守るためには、彼のような強固な後ろ盾が不可欠なのです」


「……あなたがそうおっしゃるなら」


 セレスの言葉に、ゼノは渋々といった様子で警戒を解いた。だが、その立ち位置はセレスから一歩も離れていない。


(……この豪商、セレスティア様を見る目が妙に熱を帯びている。ただの商人ではない。今後も、僕が目を光らせていなければ)


 ストイックな護衛剣士は、熱い視線を送る侯爵を「雇い主に近づこうとする危険な男」として、さらに過剰な警戒対象リストに加えることとなった。


 真の勇者、国宝の聖女、天才魔術師、そして規格外のSランク護衛。

 そこに『最強の政治的防波堤(過保護な父親)』までが加わり、パーティー『白銀の誓い』の基盤は、盤石なものへと仕上がっていくのであった。




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