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17. 白銀の誓いと忍び寄る過保護な影

 



 狂魔の岩竜討伐から数日後。

 辺境都市フレリアは、未曾有の危機から街を救った『光の勇者』の熱狂に未だ包まれていた。


 そんな喧騒をよそに、冒険者ギルドの奥にあるギルドマスターの執務室では、一つの重要な手続きが行われようとしていた。


「約束通り、セレスティアとアリア。お前たち二人を特例で『Bランク』に昇格させる。あの絶望的な状況下で、一歩も退かずに陣地を支え、被害を最小限に抑えた防衛手腕。……文句なしの功績だ」


 ギルドマスターが、真新しいBランクのギルドタグを二人の前に置いた。

 Eランクの冒険者から始まり、スピード昇格の連続である。


「ありがとうございます、ギルドマスター」


 セレスが優雅にタグを受け取ると、ギルドマスターは深く息を吐き、ゼノとラキシスを見上げた。


「そして……ギルドの規定上、BランクになればSランクの冒険者とも『正規のパーティー』を組むことが認められる。お前たち4人の実力と連携は、先の戦いで完全に証明された。どうだ、正式にパーティーとして登録するか?」


 これまではランク差の規定により、あくまで「依頼主と護衛」という一時的な契約でしかなかった。しかし、正式なパーティーを組めば、ギルドの制約を受けずにすべての依頼や行動を共にすることができる。


「はい! 私たちはもちろん、そのつもりです!」


 アリアが即座に答え、セレスも静かに頷く。

 二人の視線を受けたゼノは、居住まいを正し、サファイアブルーの瞳を真っ直ぐにセレスに向けた。


「……これまでは護衛契約という名目でしたが。正式なパーティーとなれば、僕はあなたの『仲間』として、この剣を振るうことになります。……よろしいのですか?」


 ゼノの言葉には、Sランクとしての矜持と、彼女の隣に立つことへの微かな躊躇いが滲んでいた。自分のような血生臭い剣士が、これほど美しく高貴な令嬢の『正規の仲間』として本当に隣に立っていいのかという、彼なりの誠実さゆえの問いだった。


「ええ、もちろんですわ、ゼノ様。あなた以外に、私の隣を任せられる剣士などおりませんもの」


 セレスの迷いのない言葉に、ゼノは小さく息を呑み、やがて深く、深く頭を下げた。


「……光栄です。僕の命に代えても、あなたたちをお守りします」


(ああ……713回目の、あなたの誓い。この残酷な世界で、あなただけが私に温かい居場所をくれる)


 セレスは扇子の裏で、愛おしさに泣きそうになるのを必死に堪えた。

 彼がどれほど自分の命を軽く扱おうとも、セレスは絶対に彼を死なせない。このパーティーは、彼を運命から守り抜くための、世界で最も強固な『ゆりかご』なのだ。


「フハハハ! 決まりだな! さあ、正規パーティーを組むなら『パーティー名』が必要だぞ! 俺の案を採用しよう、『超絶光輝・無双爆炎団』だ!!」


「却下します。絶対に関わりたくない犯罪組織みたいです」


 ラキシスの提案をアリアが0秒で切り捨てる。


「では、僕が。『絶対護衛陣形・盾』でどうでしょうか。我々の目的が明確に伝わります」


「ゼノさん、私たちはただの冒険者パーティーであって、要人警護の私兵団じゃないんです」


 真面目すぎるSランク剣士の提案も、有能な聖女によってあえなく却下された。

 アリアが「セレスちゃん、何かいい案ある?」と話を振ると、セレスは少しだけ考え込み、ふっと優しく微笑んだ。


「……『白銀の誓い』。というのは、どうかしら」


「白銀の誓い……」


「ええ。ゼノ様の振るう美しい剣と、私たちが共に平穏な日々を守り抜くという約束……その誓いを込めて」


 表向きは美しい響きの名。

 しかしその裏には、『システムに抗い、愛する者を因果の外から守り抜く』という、セレスの途方もない決意が込められていた。


「白銀の誓い……。良い名です。僕の剣に懸けて、その誓いを必ず全うしてみせます」


 ゼノが、その名に込められた真意を知らぬまま、真っ直ぐな忠誠心と共に深く頷いた。


「決まりだね! ギルドマスター、登録をお願いします!」


 こうして、世界を騙す真の勇者と、過剰演出を背負ったSランク剣士、天才魔術師、そして国宝級の聖女という、辺境都市にはあまりにも規格外すぎるパーティー『白銀の誓い』が正式に結成されたのであった。



 ***



 その日の夕刻。

 フレリアの街の入り口にある大門に、一台の馬車が到着した。


 装飾こそ抑えられているが、車輪のサスペンションや馬の毛並みを見れば、それが只者の馬車ではないことは一目瞭然である。


 馬車から降り立ったのは、立派な口髭を蓄えた、恰幅の良い中年の『豪商』だった。

 その周囲を、目つきの鋭い屈強な『傭兵たち』が十名ほど、隙のない陣形で固めている。


「……ここが、辺境都市フレリアか。空気の淀んだ、野蛮な街だ」


 豪商が、つけ髭を気にするように触りながら、忌々しげに街並みを睨みつける。

 彼こそが、愛娘を奪還すべくお忍びでやってきた、ローゼンブルク侯爵その人であった。


「旦那様、お声が大きすぎます。我々はあくまで、貴重な魔石を買い付けに来た西の商会という設定をお忘れなく」


 傭兵に変装した影騎士の隊長が、小声でたしなめる。


「わかっておる! ……あの大怪我を瞬時に治し、無自覚に精神を破壊してくるという恐ろしい『光の勇者』とやら。我が愛娘のセレスティアと聖女様を人質にとる悪鬼め。この私が、金と権力、そして実力行使で必ず……」


 侯爵が、つけ髭の奥でギリッと歯を食いしばり、壮絶な勘違いに燃えていた、その時である。


「――あれ? そこのお髭の旦那様」


 ふいに、横から明るい声が掛かった。

 侯爵と影騎士たちがビクッと肩を揺らして振り返ると、そこには、両手に串焼きの肉を持った金髪の少女――アリアが、目を丸くして立っていた。


「……あ。やっぱりそうだ。お久しぶりです、セレスちゃんのお父様」


「なっ!?」


 変装して街に入ってわずか数分。

 夕食の買い出しに出ていた有能な聖女に、侯爵の極秘潜入はあっさりと、そして完全に見破られてしまったのだ。


「しーっ。大声出しちゃダメですよ」


 アリアは、串焼きを片手に人差し指を口元に当て、周囲に聞こえないよう小声で告げた。


「事情はだいたい察してます。セレスちゃんを迎えに来たんですよね? とりあえず、路地裏で『すり合わせ』をしましょうか」


 その言葉には、一切の隙がなかった。

 国宝級の聖女にして、セレスティアの最強の共犯者。

 アリアの容赦のない「裏工作」の魔の手が、過保護をこじらせた侯爵へと静かに伸びようとしていた。




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