五十四話
―――大厄災から数年後、銀座。
オシャレな雰囲気のお店に足を運ぶと、すでに懐かしい顔ぶれが揃っていた。
店内は落ち着いたトーンで統一され、白とグレージュを基調にした壁が柔らかな光を受けている。
天井から下がるガラス製のペンダントライトは、ほんのりと灯されている。
木目のテーブルは角が丸く削られ、触れればすべすべとした質感が伝わってくる。
「ここ、俺の息子の店だから良かったらヒイキにしてよ」
健太が笑いながら息子さんを紹介する。
「どうも…」
ペコっと頭を下げる息子さん。
父親と違って大人しそうな雰囲気の青年だった。
「前会った時はこんなにちっちゃかったのに、あっという間で怖いわ人生」
大人っぽくなった朱里がグラス片手に話す。
「健太が結婚できたことに驚き」
「おい!」
「前に集まった時は五年前だっけ?そりゃ老けるよな〜……」
「朱里と美空だけ変わんねぇけど」
「あー、現代の技術フル活用してるから」
「私はまぁ色々と」
朱里と肩を組みながらピースする。
「いや〜、みんな凄いよな〜………」
しみじみと蒼真が言うと、健太が「お前だって名の知れた社長様じゃん。地方の工場を一代で広げてさ〜」と軽口を叩いた。
「よっ、工場長」
「今度は店に社員を連れて来てくれよ〜」
「いや、俺はただの三代目だよ。好景気のおかげ」
「和希は今ゲームプロデューサーしてるんだって、最愛のゲーム会社の」
「それ知ってる!」
「あいつすげぇな!」
そんなことを話していたら、カランコロンとお店のドアが開き、二人の男性が入って来た。
「……あ、やっと来た」
朱里がちらりと視線を向ける。
一人はスーツをビシッと着ていて、もう一人はラフなコート姿で、手には紙袋を下げていた。
「おー、委員長と和希じゃん」
「我らが出世頭の委員長議員が来たぞー!」
「誰が委員長議員だゴラ」
「口の悪さは変わってなかったね」
「それな」
「すげぇ!飲み会に現役議員が来るなんて。自慢しちゃお」
椅子に腰掛ける委員長に息子さんがサインペン片手に近づく。
「あの、うちの壁全体にサインください」
「それはちょっと……」
「国会会議?リアタイで見れるやつにイインチョーが出てたら爆笑しながら見てるわ」
「分かる」
「マジかよ……」
委員長が頭を抱えた。
「和希は今何のゲーム作ってんの?」
「信玄ちゃんが天下統一目指すやつ」
「それはまた……独特なゲームだな」
「独特って言うな」
和希はむすっとしながらも、どこか誇らしげに胸を張った。
「ちゃんと歴史監修も入ってるし、戦略要素も硬派だぞ?」
「なお推しへの愛は隠す気ない」
「戦プリがサ終しそうになった時、めっちゃ上と掛け合って、自分がプロデュースするからってことでサービス続行したって聞いた時、尊敬したわ」
「今何周年だっけ?」
「今年で三十五周年だ!」
和希は指を三本立ててから、さらに指を二本足しそうになってやめた。
「古参ユーザーがプロデュースしてるって、すげぇな、おい」
ふと、思い出したように健太がニヤニヤしながら言った。
「委員長には感謝しかないわー。営業成績の半分は同級生ネタで会話広げてるし。『鷹宮議員の学生生活が知れるお店』として人気テレビ番組が取材しに来たからな」
「このオッサン、バリバリ営業に使ってますよ」
息子さんが健太を指差す。
「だからしばらく委員長議員って党内で言われてたのかよ……」
話が一段落したところで、カウンターの奥から息子さんが姿を現した。
「お待たせしました」
テーブルに次々と料理が置かれていく。
白い皿に盛られた前菜は、彩りよく並んだ季節野菜と薄切りの生ハム。オリーブオイルがほのかに光を反射している。
続いて、湯気を立てるグラタン皿、香ばしい匂いのローストビーフ、そして小ぶりだが存在感のあるバゲットのカゴ。
「すげぇ、貴族になった気分」
「ローストだ!ロースト!」
「美味しそう」
「じゃあ、冷めないうちに食おうぜ」
健太の一声で、それぞれがフォークやナイフに手を伸ばす。
「……うま」
蒼真が一口食べて、思わず目を見開く。
「ありがとうございます」
息子さんが少しだけ口角を上げる。
「このロースト、火入れ完璧じゃん」
朱里が感心したように言うと、「父さんと違って真面目なんで」 と即答が返ってきた。
「反抗期か〜……つれぇ」
嘘泣きを始める健太。
「いやでもマジで美味い」
和希が感動しながら食べている。
「銀座でこれ出されたら、そりゃ流行るわ」
私はバゲットをちぎってソースを拭い取った。
さすがオシャレタウン、銀座。さすが銀座にお店を構えるだけあって、めっちゃ美味しい。
それから二時間くらい昔話に花を咲かせていたり、料理を食べていたりしていたら、あっという間に時間が流れてお開きになった。
「じゃーまたねー」
「また集まろ〜」
「バイバーイ」
それぞれコートを羽織り、店の外へと散っていく。
外は少し寒くて風が冷たかったけど、火照ってる体にはちょうど良かった。




