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日ノ本元号男子  作者: 安達夷三郎
第八章、戰場
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五十三話

―――その時。

本災の中心部が、ゆっくりと“こちらを見る”ように歪んだ。

視線なんてないはずなのに、確かに感じる。

(……これは)

私は息を詰めた。

瓦礫の奥から、かすれた声のようなものが滲み出す。

怒りでも、憎しみでもない。

不安、後悔、喪失。

人が積み重ねてきた、どうしようもない感情の集合体。

薙刀の柄が、かすかに熱を帯びた。

私は大きく一歩、前へ出る。

地面に突き立てるようにして、深く腰を落とした。

刃が、低く鳴る。

(ここまで連れてきた恐怖も、後悔も……)

風が渦を巻き、瓦礫が震える。

本災が、抵抗するように膨れ上がった。

(全部、置いていって)

薙刀を引き抜き、円を描くように振る。

光が地面に広がり、結界と共鳴する。

陰陽師達の詠唱が、はっきりと聞こえた。

「……っ」

本災が、初めて後退した。

圧が、ほどけていく。

絡まり合っていた土砂や瓦礫が、重力に従って落ちていく。

黒い霧の奥で、何かが崩れる音がした。

私は薙刀を振り上げ、最後の一撃を放つ。

真っ直ぐ、静かに。

光が、すっと通り抜ける。

次の瞬間。

重かった空気が、嘘のように消えた。

風が吹き抜け、遠くで、誰かが安堵の息をつく声が聞こえる。

本災は、霧のように薄まり、やがて何事もなかったかのように消滅した。

「……終わった」

足の力が抜けそうになるのを、ぐっと堪える。

結界が解かれ、陰陽師達がこちらを見る。

一人が、深く頭を下げる。

「お見事でした」

私は、軽く手を振って応えた。

その言葉を合図にしたかのように、張り詰めていた空気が一斉に解けた。

結界の残光が、淡く揺らぎながら消えていく。

私は薙刀を地面に立て、深く息を吐く。

肺の奥まで、澄んだ空気が流れ込んできて―――ようやく、生きている実感が追いついた。

「ご無事で何よりです!」

「ありがとうございます!」

「う、うっ…良かった……」

「おかえりなさい」

結界を張ってくれた陰陽師の人達が、それぞれひと言ずつ言ってくれる。

「おーい!おーい!お疲れ様〜!!」

平成くんが手をブンブン振りながら駆け寄って来る。

「走ると危ないですよー」

後ろから慌てた明治さんの声が飛ぶが、彼は聞こえないふりをして一直線。

「お疲れ様でした」

少し遅れて、明治さんがこちらへ来た。

安心したのかどっと疲れが押し寄せ、へなへなとその場に座り込むと、ポンッと頭に何か置かれる。

「………江戸くん!?」

頭に乗せられたのは江戸くんの手だった。

これは一体………。

頭の中で疑問符が飛び交っていると、江戸くんは少し微笑む。

「頑張ったね」

「え、あ、ありがとう………?」

「何で疑問形なんだよ」

すぐにいつもの呆れたような表情の江戸くんに戻ってしまった。

……残念。

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