五十一話
「よーし、受験お疲れ様会するぞー!!かんぱーい!」
今日は私の家に集まって『受験お疲れ様会』をしている。
テーブルには宅配ピザやサラダが鎮座しており、貴族になった気分だった。それぞれジュースが入ったコップを掲げる。
「「「「「「かんぱーい!」」」」」」
カチンとコップがぶつかる音が鳴って、それぞれ取り皿に食べ物を移した。
「やっと終わった」
「悪夢からの解放だわー」
「それな」
ピザを切り分けて一口食べる。
「ん!美味しい!!」
「宅配ピザってこんな味だったっけ?」
「サラミが染み渡る〜!」
「受験終わった瞬間、脳みそが一気に溶けた気がする」
「わかる。昨日まで単語帳とにらめっこしてたのに、今日はピザ見つめてる」
「進化なのか退化なのか」
そんなことを言い合いながら、次々とピースが消えていく。紙皿の上に残った油の跡すら、今日は勲章みたいに見えた。
「ところでさ、自己採点どうだった?」
「聞くな」
健太の言葉をサラミのピザを食べていた朱里が、わざと大きな音を立ててコーラを注ぐ。
しゅわっと泡が立ち上がって、張り詰めていた空気も一緒に弾けた。
「合格発表までは、現実逃避期間ってことで」
「今日はやけに和希がニヤニヤしてるな……雨でも降るのか?」
「戦プリの春イベもあるからな!春イベでは信玄ちゃんの桜衣装が実装されるんだ!!」
和希が意気込みながらスマホを見せてくる。そこには『全キャラ桜衣装実装』の文字。
「良かったねー」
「そのテンション、受験前にも出せなかったのかよ」
「無理無理。あの時期は呼吸するだけで精一杯」
「みんな死んだような顔してたもんな」
「ウケる」
「いやー、受験終わって肩の荷が降りたわ〜……」
笑いながら、私はサラダを取り分ける。シャキッとしたレタスが美味しい。
「あとは結果を待つだけだな」
トマトを口に運びながら、委員長がしみじみ言う。
「高校入っても遊ぼーぜ」
「当たり前だ!」
「家近所だし、とつって来て良いよ」
「じゃあ、春休み委員長の家とつろー」
「それは追い返すわ」
「お前がいない間、天下取るつもりだったのに……」
「天下取ったのはウチの推し・信長ちゃんぞ」
「いや、今度は信玄ちゃんが天下取る」
「今度はってなんだよ……」
委員長が呆れながらため息をつく。
「もう高校生か〜、お前ら文化祭呼べよ」
「ウチと美空は同じ高校ー」
「いえーい!」
朱里と肩を組んで健太に見せ付けるようにピースすると、蒼真が高校生になったらどうなるかを予想しだした。
「朱里はギャルになりそう」
「なりそうなりそう」
「無理。ウチ、人見知り」
「じゃあ美空は?」
突然話題を振られて、思わずエビマヨのピザを持ったまま固まった。
「私?」
「図書委員してそう」
「あー、分かる」
「委員長は?」
朱里が聞くと、全員が一斉にそちらを見る。
「……生徒会」
「だろうな」
「副会長とかやってそう」
「いや会長だろ」
「やらん」
即答だった。
「絶対やる顔してる」
「責任感の塊」
「逃げ場ないぞー」
委員長は一瞬言い返そうとして、諦めたように髪を掻く
いた。
「健太は?」
「運動部」
「バスケかバレー」
「マネージャー泣かせ」
「おい最後」
健太が笑いながら抗議する。
しばらく他愛もない話が続いて、気づけばピザはほぼ消え、テーブルの上には空き皿と二リットルあったはずのジュースの空ボトル、氷の溶けたコップだけが残っていた。
そろそろ時間も時間なので、お開きとなった。
「じゃあまた明日」
「おー」
「今日はありがとうな」
ドアが閉まると、家の中は急に静かになる。
さっきまで人でいっぱいだった空間が、少しだけ広く感じる。
窓の外を見ると、街灯の下でみんながそれぞれ違う方向へ歩いていくのが見えた。
「楽しかったな〜……」
合格発表のことを考えると、不安がゼロになったわけじゃないし、むしろこれからの方が落ち着かないのかもしれない。




