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日ノ本元号男子  作者: 安達夷三郎
第七章、未来を繋ぐもの
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四十七話

昭和くんに連れられて来たのは、昭和時代最後の年の東京だった。

「今日は三日だったからギリギリ間に合ったな」

昭和最後の年は、たった七日しか続かなかったらしい。

「ここ……どこ?」

九段(くだん)の方だぜ。もうちっと歩く」

昭和くんは寒そうに袖に手を入れ、ゆっくりした歩幅で進む。

遠くに見える街灯の列が、一本の線みたいに続いている。

やがて、道がゆるやかに上り始めた。

「坂?」

「ああ。もう着くな」

昭和くんに連れられて向かったのは、靖国(やすくに)神社だった。

鳥居をくぐった瞬間、さっきまでの東京の喧騒(けんそう)がすっと背後に引いていく。

拝殿の前に立つと、昭和くんは深く一礼し、ゆっくりと手を合わせる。

その姿を見て、私も真似をした。

―――長い沈黙。

何を祈っているのか、聞いてはいけない気がした。

参拝を終えて、少し離れた場所まで歩く。

昭和くんは並木の下で立ち止まり、振り返って私を見た。

「本当は夏に行きたかったんだがなぁ......」

「夏......?」

「結局はこんな時期になっちまった。すまねぇ」

そう言った昭和くんは、少し悲しそうな表情をしている。

「あそこには、戊辰(ぼしん)戦争から第二次世界大戦まで、国家のために命を捧げた国民達が眠ってるんだ。今日はその挨拶だな」

そう言って、並木の向こう―――さっきまでいた方向を、もう一度だけ見た。

その視線は真っ直ぐなのに、どこか遠い。

「この先に平和があるのか、長ぇ戦いがあるのか俺には分かんねぇ。もしかしたら、何千何万の国民が御寮人の為に命を捧げることがあるかもしれねぇ」

それは。

私が何か言うより先に、昭和くんが口を開いた。

「だからよ、その何千何万の命に値する存在になれ。......どうか、御寮人(令和)の代が千に千代に続きますように」

その言葉は、祈りというより何かを託す声で。

「……重たいこと、言って悪ぃな」

そう言ってから、昭和くんは少し困ったように笑った。

「帰るか」

「......うん」


今日は食堂じゃなく、おせちを食べた時に使った和室に招集がかけられる。

座卓が二個くっつけられ、座布団が人数分きちんと用意されていた。

「嬢ちゃん、今日は何の鍋やと思う?」

「え?クイズ!?」

古墳くんは両手を組んで、楽しそうに目を細める。

「古墳、意地悪したら怒られるよ」

「いけずちゃうしー、これはクイズやしー」

縄文くんに言い返す古墳くん。

「ヒントは美味しいやつなのですよー!」

「鍋はどれも美味いやろ」

飛鳥くんにビシッとツッコミを入れた。

「おーい!上古(じょうこ)組と若人も手伝ってくれよー」

その時、鍋をコンロに乗せた奈良さんが入ってきた。

上古組とは、縄文くん、弥生くん、古墳くん、飛鳥くんまでのグループのことなのだとか。

「美味い鍋が食いたいなら手伝う!」

「「「「「はーい!」」」」」


「どうして僕達やここが生まれたか、ですか?」

お鍋のちゃんこ鍋を囲みながら明治さんに尋ねた。

「縄文くんの方が詳しいんじゃないですかねぇ......一番初めに生まれた時代ですし」

明治さんは首を傾げながら、肉を探して鍋底をかき混ぜている縄文くんを指差す。

「え、僕?」

「お願いします!」

「んー......神話と歴史が混じった時代まで(さかのぼ)るし、僕の推測がほとんどだけど、それでも良いの?」

縄文くんの質問に、こくこくと頷く。

「当たり前になり過ぎて気にならんだったばってん、おりゃあも知ろごたる!」

「俺も知りたーい!」

「オレも!」

弥生くん、大正くん、平成くんも目を輝かせる。

縄文くんは少し考え込むように箸を置き、鍋の湯気を見つめながら口を開いた。

「元々は水や土の集合体でしかなかった土地に、人々が住んで、生きて、愛着を持って文明を築いた時点で僕達が生まれたんだと思う。自然発生に近いんじゃない?」

「日ノ本には古くから付喪神(つくもがみ)という神もいますしねぇ」

平安さんがお茶を飲みながら言った。

「あ、そうだ。お年玉いる人ー」

思い出したように江戸くんが口を開いた。

「まじ!?欲しい欲しい!!」

「俺はいらねぇからな」

「僕はお年玉よりお菓子が欲しいな。特に羊羹」

「室町は遠慮しろ」

「令和は?」

「え?」

「お年玉」

江戸くんは分厚いポチ袋を差し出しながら首を傾げる。

ありがたく貰い、ポチ袋の中身を確認すると、中に入っていたのは切り餅だった。

「餅......?」

「お餅......?」

平成くんと顔を見合わす。

「では私からもあげましょうかねぇ」

平安さんは席を立ち、台所から餅を持ってきた。

「餅......何で?」

「お札に見立てて、とか?」

「鏡餅は正月に神に捧げる供物。それをみんなに分け与えることで、その一年の健康や豊作を祈るんですよ」

「よく知っているな」

奈良さんが鍋に投入したお餅を取り出して食べる。

「現代に残ってる風習のほとんどが平安()の時代に生まれましたからねぇ」

「なるほど……神様へのお供えをみんなで分けることで、一年の幸せを祈るのですね」

戦国さんはぽんと膝を叩き、少し感心した顔をする。

「昔の人の知恵ってすごいなぁ……」

「お餅も鍋に入れると美味しいのですよー!」

飛鳥くんが嬉しそうに言いながら、手早く餅を鍋に放り込む。

「余ったやつは七輪(しちりん)で焼きましょうね」

(戦国さん、ナイス!)

「賛成!」

「俺も」

「二人は何味が好きなの?」

「僕はきなこ!」

「俺ずんだ」

南北ツインズと何味で食べるか話し合っていると、鎌倉さんが咳払いをした。

「餅の話をするのは良いが、まずは鍋の方を片付けろ」

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