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日ノ本元号男子  作者: 安達夷三郎
第六章、過去と未来
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四十話

「もう何回か寝て起きたら冬休みだぜ、冬休み」

「どーりで寒い訳だ」

積もっている雪を踏みしめながら歩く。

「え、早くね?終わるじゃん今年。俺あんま遊んでねーわ」

「BBCでクリスマスソング流れたら今年のクライマックス感でるよね〜」

「そこは商店街にしろよ」

朱里のツッコミが飛ぶ。

「去年のクリスマスにやったあれ面白かったよね!ユーチューバーごっこ」

健太が思い出したように言う。

その言葉で、さっきコンビニで買った豚まんを頬張りながら、あの動画のことを思い出した。

みんなでお揃いのジャージを着て、変な企画をするだけの、再生回数三十四の動画。

「やめろ、思い出すな」

朱里が耳を塞ぐ。確かに今思えば黒歴史確定かも。

「で、今年は何して過ごす?」

振り返って三人を見るが、全員気まずそうに目を逸らしていた。

「あーごめん。俺、今年爺ちゃん家の工場の手伝いで......ほら、俺後継ぐじゃん?」

「ウチ、塾の冬期講習合宿。親が勝手に決めてて」

「俺は彼女とー♡ってことはなく婆ちゃん家に遊びに行く」

蒼真は家の手伝い、朱里は冬期講習、健太はおばあちゃんの家に帰省......。

「え゙え゙ー!!今年のクリスマスみんな用事あんの!?」

「すまんな、強制だからよ」

「婆ちゃん家、徳島だからすぐ帰って来れねぇんだよ」

「俺みたいに働いているのがいるから、皆様の快適なクリスマスがあるんだぞー」

蒼真は食べかけのフランクフルトをくるくる回しながら言った。

その夜。

「明治さーん、こんばんは。少し早いですけどメリークリスマス!!」

ツリーの飾り付けをしながら明治さんに電話をかける。

『お、やけに機嫌が良いですね。何か良いことでもありました?』

「あ、はい!使命ができたんですよ」

『使命?』

「私、クリスマスを廃止する黒き悪になります」

電話の向こう側で明治さんの「いきなり何言い出すの、美空さん!?」という驚きの声が聞こえる。

「クリスマス廃止を望む人達の声が聞こえて来るんです......」

『美空さん!大丈夫ですか!?何が聞こえるんですか!?』

さっきSNSに『我、クリスマスを廃止する者なり』って投稿したら、沢山の共感コメントがついた。

『キラキラする街を見下ろしながらオフィスでコーヒーを飲んでいると泣けてくるんです。毎年です』

『クリスマスソングを聞くと死ぬ呪いにかかってるんです。共に廃止を目指しましょう!』

『ついでにバレンタインも廃止しましょう!!』

などなど。

「クリスマスを廃止して、その代わりに『じゅんじゅん』をやります。聖なるじゅんじゅんを崇めよ崇めよ......滋賀県民は聖なる民と化します。崇めよ崇めよ」

『駄目だ、妙なことになってる。......じゅんじゅん過激派の対処法が分からない......』

明治さんが若干引いているが、気にしないでおく。

「何でですか!?じゅうじゅんは美味しいですよ!!すき焼きみたいですよ!?だからクリスマスを廃止します......あんなカップルだらけのイベントなんか......」

『ちょっと待って下さいね。......えーっと、うーんと。そうだ、今年のクリスマス、僕達と過ごしませんか?忘年会も兼ねて!』

〜二十五日〜

「めっちゃ賑やかですね〜!」

今、私達は明治時代の東京に来ている。街中は沢山の人の活気で溢れていた。立て看板には『クリスマノ贈リ物、御用意』の文字。

「百年以上前の人もクリスマスを楽しんでいたんだぁ......良いなぁ」

中三のクリスマスなのに......朝も一人だし、ずっと一人の予定だったから誘ってもらえて嬉しかった。

「明治末期には西洋のお祭りとして、大衆に受け入れられるようになりましたからね」

「それにしても、こんな昔なのにクリスマスの広がり方が凄いですね」

「ええ、元々贈り物やお土産文化が盛んで、お祭り大好きな国柄、クリスマスは受け入れやすかったんですよ。プレゼントに靴下、ケーキにご馳走、クリスマスと言えばってのも魅力的ですしね」

「確かに!」

しばらく歩くと明治さんは大きな建物の前で足を止めた。

「クリスマスをはじめ、様々な文化が集まり広がった場所が、みんなの憧れ......百貨店です!!」

「おー!めっちゃゴージャス!お城みたい!!」

「高級品や新しい物が集まる場所ですから、内装も荘厳(そうごん)なのが多かったんですよ。という訳でさっそく中に入りましょう!百貨店は建築も豪華で―――」

明治さんの言う通り、高級感溢れる内装だった。入ってすぐに大きなツリーが待ち構えており、店内もキラキラに飾り付けされていた。

(百貨店って大阪に行った時に見たことあるけど、実際に入ったことはないんだよね〜......)

「おーい!めりーくりすますだぞ、若人」

奈良さんが手を振りながら歩いてくる。今日はいつもの書生服じゃなくて珍しく洋装だ。

「奈良さん!今日はよろしくお願いします!」

「まずは今年一年の労を(ねぎら)いたいと思う。ありがとう、若人」

改めて言われると、何だか照れくさい。

「いきなりのことだったのに、受け入れてくれてありがとう」

「いや〜、頭空っぽなだけですよ〜」

「お前のそういう寛容(かんよう)かつ純粋なところは、今後とも失わずにいてほしい」

褒められると嬉しいね。

「......で、くりすます会!若人を元気にしようと張り切って計画立てたからな!俺も協力するぞ!」

次に奈良さんは鎌倉さんと江戸くんに目を向けた。

「鎌倉と江戸!お前ら、庭木に詳しいだろ。若人と一緒に行ってくれ」

「......そうか」

「えぇ......」

「では、ツリーとケーキの調達をお願いしますね」

「明治さん!?」

百貨店の一室には、ツリーに使うモミの木が並べられている。

その間を気まずい雰囲気で歩く。

鎌倉さんはさっきからひと言も喋らない。

江戸くんも積極的に自分から話すタイプじゃないので、無言。

「植木に詳しいの?」

江戸くんに耳打ちして尋ねる。すると、木々を眺めていた江戸くんが顔を上げ、口を開いた。

「詳しいよ。僕の時代は植木が流行したから。鎌倉さんは庭造りが得意だよ」

(え、すごっ......)

鎌倉さんに目を向ける。

「あの、鎌倉さん、植木に詳しいということで......モミの木の目利きをお願い出来たら」

「............」

(何この無言。鎌倉さん、何考えているか分からない!!)

「......頼朝(よりとも)公は石橋山(いしばしやま)の戦いの時、天候の悪さから味方と敵の旗を間違えてあっさり敗北してしまったことがある!」

「......え、あ、はい!そうなんですか!?」

(急に歴史の話!?)

石橋山の戦いは平安時代末期に起きて、その後の鎌倉幕府設立に繋がっていく戦いなんだって。

そんな様子を少し離れた場所から奈良と明治が見守っていた。

「まさかここで源氏の面白失敗談が来るとは......」

「ああ見えて面倒見が良いからな。元気づけようとしたんだろ」

「不器用故に勘違いされやすい方ですよね」

そんな会話に、たまたま通りかかった南北ツインズが口を挟んだ。

「鎌倉って普段、人にあれこれ厳しいことを言ってくるのに」

「何かあると手紙で励ましてくれるよね〜」

二人の手には飾りとプレゼントボックス。どうやら会場の飾り付けの途中だったみたいだ。

「南くんにも送られていましたよね」

「うん!僕が北朝に負けた時にね。『拝啓。気持ちを落とさず精進して下さい』って内容だったよ」

それから数分後。

無事にモミの木を調達することに成功。二人揃って同じ木を指差したので、すぐ決まった。

「良いモミの木が見つかって良かったですね」

「はい!」

鎌倉さんと別れて、江戸くんと明治さんと通路を歩いていると、台車で運ばれている縄文くんと古墳くん、台車を押している弥生くんと飛鳥くんを見付けた。

「縄文くん!弥生くん!弥生くん!古墳くん!メリークリスマス!!」

「あ、嬢ちゃん。これ凄いんやで!」

「楽に人を運べるでありますよー!」

「これで土偶の運搬も楽になるね」

「おりゃあも初めて見たばい!」

四人は口々に台車の感想を述べる。どうやら人や物を運ぶ便利な椅子だと思っているようだ。......あながち間違ってはいないけど。

「あれ、何してるん?」

古墳くんが指差した先にいたのは、室町くんと安土桃山くんと大正くん。

「僕の御用達の料亭からの仕出しだよ。安土桃山に任せるとかまぼことかになるから」

「いやはや、かまぼこ美味しいであります!」

「美空っち、メリークリスマス!ケーキは平安さんと戦国さんだから期待していて良いよ!」

笑顔の大正くんの言葉を聞いて、ケーキ屋に向かう。

ショーケースの中には色とりどりのケーキが並べられており、ケーキ屋の前には見覚えのある二人の人影。

「あ、美空さん。ケーキの手配は私達で済ませておきましてよ。甘味で元気を出してもらおうと」

「戦国が凄いの用意してくれましてねぇ」

平安さんと戦国さんがショーケースを見た。そしてショーケースの上に積み上がっているのはケーキの箱。

「って、ケーキ頼みすぎじゃない!?」

ホール用の箱が一、二、三......八個積み上がっている。

「あれは私の自宅用ですわ」

なんてことないように言う戦国さん。

「個人消費!?」

いや、戦国さんならペロリと食べれるか......。

平安さんは店員さんから受け取った箱を私に見せてくる。箱の中身は、真っ赤なイチゴが乗ったショートケーキだった。チョコレートのプレートには白色のチョコペンで『Merry Christmas』の文字が書かれ、チョコのサンタが乗っている。

「うわぁ!めっちゃ豪華!!」

「馴染みのある柔らかいスポンジと生クリームのショートケーキは日本独自のスタイルで、外国ではジャパニーズショートケーキと呼ばれていて―――」

「明治はうんちくを語る時、活き活きしてるね」

そっと江戸くんが呟いた。

それから、会場となる最上階の食堂の飾り付けを開始する。(なんと貸し切りなんだよ!)

「百貨店と言えば高級感溢れる食堂!ここを貸し切るなんて、子供の頃一度してみたかったんです」

明治さんの説明を聞きながら、会場をぐるりを見渡すと、ツリーの前で何やら話し込んでいる古代組を見つけた。

ツリーには靴下や星だけを吊るす予定だったのだが、弥生くんが折り紙で折ったやつも飾り付けしよう!と言い出したので、急遽折り紙を折ることになった。

「楽しみやなぁ!」

「次は手裏剣を折ろうよ」

「国使さん達も吊るしてあげるのですよー!」

「国使ぃぃぃ!!」

ウッキウキで持っていた国使さん人形の首に糸を巻いていく飛鳥くん。正直言って、怖い。

「おりゃあ、それ怖いばい」

「私も怖い......」

ヒソヒソと弥生くんと話していると、「何が?」とでも言いたげにこちらを振り向く飛鳥くん。その後、なんとか説得することができ、国使さん人形を糸で巻かずにそのままツリーにぶっ刺す方針で決まった。

「......で、一旦除霊でも受けた方が良さそうなクリスマスツリーができてしまったと......」

「はい......」

禍々しいオーラを放つツリーを見ながら明治さんが額を摘んだ。平成くんはスマホ片手にツリーの動画を撮っている。古代組の六人は「まぁ、こんな感じか」という風にツリーを見上げていた。

「平安さんに頼んだら除霊できますか?ほら、平安時代の陰陽師イコール安倍晴明ってイメージがあるので」

「平安さんは陰陽師ではないんですけどね.......」

そう言いながらも、明治さんは平安さんをちらっと見た。

平安さんは折り鶴をツリーにぶら下げている。

えー、ここで、ツリーの飾りを紹介したいと思います。

折り鶴、土偶、国使さん人形、五円玉、お札、溶けそうなロウソク......などなど。

「情報量が多い......」

「おっ、若人も飾り付けするか?」

五円玉をツリーに付けていた奈良さんが私を呼んだ。

何で五円玉......?

「穴が空いていたし、ほら、裏は稲穂が描かれてるだろ?つまり、豊作祈願って訳だ」

「願掛けじゃないんですよ......クリスマスツリーは」

「まぁまぁ、楽しめたら良いじゃないか!よし、飾り終えたらお待ちかねのご馳走だぞ!」

テーブルの方に移動すると、豪勢な料理が並んでいた。

ローストビーフにビーフシチュー、お寿司が机に鎮座しており、凄かった。

「凄い......!嬉しすぎて泣きそう......」

「そんなに嬉しいの......?」

嬉し涙を拭う私を不思議そうに見る江戸くん。

「机いっぱいのご馳走って、貴族になった気分!!」

「......そう」

「えーっとね、美空ちゃん」

ツリーの横にいた南朝くんが話しかけてきてくれた。

「僕達......古い時代だから、その......」

もじもじとしながら下を向く。

「どうしたの......?」

すると、北朝くんが助け舟を出してくれた。

「宴会って言ったら酒が必須なところがあってな......美空の思うロマンティックなクリスマスとは違う気もするんだが......それでも良いか?もちろん飲まない人いるし、酒乱にはならないと思うから」

北朝くんの言葉に南朝くんが「何百年前生まれのおっさんの飲み会化するから......」と自虐も込めて言う。

それぞれ好きな席に座り、奈良さんの挨拶を待つ。

「嫌な物は全部今年に置いていって、成長と好奇心は来年に持って行こう!来年もよろしくってことで、乾杯!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」」」」」」」」」

奈良さんがグラスを持ち上げたのを合図に、高々と持ち上げて乾杯をする。

私のグラスの中には琥珀色の炭酸飲料が並々と入っており、味はみかん味。

私以外にも飲まない人はチラホラいる。縄文くんから飛鳥くんの古代組、南北ツインズに大正くんと平成くんは私と同じジュースだし、平安さんと戦国さんに至っては暖かい緑茶。

みんな、それぞれ思い思いに箸を伸ばす。

「マグロ美味しい!」

「んん〜!うまかー!」

「これ、フグ?」

「フグって江戸の時は禁止されていましたよね?」

「まぁ、毒があるしね。お上も食べるのを禁止していたから安く買えるんだよ」

フグに箸を伸ばしていた私と、弥生くんと南朝くんが止まる。

「ちゃんと毒抜きしてるから大丈夫だよ」

「フグが一般的に食べれるようになったのは明治時代からやっけ?」

古墳くんが明治さんに質問する。

「そうですよ。初代総理大臣の伊藤さんが『フグ食解禁』に力を入れたんです」

「さすが近代国家ばい!」

弥生くんは安心そうにフグを食べ終え、ビーフシチューを食べていた。

「こんなに沢山、食べ切れるかな......?」

「食べきれるよ。残った物は明日に回せば良いし」

江戸くんが微笑む。そういえば、江戸くんから話しかけてくれることが何回かあったけど......仲良くなってるってことで良いのかな?初めはめちゃくちゃ拒否されてたのに......嬉しいな!

「......何その顔」

「え!?」

うそ、顔に何か付いている!?

「ニヤニヤしているけど......」

江戸くんに指摘され、バッと顔を手で覆う。

その時、バカ四天王のグループメッセージからピコンと通知が届く。

―――美空、めりくりー!一生分くらい勉強してるわ、ウケる

―――メリクリ〜!婆ちゃん家のコタツなう!正月空いてるから遊ぼ〜

―――工場長だぞ、凄くね?働く?

「うぅ......みんな離れていても心は傍にいるんだね......」

「え、何、どうしたの!?怖いんだけど」

急に涙を流し出す私を横目に江戸くんは露骨に引いた目をする。

「だって......だって、みんな......うぅ......」

「本当にどうしたの......?」

江戸くんはため息をつきつつ、そっとハンカチを差し出してくれた。

「ほら、拭きなよ。せっかくの祝い事の前で泣かないでよ」

ハンカチを受け取って鼻をすん、と鳴らしながら涙を拭う。

「......ありがとう、江戸くん」

「別に......」

素っ気ない返事なのに、どこか優しい。

食事も片付いてきた頃、奈良さんがゴホンと咳払いをした。

「さてさて、もう一つ大事な(もよお)しがあるぞ〜!」

「?」

奈良さんはニッと笑って、テーブルの端に積まれていた布包みを指差す。

「ぷれぜんと交換だ!」

「え!?あ、あれ本当にあるんですか!?」

「え?くりすます会はぷれぜんと交換がメインって明治から聞いたんだが」

「そうですよ」

明治さんが頷く。

ざわざわとしながら、それぞれ持ってきたらしい包みを持ち寄っていく。

もちろん、私も事前に聞いていたのでプレゼントを置く。

風呂敷、木箱、紙袋、何で包んでいるのかも人それぞれだ。

「くじは用意したですよー!」

飛鳥くんが竹で作った筒を差し出してくる。

中には紙切れが入っていて、それを引けば番号が書いてあるらしい。

(うわぁ……なんか本格的……)

軽く手を突っ込んで、一枚引く。

『十三』

「じゅ、十三……」

番号が呼ばれていく中で、私は少しドキドキしていた。

誰のが当たるんだろう。

十三と書かれた紙が付いている小さめの木箱を受け取る。

「先に開けちゃ駄目だからなー!」

それから全員にプレゼントが行き渡り、奈良さんの「せーの!」っていう掛け声と共に箱を開けた。

「うわっ!これ何!?チーズ?」

「僕が作った()なのですよー!」

「この茶葉は良い香りであります!」

「それはイギリスから伝わった紅茶ですよ」

「これ何ばい?」

「梅の香り袋ですよぉ」

「このどんぐりクッキー、斬新な味ですわ」

「ちゃんとアク抜きしたから食べれるよ......」

(すずり)と筆は鎌倉か。ありがてぇな」

うん。みんなワイワイ、凄く楽しそう。

私も木箱を開けると、中に入っていたのは、布製のパスケースだった。

「わっ!パスケース!!」

思わず声が出た。藍色の布地に金色の刺繍が施されている。触ると少しザラっとしていて、でも手にしっくりくる感触だ。

「あ......」

覗き込んできた江戸くんが呟く。

「もしかして江戸くんが作ったの?」

「まぁ......」

「凄いよ!!え〜、すごっ」

「......別に、余った布切れで作っただけだから」

そっぽを向いて言うけど、耳がちょっと赤い。

糸も綺麗だし、角も補強されているし、どう見ても適当に作った物じゃない。むしろ、結構時間を掛けて作ったんだろうな〜ってひと目で分かる。

「刺繍も......これ何の花?」

「サクラソウ......江戸()の時代にブームになった花」

「ありがとう!」

「......」

またそっぽを向いてしまった、今度はほんの少しだけ口元が緩んでいた。

その様子を見ていた平成くんがやけにニヤニヤしていた。

「はは〜ん、オレ分かっちゃった」

「何が」

「だってそれ......美空に渡すつもりで作ったんでしょ?」

ゴホン!!

江戸くんの大きな咳払いで、平成くんの言葉が消えちゃった。

すると大正くんも探偵みたいに考え込み、首を左右に振る。(さすが推理小説の先駆け、江戸川乱歩さんが名を上げた時代!!)

「いいや、謎は気になるよね。つまり!江戸は美空っちのことがす―――」

ゴホンゴホン!

今度はさっきより激しい咳。

「江戸くん!?」

(そんな咳したら喉痛くなるよ!?)

「だ、大丈夫!?」

「大丈夫」

江戸くんの音量が急に二割り増しになった。

その様子を見ていた昭和くんは急に肩をぷるぷる震わせている。

どうやら笑いを堪えているらしい。

「御寮人、人気者だな!」

クリスマス会も終わり、家に帰るとピロンと通知音が鳴った。

個人メッセージで委員長からだった。

―――怖ぇよ!何だよあの呟き!!これでもやるから喜べよ!

添付されたのは本屋さんの五百円分のギフトカードだった。

(クリスマスって良いなぁ......クリスマス廃止派のみんなも良いクリスマスを......)

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