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日ノ本元号男子  作者: 安達夷三郎
第六章、過去と未来
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三十七話

「何その量!?それ全部食うの!?」

「駄菓子っつうのはなぁ、まとめ買いして、あとでちびちび食うのが通なんだよ!」

昭和くんはどや顔で、うまい棒とラムネの入ったカゴを掲げた。

「うわ......」

平成くんは驚きつつ、ゲームコーナーへ足を向ける。

「見て見て!格ゲーの大会やってる!優勝者にはポイントカード五千円分だって!」

「お前......真っ先に燃えるタイプだろ」

「だって勝てば五千円!」

「そ、そんな理由!?」

そして昭和くんもなぜか参戦体制。

気付けば、明治さんは静かに書店のレジで本を購入していた。

「それ、何買ったんですか?」

「夏目漱石の『こころ』の新装版です。現代の装丁と文体比較をしてみようかと」

「え、勉強熱心すぎません?」

「いやはや、つい」

明治さんは柔らかく笑う。

一方その頃、ゲーム大会では――

「くらえ!オレの平成コンボぉぉぉ!!」

「舐めんなよ、根性の昭和パンチだぁぁ!!」

と、両時代の激突が繰り広げられていた。

ただボタンを連打して画面のキャラを戦わせるだけなのに、すごい迫力。

「何この熱量......」

私と明治さんが呆れている間に、ギャラリーが少しずつ集まり始める。

「お兄さん達、うまっ!」

「どっちの人が勝つのかな〜!」

そんな声援が飛ぶ中、最終ラウンド。

「うおおおっ、俺の魂ィィィ!!」

「気合いで勝てるかっての!」

結果――僅差で平成くんの勝利。

「やったぁぁ!!」

「くっそ、力で負けた......」

二人が言い合う横で、明治さんがふと空を見上げる。

夕方の空がオレンジ色に染まり、イオンのガラス壁に反射してきらきら光っていた。

「イオンの遊びに来た記念〜!」

平成くんがスマホを掲げ、またシャッターを切った。

「おい、また撮ってんのかよ......」

「思い出は、何枚あっても良いんだって!」

「はぁ......俺が撮ってやるよ。ほれ、並べ」


夜になった頃、車で向かった先は日本最大の湖、琵琶湖(びわこ)。(滋賀県の六分の一の面積だよ)

「海大きい!向こうの島デカっ!!」

平成くんがはしゃいで、昭和くんが手頃な石を拾っている。

「湖だよ」

私が訂正する。

昭和くんはしゃがみ込み、手の中で石を選んでいた。

「うーん............これだな」

掌の上には、平たくて滑らかな小石。

夕方の琵琶湖の水面が金色に揺れている。

「見てろよ、お前ら」

彼はそう言って、腕をぐるりと後ろへ引く。

一瞬の静寂。

――パシッ!シュパパパパパッ!

五回、いや六回。石は見事な弧を描いて波紋(はもん)を生んだ。

「おぉーっ!やるじゃん昭和!!」

平成くんが手を叩いて笑う。

「昔はこれで近所のガキ共とよく競ったもんよ。負けた奴は駄菓子一本奢りな」

「えー!勝てる自信ないよ!?」

昭和くんと平成くんがわいわい仲良く水切りしている。

「......な、美空さん。僕らがいないこの先の時代でも、この景色を守ってくれますか?」

私達より少し後ろに立っていた明治さんがポツリと呟いた。

私は少し考えて、言う。

「はい!」

「......そうですか。それなら僕もう一度頑張ってみますねぇ」

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