三十五話
大地が唸りを上げ、地面そのものが生き物のように揺れ狂った。
ビルの壁面がバリバリと裂け、瞬く間に瓦礫となって落下。
ガラガラと響く崩壊の音が街中に木霊する。山は崩れ、土砂に家や車が巻き込まれている。
「み......令和さん!」
彼女は瓦礫の下敷きになっていた。近くで子供が泣いている。
「令和さん!意識はありますか!?」
名前を呼んでみるが反応なし。
肩を叩いても反応なし。
腕に手を当てて脈を確かめる。
動いていなかった。
死。
絶対的な死。
舗道のアスファルトはひび割れて、そこに電柱や看板が傾いて倒れ込み、火花を散らしては鈍い光を瞬かせる。
逃げ惑う人々の悲鳴は、轟音に飲み込まれて断片的にしか届かない。家のドアは外れ、ガラスが粉のように砕け散り、足元に降り注ぐ。濃い砂埃が視界を覆い、昼であるはずなのに辺りは灰色の闇に包まれる。
「ごめんなさい。何回やり返しても僕達は君のことを必ず見つけます。それで、次こそは助けます―――」
「......い、おーい!明治さんやーい」
「......!」
平成くんの声で我に返る。
「......どうしましたか?」
「明治さん、最近ボーッとしてること多いよね。大丈夫?」
「あぁ......大丈夫ですよ」
「まぁた御寮人のことかい?」
ソファで漫画を読んでいた昭和くんからの指摘。
「色んな事情は置いといて、今日はどっか行こ!どこ行く?イオン?」
平成くんは遊びに行く気満々だ。
「おおっと、おめぇさんは金払う必要ねぇからな」
「悪いですよ」
歳が近い大正くんならまだしも、昭和くんはかなり年下だ。年下に払ってもらうのは気が引ける。
「その代わり運転頼んだでぃ!」
......その交換条件なら良いかもしれない。
家でダラダラしてると、ジリリィとまだ現役な昔ながらのダイヤル式電話が鳴った。
電話に出てみると明治さんからだった。
「......え、今日は授業休みでどっか行こうですか?行きます!!!」
思わず声が弾む。
少し話していると、受話器の奥から言い争う声が聞こえてきた。
『平成!おめぇ、荷物それだけで良くねぇだろ!』
『スマホと自撮り棒とゲームボーイがあれば大丈夫だよ!』
昭和くんと平成くんだった。




