三十話
最終日の夜は、学年全員で大広間に集まることになった。
広い畳の大広間はまるでお祭りみたいに盛り上がっていた。
学年全員がパジャマやジャージ姿で集まって、歌やモノマネや小ネタを披露しあっている。もう笑い疲れて腹筋が痛い。
東京のホテルなのに、なんか旅館みたいな畳の部屋が用意されていて、すでにテンションは爆上がり。
背中にゴージャスな羽根を背負った修学旅行実行員の子が、左に手を上げてお辞儀。今度は右に手を上げてお辞儀。
溢れんばかりの拍手の中、舞台そでに引っ込んで彼らの姿が見えなくなる。
「次、私達だね」
「だね」
朱里と一緒に舞台そでに移動する。
私達も劇をする。
劇と言っても、いきなり決まった。練習なんてもちろんしてない。
「即興でやったら絶対オモロい!」
健太の勢いだけで始まった。台本は健太と和希が制作した。
舞台そでから現れたのは、ナレーションの委員長。
ジャージ姿に百均で買ってきたであろう、プラスチック製のマイク。
「さーさ、オリジナル劇。タイトルは、『現代版、桃太郎』!!」
ワァァ!と拍手が大きくなる。
『昔々あるところに、お爺さんとお婆さんがいました』
委員長のナレーションは棒読み。
「うぉい!婆さん、洗濯しとらんやんけ!」
「知らんわボケ!」
お爺さん役の朱里、お婆さん役の私。
セリフの指示『とりあえず喧嘩しといて』に従っておく。
『とても仲の良いお爺さんとお婆さんです』
(委員長?何を見たら仲良く見えるの!?)
舞台は変わって、コインランドリー。
ダンボールで作った洗濯機の中で、大きな桃が回ってる。
いやー、便利だね。コインランドリーって。
「あらまぁ、大きな桃が回ってるわぁ......」
棒読みだが仕方ない。何なら半分アドリブ状態。
大きな桃を持って帰って、朱里に見せる。
「えー、どうする?」
朱里は怪訝そうに大きな桃を凝視する。
「......食べる?」
「食べんの!?」
ダンボールで作った包丁で桃をスーッと切ってみると―――
「オギャーオギャー」
中から人形が現れた。声を担当するのは、先生(友情出演:裏声の担任)
先生の裏声に生徒達は爆笑する。
「これは......」
「......どうるする?」
「とりあえず警察に連絡する?」
朱里が言った瞬間、裏声の先生の声で「やめろ、おぎゃぁ!」
「い、今、やめろって......」
笑いを堪えながら必死にセリフを続ける。
あ、ダメだ。吹き出しそう。
「育てろ!おぎゃあ」
「......ブホッ」
ついに耐えきれなくなって、お腹を抱えて爆笑してしまった。
「名前どうるする?」
「桃から生まれたから......桃太郎で」
「後々恨まれそうな名前だけど、まぁ良いか」
『そして、桃太郎はすくすくと育ち、約一週間で桃太郎は青年に育ちました』
「今までお世話になりました。鬼を退治してきます」
桃太郎役は、健太がお土産屋さんで買った木刀を持っている和希。
その後、犬役は何故かブルドッグの被り物をした担任の先生、猿役はバナナを食べている蒼真、キジ役は羽根付きラケットを背中に貼り付けたクラスの男子。
「犬です!」
「猿です!」
「キジです!」
『仲間を手に入れた桃太郎は、鬼ヶ島へうみのこで向かいました』
桃太郎率いる、犬、猿、キジは『うみのこ』と書かれたダンボールの船を動かしながら、移動する。
そしてついに鬼ヶ島に到着。
「おーい、戦いに来たぞ!鬼ー」
「あ、どした?」
ひょっこり舞台裏から現れたのは鬼のお面を被った健太。
「戦いに来たの?じゃあ座って座って〜」
へらへら笑う健太。そして、何故か桃太郎達は鬼とトランプを始める。
「え?」桃太郎は困惑する。
「あー、今のご時世暴力は良くないからね。こん棒とかも持たないし」
「お、おう......」
結果、桃太郎は鬼と仲良くなり、家に連れて帰って来ましたとさ。
めでたしめでたし―――。
全力で笑わせにくるメンバーに、客席は爆笑。
私も朱里も、お互いの肩をバシバシ叩きながら、涙が出るほど笑った。
最後は出演者全員で、手を繋いでお辞儀。
「いやー、面白かったね」
「腹筋割れてるわー」
「あー、おもろ」
そうして、修学旅行は幕を閉じた。




