二十九話
「ついに来た―――!!」
ゲート前で健太が絶叫した。目の前に広がるのは、夢と魔法の王国―――東京ディ●ニーランド。
「行き先、東京だったよな......?」
「千葉じゃん。ウケる」
入場ゲートから見えるお城に、クラス全員が「おぉ〜」と声を上げる。
二泊三日の修学旅行、二日目の目玉イベント。
「ここから自由行動、五時までに集合だからね!」
先生の説明にみんなが一斉に散っていった。
「じゃあ、どこ行く?初めは絶叫系だよなー」
蒼真が地図を広げる。
「シューティングゲームだろ!分かってないな〜」
「空いている場所から攻めるべきだろ!」
委員長以外の男子三人の意見がバラバラ。
「......バラバラじゃん。ひらパー行った時よりバラバラじゃん」
朱里がチェロスを片手に呟きながら、お城やキャラクター達の写真を撮っている。
「全員俺に任せとけ!ここには小二の時に行ったことあるし、昨日、どの時間帯が混みやすいかスマホで調べてたんだよ!」
「へー、すげぇな」
蒼真が素直に感心する。
「だからお前、布団の中でスマホいじってたのか。てっきりゲームでもしているんかと」
委員長が呆れ顔で返した。手に持っているのは可愛い色のアイス。
「この時間帯は新エリア方面が混んでいる。俺達は左側から攻める!!」
「「「「おー」」」」
「暴走族の総長と、その舎弟かよ......」
「委員長もビビらずに行くぞー!」
気合いを入れて歩き出す私達の後ろを、委員長がため息まじりに着いてくる。
しかし、健太の案内はびっくりするくらい完璧だった。
土日の混雑してるなか、次々とアトラクションを攻略!
ショーを見たり、シューティングゲームを楽しんだり、小舟に乗って童話の世界を楽しんだり。
列に並んでいる時は、待ち時間が長すぎて話題が底をついて新しいゲームを生み出したり。
「あぁぁぁ......」
「何なに、どうしたの!?」
スマホを見ていた和希が突然うめき声を上げた。
「......公式から新しい情報......新章の本編PVが投稿されてた......」
「は?こんなタイミングで!?」
朱里が急いで自分のスマホで確認する。「本当だ......」
「お前ら、好きだなー」
「今は強い意志でログインすら我慢していたのに......クソッ」
和希の親指はプルプル震えている。どんなに男性だと認めたくないんんだ......?
「我が推しの信玄ちゃんは後北条家と関わりがある。......つまり、信玄ちゃんに男が近付く可能性がある......許さない」
「いや、二次元に嫉妬するなよ」
委員長が呆れ半分にツッコミを入れる。
「信玄ちゃんに男が近付くなんて......修学旅行中も見逃せるか!!」
「お前、待ち時間ずっとそれ考えていたのかよ。PV見れば分かるだろ」
「出来る訳ないだろ!もし男なら......男だったら俺はもう、立ち上がれない......」
「いや、ディ●ニー楽しめや」
蒼真がバシンと和希の肩を叩いた。
「......俺が学校の廊下で転けたのも、ピックアップとか言いながら推しが出てこないガチャも、元を辿れば後北条家が悪い!きっと、あらぬ噂を吹き込んで......!!」
「保健室行けよ」
委員長は完全に呆れ顔でアイスをかじっていた。
「だって!信玄ちゃんは歴史的因縁で後北条家に繋がりがある。そこから―――」
和希の妄想が加速しかけたその時。
「―――はーい!キャラクターとお写真が撮れる列、こちらでーす!」
キャストさんの明るい声が聞こえてきて、みんなの視線がそっちに向いた。
「おぉ!ミッ●ーだ!」
健太がテンション爆上がり。
「写真撮ろう!」
蒼真が走り出す。
「ちょ、待っ―――まだ信玄ちゃんの話が!!」
和希が追いすがるが、健太に鞄を引っ張られて強制連行される。
「......ま、夢の国まで戦国武将の心配はしなくていいだろ」
委員長が小さく笑った。
そして気付けば、全員でミッ●ーの前に並んでいた。
委員長が飲み物を買いに行っている間、私達はカチューシャやペンライトが売ってあるワゴンを眺めていた。
リボンのカチューシャを手に取ったら、朱里が覗き込んできた。
「それ買うの?」
「うん!」
「ウチも買うからお揃いにしよー」
「良いよ〜!」
朱里とお揃いのリボンのカチューシャを二つ購入した。
しかも値札も取ってもらって、早速頭に付けてみる。
「帰りの新幹線、これ付ける人多そうだよなー」
そう言って健太が指差したのは、キャラクターの目が描かれたアイマスク。
「これ委員長に渡してみようぜ」
「ウケる」
「待て、俺は付けないからな」
ギリギリで戻って来てしまった本人が、悪ノリする蒼真と朱里の肩に後ろから手を置いた。




