二十八話
東京駅に降り立った瞬間、空気が一気に変わった気がした。
「うわ、建物デカッ!」
「人、多すぎ!地元の駅も大きいと思ってたけどさすが大都会、レベルが違うな」
「米原駅も大きいと思ってたけど、東京には負けるわ......。県内で唯一新幹線が通ってるんだけどな」
「私達の地元が田舎だけなような......。都市部じゃないし」
「奈良とか京都とかはすぐ行けて特別感ないんだよな。逆に東京って未知の世界」
東京について話していると、健太と朱里がキョロキョロしている。気持ちは分かる。
「班ごとに行動するから、はぐれないようにしろよー!」
担任の先生が旗を高く掲げると、ぞろぞろと観光客の群れに混ざって進む。
まず向かったのは浅草。
雷門の大きな提灯を見上げて「おぉ〜!」と歓声が上がる。
朱里はすかさずスマホで連写。
「大きいね〜」
「何メートルあるんだろう?」
「はい、みんな並んでー!記念写真撮るよー!」
先生が言うと、班ごとに集合。
「修学旅行っぽいな!」と健太がやたらテンション高くピースしていた。
そのあと仲見世通りに入ると、食べ歩き天国。
焼き立ての人形焼、揚げ饅頭、きなこアイス......甘い匂いに包まれて歩くだけで楽しい。
「うまっ!この揚げまんじゅう、サクサクだわ!」
「一口ちょうだい」
「いや、自分で買えよ!」
蒼真と健太が口喧嘩しながらも結局シェアしている。
和希はというと―――。
「......待って、浅草限定の戦プリグッズある。しかも信玄ちゃんもちゃんといる!!」
見てみると、土産物屋の棚に『戦国☆プリンセス×浅草限定グッズ』がずらり。
「運営、仕事早っ!」
朱里が驚きつつ推しのアクキーを見ている隣で、小さく震える手で和希は財布を開いて小銭を数えていた。
「おい和希、それ全部買う気か!?」
「いや、全部は無理。でも最低三種は確保する......。ありがとう戦国。ありがとう運営。ありがとうリアル武田信玄さん。推しがいる生活って最高......!!」
「真剣な顔すんな!」
結局、和希は両手いっぱいの袋を抱え、雷門をバックに満面の笑み。
「修学旅行は推しグッツ収集の行事じゃないからな」
委員長が外で呆れていた。




