二十六話
......あれ、何で焼肉屋に来てるんだっけ......?
思い出すのは一週間前。
「肉食いたいよな。よし、焼肉しに行こーよ!!」
平成くんがスマホを掲げて、みんなに見せびらかすようにしながら回した。
「牛の焼肉......でありますか」
「牛鍋と違うのでしょうか?」
不思議そうに首を傾げる安土桃山くんと明治さんに、平成くんは得意げに説明する。
「そう!焼肉!網の上にお肉をジュージュー焼いて、次々と熱々を貪るんだ!......美味そう」
昭和くんもワクワクしながら平成くんのスマホの焼肉画面を覗き込む。
「しかも食べ放題!たったの三千円で腹一杯食えるんだよー!」
「三千円かー......そのお店潰れるよ〜」
大正くんがヘラヘラしながら手をブンブン振る。
「面白そうだな!」
最終的に奈良さんの「よし行こう!」というひと言で、行くことになった。
〜焼肉屋〜
テーブルに鎮座するのは本格的な網。
そして網を囲むようにテーブル埋め尽くされたカルビ、ロース、ホルモンなどのお肉の皿。
人数が多いので、三つのテーブルに座ることになった。
縄文くん、弥生くん、古墳くん、飛鳥くん、奈良さん、平安さんの『古代グループ』
鎌倉さん、南北ツインズ、室町くん、戦国さん、安土桃山くんの『中世グループ』
江戸くん、明治さん、大正くん、昭和くん、平成くん、私の『近代~現代グループ』
「じゃ、焼こ焼こ〜」
「どうやって焼くんだ?」
「このトングを使って〜」
「トング?この箸みたいなやつのことか?」
「そうそれ〜!奈良さんナイス〜」
奈良さんがカチカチとトングを鳴らす。平成くんと昭和くんが実演してみせる。
「牛を殺して......食べる」
江戸くんが網の上でジュージューと焼かれるお肉を怪訝そうに凝視する。
「あー江戸は『生類憐みの令』を体験しましたもんね。少し抵抗があるのでしょう。安心して下さい、江戸の分も僕が食べますから」
だがすぐに、あちこちから歓声が上がった。
「んん〜!うまかー!」
「美味しい......!」
「これめっちゃ美味いやん!何でこんな美味いやつ禁止したんや?」
縄文くん、弥生くん、古墳くんからは高評価。
「仏教の影響なのですよー!」
実際に禁止令を出した時代である飛鳥くんもウキウキでお肉をひっくり返している。
「面白そうやわぁ。どれ、一枚焼いて......」
飛鳥くんの隣で平安さんもトング片手に初挑戦。しかし、カチカチと音が鳴るだけで掴めない。
「上手く掴めないですねぇ」
「壊れてんちゃん?」
「こっちは菜箸を使ってるよー」
「箸はやっぱり良いな......」
トングを諦めて菜箸を使う南北ツインズ。中世グループは一番多めにお肉を注文しているのだが、気付いたらほとんどなくなっている。
「沢山あったはずなんだが......」
鎌倉さんは空になったお皿を見て呟き、ある人物に目を向けた。
「戦国か!!」
戦国さんは素早く箸を移動させすぎて、お肉もお箸も見えなくなっている。
「食べ過ぎは健康の仇、食事は適量が肝心ですわ。焼肉、初めて食べましたけど、美味しいですわー!」
言葉とは裏腹に、お肉を食べるスピードは全く落ちない。
「と、取れないよ〜」
「取れない......!!」
「早すぎて見えないであります」
「戦国!」
とうとうしびれを切らした鎌倉さんが戦国さんに言う。
「肉......肉をくれないか......?南と北、室町や安土桃山にも食わせてやれ」
「鎌倉くん鎌倉くん、僕は別にお菓子があれば十分だよ」
「あ、あら、すみません。私一人で食べてしまって......」
戦国さんは箸を置いて、傍に立て掛けてあったメニュー表を手に取り、真顔で言った。
「ちょっとお肉の量、少なかったですわね」
「......は?」
予想していなかった言葉に固まる鎌倉さん。
まー、戦国さんは小腹が空いたからって言ってどんぶりを数個食べるような人だもんなぁ......。
このお店、潰れないかな?大丈夫かな?
そして私のグループは―――
「じゃあ次のお肉焼くよー!」
平成くんが先陣切ってトングでお肉を焼き、それに興味を持った昭和くんがプルプルしながらトングでお肉をひっくり返す。
「やっと一枚焼けた......」
花がほころんだような笑顔になる昭和くん。
「あ、昭和ー!そのお肉美味しそ〜」
横からそのお肉を奪う大正くん。
「た〜い〜しょ〜う!!」
大正くんの胸ぐらを掴んでガクガク揺さぶる。
「ご飯と一緒に食べると美味しいよ」
「ご飯は何にでも合いますわ!」
江戸くんは戦国さんにご飯と一緒に食べることをオススメしている。
「思ったよりは美味やったねぇ」
「ええ、牛鍋も美味しいですよ」
明治さんも明治さんで、平安さんと焼肉トークをしていた。
(みんな楽しんでる......のかな?)
お肉をひとしきり堪能した後は、次第にメニュー表もデザート欄をめくっていた。
「アイス頼もうよ!」
「良いねそれ」
平成くんが元気良く手を上げ、室町くんはもう既に選び始めている。
「美味しい......!」
「うまかー!」
「それしか言ってないやん」
「このめろんそーだ?は飲み物の上に氷菓子が乗ってるのですよー!」
「え、何それ、美味しそう」
「私はお茶で十分やわぁ」
古代グループはアイスに目を輝かせ、飛鳥くんが美味しそうにメロンソーダを注文する。
「美味しいねー」
「室町がずっと食べる理由が分かった気がする」
南朝くんはプリンを、北朝くんはチーズケーキを食べていた。
平和だなぁ......。
「この白いの......ミルクの味がしますわ」
「白いのはバニラだよ。バニラと抹茶ほしい」
戦国さんと室町くんは次々と追加注文していく。
「ほどほどにしなさい」
ついには二人の手から鎌倉さんがメニュー表を取り上げる始末。
「えーっとお会計で―――」
レジに立つ店員さんが伝票を見た瞬間、目が泳ぎ始めた。
「......え?」
「どうしましたか?」
明治さんが首を傾げる。
「し、失礼......します」
店員さんは合計伝票を見つめ、唇を震わせた。
「お肉百人前、デザート......四十......えっと......しかも全部完食......」
......いや、そんなに食べたの!?ほとんど戦国さんと室町くんだよね!?
「とても美味しかったですわ!」
戦国さんが笑って感想を言ったその時―――
「あ、あの......」
店員さんがついに涙を零した。
「アイス無料券を差し上げますので......っ......で、出禁にしても宜しいでしょうか?」
「「「「..................」」」」
沈黙する一同。
「......潰れないよね......この店」
小声で呟く私。
「うん、きっと大丈夫」
平成くんが笑顔で答えるが、その笑みは少し引きつってきた。




